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漫画を読むプロ・漫画研究家の読み聞かせは「絵本」ではなく「漫画」だった! そのワケとは⁉

コクリコ

子育て中の漫画研究家の本棚を取材。2回目は星槎道都大学美術学部デザイン学科准教授・竹内美帆先生にお聞きしました(全3回の2回目)。

“漫画を読むプロ”から伝授!「漫画の読み聞かせ」とは?

「漫画を読むプロ」である漫画研究家に、「子育て×漫画」について語ってもらう連載2回目。今回は、漫画・美術教育をテーマに多彩な研究活動を行う芸術学博士であり、6歳男児の子育て中の竹内美帆先生の本棚をご紹介します。

息子の漫画デビューは『浦安鉄筋家族』!

──お子さんが漫画を読み始めたタイミングはいつごろですか?

竹内美帆先生(以下、竹内先生):息子が5歳のときだったと思います。それまでにも絵本や図鑑、通信の子ども教育雑誌などを読み聞かせしていましたが、ある日、息子が私の本棚から漫画を取り出してきて、「これ、なぁに?」と聞いてきたことがあって。

それが『浦安鉄筋家族』でした(笑)。表紙に漫画が2コマ載っていて、それで興味をひかれたようです。

『毎度!浦安鉄筋家族』Ⓒ浜岡賢次(秋田書店)1993

竹内さん:「じゃあ、一緒に読んでみようか」と、息子が私の隣に座り、二人で漫画の絵を見ながら、私がキャラクターたちのセリフや、「ガシャーン!」「ドカーン!!」などの音を読んでいくという、読み聞かせしたのがはじまりです(笑)。

私自身も、キャラクターになりきってセリフを喋るのが楽しくて、楽しくて(笑)! それまでは私も黙読しかしていなかったので、「漫画を読み聞かせするのも楽しいものだな」と新発見でした。

読み聞かせ中は、ときには止まって「これは、こういうことだよ」と補足したり、「かわいそうだね」など感想を添えたり、ページをめくるときに「この後、どうなると思う?」と子どもに聞いたりなどのコミュニケーションを取れるのもいいなと思っています。

最初は4コマ漫画、それからストーリーものへ

──これまでに、どんな漫画を一緒に楽しんできましたか?

竹内先生:最初のころは、4コマ漫画などシンプルなコマ割りのものを好んでいましたが、最近は『らんま1/2』(著:髙橋留美子/小学館)など、ストーリー性の高いものも好きなようです。

『運命の巻戻士』(著:木村風太/小学館)は、一緒に本屋さんへ行ったときに、「これが欲しい」と息子が自分で選んでいました。

「運命の巻戻士 」Ⓒ木村風太/小学館

竹内先生:セクシーな描写や、強めの言葉づかいなどがあると、親として「どうかな……?」と思う部分もあります。ただ、誰もが通る道なので、ある程度は仕方がないのかなと思いつつ、都合が悪いところは、読み聞かせ中に少し読み飛ばしたり、端折ったりしていますね。

──子どもの目に、まだ触れさせたくないという漫画はありますか?

竹内さん:正直なところ、そこをまだしっかりとゾーニングできていない状況です。仕事で使う漫画はだいたい大学の研究室に置いていて、家にある漫画は私が子どものころに読んでいた作品や、リアルタイムで読んでいるものばかり。

竹内先生ご自宅の本棚。  写真提供:竹内美帆

竹内先生:例えば、『デトロイト・メタル・シティ』(著:若杉公徳/白泉社)は私の大好きな作品ですが、子どもが読むのにはそぐわない内容も一部あると思います。

でも、子どもから「読んで」と言われたら読むようにしていますし、今読んでも理解できないだろうなと思う作品に関しては、「これは小学生になったら買おうね」と言って、別の本を勧めるようにしています。

私自身が、子どものころから自分の読みたい漫画を買っていて、親からも「これはダメ」と止められることがなかったので、子どもには自分が「欲しい」「読みたい」本を買う経験をさせてあげたい、という気持ちがあって。

ただ、漫画ばかりでなく、絵本や図鑑にも触れてほしいなと思うので、「今日は絵本と図鑑と漫画、1冊ずつ選ぼう」など、漫画に偏らないような声がけはしますね。また漫画を1冊読むと時間が取られてしまい、他が読めなくなってしまうので1~2話を楽しむぐらいのペースです。

漫画話は世代を超えて盛り上がる!

──息子さんが漫画を読み始めてから約1年が経ち、変化を感じる部分はありますか?

竹内先生:漫画のほかに、お友達や映像作品などの影響もあると思いますが、ボキャブラリーが増えたように感じています。漫画のワンシーンを、息子と私でキャラクターを担当し、再現して遊ぶことがあり、それも発語の機会になっているのかなと思います。

また親族との集まりで、漫画の話で息子と大人たちが世代を超えて盛り上がっているのを見るのは、新鮮な光景で楽しいですね!

「はたらく細胞」がお気に入り

竹内先生:最近では『はたらく細胞』(著:清水茜/講談社)も息子のお気に入りです。もともとアニメは観ていて、あるとき病院の待合室にあったので、診察待ち時間に一緒に読んだところハマりました。

自分が風邪をひいたときに、漫画を例に出して「体では今、ああいうことが起きているんだよ」と話すと理解がスムーズで。予防接種も怖がらなくなったという、いいこともありました(笑)。

くしゃみをすると「今、くしゃみ1号が出た!」と言ったり、体の仕組みの理解にかなり役立っています。

「はたらく細胞」著:清水茜(講談社)

漫画でも海外の環境や文化を学べる

──将来的に、息子さんに読んでほしい作品はありますか?

竹内先生:海外の漫画を読んでもらいたいなと思っていて。漫画家の生きている環境や文化、表現の仕方など、日本とは異なるところが、非常に面白いです。旅行をせずとも、その国のことを考えたり、理解したりする際のヒントにもなります。

『だれも知らないイスラエル:「究極の移民国家」を生きる』(著:バヴア/花伝社)は、多くの移民・難民を抱えるイスラエルに住む人たちの体験とエッセイをもとにした漫画です。小学校高学年からは、十分に理解できると思うので、こういった海外作品にも触れ、今後は多様な表現を知ってもらいたいと思っています。

『だれも知らないイスラエル:「究極の移民国家」を生きる』著:バヴア(花伝社)

次のページをめくるワクワク感を!

──今後の子どもと漫画の付き合い方については、どのように考えていますか?

竹内先生:近年はデジタルの娯楽が非常に多いですが、子どもと紙の本に触れる機会を大事にしたいと思っています。デジタルと紙、それぞれによさがありますが、紙の漫画のページをめくるときの、あのワクワク感を息子にも感じてほしいと思っています。

また、漫画に限らず、本を読める人間になってほしい。本を読むという行動が、常に日常の中にあるような、そういう人生を送ってもらいたい、そう思っています。

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3回目はマンガ研究の中心的人物の一人として多岐にわたり活躍されている京都精華大学国際マンガ研究センターマンガ学部専任教授・吉村和真先生にお聞きします。

竹内 美帆(たけうち・みほ)

北海道出身。京都精華大学大学院マンガ研究科博士後期課程修了。2013年ライプツィヒ大学日本学部客員研究員、2015年以降筑紫女学園大学、北九州市立大学等での非常勤講師を経て、現在、星槎道都大学美術学部デザイン学科准教授。研究テーマは「漫画を『描く/読む』行為とその文化に関する感性論的研究」。

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