『TO BE HERO X』黙殺役・中村悠一さんが思う応援の効果|「自分の力以上のものは出せないけれど、やってきたことに対しての返事や答えになる」
中国を拠点に若者からの絶大な人気があるbilibiliと、数多くの作品を手掛けるアニプレックスが共同製作するオリジナルアニメ『TO BE HERO X』が、毎週日曜朝9時30分~フジテレビほかにて放送中です。
本作の舞台は、「信頼値」がスーパーヒーローを生み出す世界。人々からの「信頼」はデータとして集計され、その数値によってヒーローのランキングが変動。物語は、ランキング上位の10名のトップヒーローを中心に描かれていきます。
アニメイトタイムズでは、本作の物語を振り返る連載インタビューを実施! 今回は、黙殺を演じる中村悠一さんにお話を聞きました。
【写真】『TO BE HERO X』中村悠一が思う応援の効果「やってきたことに対しての返事や答えになる」
同じ内容を1980年代にやっても伝わりにくかったと思う
──「信頼」がヒーローの力になるという本作。その設定について聞いたときの印象をお聞かせください。
黙殺役・中村悠一さん(以下、中村):SNSが発達した今だからこそ、ヒーローが応援・信頼を力に変えるという発想につながったのかなと思いました。今の時代はSNSによって、世界中どこにいても、別の国の人であっても情報を共有できるし、応援することもできる環境にあります。だから、絵を見るに世界観は近未来だと思いますが、時代感は今に合わせているのかなという印象を受けました。例えば同じ内容を1980年代にやっても伝わりにくかったと思うんですよ。想像がしにくかったんじゃないかなと。
──そんな本作で中村さんはランキング上位のヒーロー・黙殺を演じます。演じるなかで黙殺をどのような人物だと感じていますか?
中村:最初にいただいた設定には、「信念に縛られて人々と話さないクールな暗殺者。家庭を持つものの、仕事に没頭するあまり妻のもとから離れてしまう」と書かれていたんです。だから、不言実行がカッコいいと思っているヒーローなのかなという想像をしていました。
ただ、実際にいただいた台本を見てみると、幼少期から雑多な環境で育って、いい言葉もあればよくない言葉もあるなかで、だんだんと口を閉じていったという描写があって。そこで、実はネガティブな理由で喋らないことを選んだということが分かりました。しかも、それによって声を出すべきタイミングで出せなくなってしまっているので、すごく悲しい人物だと感じています。
──寡黙な黙殺を演じるうえで、どのようなディレクションがありましたか?
中村:第15話は回想シーンが多かったのですが、回想ってキャラクター本人からすると、振り返りでしかないんですよ。そうなると感情の塩梅が難しくって。というのも、例えば車にはねられそうになったことを振り返るとき、ふつうは感情豊かに演出して言わないじゃないですか。
でも視聴者に見せるからには、彼の気持ちが分かりやすく伝わるように、ドラマチックにしたほうがよくって。それもあって、回想のシーンでは「奥さんとの出会いでは希望を感じられる、ロマンスがあるような言い方にしてください」と言われたり、反対に絶望していくところは「苦しみを表現してください」というディレクションがあったりしましたね。
黙殺は“勝手に信頼されている”トップヒーロー
──娘との関係・家族についてなども描かれていますが、黙殺編のストーリーを読んだ印象をお聞かせください。
中村:本作はヒーローが活躍するという話だけではなく、むしろヒーローの内面や起きている出来事などを描いていることが多くて。黙殺の場合は、不器用に娘を見守っている、という話になっているんですよね。ただ、自分では娘を見守っているつもりでもストーカー扱いされてしまったり、変態と言われてしまったり。周りの人たちとの会話もちぐはぐになっています。
黙殺は自分自身で黙る・喋らないという生き方を選んで信頼されるトップヒーローとなりましたが、その結果、伝わらないことも出てきてしまいました。何とも皮肉ですよね。自分のなかに気持ちを収めるだけじゃダメなんだということを伝えてくれるキャラクター・物語になっている気がします。
──寡黙に任務を遂行するヒーローの道を選んだがゆえの苦悩が生まれてしまっている。確かに皮肉ですね。
中村:そうなんですよね。喋らない、多くを語らないというのは彼が選んだ道ではあるのですが、それによって自己主張がなくなり、他者から見た自分しか存在しなくなってしまったわけで。ある人から見たら「あいつは寡黙で仕事を全うしている職人だ」と思われ、また別の人から見たら「黙ってついてくる変態だ」と思われ、またさらに別の人から見たら「はっきりものを言わない人間だ」と思われてしまう。
主張をしないがゆえに相手が思う「この人はこうなんだろう」というのをそのまま当てこまれちゃっていて、本当に皮肉なキャラクターだと思います。
──当てこまれているけれども、事実・結果としてはそれが彼への信頼につながっている部分もあります。
中村:そう、そうなんです。言い換えると、勝手に信頼されているわけなんですよね、彼は。喋らないから、“黙々と任務を達成する人”という信頼を勝手に得ているんです。
──でも、人間って得てしてそういうものかもしれないなって。
中村:だと思いますね。SNSによって世界中の人が色々な人を応援できるようにはなっていますが、それって、言葉を選ばずに言い換えたら、会ったこともない人を勝手にいい人と想像して、勝手に応援しているという構図でもあって。黙殺はまさにそれを体現している人物でもあるのかなと。
応援は、自分がやってきたことに対しての返事や答えになっている
──中村さん自身は、信頼や応援で力を発揮できたなと思ったことはありますか?
