ベートーヴェンが、どう“エモらされていく”のか。どう音楽の力に心を動かされ、変化していくのか、注目してみてほしい――春アニメ『クラ★スタ』ベートーヴェン役・内田雄馬さんインタビュー
2025年4月5日よりTOKYO MX・BS11にて放送中のTVアニメ『クラシック★スターズ』。
♪Emotion 01(第1話)「自分の魂のために」では、ボクシングの道を断たれた青年が、ある手術をきっかけに私立グロリア学園の音楽科へ編入することに……ベートーヴェンの【ギフト】に適合した彼は、「ベートーヴェン」と呼ばれることになり、モーツァルト、ショパン、リストといった偉人の名を冠した生徒たちと出会うが……
そんな“エモーション”と“衝動”が交錯する本作で、主人公・ベートーヴェンを演じるのは内田雄馬さん。第1話のアフレコを振り返りながら、キャラクターへのアプローチ、そしてお芝居や歌に対する想いを教えてもらいました。
【写真】春アニメ『クラ★スタ』内田雄馬インタビュー|ベートーヴェンの“衝動と成長”
音楽シーンは「とんでもない表現になりそうだな」と
──いよいよ『クラシック★スターズ』が開幕しました。♪Emotion 01「自分の魂のために」には、どのような気持ちで挑まれましたか?
ベートーヴェン役・内田雄馬さん:ベートーヴェンは、ボクシングという夢を絶たれかけて、絶望に打ちひしがれる……というところから始まります。そこにしっかりとしたドラマがあったので、その部分は丁寧に演じたいと感じました。
また、キャッチーなシーンが散りばめられている印象もあったのですが、キャッチーさやキャラクター性だけでは攻めたくないなと。だからこそ、そのシーンにつなげるまでのドラマパートで、キャラクターの心の動きをしっかりと伝えることを大切にしていました。ベートーヴェンの人物像も……「ノリで作らない」と言ってしまうと語弊があるかもしれませんが、丁寧に掘り下げて、勢いに任せず、地に足のついた芝居を目指しました。
──物語にはエモージョンシステムという、人間の感情を擬似的に可視化できる装置が登場します。ベートーヴェンが歌唱をした時に燃えるような赤のオーラ、フェニックスとして宙を舞い上がり、3人を驚かせました。ただ「俺が欲しいのは歌じゃねえ…」と。
内田:第1話には音楽シーンが2つ入っていて。原稿で読んだ状態の時から「とんでもない表現になりそうだな」という予感がありました。夢が折れるところからはじまって、音楽というきっかけができたことで、彼がどう変わっていくのか……ぜひ楽しみにしていてほしいところです。
もちろん、ベートーヴェンは音楽をやるために【私立グロリア学園】に来たわけではなくて。でも、そんな彼を救ってくれたものが音楽にあったというフックも散りばめられているんですよね。
──まさにそういった描写があり、気になるところでした。【私立グロリア学園】の雰囲気やキャラクターたちとの関係性については、どのように捉えていましたか?
内田:すでに学園に馴染んでいるモーツァルト(CV.伊東健人さん)、ショパン(CV.安部瞬さん)、リスト(CV.石毛翔弥さん)と違い、ベートーヴェンは外から入ってくるので、少し空気が違うんですよね。その世界観に馴染み切っていないというところからスタートしていく。
だから三原木先生 (CV.浪川大輔さん)をはじめ、彼らと一緒にいるのは少し違和感があるような……同じ匂いがしない感じからスタートして、でも、音楽というものに惹かれていたり、自分の中にそういうパッションがあることに気づいたり……そんな中で、徐々に混ざり合っていく。そういったことを意識していましたね。
──そうしたフックが散りばめられている中で、内田さんとしてはどのようなことを意識してお芝居をされていたのでしょうか?
