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伝説のキャンペーン【Think different】スティーブ・ジョブズの復帰とアップル劇的復活!

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1998年08月29日 アップルコンピュータ「iMac」発売日

連載【新・黄金の6年間 1993-1998】vol.34
▶ アップルコンピュータ「iMac」発売

アップルの新たなスローガンとして瞬く間に浸透した “Think Different”


1本のCMがある。

1997年9月に全米で始まった、“Crazy Ones”(いかれた奴ら)と呼ばれる60秒のモノクロのテレビCMがそう。そこには、20世紀に活躍した偉人たちがフラッシュバックのように登場する。

アルベルト・アインシュタイン
ボブ・ディラン
マーティン・ルーサー・キング・ジュニア
ジョン・レノン
トーマス・エジソン
モハメド・アリ
マリア・カラス
マハトマ・ガンディー
アルフレッド・ヒッチコック
フランク・ロイド・ライト
パブロ・ピカソ
―― etc

CMでは、そんな彼らの映像に被せるように、ある人物が語るナレーションが流れた。

Here's to the crazy ones.
(クレージーな人たちがいる)
The misfits. The rebels. The troublemakers.
(反逆者、厄介者と呼ばれる人たち)
The round pegs in the square holes. The ones who see things differently.
(四角い穴に丸い杭を打ち込むように、物事をまるで違う目で見る人たち)
They're not fond of rules. And they have no respect for the status quo.
(彼らは規則を嫌う。彼らは現状を肯定しない)
You can quote them disagree with them glorify or vilify them.
(彼らの言葉に心を打たれる人がいる。反対する人も、称賛する人もけなす人もいる)
About the only thing you can't do is ignore them.
(しかし、彼らを無視することは誰にもできない)
Because they change things.
(なぜなら、彼らは物事を変えたからだ)
They push the human race forward.
(彼らは人間を前進させた)
And while some may see them as the crazy ones we see genius.
(彼らはクレージーと言われるが、私たちは天才だと思う)
Because the people who are crazy enough to think
(自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが――)
they can change the world are the ones who do.
(――本当に世界を変えているのだから)

―― そして、映像は一人の名もなき少女が目を開くシーンで終わる。ラストカットは、黒バックに “Think Different” なる白文字のコピー。一拍遅れて、その上にリンゴのマークが現れる

そう、それはアップルコンピュータ(現:アップル)のCMだった。ナレーションの読み手は、今は亡きスティーブ・ジョブズである。同社のテレビCMは、1984年のスーパーボウルの時に流れた伝説の “1984” 以来だった。

CMが放映されるや、たちまち大評判になった。ラストのコピー “Think Different” は、アップルの新たなスローガンとして瞬く間に浸透した。訳すと “発想を変えろ” とか “モノの見方を変えろ” という意味合いだろうか。実は当時、アップルは企業としては倒産や買収が噂される瀕死の状態だった。

​​

瀕死の状態だったアップルの流れを変えたスティーブ・ジョブズの復帰


それは言わずもがな、1995年にマイクロソフトが発売した『Windows 95』に端を発する。それまでのアップルは “グラフィカルユーザインタフェース(GUI)” を掲げ、誰もが直感的に、容易に使えるPC―― “マッキントッシュ” (マック)が売りだったが、そのお株を『Windows 95』に奪われたのだ。販売力に勝り、シェアで優位に立つWindowsを前に、アップルはジリジリとその存在感をなくしていた。

その流れを変えたのが、同社の創業者であるスティーブ・ジョブズの復帰だった。思えば、ジョブズ自ら “このまま一生砂糖水を売り続けたいのか、それとも私と一緒に世界を変えたいのか?” と口説いて、ペプシコーラから引き抜いたジョン・スカリーをCEOに据えたのが1983年である。しかし、その2年後、ジョブズはスカリーと対立し、まるで飼い犬に手を噛まれるように、アップルにおける全ての業務を解任された。

その後、ジョブズは新会社 “NeXT” を設立、ジョージ・ルーカスから当時無名だった会社 “Pixar” を買収する。NeXTは新しいOSを開発し、Pixarは世界初の3DCGによる長編映画『トイ・ストーリー』を製作した。そして96年11月―― ジョブズは、古巣のアップルが次期OSの開発で行き詰っている話を人づてに聞くと、自ら時のCEOギル・アメリオに電話をかけた。

1996年12月上旬、ジョブズは85年の退社以来となるアップル本社を訪れる。両者で話し合いが持たれた結果、アップルは次期OSにNeXTのOSを採用することを決定。同月20日、NeXTが買収される形で、ジョブズはアップルに非常勤顧問として復帰する。実に11年ぶりの凱旋だった。

​​

そもそもアップルってなんだ?


