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ぬくもりを飲もう〜青森最古の酒蔵と燗酒〜 板柳町『竹浪酒造店』

まるごと青森

ぬくもりを飲もう〜青森最古の酒蔵と燗酒〜 板柳町『竹浪酒造店』

正保(しょうほう)2年、西暦だと1645年。今から380年ほど前です。
これが何の数字か、ピンと来た方、もしいらっしゃいましたら乾杯しましょう、燗酒で。
(今日の記事も一段と長くなりますので、ぜひお酒かお茶を片手にお付き合いくださいね)

え?今こんなに暑いのに燗酒の話するの?と思われる方も、読み始めてくださっている方の中にはいらっしゃると思いますが、こんなに暑いからこその良さもあるんですよ!というお話もありますので、ぜひそのままスクロールし続けてくださるとうれしいです。

県内最古の酒蔵「竹浪酒造店」

本日ご紹介するのは、株式会社竹浪酒造店さんです。
「七郎兵衛」や「岩木政宗」を製造しているこちらの蔵は、冒頭の年号が創業の年になるのですが、江戸時代から続く、県内最古の酒蔵です。

まるごと職員のお酒プロフィール

本題に入る前に、このブログを書いているまるごと職員のお酒にまつわるプロフィールを簡単に紹介させてください。

・お酒、特に日本酒が好き(趣味で日本酒検定を受けました)
・日本酒は少量ではあるものの、頻度としては良く飲む(たくさんつまみを食べながら飲む食いしん坊)
・あまりお酒は強くない(飲んだらすぐ顔が赤くなるタイプ)
・飲むわりに燗酒にあまり親しんでいない(冷やで香りの良い日本酒を好む傾向あり)
・極度の猫舌

そんな日本酒好きの燗酒初心者、なぜ今回燗酒に興味関心を持つようになったのか?

それは我が日本酒心の師匠、青森市出身の紀行作家である山内史子さん(まるごと青森ブログも執筆いただいたことがある方です)の燗酒について書かれたブログにあります。

いっとちゃんの青森酒旅・冬 Vol.1
いっとちゃんの青森酒旅・冬 Vol.2
いっとちゃんの青森酒旅・冬 Vol.3
ぜひ↑読んでからこの続きを読んでください↓

日本酒好き食いしん坊の血が騒いだんですよ、だってあまりにも読む飯テロじゃないですか?美味しそうすぎませんか??組み合わせの化学反応、自分でも体験してみたくないですか??
ということで、この連載から、燗酒の存在が気になり始めてしまった私。
しかし猫舌だったり、正解がわからないし、道具もないし、自分の家でやるのも…と思ったり、足踏みしているまま時は過ぎていきました。

そんな風に燗酒とすれ違ってきた私ですが、ついに正面から向き合う幸運な機会が訪れます。

青森で「燗酒」といえば竹浪酒造

青森で「燗酒」の話になると必ず名前が挙がるのが竹浪酒造さん。
この蔵の特筆すべきは「燗酒専心」を標榜している点。

それでは燗酒とは一体どのようなお酒のことを言うのでしょうか?

左:燗鍋や燗銅壺(かんどうこ) 右:銅瓶や燗付瓶(かんつけびん) とそれぞれ呼ばれる。燗酒の道具

🍶 燗酒の温度帯一覧

名称 温度帯 特徴 ぬる燗 30〜35℃ やや冷ましたような温度。酒の風味を損なわず、繊細な香りを楽しめる 日向燗 30〜35℃ ぬる燗と同温度帯。太陽の光が当たる暖かさをイメージした名称 人肌燗 35〜40℃ 人の肌と同じくらいの温度。まろやかで優しい口当たり 上燗 40〜45℃ 最も一般的な燗酒の温度。酒の旨味と香りのバランスが良い 熱燗 45〜50℃ しっかりと温められた燗酒。冬に人気で、体が温まる 飛び切り燗 50〜55℃ かなり熱い温度。香りが強く立ち、味わいに力強さが出る

とろ火

55〜60℃ 最も熱い燗酒。刺激的な熱さと強い香りが特徴

簡単にまとめてみました。
温度によって味わい・香りが変わるというのも日本酒の面白さであると思いますが、実際にこの中のどれかを作って飲んだり、居酒屋で頼んでみたりしたことがある方はいらっしゃいますか??

