金利上昇のなか住宅ローンはどう組むのがいいのか? 民間住宅ローンの実態に関する調査結果と利用者の実態から解説
はじめに
近年の住宅ローン市場は、日銀が2024年3月にマイナス金利政策を解除して以降、金利上昇という大きな局面を迎えている。日銀は、同年7月に政策金利を0.25%程度に、さらに2025年1月には0.5%程度に引き上げると決定した。当時、日銀の植田総裁は会見にて、今後の利上げについては「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していくという基本的な考え方に変わりはない」と述べている。
現在(2025年6月)では、米国のトランプ関税の影響により経済や物価の見通しが立てにくく、注目される日米関税交渉の動向も不透明であり、政策金利の年内引き上げについては予断を許さない状況が続いている。一方、長期金利は上昇トレンドにあり、大手5行は本年6月、10年固定型の住宅ローン金利を引き上げた。長期金利に連動しやすい固定型と政策金利に連動しやすい変動型の住宅ローン金利との差がさらに開く可能性もある。
今回は、国土交通省が発表した「令和6年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」に基づき、現在の住宅ローン市場の動向を考察するとともに、変動金利型の割合が大きい現状や金融機関が強化している審査ポイントなど、住宅購入を検討されている方々がより適した住宅ローンを選択するためのヒントを返済期間の長期化傾向の背景や相談事例などを交えながら解説する。
個人向け民間住宅ローンの動向
国土交通省が実施した「令和6年度 民間住宅ローンの実態に関する調査」(以下、「本調査」)は、住宅金融政策の検討及び立案に必要な統計データ収集を目的とし、住宅ローンを供給する民間金融機関1092社から回答を得たものである。調査期間は2024年10月~11月で、件数、金額に関するものは2023年度末実績に基づいている。新規貸出を中心に概要をみてみよう。
1.新規貸出額の実績
2023年度の個人向け住宅ローンの新規貸出額は、20兆2,816億円(回答数987)。2022年度から横ばいで推移している。2021年度と比べると、5,132億円の減少となった。一方、2020年度~2023年度まで連続で回答した金融機関の集計(回答数496)では、2023年度の新規貸出額は対前年度比1.0%増となっている。
2.新規貸出額の使途別実績
2023年度の新規貸出額の使途別の内訳(各年集計)は、新築住宅向けが 69.9%、既存(中古)住宅向けが24.1%、借換え向けが 6.1%と、新築住宅向けが圧倒的に多い。が、2022年度と比べると、新築住宅向けの割合は3.7ポイントの減少となっている。一方、既存(中古)住宅向けは3.5ポイント、借換え向けは0.2ポイント、それぞれ増加している。2023年度は分譲住宅の着工戸数が全国計で減少した年でもあり、新築住宅向けの減少は、供給減の影響もありそうだ。
増減を金額で見てみると、新築住宅向け新規貸出額の対前年度の減少額は、1,947億円。既存(中古)住宅向けの増額幅は6,021億円、借換え向けは264億円の増加だ。既存(中古)住宅向けの新規貸出額の伸びが注目される。
3.金利タイプ別の割合
住宅ローン利用予定者にとって最も悩ましい点の一つが、住宅ローンの金利タイプ選択だと言えるだろう。新規貸出額に占める割合(各年集計)が最も高いのは「変動金利型」で84.3%。前年度から6.4ポイント増加している。「固定金利期間選択型」は9.0%、「フラット35」など「全期間固定金利型」は6.6%で、両者は前年度より減少した。
住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者調査(令和6年10月調査)」においても、住宅ローン利用者の77.4%が「変動型を利用した」と回答しており、利用者数においても、新規貸出額においても、変動金利のシェアが圧倒的だ。住宅ローンの返済期間は20年、30年と長期に及ぶ。日銀が政策を転換した現在、返済中は超低金利が継続し、金利は上がらないという思い込みは危険だ。金利動向は予測不可能だからこそ、確かな備えが必要なのだ。後半で述べる。
4.長期・固定金利の住宅ローン等に関する融資審査等
本調査では、「融資を行う際に考慮する項目」についての設問がある。回答数974のうち、9割以上の金融機関が融資時の審査項目として回答したのが下記の項目だ。※( )内は、回答数の割合。
