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にしな この場にいるすべての人の命が呼応する音楽の不思議、一夜限りのスペシャルライブ『MUSICK』で見せた意欲

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にしな

NISHINA ONE-MAN LIVE “MUSICK”
2025.4.12 東京国際フォーラムホールA

にしなが『MUSICK』と銘打った一夜限りのスペシャルライブを、ワンマンとしてはキャリア最大キャパとなる東京国際フォーラムホールAで開催した。

ステージ前面の紗幕には“MUSICK NISHINA、Sorry too sick to make music.”という文章が笑顔の形を作っている。直訳だと「ごめんなさい、調子が悪くて音楽が作れません」になるが、おそらくネイティブがsickを「カッコいい」とか「素晴らしい」という意味で使うことから、ヤバいぐらい音楽を作ることにハマってる、みたいな意味なんじゃないか?と捉えた。そして、その答えは新しいチャレンジを含む本編で明らかになっていく。紗幕に幼い頃、熱を出した時、母親の温かい手に安心したという文字が投影され、さらには古今東西、世界の“音楽する人”の映像がランダムに流れる。そこに第一音が流れ、バンドメンバー、そしてエレキギターを構えるにしなのシルエットが浮かび上がり、紗幕が落ちると「アイニコイ」でライブがスタートした。これまでラストにセットされることが多かったこの曲がいきなり演奏されたことで、早くも静かなグルーヴが場内に生まれ、続く「クランベリージャムをかけて」ではハンドマイクにスイッチし、肩に掛けたバッグから客席にキャンディを投げ入れながら歌う。ベースのTomiが大きくクラップの動作をして、オーディエンスの鳴らすクラップもつられてボリュームアップ。「東京マーブル」でもステージの端から端まで歩き、「ケダモノのフレンズ」ではおなじみタオル回しが自然に起こった。

最初のMCでは、今回のステージはみんなで音楽を作ることを目的にシンプルにしたと告げ、「みんなの力も貸してくれないかな?」と、“MUSICK”のテーマを明らかにしてくれた。序盤のアッパーなポップチューンから、カントリーテイストのライブアレンジが施されたくじらとのコラボ曲「あれが恋だったのかな」や、アーバングルーヴが魅力的な「bugs」ではハイトーンのロングトーンで魅せる。ライブ巧者のおなじみバンドメンバーたち、松本ジュン(key)、真田徹(Gt)、Tomi(Ba)、望月敬史(Dr)が作るグルーヴはシーケンスを抑え目に、生でも抜き差しの妙でこのアトモスフェリックな楽曲を成立させて心地よい。都会に生きるリアルな世代感の「bugs」から、禁断の恋の孤独感を歌う「夜になって」へ、まさに時間の経過も感じる流れが心に迫る。狂おしい感情は松本のソロにつながって、ドラマチックなエンディングを迎えた。ジャンルを越境して音楽の底知れなさを楽しむのはにしなのライブの醍醐味の一つだが、同時に内面にダイブする感情の振り幅もまた、彼女のライブならではの時間だ。1曲1曲の世界観を凝縮したアレンジも聴き応え、見応え抜群で、続いては鐘の音やスネアのマーチングのリズムも印象的なイントロから、にしなのファンにとって心の軸にありそうな「1999」が披露される。さえざえとした青いライトは地球最後の日にならなかった1999年の終わりの次の日の誕生のようだ。オーケストレーションとコーラスのシーケンスが重なり、宇宙的な広がりを感じる中、ステージを覆うスモークがその印象をさらに強くしていた。

客席が感銘しているところに「煙い、煙い」と現実に引き戻し、思わず笑いを起こすにしな。ここからはライブタイトルの意味にも通じる新しい試行として、長らくやってみたかったというアコースティックアレンジでのライブが展開。まず1曲目はこれをそのアレンジで聴かせるんだ?という意外性に満ちた「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」。ボリュームを抑えた楽器の音が、歌メロの弾むフロウはより際立ち、にしなの丸くブレス成分多めの声をビビッドに聴くことができた。そして松本のピアノのみで披露した「ランデブー」。間奏ではにしながカズーでメロディを吹き、ちょっとコミカルな味付けも。3曲目はメンバーがステージ中央にぎゅっと集まり、アコギ、鍵盤ハーモニカ、カホン、ベースという編成で「It’s a piece of cake」をクリックに頼らない呼吸を合わせる演奏で届けた。さらにこの曲ではオーディエンスの力も借りて、ラララのシンガロングが大きくなっていく。こんなに大きな会場なのに、まるでキャンプファイアーを囲む気分だった。