青森県民は日本酒をよく飲むけれど…

国税庁が発表している、令和4年度成人1人当たりの酒類販売(消費)数量表(都道府県別)によると、「清酒」の全国消費量平均は3.9ℓですが、青森県は5.9ℓ(東北平均5.6ℓ:管轄地域別平均が1番高いのが東北)と、なかなか清酒、つまり日本酒が県内では飲まれていることがわかります。

実際に私の肌感覚としても、飲み会の時に最初はビール、後半日本酒のように、日本酒を外でも飲む文化というのはあるように思います。
ですが、そんな青森でも、燗酒はあまり外では飲まれていないようにも同時に感じています。特に20〜30代の世代は燗酒を飲んだことがないという層もいました。(私調べ)

燗酒があまり飲まれない理由(仮説)

そこで、私なりになぜポテンシャルの高い青森県において、燗酒があまり飲まれていないのか仮説を立ててみます。

・最近の地酒は傾向として(全国的にも)香り高く爽やかなものが多い(一般的にあまり燗酒向きではないと言われている)
・燗酒に外で触れる機会が少ない(提供している居酒屋が少ない)
・家で燗酒を作る一手間(温める・温度を測る)をするより早く飲みたい
・燗酒として飲まれるイメージがある地酒が少ない

なぜ燗酒なのか?〜魅力・特徴・良さ〜

「青森の変わり者」という異名をつけられたこともあるそうですが、竹浪さんに「なぜ竹浪酒造さんは燗酒を作られているのか?」とストレートにお聞きしてみたところ、シンプルに「燗酒が美味しいから」という答えが返ってきました。

ひや(常温)で飲まれることの多い、辛口淡麗!のような表現もされる昨今の日本酒は、刺身など海鮮に合う、というイメージを持たれがちで、そこから日本酒全体も和食に合うというイメージがあるかと思うのですが…

🍶 燗酒の魅力・特徴

燗酒自体、そして竹浪酒造さんで燗酒を前提として作られているお酒について、魅力や特徴を竹浪さんにお聞きしたところ、

・お酒自体が温かいから温かいものに合う
(竹浪酒造さんで作られる熟成酒の燗酒の特徴↓)
・燗酒は味が濃いので熟成から来る柔らかさが特徴
・香りがスモーキーなので生ハム・チーズ・ナッツとも合わせやすい
・イタリアン、中華、BBQなどなど食べ物を選ばない(むしろ刺身は苦手)

という、日本酒の一般的なイメージとは異なるものが挙げられました。

🍶夏の燗酒の良いところ

また、我が日本酒心の師匠、山内さんに夏のこの時期の燗酒の良いところを伺ったところ(青森の冬の燗酒の良いところはブログをぜひチェック!)
夏はどうしてもクーラーや冷たいものの摂取で実は体の芯が冷えているので、夏の燗酒はなお一層、「ふわっ&じわっと温もりがしみていく喜びあり」とのこと。
幸せが広がりますね。。
確かに身体を冷やしすぎるのは知らず知らずのうちに負担をかけてしまって良くないですし、その対策が美味しくできるなら、(お酒好きなら)飲まない手はないです。

🍶 酒器による味の違い

そして更に燗酒の面白いところは、温度による味の感じ方の違い(表参照)もありますが、酒器による味の違いがはっきりとわかりやすいところです。
よく使われる”おちょこ”ではなく、底の浅い”平盃”がおすすめとのこと。
縁が広いので香りの広がりやすさを感じやすく、また口の中全体に酒が広がるので、味わいを余すことなく堪能できるそうです。

さて、燗酒の魅力を書き連ねてきましたが、今書きながらも(読みながらもだと嬉しいです)飲みたくなってきてしまいました。。

実際に燗酒を多くの人が楽しまれた素敵なイベントのレポートに、ここからはお付き合いください。

🎉竹浪酒造店 大復活祭🎉

素敵なイベント、それは竹浪酒造さんで令和7年7月12日に開催された「竹浪酒造店 大復活祭」第1回蔵開きです。

“大復活”というのは、実は竹浪酒造さん、創業の地板柳町からつがる市に移転したり、破産したりといった過去があります。
そこを乗り越えて、創業の地に戻ってきてから初の出荷が6月にあり、そして7月の大復活祭に至るというところです。