内田:この作品全体の独特のテンション感というのも大切にしました。今回は特に、三原木先生を含めて5人で収録する場面が多く、掛け合いがたくさんできたんです。
オリジナル作品の場合、原作のある作品とは違って、先の展開が予測できないぶん、視聴者がどのように受け取るかは、演じる側の空気感や温度感にも大きく左右されると思います。だからこそ第1話の収録では、掛け合いのバランスや熱量を探りながら進めていました。
先ほどの話と重なりますが、僕自身は、あえて他のキャラクターたちとは逆方向の芝居のアプローチをすることで、ベートーヴェンがこの世界にまだ馴染んでいないという空気を意識的に作っていたので……その分、周りのキャストに作品のテンションや世界観をしっかり引っ張ってもらって、全体の中での“足し引き”が自然に整えられたら、と思っていましたね。
「じゃあ、ベートーヴェンって何者なんだ?」
──現場には浪川さんもいらっしゃったとのことで安心感があったのではないでしょうか?
内田:そうなんです。本当に心強かったです。
──上映会のときも座談会のときも浪川さんのお話で盛り上がっていました。それだけ大きな存在だったということが伝わってきます。
内田:僕らは気軽にステージ上でいじってしまっているのですが(笑)、本当にすごい人なんですよね。ご本人がどれくらい考えて、意図しているものなのか、本当のところは僕らはわからないんですが、舵を取ってくださって。結果として、三原木先生がいることでバランスが取れていたように感じました。
いわゆる世間とは少し違った【私立グロリア学園】の独特の空気をギフトの適合者はもちろん、特に三原木先生が持っていますよね。あの空気感の中にベートーヴェンが引っ張られていく。……っていうのが、お客さんともリンクすると良いなとも思っていて。
──それはすごく感じていました。第1話の段階では、視聴者にいちばん近い立場なのも、ベートーヴェンなのかなと。視聴者の方々も、彼の変化を通してこの世界に引き込まれていくのではないかなと感じています。
内田:そうなんですよね。(【私立グロリア学園】を見て)「なんなんだ、ここ?」って感じで驚くタイミングなどは、きっと見てくださっている方々も、きっとベートーヴェンと同じだと思うんです。で、どんどん個性的な人たちが集まってきて。そんな中で「じゃあ、ベートーヴェンって何者なんだ?」という問いが浮かび上がってくるわけですが、実際に歌ってみると、彼の中にも強いエモーションがあった、というのが浮き彫りになる。その構成がすごくおもしろいなと感じました。
──モーツァルトを演じられる伊東さんとガッツリとタッグを組むのは今作が初めてだったんですよね。座談会では「内田雄馬(が座長)だからこそ、おかげで、本当に良いバランスでお芝居ができたと思っています」といったことが伊藤さんが語られる場面もありました。
内田:いやいや、こちらこそという感じではあるんですが……みんながそれぞれ自分の役割をきちんと理解して、それをしっかりと果たそうとしていたからこその結果として、全体的にバランスが良くなっていったように思います。
あくまで“僕の考えとしては”というところではあるのですが……僕自身、作品を受け取って最初に考えるのは「この作品の面白さはどこか」ということ。役と向き合うことが最も大切なことですが、それにプラスして自分なりに作品を解釈して現場に持っていくようにしています。そこからディレクションを受けて、求められているものを感じ取り、じゃあそれを実現するにはどうアプローチすべきかを考えて、現場で答える、ということが大事だとおもっています。
『クラ★スタ』ではベートーヴェンという役を通じて、この作品のドラマ性と、パフォーマンスのエンターテインメント性の“差分”をうまく繋げることができればと思いながら取り組みました。きっとそれは、キャストのみんながそれぞれのビジョンを持って取り組んでいたからこそ、成立したバランスだったんじゃないのかなと。
そして、僕たちが自由に動けたのは、間違いなく浪川さんの存在があったからで。作品全体を支える“軸”として、絶妙なバランス感覚で場をまとめてくださっていました。
ベートーヴェンはとにかくまっすぐ。「自分もそうありたいな」と思えるような人物
──内田さんは『クラ★スタ』のベートーヴェンに対しては、どのような印象を持っているのでしょうか。
内田:まっすぐな人ですよね。ボクシングなど、何かひとつのことに情熱を持てる強さがある。それに加えて、人の言葉を素直に受け入れる柔軟さも持っているところが魅力だと思います。それでいて、「やりなさい」と言われても「俺は別にやりたいわけではない」とはっきりとした意思も持っている。
でも、誰かが何かに熱中している姿を見て、その熱をちゃんと受け止めることができるんです。「そんなことに本気になるなんて」とはならずに、「ああ、この人はこれが本当に好きなんだな」と理解できる人。本気である、ということを受け止める力を持っている人なんだと感じています。
