【特集:成瀬巳喜男監督生誕120年】溝口健二、小津安二郎、黒澤明と共に「日本映画四大監督」と称される成瀬巳喜男映画を楽しむ4つの視点 前編
▲映画監督・成瀬巳喜男(1905-1969)
文=平能哲也
コモレバWEBにて「東宝映画スタア✩パレード」を連載中の高田雅彦氏の著書『成城映画散歩』(白桃書房)に、次のような記述がある。
著者の承諾の上引用する。第3章の「成瀬巳喜男と成城」の項だ。
「~そして、黒澤がご近所の青柳信雄監督のお宅で飲み、酔っぱらった時に必ずと言っていいほど語っていた言葉が、『成瀬さんにはかなわない』という賛辞(青柳監督のお孫さん・青柳恵介氏の回想による)。この逸話からも、いかに黒澤が成瀬を尊敬していたかがよく伝わってくる。」
今年2025(令和7)年は、成瀬巳喜男監督(1905-1969)の生誕120年に当たる。
生涯に89本(現存は69本)の作品を残した日本映画の名監督の一人である。
同じ松竹蒲田出身の二歳年上の小津安二郎監督(1903-1963)とは生涯の友人であり、ライバルであった。
同じ映画会社(P.C.L.~東宝)の後輩である黒澤明監督(1910-1998)、溝口健二監督(1898-1956)と合わせて、日本映画の四大監督と称せられることが多い。
四人の監督の中で一般的に最も知名度の低いのが成瀬監督だったが、ここ数年、松竹蒲田から移籍したP.C.L.時代の30年代の作品をはじめ、これまで未ソフト化だった多くの東宝(新東宝、宝塚映画含む)作品が廉価でDVD化され、また一部の作品はサブスクネット配信でも観られる。さらに今後、名画座等での特集上映も予定されている。
鑑賞の機会が増えるにつれて、若い世代など新たな成瀬映画ファンは増えつつある。
成瀬映画は同じ作品を何度観ても面白く、そして新たな発見がある、という成瀬映画ファン・研究歴35年を誇る平能哲也氏が、改めて成瀬映画の魅力とは何かを紐解く。
数多い要素の中から、4つの視点に着目し前・後編の2回にわたって成瀬映画の真髄に迫ってみる。
第一の視点
卓越した映画術(演出術)
35年前、筆者が最初に観た成瀬巳喜男監督の映画は『めし』(51)だが、当時黒澤明、溝口健二、小津安二郎監督たちの映画もすでに観ていた筆者は、成瀬映画の特徴が何だかよくわからなかった。実にオーソドックスな映画、少し悪く言えば、特徴のない平凡な日本映画だなというのが第一印象だった。
その後、未見の成瀬映画を名画座(特に銀座並木座での特集)で1本ずつ観ていき、関連の書籍などの記述も参考にしていくと、実は成瀬映画術=成瀬監督の演出術が実に多彩で、深く、斬新な映画表現をしていることに気づき始めた。
▲1998年に銀座・並木座で開催された上映企画「名匠 成瀬巳喜男の世界」。『放浪記』『杏っ子』『山の音』『浮雲』『流れる』『驟雨』『おかあさん』など14作品が上映された。(筆者所蔵)
成瀬映画術で最も有名な演出術は「目線送り」だ。
人物の目線、視線による心理表現はどの映画でも重要な要素だが、成瀬演出はそれに人物のアクション=動作をからめる。
たとえば、『乱れる』(64)。深夜、帰宅した加山雄三はちゃぶ台の前に座りビールを飲みながら食事をしている。亡くなった兄の妻(義姉)である高峰秀子との会話シーン。加山は座ったままだが、相手役の高峰は立って部屋の奥に行く、また移動し加山(義弟)の横に座る。部屋を移動する高峰のアクション(動作)の初めだけをカメラは映し、加山の目線のショットに切り替わる。高峰の途中のアクションは映さない。加山の目線が左上から右上に移動するショットの後、加山の目線の方向にいる高峰の姿のショット。省略の美学ともいえる「目線送り」だが、これを成瀬監督は多用する。「目線送り」は映像作品だけに可能な撮影、編集手法だろう。
