【医師監修】Jクラブチームドクターが全項目「正しい」と評価! 夏の熱中症対策の現場実践例
いよいよ本格的に始まる「暑すぎる夏」。毎日のようにサッカーをする子どもの保護者や指導者にとっては、熱中症への心配が絶えない日々がスタートします。
今回は、サカイクキャンプで行なっている熱中症対策が正しいのかをスポーツドクターに相談。
JリーグいわきFCチームドクターで、東京およびパリオリンピックのサッカー日本代表チームにも帯同経験がある福島理文先生に、現場の対応が正しいのか聞いてみました。
(取材:サカイク編集部、菊池健太サカイクキャンプヘッドコーチ、構成・文:小林博子)
(サカイクキャンプ)
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■改めて認識したい「熱中症」とは
熱中症とは、暑い環境下での体温調節がうまくできなくなることで引きおこる様々な症状のことです。人体には、動くと体内で熱が産生され、汗でその熱を放出することで体を冷やす仕組みが備わっています。
そのバランスが崩れると、熱が体内にこもってしまい、めまいや吐き気のほか、重症化すると意識障害やけいれんなど、命にかかわることも。
以前お伺いした記事では「運動中の熱中症の多くが、10代の子どもたち」という驚きの言葉も。特にサッカーのような強度の高い運動時には、体内での熱の産生がとても多く、熱中症リスクが他の競技より高いのでしっかり対策したいところです。
【確認】サカイクキャンプの熱中症対策は「正しい対応」ができているか
今回は、夏のサカイクキャンプで行なっている熱中症対策を1つずつリストアップし、菊池コーチが福島先生にオンラインで詳細を説明。対策として正しいのか評価してもらいました。
■対策①WBGT(暑さ指数)を確認して練習時間の調整
夏のサカイクキャンプでは、WBGT測定器で数値を確認した結果次第では、朝9時までと夕方16時からの練習にしています。
※WBGT測定器は、気温と湿度、さらに輻射熱から「暑さ指数」を測るもの
福島先生の評価:正しい対応
「大人の肌感覚で"これならできる"と考えたり、昭和の根性論で暑い中無理をさせてしまうのではなく、WBGT測定でしっかり判断していることは正しい方法です。日本の夏はWBGTで『危険』レベルの暑さ指数になる日がとても多く、日中の最も危険な時間帯に練習を避けるのは賢明な判断です」
■対策②グラウンドに日陰を設置、冷水で身体を冷やす
グラウンド近くにテントを設置し、練習の合間の休憩は直射日光が当たらない環境下で行っています。
休憩時に氷で首元を冷やす、トレーニング後はピッチサイドの日陰に設置したビニールプールに浸からせる。事前に施設にピッチ近くの水道を使用させてもらう許可を取り、ホースで随時水を送り、プールの水を冷たいまま保つようにしています。
福島先生の評価:正しい
「涼しく風通しがいい場所で体を休めるのは、夏は特に大切なことです。また、直射日光を浴びると皮膚の温度が上がり体内の熱の産生にもつながり、動いていなくても体に負担がかかります。その意味でも日陰で休むことには大きな意味があります。氷や冷水で冷やすのもいいですね。効果的な冷却方法として手のひらや全身の冷却があります。体温を下げるという意味でもきちんと対応できているといえるでしょう」
■対策③トレーニング中も帽子の着用を推奨
練習中は子どもたちの帽子の着用を推奨。コーチ陣も全員帽子を被って指導にあたります。コーチの帽子着用は、子どもたちに「夏は帽子を被るのが当たり前」と思ってもらえるようになることや、「帽子を被るなんてカッコ悪い」と思わせないことも狙っています。
福島先生の評価:正しい
「前述したように、直射日光が当たると体の熱が産生されるほか、目の健康にもあまり良くないです。その意味でも夏の日差しの下での帽子着用は、ぜひとも行ってもらいたいことの1つです」
ちなみに、サカイクキャンプでは練習中に子どもたちに説明する時間などに、太陽に背を向けた方向に集める工夫も毎回しています。
■対策④水分補給の時間を確保、水筒の減り具合をチェック
グラウンドでの練習では15分ごとに250mlの摂取を目標に、水分補給の時間を設定しています。また、水筒の中身の補充時に減っていない子をチェック。氷を入れて飲みたくなる温度にしておく工夫も行います。
福島先生の評価:正しい
「激しいスポーツ時に1時間で約1リットルの水分摂取ができるのは理想的です。子どもたちに量の目安をわかりやすく伝え、理解してもらえるとさらにベターですね。熱中症対策の1つである体重減少を抑えることにもつながります。また、飲み物が冷たく美味しいと感じられれば、量も飲めるはず。経口補水液やスポーツドリンクで、水分だけでなく塩分やカリウム、マグネシウムも摂れればより良い水分補給です」
■対策⑤練習前後での体重測定
対策④の水分摂取量が正しくできているかの判断のため、練習前と後に全員の体重測定を毎回実施。体重の3%以上の水分が失われると体温調節に影響が出るといわれているため、体重減少が2%以内に収まるように1人ひとりに適切な水分補給量を判断しています。
福島先生の評価:正しい
「スポーツジャグなどに入れていると、十分な量の水分を摂取できたのかわかりにくいため、体重測定を丁寧に行い、数値をもとに判断するのも子どもたちのためにとても良いことです。子どもの体は、小さくても対表面積は大人とさほどかわらず、汗をかく量も大人と同等レベルと言われています。そのため基準値としている2%も妥当です」
■対策⑥食事量の確認
食事をしっかり摂れているかを毎回確認。食べられない子がいた場合、十分な栄養摂取ができる工夫をしてなるべく食べられるようにするなど、1人1人細やかな食事指導も行います。
福島先生の評価:正しい
「練習で減った体重はその後の食事で戻すことを目標に食べてほしいところ。熱中症対策にもなります。練習後2~4時間以内を目安にしっかり食べるようにしましょう」
■対策⑦「つらい」と言える雰囲気に
体調が悪くなったと本人が感じたらすぐに練習を中断して休める雰囲気づくりを徹底しています。宿舎に近い位置のピッチを借りて、体調不良の子が出たらすぐに休ませることができるエアコン完備の部屋も確保しています。
福島先生の評価:正しい
「無理をさせないこと、誰よりも先に体の異変に気づく本人がためらわずにアラートを訴えられるのは、熱中症対策としてとても良いことだと思います。ただし子どもの場合、不調が徐々にではなく急にくるケースも。本人からの訴えだけに頼らず、コーチたちがしっかり目を配ることも併せて行ってあげてください」
■サカイクキャンプの熱中症対策への医師の評価
【総合評価】
サカイクキャンプの熱中症対策は合格!
7つの対策全て「正しい」という嬉しい評価をいただきました。今までの夏のキャンプで重度の熱中症になってしまう子が1人もいなかったのも、この評価だからこそかもしれません。
こうするとベターというアドバイスもいただけたので、次回のキャンプではそれもふまえてさらなる対策の強化に努めたい、と菊池コーチは話しています。