【二村真弘監督「マミー」】 「和歌山毒物カレー事件」の魔力
静岡新聞論説委員がお届けする“1分で読める”アート&カルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリーで8月30日から上映中の二村真弘監督「マミー」から。
本編開始前、「本映画に関連する誹謗中傷や嫌がらせに対しては、法的措置を含め、厳正に対処します」という重々しい宣言がなされる。
1998年7月、和歌山市で発生したいわゆる「和歌山毒物カレー事件」の発生当時と今を扱った本作。実行犯とされる林眞須美死刑囚の親族がさまざまな証言をしている。親族は過大な誹謗(ひぼう)中傷を理由に、一時上映中止を申し立てていた。静岡で無事この作品を見られたことにまずは安堵した。
近隣住民が集まる夏祭りで振る舞われたカレーに入っていた猛毒の「ヒ素」で67人が中毒を発症、小学生を含む4人が死亡した陰惨な事件の記憶がよみがえる。二村監督ら映画の製作者は、目撃証言や科学鑑定への反証を試みる。当時の関係者に肉薄する中で、製作者側の行動に「狂い」が生じていくさまも描かれ、この事件が持つ本質的な魔力を感じさせる。
事件の真実を見えにくくしている林夫妻の保険金詐欺事件について、夫の健治氏があっけらかんと語っているのが衝撃的だ。「まぁ、ちょっと、どんな味すんのかなと思って(ヒ素を)舐めてみたわけ」。“手口”を語る言葉は、思いのほか軽い。軽いがために、「保険金詐欺」と「カレー事件」の関連が弱く感じられる。「文字」だけでは伝わらない「発語の力」について考えさせられた。(は)