▲1960年公開の『女が階段を上る時』の宣伝用の写真ハガキ。この作品では、高峰秀子が衣裳も担当しており、ハガキの文面からも高峰のこの映画にかける意欲が伝わる。高峰が美しく、60年度のブルーリボン賞ベスト・テン2位に選ばれた。(筆者所蔵)
次に、屋外シーンでの二人の歩き。
『山の音』(54)の冒頭、東京の会社から鎌倉の家に帰宅途中の義父の山村總に、自転車で買い物帰りの嫁の原節子が来て、自転車を降りて会話しながら道を歩く。途中で原節子が立ち止まる。少し前にいる山村總が振り返り会話を続ける。原節子がゆっくりと歩きだしまた二人は並んで歩いていく。二人の背中に、晩夏の陽射しが上から下へ移動する、撮影監督=玉井正夫による流麗なカメラワークはひたすら美しい。
このAが立ち止まり、少し斜め前にいるBが振り返り、また並んで歩くのは、「成瀬リズム」とも呼べる独特の屋外の人物の動かし方だ。成瀬映画には必ずといっていいほど出てくる演出術の一つ。振り返りによってアングルが変わる。順光と逆光の太陽光の濃淡の映像表現も素晴らしい効果をあげている。
成瀬映画は、場面転換のテンポ、省略の切れ味も見事だ。
『おかあさん』(52 新東宝)で、寒空の中、田中絹代の娘の香川京子は、家計を助けるために原っぱで今川焼を売っている。横にはパン屋の恋人の岡田英次と客の男。今川焼の旗がくるりと変わり【場面転換】アイスキャンデーの旗に。同じ場所に夏服でアイスキャンデーを売っている香川京子と岡田英次、客の男の姿が。1秒で冬から夏へ物語を進めてしまうのだ。
▲銀座のネオン街で生きる女性たちの生態を描いた1951年新東宝作品『銀座化粧』撮影時の成瀬巳喜男監督、田中絹代、香川京子。バーのセットだろうか。田中と香川は翌52年の成瀬作品『おかあさん』では母娘役で共演している。©TOHO CO.,LTD.
『浮雲』(55)の前半、森雅之と高峰秀子は安ホテルの部屋に入る。会話の後に、戦中の回想シーンとなる。仏印ダラット(現ベトナム)の森の中を歩く二人。足を止める森雅之が高峰秀子を抱き寄せるショット。【場面転換】現在のホテルの部屋の二人が唇を合わせるショット。過去から現在へのアクションをリズミカルにつなげた技巧的なショットで見せる。
筆者が成瀬映画の中で最も感嘆したのは『杏っ子』(58)の中の場面転換。
新婚旅行の旅館の部屋の中の木村功と香川京子。そこに仲居が来て「お床を敷かせていただきます」と伝え布団を出して敷き始める。木村は部屋を出て風呂に行く。一人残った香川は、窓のところの椅子に座って少し恥ずかしそうな仕草をしている。【場面転換】昭和二十五年(新婚旅行から二年~三年後の意)の文字。東京・本郷の路地のチンドン屋(これも成瀬映画によく登場する)。香川は庭から干した布団を持って部屋に入れている。筆者はこの映画を六回目に観た時に突然「これは布団つながりだ」と気付いた。新婚旅行で旅館の仲居が敷いてくれた布団を、妻となった香川は自分で庭から部屋に取り込む。少しこじつけの解釈をすれば、布団は「恥じらいの対象」から「日常のもの」へ変化している。小道具(布団)と人物のアクションを使って香川の環境の変化を表現している。なお『杏っ子』は原作=室生犀星で脚色は田中澄江と成瀬巳喜男。共同脚色の成瀬監督自身が関わっていると推察できる。
映画評の要素にはストーリー、(社会的な)テーマ、時代背景などがあるが、成瀬映画ではまずは卓越した映画術(演出)を味わってほしい。成瀬映画の凄さが実感できると思う。
▲1958年公開『杏っ子』の香川京子と木村功。 ©TOHO CO.,LTD.