・完済時年齢(98.4%)
・健康状態(95.1%)
・借入時年齢(96.0%)
・年収(93.4%)
・勤続年数(93.2%)
・担保評価(90.5%)
・金融機関の営業エリア(90.5%)
・返済負担率(90.3%)
なお、回答数の割合は69.1%だが、前年度に比べてポイントを大きく伸ばした項目に「カードローン等の他の債務の状況や返済履歴」がある。住宅金融支援機構の「2024年度住宅ローン貸出動向調査」によれば、各金融機関が「住宅ローンに関して懸念する事項」のうち、前年度比で大きく上昇したのが、「金利上昇局面での延滞増加」だった。
住宅ローンの利用にあたり、奨学金の返済を含む他の債務の状況、使用していないクレジットカードの与信枠、返済履歴等は、十分に把握しておきたい。状況によっては、希望の融資額に満たなかったり、融資を受けられなかったりする場合がある。信用情報機関に登録されている自分自身の信用情報は、情報開示請求制度を利用して確認することができる。各信用情報機関への開示請求手続きは、インターネットと郵送とどちらも可能だ。
ここまで、本調査の概要をみてきたが、「金利タイプ別の実績」の「固定金利期間別の割合」の設問に気になる結果があった。次項で紹介したい。
「固定金利期間選択型」期間別の割合
「固定金利期間選択型」は、当初の一定期間、金利が固定される住宅ローンである。その固定期間は、2年、3年といった短いものから、10年、20年と長期のものもあり、ラインナップは金融機関によって様々だ。調査項目にあった新規貸出額における「固定金利期間別の割合」は、非常に興味深い結果となっている。
最も割合が高いのは、「固定金利期間選択型10年(以下、「10年固定」。他の期間も同じ)」で46.8%。前年度より0.8ポイント減少しているものの順当な結果だ。次に高いのが「3年固定」で35.0%。対前年度で6.4ポイントと大きくシェアを伸ばしている。数値結果から考察すると、「2年固定」が14.2%(2022年度)⇒6.7%(2023年度)と大きく減った部分の割合が、「3年固定」と「5年固定」にシフトしたと見て取れる。ちなみに、「5年固定」は、4.5%(2022年度)⇒6.6%(2023年度)へ増加した。
住宅ローンの金利選択、とくにライフプランをベースにした場合、「2年固定か、3年固定か」という選択は、「変動金利型か、10年固定か」という選択に比べると、金利差や考慮すべき事項、背景や重視する度合いには大きな違いがある。もちろん、個々の事情があって逆のケースもあるのだが、住宅ローンの利用者の属性を考慮すると、利用者が自ら積極的に「3年固定」を選んでいるとは考え難い。住宅ローンの貸し手の意図が大きく反映されていると推察される。
先に引用した住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者調査」によれば、住宅ローンの選択にあたり、検討した住宅ローンの数を「1つ(現在借りているローンのみ)」とした回答が、66.6%と最大となっている。次が「2つ(同じ金利タイプ)」で12.5%。「異なる金利タイプを含む3つ以上」と回答したのは、4.5%に過ぎない。さらに、「利用した住宅ローンを知るきっかけ」は、「住宅・販売事業者」が最も多く48.4%。「住宅ローンの借入計画にあたり主に相談した先」も、「住宅・販売事業者」が最も多く45.0%となっている。
住宅ローンの利用者と話していると「住宅販売の担当者から、『金利は上がらない』と言われた」、「金利変動リスクについて販売担当者に尋ねると『私も変動金利を借りているから大丈夫ですよ』と言われた」など、にわかに信じ難い事例を耳にすることがある。契約直前になって、「本当に返済ができるのかどうか、心配になって相談に来た」というケースは少なくない。ここ数年、住宅購入相談のタイミングが早まってきていると感じている。返済計画に先立つ予算計画の段階での相談は選択肢が多く、家計と購入価格のマッチング度が高まってより効果的である。
さらに、住宅ローンの比較検討もマストだと言える。異なる金利タイプはもちろんのこと、借入額や返済期間等の条件を変えて試算しよう。シミュレーションは、住宅金融支援機構のサイトをはじめ、金融機関のサイトを利用すれば簡単にできる。試算にあたって、もっとも肝心なのは、家計収支の把握である。家計に無理のない毎月の返済可能額を算出すれば、適正な借入額が試算でき、身の丈にあった購入予算を求めることができる。