新しくなった外観

6月にまるごと青森公式Instagram(なりすましアカウント発生でお騒がせしております)の取材でお話を伺った時に

「創業の地である板柳に戻ってきて、今どんなお気持ちですか?」と伺ったところ

「ここは竹浪酒造が生まれた場所で、馴染みのある場所なので、やはり動きやすい
・やりやすいが、今は(大復活祭の準備等)やることが多くて感慨に浸る間もない」

とおっしゃっていた竹浪さん。

蔵開きの開会式では

「戻って来られたのは嬉しかったが、みなさんが喜んでくれたことがとても嬉しかった」

蔵びらき全体を通しても1番印象深い場面でした。

竹浪さんをはじめ関係者の方々の挨拶の後は、鏡開きや三味線の演奏、蔵見学に唎酒ゲームとたくさんの企画がありました。

蔵に新設されたバーカウンター(有料試飲) もちろん燗酒あり〼

酒燗器に入っている蓋つきのちろりと笑顔の素敵なスタッフさん

直売コーナー 家にあったら嬉しい 良い眺めです

蔵見学の際に竹浪さんがおっしゃっていたのですが
「暑い今の時期、冷たいものを飲み食いしている今、身体は冷えているので、身体の中から温めることが大切です。アルコールはその性質上、処理するには身体の中をしっかり温めないと処理できないのですが、燗酒は温かい状態で身体に入れるので、処理が早くて、その分料理と長く楽しめるという特徴もあります。」

この後質問も多く出る等、熱心に楽しそうに竹浪さんのお話を聞く参加者の方々

竹浪さんも師匠も同じことをおっしゃっております。。
燗酒って良いことが多いな!と改めて思いました。

🍶 簡単!燗酒の作り方

日本酒に対して苦手意識のある方にもぜひ1度はトライしてみてほしいですが、でも家で燗酒にするの大変そう。。と思ったあなた!(私も思いました)

竹浪さんが、おうちでできる簡単燗酒のやり方を教えてくれましたよ!

① 津軽びいどろの耐熱徳利を用意します。(徳利の形は丸めがおすすめ)
② 口が広めの電気ケトル(ポット)を用意します。
③ 沸騰したら徳利をちゃぽんとつけて1・2分待ちます。
④ お好みのコップでちびちびと(できれば平盃)

津軽びいどろをおすすめする理由は、熱伝導率が高くないため、中で滞留する、つまりゆっくり温まることだからだそうで、よりまろやかで柔らかな味わいになるんだとか!

更に良いことは、温める道具が電気ケトルなので、そばに日本酒の瓶を置いておけば、おかわりを飲みたい場合も立って歩くことなく、簡単にすぐに温めて飲めるということ。

そして猫舌的にも朗報だったのが、おすすめ酒器である平盃は冷めるのが早い、猫舌でも楽しめるということです。(竹浪さんも猫舌だそうです)

県内の美味しい燗酒を出しているお店情報も聞いたので、それはまた別の記事でご紹介できればと思います。(気になる方は山内史子さんの『青森ほろ酔い旅』でぜひ予習を)

今後の展望

蔵として今後イベント等の予定を聞いてみたところ、従業員数がそんなに多くないので、秋冬の酒の仕込みで忙しい時期は見学は受け付けてないとのことですが、少人数の仕込み体験や蔵でのジャズライブを期待する声もあるそうで、前向きに考えていらっしゃるとのことですよ。

おわりに

さて、ようやく最後になりますが、私が今年は「燗酒」を研究する(=たくさん美味しく楽しく飲む)1年にしようと、竹浪酒造さんと共に背中を押してくれた山内さんの文章を引用させていただき、締めたいと思います。

最近発売された『青森ほろ酔い旅』(県内書店・ネット書店で絶賛販売中!)の第7章「人生にもっともっと燗酒を!」の中の一節です。

「冷たい状態では閉じている酒の奥に控える風味が、温度変化によって前に出てきて花開く技。ほかほかでも冷めてもご飯は旨いが、香りや味のふくらみが異なるのと同じだとお考えいただきたい。」

本を読みながら深く深く頷いてしまったのです。
確かにあったかいほかほかのごはんは日本の多様化した和洋中、どんなおかずだって受け止めてくれますよね。

コロナ禍に米の品種や炊き方による味の違いを食べ比べして楽しんだことがある私ですが、山内さんのお言葉をお借りすると、日本酒は

「米のお酒、液体の米なんですもの。」

むしろなんで今まで楽しみ方♾️の燗酒に触れて来なかったのか、これから広がる燗酒の世界へのわくわくとともに、悔しいという気持ちまでも湧き上がってきました…

さぁ、この高いモチベーションのまま、研究のための道具を揃えましょう。
ぜひ一緒に“燗酒”始めませんか?
まずは竹浪さんおすすめの、ニ⚪︎リのケトルを買いに行かなくちゃ。

―――
不安定で厳しい気候が続いております。
夏も冬もいつでも、青森の美味しいお米を食べ飲み、水も塩分も栄養も睡眠も摂りながら、お互い健康に過ごしていきましょうね!!

長文お付き合いいただきありがとうございました。

それではまた、燗酒で乾杯しましょう。

byらぱ

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