第二の視点
リアルでクールな視点でとらえた日本映画の名女優たち
成瀬映画には様々なジャンルがある。家族(親子や夫婦)、子供(少年、少女)、女の年代記、時代劇、芸道もの、恋愛もの、ミステリーなど。林芙美子、川端康成など原作の文芸映画が多い。作品の大半は女性(母、妻、娘など)を中心に描いた女性映画と言っていいだろう。日本映画の30年代から60年代に活躍した名女優たちの美しさと演技が味わえるのは成瀬映画の最大の魅力の一つだ。
17作品に出演した成瀬映画の代名詞といえる高峰秀子、小津映画とはまた趣の異なる自然で普段着の演技が楽しい原節子、他に山田五十鈴、杉村春子、田中絹代、高峰三枝子、香川京子、杉葉子、淡島千景、久我美子、岡田茉莉子、新珠三千代、司葉子、草笛光子、水野久美、白川由美、星由里子、淡路恵子、中北千枝子、沢村貞子、長岡輝子、京マチ子、団令子、有馬稲子、そして元妻でP.C.L.のスター女優であった千葉早智子、細川ちか子、入江たか子など。思いつくままに挙げただけでもその豪華さに圧倒される。
成瀬監督の女優(登場人物)に注がれる視点は「リアル&クール」。これは筆者の考えたフレーズだ。綺麗な女優たちに対する成瀬監督の視線には冷静さ、いや冷徹さがある。そして女性の揺れ動くネガティブな感情も実にリアルに繊細に描く。男性の映画監督に多い、どっぷりと女優にのめりこむ視線は少ない。特に大人、中年の女性を描かせたら、成瀬映画は世界の映画の中でも最高峰のクオリティだと筆者は確信する。成瀬監督はプライベートで俳優たちとの付き合いがほとんどなかったというスタッフ、キャストの証言もある。成瀬監督は実にクールな監督なのだ。
筆者は、成瀬映画に関わったスタッフ、キャストが毎年成瀬監督の命日の7月2日に行ってきた「成瀬監督を偲ぶ会」(成城での食事会、以下成瀬会)に、成瀬映画8本の助監督を務めた石田勝心監督(2012年死去)の推薦により、外部の人間として初めてメンバーに入れていただき、2008年から毎年参加させていただいた(コロナ以降は休止中)。
成瀬会では成瀬映画の現場での貴重な話をたくさん聞かせていただいた。その中で書籍や雑誌等でも成瀬映画について語ったことのないと思われる一人の女優の証言を紹介したい。若大将シリーズや特撮もの、そして多くの文芸映画に出演した故星由里子(2018年死去)。成瀬映画には『夜の流れ』(60 共同監督=川島雄三)、『妻として女として』(61)、『女の座』(62)、『女の歴史』(63)の4本に出演している。
『女の歴史』のラスト近く、夫の山崎努(現・山﨑)を交通事故で亡くし、山崎の母の高峰秀子から酷い言葉を投げかけられる。高峰はそのことを詫びようと、嫁の星の住む、世田谷の大蔵団地の前の坂道にタクシーで出向く。雨が降る中、傘を差しながらの二人の会話。涙を流して詫びる高峰に対して、最初は冷たい態度であった星は、最後に許す気持ちになり一緒に星の住む部屋に歩いていく。成瀬映画の数多い雨のシーンでも一、二を争う名シーンだ。
▲1963年公開『女の歴史』の高峰秀子、加東大介、仲代達矢。©TOHO CO.,LTD.