──まさに素直ですよね。衝動的に見えて、実は周囲をよく見ているキャラクターでもあるということが第1話からも伝わってきました。
内田:そうなんです。気持ちだけで行く人じゃないんですよね。パッと見は直情的に見えるかもしれませんが、実際は周囲の声をしっかりと聞いて、自分なりの答えを導き出すタイプ。自分の気持ちに嘘をつかないし、気持ちが動いた時はその変化をちゃんと受け止める。そのうえで「じゃあ、自分はどうしたいのか」を考える芯の強さがあるし、音楽に惹かれている自分もいる。ちゃんと人の話を聞いて、でも最終的には自分の意思で決めていく。その“地に足がついている”感じが、すごく魅力的ですね。
──ベートーヴェンは夢に挫折しながらも、強い気持ちを持ち続ける人物です。その姿にご自身を重ねる部分はあるのでしょうか。
内田:性格的にはあまり自分に近いなと思うような感じではないんですよね。だから似ているという感覚はあまりないのですが、「自分もそうありたいな」と思えるような人物ではあります。台本を読んでいて、そういう人物像を描いていけるのは楽しいです。
ただ、自分も「大事にしたいもの」「譲れないもの」ははっきりあるタイプだとは思っています。それこそ、声優という仕事に対してもそうです。声優といっても、さまざまなスタイルがあると思いますが……。自分が思い描く“声優像”というものを大切にしたい、という気持ちがあります。
──その声優像というのは、言語化できるものなのでしょうか。
内田:作品から少し話はそれてしまうかもしれませんが、いちばん自分が声優として大事にしているのは「お芝居」で。声優業=多岐にわたるマルチなお仕事という印象を持っている方も多いと思うんですが、声優が声優である、といえる部分はやはりお芝居なのかなと。声のお芝居という部分にしっかりと芯を持っていたいなと思っています。
いま声優の仕事はすごく幅広くなっていますが、僕はアフレコが好きで、アフレコの現場に立っているときが一番しっくりくる。だからこそ、ちゃんとそこに立てる役者でいたいと考えているんです。とはいえ、アフレコの仕事はオーディションで決まることが多く、自分で選べるものではない。出たいからといって出られるものではないので、不安定でもあるし、確実なものはなくて。
でも僕は、それも含めてすごく好きなんですよ。いただいた縁をつなげられる役者であるかどうか。そのためにも、いつその“縁”が来てもいいように、その縁をつかめるように、常に自分を整えて準備しておくことが大切だと思っています。
たとえ才能があっても努力がなければ足りないし、才能がないと思うなら努力するしかない。そのうえで運が来たときにそれをつかめる力があるかどうか――僕はそういう役者でありたいですね。
──まさに今作も才能(ギフト)のお話。ただ、それを活かすためには努力や継続、そしてタイミングや縁といった要素も必要になるんだなと、お話をうかがいながら改めて感じます。また、『運命を動かす男』であるベートーヴェンですが、お話をうかがっていると、内田さんご自身も、“運命”をつかむために日々積み重ねを大事にされている印象を受けました。内田さんがお芝居をされる上で大切にされていることというのも、もしよかったら教えて下さい。
内田:一番大切にしているのは、「その作品に対して100パーセントの力を注げる状態で現場に臨むこと」です。
もう今年13年目になりますが、これまでの経験からも、キャパシティを超えたときや疲れがたまっているときに、いい芝居ができた実感はあまりないんです。もちろん、完成した作品は多くの手が入って整えられるので、最終的に“悪いもの”にはなりませんが、やはり根本の芝居そのものが良くなければ、作品の本質的なクオリティには繋がらないと感じています。
だからこそ、自分にとって“最もパフォーマンスが出せるキャパシティ”を見極めて、その範囲内で全力を尽くすようにしています。それが、役者として、声優としてあるべき姿だと考えていますね。というか、お話してて自分で驚いたのですが、もう13年目……!?(苦笑)怖いですね、驚きました。
「今週はどんな風に心をエモらせてくれるんだろう」とワクワクして欲しい
──第1話では、ベートーヴェンが“最高にエモい”歌唱を披露していて。
内田:元ボクサーのベートーヴェンらしく、殴りつけるように歌いました。
──まさに“殴るように歌う”力強いアプローチで、感情を爆発させるような歌唱であったことが印象的でした。『クラ★スタ』の劇中歌は本当にインパクトがあって。
内田:本当にそう思います。この作品の楽曲はどれもすごくパワフルで、一度聴いたら耳から離れないような、エネルギーが凄まじい楽曲が多いです。その音楽を使ったシーンはどれも強烈なインパクトがありますし、そこにキャラクターのドラマが重なっていくので、ぜひ注目してほしいですね。
──上映会では「音楽の三原則」についてもお話されていましたが、ベートーヴェンとしての歌唱の際「音楽の三原則」を意識されていたのでしょうか?