音楽を一緒に作るというテーマに具体的にアプローチしたアコースティックコーナーの意味を味わいながら、すぐにスイッチして再び大きなバンドサウンドの「真っ白」、ギターロックのダイナミズムを感じる「スローモーション」と、音像がどんどん立体的になる。因みににしなのリズムギタリストの側面のファンもいると思うのだが、この2曲ではストラトとレスポールを使い、曲に合うサウンドの吟味にも注目してしまう。「スローモーション」のエンディングを大人っぽく決めると、続く「シュガースポット」のイントロでメンバー紹介を兼ねたソロが展開する。最後に「そしてにしな!」と自己紹介し、ステージ上手に駆け出し、フロアにタオルを投げ込む彼女。オーディエンスのバイブスがさらに上がり、サビのシンガロングも大きくなっていく。にしなならではのポップワールドは続く「U+」で大きなクラップを生み出し、サビのハイトーンで誰もが気持ちを重ね合わせていくように見えた。

「フォーラム、最高です。終わるのもったいない」と、初の試みも盛り込んだここまでの時間を味わっているようなにしな。その終盤に最新曲であり、ドラマ『リラの花咲くけものみち』主題歌である「つくし」がセットされた。音源でのストリングスが印象的なシンプルで豊かなアレンジを活かしつつ、バンドのしっかりした足腰が感じられるオーセンティックなアンサンブルに乗せて、いつか終わる命を人間のみならず、自然の移り変わりなどにも映して表現した歌詞が心に広がっていく。今回の一つの見せ場であるこの曲に続いて、代表曲であり、「つくし」とはベクトルの異なる死生観を漂わせる「ヘビースモーク」に繋いだことも、彼女の表現者のスタンスをいい意味でずっしりと感じる構成だった。そして、本編ラストはまさに人と人とが呼応・反応し合って生きる、その体感が音楽になったような「わをん」。さかんに客席にマイクを向け、それに応えるオーディエンスと作る空間が必然に感じられる瞬間だ。モノローグ調のヴァースと突き抜けるようなサビの美しい対比という、新しい歌の表現にも思わず聴き入ってしまった。賑やかに終盤を締めくくるのではなく、“生きるとは?”という少し重めのテーマでありながら、しっかり聴き手の心に錨を下ろすような印象に残るエンディングとなった。

客席の一部から「It’s a pieace of cake」のラララのシンガロングが始まり、そのしっかりした合唱並みのメロディに呼応して、次第にシンガロングもクラップも大きくなる中、驚いたような嬉しい表情でアンコールに再登場したにしなとバンドメンバー。そこに鳴らされたのは極上のピアノポップ「ねこぜ」で、さらにチアフルなムードを加速させたあと、ライブハウスツアー『MUSICK2』の開催が告知され、初披露となる4月30日リリースの新曲「weekly」が届けられた。ワカチコカッティングとホーンのSEが印象的な軽快な楽曲だ。この曲を最後にバンドメンバーがステージを後にし、一人残ったにしなは、オーディエンスやライブを作ってくれるすべての人の存在なくして自分は音楽で生きていくことはできないと話す。実はライブ前に歌えなくなり心が折れ、なぜ歌うのかわからなくなってしまったのだと告白。ライブを通して一人ひとりの顔を見て不安や疑問を乗り越え、答えを手にしたのだろう。ラストは原点に戻って弾き語りで「harmonic flight」という未発表曲を涙をこらえながら歌いきった。どんな感情もすべて抱きしめて捨てずに歌う人なのだな、と、彼女の抑えきれず零れてしまう歌の真実にあらためて気付かされた。

取材・文=石角友香 撮影=Daiki Miura

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