成瀬会(2009)に参加された星由里子さんは、この時の撮影について次のように述べた。
「一番印象に残っているのは大蔵団地のところでロケをしたんですけど、成瀬先生が私を呼んで、『星ちゃんねぇ、ここ雨だからね、傘さして、じっと立っているだけで何にもしない。じっと立ってなさいね』と言われました。私はまだ若かったので、先生は何でそんなことをおっしゃるのだろうと思っていました。そのシーンが出来上がったのを観て、先生が何もしないでじっとしていなさいと言ったのが、よくわかりました。スタッフが凄い雨を降らしている中で高峰さんが、私をじっと見つめてくれる。それだけで涙が出てきて、映画って凄いんだなぁ、成瀬先生って凄いんだなぁって思いました」(筆者が当日録音した音源からの採録)。
▲1963年『女の歴史』のロケ地、世田谷・大蔵団地前の坂道での成瀬巳喜男監督と、高峰秀子、星由里子。©TOHO CO.,LTD. (右)現在の大蔵団地前の坂道の様子(筆者撮影)
成瀬映画に出演した多くの俳優たちのインタビュー証言を読むと、成瀬監督がよく話していたキーワードは次の二つに集約できる。「余計な芝居をしないで」「自然に」だ。
成瀬会にも出席されていた小林桂樹さん(2010年死去)は、複数のインタビューや対談で成瀬監督から演技を「オーバー」と言われたと話していた。自分ではまったく演技などしていないのだがと笑いながら。
高峰秀子(2010年死去)は、演じるのが難しい役と感じていた『あらくれ』(57)の撮影前に、「(成瀬)先生、これどういう風に演じたらいいですか」と訊いたところ「そのうち終わるだろう」と言われたとインタビューで証言している。
アルフレッド・ヒッチコック監督が、『山羊座のもとに』(49)の時に、演技指導をめぐりイングリッド・バーグマンに言ったといわれる有名な言葉「イングリッド、たかが映画じゃないか」に共通した雰囲気のエピソードだ。
成瀬監督に関するエピソードの証言は数多くあるのだが、スタッフや俳優たちは「いじわるじいさん」と呼んでいたらしい。これは高峰秀子のエッセイ『わたしの渡世日記』(文春文庫)の中に記述されているので、渾名の命名者は高峰秀子かもしれない。
成瀬映画は、小津映画と比較してみるとより面白い。「小津は二人いらない」と言われて松竹蒲田からP.C.L.へ移籍した話は有名だが(発言の真偽は不明)、異なる要素(映画術)は数多い。一つだけ挙げれば、小津映画では室内、屋外とも人物をすぐに座らせる。成瀬映画は室内、屋外とも人物を実によく動かす。筆者は「成瀬映画はアクション映画である」と名付けたのだが、これは成瀬映画を観てもらえれば納得してもらえるだろう。後編では、第三の視点、第四の視点をご紹介する。
平能哲也(ひらの てつや)
1958(昭和33)年、東京生まれ。1982年学習院大学文学部フランス文学科卒。PR会社に16年間勤務の後、危機管理・広報コンサルタント、ライター(個人事業主)として独立、公益社団法人日本広報協会 広報アドバイザーを務める。成瀬映画には1980年代の後半に出会い、2005年の生誕100年の時に、現存する69作品をすべて観た。同年に著書「成瀬巳喜男を観る」(ワイズ出版)、編集協力「成瀬巳喜男と映画の中の女優たち」(ぴあ)に関わり、また1998年から現在までウェブサイト「日本映画の名匠 成瀬巳喜男ファンページ」の作成・運営。2021年からは成瀬映画、小津映画、川島映画などのロケ地を紹介するYouTube「旧作日本映画ロケ地チャンネル」の作成・運営。毎年7月2日の命日に成瀬組のスタッフ、キャストが集まる「成瀬監督を偲ぶ会」の事務局メンバー。
劇場で成瀬映画を観よう!
今、映画館で観られる成瀬巳喜男監督映画20選
シネマヴェーラ渋谷「初めての成瀬、永遠の成瀬」
シネマヴェーラ渋谷では3月22日(土)から4月11日(金)まで「初めての成瀬、永遠の成瀬」と題して、成瀬巳喜男監督映画が20本上映される。芸道もの、女の一生もの、ホームドラマ、サスペンスなど、成瀬監督のすべてが堪能できる魅力的なラインアップだ。なかなか上映機会のない作品や、劣化したフィルムしかない作品は国立映画アーカイブのフィルムで上映、美しい映像で観ることができる。また、成瀬監督『舞姫』でスクリーンデビューした岡田茉莉子のトークショーも実施される。名匠・成瀬巳喜男の神髄に触れるまたとない機会だ。
《上映作品》
◆『鶴八鶴次郎』(1938)
出演:長谷川一夫、山田五十鈴、藤原釜足、大川平八郎、三島雅夫
川口松太郎の同名小説の映画化で、長谷川と五十鈴の掛け合いで笑わせ、ほろりとさせる芸道もので名人芸が魅せる。©1938東宝
◆『晩菊』(1954)
出演:杉村春子、沢村貞子、細川ちか子、望月優子、上原謙、小泉博、有馬稲子、見明凡太郎
林芙美子の短編小説3作をまとめた1954年度作品。芸者上がりの4人の中年女性たちの生き方を杉村、望月らが見応えのある演技で楽しませてくれる。 ©TOHO CO.,LTD.