【参考】住宅金融支援機構「住宅ローンシミュレーション」
https://www.jhf.go.jp/simulation_loan/
金利上昇局面での対応策
金利動向は予測不可能であり、予測する必要は無い。大切なことは、上昇した場合の対応策を考えておくこと。上がらなければ幸運だと思おう。前出の「住宅ローン利用者調査」では、「返済額が増加した際の対応」として、約3割が「返済継続」を、同じく約3割が「一部繰上返済」または「全部繰上返済」を、約1割が「借換え」を対応策としてあげている。そして、「見当がつかない、わからない」との回答が約2割存在するという点は憂慮すべきだろう。
「返済額が増加した際の対応」を「一部繰上返済」「全部繰上返済」「借換え」とした回答者の約6割は、現在の毎月返済額が1万円まで増加したら、これらの対応を具体的に検討するとしている。毎月返済額が1万円増えるケースの金利の上昇とは、どれくらいであろうか。
例えば、「5,000万円を返済期間35年・元利均等返済・金利0.50%で借り入れる」ケースだと、毎月返済額は129,792円となる。金利0.95%で試算すると、毎月返済額は139,880円と約1万円上昇する。
さらに、上記の金利0.50%で返済を開始し、6年目に金利が1.01%に上昇すると、毎月返済額は139,731円となり、約1万円増加する計算だ。金利上昇のインパクトは、残高が多く、残期間が長いほど影響が拡大する。当初の借入額3,000万円のケースでは、6年目の返済額が約1万円増加するには、金利上昇は1.34%まで余裕ができる。
金利上昇時、将来の金利上昇リスクを抑える目的で借換えるならば、固定金利型や固定金利期間選択型が選択肢となるだろう。6月時点の「フラット35」の金利は1.89%~。「フラット20」は1.53%~。さらに、「10年固定型」を1.34%以下の水準で提供している金融機関は、ほぼない。肝に銘じておくべきは、返済額の増加を1万円以内に抑えつつ、10年以上の固定型住宅ローンに切り替えることは、現時点でほぼ不可能となっているということだ。
実際に、変動金利型の利用者からは「固定金利タイプに切り替えたいが、返済額が増額となるため断念した。金利が上昇しないことを祈るのみ」という声も聞く。
借換え以外の対応策に、繰上返済がある。先の試算例において、金利が上昇する6年目のタイミングで100万円の繰上返済(返済額軽減型)を実行すれば、借入額5,000万円の場合も、3,000万円の場合も、返済額の増加を1万円以内に抑えることが可能だ。繰上返済は余裕資金で行うことが鉄則だが、金利上昇が継続すれば、手元資金をさらに繰上返済へ拠出することになりかねない。将来の老後資金等への影響を十分に試算する必要がある。
金利上昇局面での住宅ローン計画
1.借り過ぎないこと
住宅ローンは借金である。借りたら返さなければならない。借り過ぎないことが肝心だ。返済可能な金額を借入れるには、家計収支の把握がポイントとなる。例えば、世帯の収入から支出を引いた毎月の収支が16万円あれば、12万円の住宅ローンは返済可能かもしれない。が、収支が13万円しかなければ、12万円の変動タイプの毎月返済額は厳しい。先の試算の通り、返済額が1万円プラスになるのは、そう非現実的なことではないのだ。
家計収支に余裕がない家計ほど、また、家計収支の変動要素が多い世帯ほど、固定型の住宅ローンが適している。が、固定金利型は、変動金利型より金利が高い。家計収支を把握し、毎月の返済可能額を算出し、その返済可能額を基に借入額を試算する方法がおすすめだ。
事業者や金融機関の試算で用いられる年収負担率は大事な要素であるが、世帯年収が同じ800万円であっても、共働きの夫婦のみ世帯と子ども3人で世帯主のみ収入の5人家族では、家計収支から住宅ローンに充当できる金額が異なるだろうことは想像しやすい。家計にあった借入額は、家計収支から試算するに限る。例えば、「フラット35」を金利1.89%、返済期間35年で借り入れる場合、毎月返済の希望額を12万円までと設定すると、借入可能額は3,600万円となる。金利が上昇すると借入可能額は減り、同額の物件を購入するには、頭金を多く入れる必要が出てくる。
ご承知の通り、物件価格は現在、新築マンションを中心に高止まり状態。物件価格の上昇に伴って、住宅ローンの借入額が増えると、毎月返済額も増加する。さらに金利が上昇し、折からの物価上昇が継続すれば、家計は厳しくなる一方だ。収入を増やす、支出を減らすなど、家計管理の重要性が増してくる。
