大晦日に食べる「年取り膳」。長野・伊那市のごちそうはイワシ、ブリ、塩ザケ、3種の魚を粕汁に?
現在、大晦日に食べる行事食は全国的に“年越しそば”ですが、その昔、地域によっては“年取り膳”というごちそうを食べ、新しい年を迎えていました。その時に出される魚が年取り魚。長野県伊那市は、今も大晦日に年取り魚を食べる家があります。しかも3種類の魚を使い、さらにそれを粕汁にして食べるという豪華バージョンです。イラストを拡大してどうぞ~。
どんな料理?
イワシ、ブリの切り身、塩ザケの切り身にソース風に粕汁をかけて。三温糖が入るからか、酒粕の味がまろやかに。汁椀ではなく皿に盛りつけます。
食べさせてもらった一家の声をお届け
93歳のおばあちゃん
「粕汁の味つけは醬油と三温糖のみ。塩は使わないよ。粕汁で魚を煮込んで作ります。子どもの頃から毎年食べてるの。今も自分で家族の分を作りますよ」
60歳代の息子さん
「大晦日だけじゃなく、正月三が日も食べるんですよ。何回も温め直すから、粕汁がどんどんソース状になります」
30歳代のお孫さん
「ちなみに粕汁ですけど、汁は飲まないんです。ソース的な扱いです」
え~!? 粕汁もキレイに飲み干した私……。
2歳のひ孫ちゃん
「このイワシおいしい♡」。粕汁がしみたイワシを2尾も一人で食べてた!!
年取り魚は地域によって違う!?
大きく分けると東日本は塩ザケ、西日本は塩ブリを年取り魚としていました。
年末にまるごと一尾購入し、1月20日頃まで少しずつ食べるものでした。が!! 一尾購入するのはとっても高額!!
山間部などでは、それらを購入する金銭的余裕がない年は、塩イワシや塩サンマになる時もあったそう。
食文化が変わる線
糸魚川-静岡構造線で食文化が変わるといわれています。伊那市はもともと出世魚のブリが年取り魚だったけれど、戦後“サケは栄える”といい、新巻鮭が年取り魚になったとか。
年取り魚の境目である糸魚川-静岡構造線付近にあり、山岳地帯でもある伊那。年取り魚にイワシ・ブリ・塩ザケを使うのは、食文化が入り混じる地域ならではこそなのかも♪
取材・文・イラスト・写真=松鳥むう
松鳥むう
イラストエッセイスト
離島・ゲストハウス・民俗行事・郷土ごはんを巡るコトがライフワーク。著書に『トカラ列島秘境さんぽ』『粕汁の本 はじめました』(ともに西日本出版社)、『むう風土記』(A&F)などがある。