◆『流れる』(1956)
出演:田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、岡田茉莉子、杉村春子、栗島すみ子、中北千枝子、加東大介田中、山田、高峰、岡田、杉村、さらに日本映画史上初のスター女優栗島を迎えた絢爛豪華な顔ぶれの、まさに女性オールスター映画と呼べる成瀬の代表作の一つ。©1956東宝
◆『娘・妻・母』(1960)
出演:原節子、高峰秀子、三益愛子、森雅之、団令子、宝田明、淡路恵子、草笛光子、小泉博、加東大介、上原謙、笠智衆、杉村春子、仲代達矢
成瀬映画を彩った俳優たちが一堂に会したとも言える東宝オールスターによる家族劇。単なるスターの顔合わせではない味わい深い作品。©1960東宝
◆『乱れ雲』(1967)
出演:司葉子、加山雄三、草笛光子、浜美枝、加東大介、森光子、土屋嘉男、浦辺粂子、藤木悠、中丸忠雄、中村伸郎
山田信夫のオリジナルシナリオの映画化で、夫を交通事故で無くした妻(司)と加害者(加山)が恋におちる危うい関係の恋愛ドラマの傑作。成瀬の遺作となった。©1967 東宝
◆『鰯雲』(1958)
出演:淡島千景、新珠三千代、司葉子、飯田蝶子、木村功、中村鴈治郎、小林桂樹、加東大介、杉村春子、清川虹子
成瀬が脚本家の橋本忍と初めてコンビを組んだ1958年の作品。農地改革で没落してゆく大地主一家の姿を、農家の未亡人(淡島)と妻子のある新聞記者(木村)との恋、世代による価値観の対立などさまざまなエピソードをからめて描く群像劇。©TOHO CO.,LTD.
◆『女人哀愁』(1937)
出演:入江たか子、伊東薫、初瀬浪子、佐伯秀男、堤真佐子、北沢彪、御橋公、清川玉枝
カメラが動き、扉が開閉し、顔のアップになるというスピード感あふれる場面転換はじめ、成瀬の演出が冴える1作。ラストの入江たか子が美しい。1937年公開。©TOHO CO.,LTD.
◆『旅役者』(1940)
出演:藤原鶏太(釜足)、柳谷寛、高勢實乗、清川荘司、御橋公、深見泰三、中村是好、山根寿子、清川玉枝
旅回りの一座で〝馬の脚〟役をめぐる騒動をほのぼのと描きながらも、シュールで突き抜けた味わいの1940年の作品。 ©TOHO CO.,LTD.
◆『夫婦』(1953)
出演:上原謙、杉葉子、三國連太郎、小林桂樹、藤原釜足、滝花久子、岡田茉莉子
転勤で東京に戻りやもめ暮らしの男(三國)の家に転がり込んだ夫婦(上原&杉)の危機を描いた1953年の作品。『めし』にも出演していた杉がヒロインに起用されている。©TOHO CO.,LTD.
◆『女の座』(1962)
出演:笠智衆、高峰秀子、司葉子、杉村春子、草笛光子、淡路恵子、星由里子、三益愛子、宝田明、三橋達也、小林桂樹、加東大介
『娘・妻・母』と並ぶ、東宝の女優が一堂に会した大家族劇。二男五女の大家族の父親役の笠と、長男の嫁役の高峰との関係性から成瀬版『東京物語』とも言われた1962年作品。©TOHO CO.,LTD.
◆『ひき逃げ』(1966)
出演:高峰秀子、司葉子、加東大介、黒沢年男、中山仁、賀原夏子、小沢栄太郎、浦辺粂子
松山善三のオリジナルシナリオを映画化した1966年の作品。子どもを交通事故で亡くすヒロインに高峰、加害者役に司。車が爆走するシーンや、高峰が酔って踊りまくるシーンなど、成瀬監督には珍しい、意外性のある作品。成瀬と高峰の最後のコンビ作。 ©TOHO CO.,LTD.
◆『芝居道』(1944)
出演:長谷川一夫、山田五十鈴、古川緑波、進藤英太郎、志村喬、花井蘭子
『鶴八鶴次郎』の長谷川&五十鈴コンビに喜劇界の大御所緑波を迎えた芸道もの。戦時中1944年の作品ながら、提灯行列の幻想的な美しさ、戦勝祝いの花火など華やいだ印象の映画となった。©TOHO CO.,LTD.