2.超長期返済期間の住宅ローン
毎月返済額を抑えるのに一役買っているのが、超長期返済期間の住宅ローンだ。「住宅ローン利用者調査」によれば、利用した返済期間は、「30年超~35年以内」が48.6%と最も多いものの、前回調査(2024年4月)と比べて2.2ポイント減少した。利用者が増加しているのが、「35年超~40年以内」16.5%(+2.8ポイント)と「40年超~50年以内」4.4%(+1.1ポイント)の超長期の返済なのだ。
返済期間が長期になることで、毎月の返済額が抑えられることが利点の一つ。一方のデメリットは、返済期間が長期になることで、総返済額が高額になること、そして、金利の変動リスクにさらされる期間が長くなることである。
住宅ローンは、申込時の年齢制限や返済期間の上限が設けられており、超長期の住宅ローンを利用できるのは、若年層が中心となる。30年でも十分に長いと感じるが、40年、50年となるとどうだろう。働いている間も、リタイア後も、住宅ローンの返済が続くことを想定して試算し、借り過ぎないことや繰上返済等の戦略を持って臨みたい。
住宅金融支援機構の「2024年度住宅ローン貸出動向調査」によれば、金融機関は住宅ローンへの取組みに積極的であり、住宅ローンの商品力強化として、「返済期間35年超の住宅ローンの提供」を掲げた金融機関が回答総数の75.8%となっている。前年調査から18.8ポイント増であることも注目に値する。同時に、借りる側の住宅ローンリテラシーも問われることとなるだろう。
下表は、借入額5,000万円の場合の長期固定金利型住宅ローン「フラット35」と「フラット50」の試算例。返済期間を50年とすることで、毎月返済額が16万2822円から13万1619円へと大幅に下がる。一方、総返済額の増加分は、1,000万円を超える。
「フラット50」は、固定金利の住宅ローンだが、金利上昇期において1.99%で固定できるのは安心で、メリットかもしれない。が、変動金利が将来、1.99%を超えて上昇するのか否か、確実に予測することはできない。高額な借入れだからこそ、返済継続可能な資金計画が重要となる。なお、民間金融機関では、変動型の超長期返済の住宅ローンも提供している。
まとめ
国土交通省の「令和6年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」を題材に、住宅金融支援機構の調査を参考にしながら、住宅ローンと住宅ローン利用者の実態を考察した。物件価格は高止まりし、長期金利の上昇により固定型の住宅ローン金利も上昇傾向にあるなど、住宅購入を取り巻く環境は決して楽観視できるものではない。
住宅ローン返済は長期に及ぶが、返済期間を通じて変動金利が現状の水準を維持し続ける可能性もゼロではない。一方、上昇傾向が長期に及ぶ場合もあるかもしれない。備えておきたいのは、金利が上昇したときの対応策だ。その時に慌てないよう「固定金利が○%になったら借り換える」、「変動金利が何パーセントになったら100万円の繰上返済をする」など、家計収支の余裕を把握して具体的に試算し、数値をともなった行動目標を立てておこう。
新規借入れのケースでは、借り過ぎない予算計画が最重要である。最近の住宅購入相談では、住宅ローンとあわせてNISA等の資産運用に関する助言を求められるケースが増えている。物価が上昇し、借入金利も上昇するような状況ならば、資産形成は家計を守るための有効な対策の一つとなるだろう。
そして、現在、住宅ローンを返済中の方は、住宅ローンの状況と金利上昇時のルールを改めて把握し、金利が上昇した場合を想定して具体的に試算することをお勧めする。変動金利が維持されている今は、まさに「作戦タイム」として最適だ。
住宅ローンの返済は、まるでサブスクリプションサービスのようでもある。一度返済が始まると、金利上昇や返済額アップ、所得の減少といった大きなイベントがない限り、なかなか顧みることが少ない。返済は長期間継続し、最終的に住宅ローン選択の結果が出るのは完済時だ。住宅ローンの選択は自己責任だからこそ、専門家の意見を参考にしつつも、自身で比較検討し、納得の上で決定することが大切だ。正確で役立つ情報を活用していこう。
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