震災伝承に三陸道活用を 釜石で地域活性化フォーラム 女性目線で提案「魅力の新形」
東日本大震災の伝承施設と被災地を縦貫する三陸沿岸道路を活用した交流人口の創出を考える地域活性化フォーラムが2日、岩手県釜石市大町の市民ホールTETTOで開かれた。一般財団法人「3.11伝承ロード推進機構」(宮城県仙台市、今村文彦代表理事)が主催し、「三陸の新しい魅力」をテーマに講演やパネル討論を展開。行政や観光、建設などの業界関係者ら約80人が耳を傾けた。
東北大学災害科学国際研究所の奥村誠教授(地域・交通・土木計画学専門)が「未来に役立つ災害伝承のための三陸沿岸道路の役割」と題して基調講演。三陸道(青森県八戸市-宮城・仙台、全長359キロ)の全線開通による移動時間の変化や来訪者数の推移に関するデータを示し、「無料区間が延伸され、時間の短縮と交通費用の低下が実現したが、岩手県外からの来訪者に関して顕著な増加は見られない」と指摘した。
そのうえで、「量より質を目指しましょう」と呼びかけ。質の向上につながるヒントに―と滞在時間の変化に関するデータも紹介し、「県外からの来訪者は帰りの駅や空港までの時間が読めると、滞在可能な時間がのびる。そうして生まれた時間で地域との交流が生まれ、その人にあった満足が提供できるようになる」とした。
震災伝承のあり方について「多くの人に安く提供するのではなく、少数でも深い学びを提供することが重要」と強調。時間の確保という点で、「三陸道など復興支援道路が持つ、時間的な信頼性が役立つ」と見解を示した。
パネル討論のテーマは「女性が語る三陸の新しい魅力」。石巻専修大の庄子真岐教授が進行役を務め、パネリスト4人で展開された。
釜石・鵜住居町のいのちをつなぐ未来館スタッフの川崎杏樹さんは、学校などの教育旅行や企業のワーケーション研修の実績を紹介。「コロナ禍で落ち込んだが、現在は上昇傾向にあり、釜石式の防災にニーズがある」と感じる一方で、「防災だけを売りにすると飽きられる」とキッパリ。ラグビーやインフラ、産業など多様な要素と組み合わせたプログラムの提供を始めており、「さまざまな面から防災を考えられるよう入り口を広げ、リピーター獲得につなげたい」と展望した。
同じく鵜住居にある旅館・宝来館おかみの岩崎昭子さんは地域にあるものをつなげたり、団体が手を取り合って共に盛り上げる視点の必要性を熱弁。「災害の形は違っても三陸の経験や学びは生かせるはず。世界遺産や歴史、海、環境などに関わる各主体がアイデアや知恵を出し合って魅力ある釜石を発信すべき」と力説した。
伝承ロードは、震災被災地にある遺構や石碑、慰霊碑、伝承施設をネットワーク化したもので、訪れた人が効果的に教訓や防災などを学べる仕組みを構築する。同機構は、国土計画協会の支援を受け、新たな交流人口を創出する未来志向の地域活性化事業を実施中。今年9月には、政府が新設した「NIPPON防災資産」に選ばれた。
アドバイザーとして討論に加わった同機構の原田吉信業務執行理事は、道路整備により内陸との横の連携だけでなく、三陸道で結ばれた縦の連携も考える必要性を指摘。伝承施設を拠点に観光面でも活用していくことで、「三陸地域の良さや魅力の発信につながる。求められているのは、『今だけ、ここだけ、あなただけ』というプログラム。地域内外で協力して作っていければ、人を呼び込む強みになる」と締めくくった。