◆『妻』(1953)
出演:上原謙、高峰三枝子、丹阿弥谷津子、高杉早苗、中北千枝子、伊豆肇、新珠三千代、三國連太郎無関心亭主(上原)と家事怠慢女房(高峰)の結婚10年目の夫婦のどん詰まり生活に持ち上がる不倫騒動。ガサツな妻の高峰の演技もすさまじく、成瀬作品の中でも最も辛辣な結末の1953年作品。©TOHO CO.,LTD.
◆『あらくれ』(1957)
出演:高峰秀子、上原謙、森雅之、加東大介、東野英治郎、宮口精二、岸輝子、中北千枝子、仲代達矢徳田秋聲の同名小説の映画化。つかみ合いの喧嘩も厭わない〝あらくれ〟ながら、働き者で、仕事ができ、度胸も情もあり、自ら運命を切り拓く大正時代に生きるヒロインを高峰が見事に演じて魅せる。©1957 東宝
◆『舞姫』(1951)
出演:山村聰、高峰三枝子、岡田茉莉子、片山明彦、二本柳寛、見明凡太郎、木村功、沢村貞子
川端康成の同名小説を原作に夫婦の物語を描いた1951年の作品。高峰が妻の心のゆらぎを情感を込めて演じる。岡田のデビュー作であり、初々しいながらも、すでに女優の貫禄を見せている。
写真協力:公益財団法人川喜多記念映画文化財団
◆『妻の心』(1956)
出演:高峰秀子、小林桂樹、三好栄子、千秋実、中北千枝子、根岸明美、田中春男、花井蘭子、杉葉子、三船敏郎、加東大介、沢村貞子
代々続く薬屋を営む夫婦(小林&高峰)と姑(三好)のもとに失業した兄(千秋)一家が戻ってきて、さまざまな問題が持ち上がる、配役が絶妙な群像劇。三船が従来の豪快なイメージと異なる誠実な銀行員を演じているのも見ものだ。©1956 東宝
◆『妻として女として』(1961)
出演:高峰秀子、淡島千景、森雅之、星由里子、仲代達矢、水野久美、淡路恵子、飯田蝶子、丹阿弥谷津子、中北千枝子、藤間紫、中村伸郎
井手俊郎と松山善三の共同脚本による1961年作品。大学講師(森)とその妻(淡島)、講師の愛人(高峰)との葛藤を描いた愛憎劇。クライマックスで妻と愛人の憎悪が激突するバトルはスリリングで目が離せない。
©TOHO CO.,LTD.
◆『夜ごとの夢』(1933)
出演:栗島すみ子、斎藤達雄、新井淳、吉川満子、飯田蝶子、坂本武
俯瞰や横移動など、さまざまな技術的なショットが冴えるサイレント映画。
◆『女の歴史』(1963)
出演:高峰秀子、宝田明、山﨑努、星由里子、賀原夏子、仲代達矢、淡路恵子、草笛光子、加東大介、藤原釜足、菅井きん
夫を戦争で亡くし、息子を事故で亡くし、戦前・戦中・戦後と苦労ばかりの女の人生を高峰が演じる。
◆『杏っ子』(1958)出演:山村聰、香川京子、夏川静江、木村功、太刀川洋一、中北千枝子、藤木悠、土屋嘉男、中村伸郎、小林桂樹、加東大介、賀原夏子、沢村貞子
室生犀星の小説を映画化した1958年作品。人気作家(山村)の娘(香川)は、作家志望の青年(木村)と結婚するが、才能もなく妻に当たり散らすダメ夫との結婚生活は破綻していく。木村が演じるのは成瀬映画ダメ男の筆頭だろうか。
『初めての成瀬、永遠の成瀬』
〔会場〕シネマヴェーラ渋谷
〔上映期間〕3月22日(土)~4月11日(金)
〔料金〕一般:1300円、シニア:1100円、会員:900円、大学・高校生:700円
※一本立て、入れ替え制
◇トーク付上映
3月22日(土)15:25より『舞姫』上映後、女優・岡田茉莉子さんのトーク会を実施。聞き手は蓮實重彦さん。料金:2500円均一
写真協力:公益財団法人川喜多記念映画文化財団
◇特別上映
国立映画アーカイブの協力により『舞姫』(3/22のぞく)『杏っ子』『妻の心』『妻として女として』を美しい映像で上映。料金:1300円均一