中村:うーん。決して自分だけの力で渡り合ってきたとは思いませんが、具体的にどうと言われると難しい。ただ、応援があったからこそできたこと、挑めたことはあると思っていて。例えば、声優・役者になりたいと思ったこと自体がそうなのですが、僕の時代からこの業界って狭き門だったんですよね。目指した皆が皆なれるものじゃなかったですし、生活が保障されているような仕事でもなくて。それでも、うちの両親は僕を信頼して、応援してくれました。そのおかげで、今があると思っています。
あと、僕は地方から上京して声優を目指していたこともあって、生活費を払うだけでも大変で。でも、瞬間的にお金が必要になる場面ってあるじゃないですか。例えば、この業界で言うと打ち上げや飲み会。そういうときにお金がないってなっても、役者の先輩や同期が「今日は出してあげるから行こう」と言ってくれたんです。僕はこれも応援のひとつだと思うんですよね。
──なるほど。
中村:だって、ふたりで行く食事ならまだしも、大勢が参加するような飲み会に中村一人が来なくたって、別に問題ないわけですから。それでも、お金を出してまで連れて行ってくれるというのは信頼してもらえているからだろうし、応援だよなって。そのときに見聞きしたものが、今の自分につながっていると思うこともあるので、力が発揮できるかどうかはさておき、やっぱり信頼・応援は必要なものではあると感じています。
──ファンの方からの応援が力になって後押しされた、などの経験はありますか?
中村:これが、難しいもので。応援の気持ちは本当にありがたいのですが、だからと言って、それが僕のお芝居をするうえでの力になるかは…
──この作品のように信頼値によって芝居がすごくなる、力になるという訳ではないですもんね。
中村:そうなんですよ。さっきの話と逆になってしまいますが、結局は自分の中から生み出したものしか声として出力できないですから。信頼してもらえたとしても、応えられるかどうかは別問題。自分の力以上のものは出せないというのが現実なのかなって。
──信頼は必要だけども、結局最後に頑張るのは自分。
中村:矛盾は感じていますけど、そうかもしれないです。でも、応援は、自分がやってきたことに対しての返事や答えになっていると思っていて。このルートを歩んでよかったという気持ちになりますし、次への力をもらえているなと感じています。
──この作品にも、そういう側面がある気がしています。
中村:僕も、そう思いますね。
黙殺編最後のブロックのエピソードを見て、一安心しました
──改めて、中村さんが感じている本作の魅力を教えてください。
中村:2Dと3Dの融合や使い分け、エピソード毎にキャラクターデザインが異なっているという試みが、僕はすごく好きですね。黙殺編は2Dで描かれていますが、他のヒーローではCGを取り入れているときもあります。昨今のアニメはアニメーションに統一感を持たせるようになっていますが、僕は今回のような作り方も面白いと思っています。
新しい試みをすることによって賛否両論が起きるかもしれないところを挑戦していることに対して、僕は敬意を払いたいです。
──中村さん自身も挑戦されることは大事にされている。
中村:そうですね。例えば作品への出演が決まったときは、演じるキャラクターで今回はどういうことに挑戦してみようかと、何かしらの課題や目標を自分のなかで作っています。ときに失敗するときもありますが、そうやって挑戦は続けていますね。
──最後に、今後の見どころをお話いただければと思います。
中村:ヒーローごとのエピソードはオムニバス形式で短めではありますが、その分、濃縮されたお話になっていると思います。今後の黙殺編では、これから黙殺がどうしていくのかということが主に語られていくので、これまで彼が登場した場面を踏まえて見ていただけたら、より楽しんでいただけるんじゃないかなと。
個人的には、黙殺編最後のブロックのエピソードを見て、一安心しました。彼にも何かしらの救いの手が差し伸べられると思いますので、じっくり楽しんで見ていただけると幸いです。
[インタビュー&文 M.TOKU]