内田:特別に「音楽の三原則」を意識して臨んだわけではないですが、歌う際には自然とそれらを感じていたと思います。
たとえば「ここでハモる」となったとき、ただ音を合わせるのではなく、「この音が主旋律とこう絡むな」といった感覚を大事にしていますし、リズムや言葉の立て方、言葉の置き方も自然と意識していたり。そういうことって、理屈じゃなく体に染み込んでいる部分があるんですよね。本当に、自然と意識していることというか……。きっとそういう経験って皆さんにもあると思うんです。
例えば、学校で合唱をすることがあるじゃないですか。そういう時、細かく理屈を知らなくても、一緒に歌ってるなとか、ハモってるってこんな感じかなとか、そういうことを感じることがあると思います。
今回はキャラクターソングとして歌うシーンがあり、さらに4人曲では他キャストとのハーモニーやユニゾンも多かったので、自然とそうした部分への意識が高まった印象があります。音楽としての完成度はもちろんですが、キャラクターの心情や物語とリンクさせていくのは、役者としてもやりがいがありました。
──SNSでは放送に先駆けて、内田さん考案の「#エモる」というハッシュタグが早速使われていましたが、これから物語がどんな展開を見せていくのか楽しみです。視聴者にはどんな点に注目して観てほしいですか?
内田:「#エモる」……というのは、僕が勝手に言い始めてしまったことではあるのですが(笑)、ぜひ使っていただきたいです。
注目して欲しいところとしては、やはりキャラクターたちそれぞれのドラマですね。みんなそれぞれの想いを持って音楽に向き合っていて、その姿がすごく魅力的です。特にベートーヴェンは、音楽に対してまだ初心者で、何も知らないところからスタートしています。そんな彼が、どう“エモらされていく”のか。どう音楽の力に心を動かされ、変化していくのか。そこがこの作品の大きな見どころだと思っています。それはきっと、観てくださる皆さん自身の心を“エモらせる”ことにも繋がっていくはずです。
また、誰かとその気持ちを共有したり、一緒に見たりすることでより楽しめる作品なのかなと思っています。今はSNSを通じて、視聴者同士がリアルタイムでつながれる時代だからこそ「#クラスタ」「#エモる」ハッシュタグを使って、みんなで盛り上がりながら観るのも楽しいと思います。もちろん、ご家族やお友だちと一緒に観てもらうのもいいんじゃないかなと。何も考えず、気軽に見ても、笑って熱くなれる作品です。
──“クラシック”という言葉がつくと敷居の高い印象もありますが、老若男女、幅広い層が楽しめる作品でもありますよね。
内田:そうですね。タイトルに“クラシック”とついていると、高尚なイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、実際にはとても分かりやすくて、むしろ少年漫画のような熱さを持っている作品なんです。「音楽で心を動かす」というのが、テーマとなっている作品なので。
毎週の放送で、「今週はどんな風に心をエモらせてくれるんだろう」とワクワクしながら楽しんでいただけたらうれしいですね。最後には、笑顔になれる作品になっていると思います。
──音楽はもちろん、人間ドラマとしての“ハーモニー”にも注目ですね。
内田:そうですね。そのハーモニーも本作の大きな見どころだと思います。ぜひ楽しみにしていてください。
[文・逆井マリ]