古巣に戻ったジョブズは、アップルがかつてのアイデンティティを失っていることに愕然とする。そこで彼は、ギル・アメリオを始めとする当時の経営陣を密かに追放することを画策しつつ、旧知の広告代理店の『TBWA\CHIAT\DAY』(ティービーダブリューエー・シャイアット・デイ)を呼び、アップルの理念を市場に訴求するマーケティングキャンペーンの立案を命じた。

ジョブズのオーダーは “そもそもアップルってなんだ?” という原点に立ち返るもの。それは、同社が創業時に掲げたスローガン “Changing the world one person at a time.” に他ならない。即ち “世界を変える、1人ずつ変える”。それまで一部の技術者のみが操作していたコンピュータを、個人が容易に扱えるようにして、そこで生まれる個々のパワーを結集して世の中を変える―― それが創業時のアップルが掲げた理念だった。

ジョブズはそこに立ち返ろうとした。自分たちは常にチャレンジャーである、常に反逆者である、と。そんなディスカッションを広告チームと重ねるうち、最終的に生み出されたコピーが “Think Different” だった。奇しくもそれは、かつての宿敵・IBMが創業時からモットーとして掲げる “Think” を連想させた。一説には、敢えてそのカウンターを狙ったとも言われる。

広告キャンペーンはテレビCMのほか、ニューズウィーク誌やタイム誌など数多くの主要雑誌にも展開された。また、巨大ポスターも作られ、空港や駅などあらゆる所に掲示された。偉人ひとりひとりの1ショットに、“Think Different” のシンプルなコピーは人々の注目を引き、キャンペーンは1998年のエミー賞最優秀広告賞を受賞する。かくして、ジョブズの復帰と共に、アップルのブランドイメージは市場において劇的な復活を遂げた。

時すでに、アップルの旧経営陣は一掃され、身軽となったジョブズは自ら “iCEO”(Interim CEO=暫定CEOの略)を名乗り、大胆な社内改革を断行する。それは、アップルの複雑かつ重複するプロダクトラインをシンプルなマトリックスに変えるもの。かつて350あったラインを最終的に10まで減らし、限られたリソースを使って、ジョブズの考える理想の1つの新製品(プロダクト)にフォーカスした。

その新製品のデザインは、後にiPodやiPhoneなどを手掛け、アップルのインダストリアルデザインの最高デザイン責任者(CDO)に上り詰めるジョナサン・アイブに委ねられた。また、そのネーミングは前述の “Think Different” の広告キャンペーンのクリエイティブ・ディレクターを務めたケン・シーガルに依頼された。

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まるで別の惑星からやってきたようなパソコンです


かくして、1998年5月6日―― カリフォルニア州のデ・アンザ大学のフリント・センターにて、スティーブ・ジョブズ自ら新商品のプレゼンテーターを務めるWWDC(Apple Worldwide Developers Conference)が開催された。奇しくもその会場は、さかのぼること14年前の1984年1月24日(*伝説のCM『1984』から2日後)に、ジョブズが初代マック「Macintosh 128K」を発表したのと同じ会場だった。

“まるで別の惑星からやってきたようなパソコンです”―― ジョブズはそう言って、これまで誰も見たことのない、美しいデザインの半透明の新製品を紹介した。“iMac” である。それは、かつてない “ディスプレイ一体型のオールインワンマシン” で、キーボードからマウス、電源ケーブル、モジュラーケーブルに至るまで、全て半透明で統一された画期的な商品だった。

何より “たった3ステップでインターネットにつながる” とジョブズが説明する通り、それはパソコン初心者でも扱える、あの初代マックが掲げた “Computer for the rest of us” (残された私たちのためのパソコン)の再来だった。いつしか一部の愛好家にしか使われなくなった “嗜好品” マックを、インターネット新時代が幕開けるタイミングで、再び市井の人々の手に戻すための新商品だった。

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3年間で空前の500万台を世界で売り上げたiMac


iMacの “i" は、言うまでもなく“internet” (インターネット)の “i” である。だが、それだけじゃない。“individual”(個人)、“instruct”(教える)、“inform”(情報を与える)、“inspire”(刺激する)など、様々な意味を有していた。それはジョブズの意向で、178000円というリーズナブルな価格が付けられ、3年間で空前の500万台を世界で売り上げた。アップルは倒産を免れ、潤沢な開発資金を手にする。

その画期的デザインは、ジョナサン・アイブの名を一躍インダストリアルデザイン界に轟かせ、そのシンプルかつ印象的なネーミングは、ケン・シーガルの名を広告界のカリスマに押し上げた。2人の功績は同商品に留まらず、その後のiPodやiPhoneに至る “i” シリーズに渡って連綿と続き、アップルに第2の黄金期をもたらす。そして、スティーブ・ジョブズは冒頭で紹介したCMで語られる偉人たちと同様、クレージーな(世界を変えた)存在の1人となった。

発表会から約4ヶ月後となるiMac日本版の発売日―― アメリカ本国と同じように、日本でも各販売店には長蛇の行列ができた。断っておくが、皆、予約客である。“1秒でも早く持ち帰って、この目で見たい” というのが、彼らの偽らざる本音だった。その記念すべき日が、今から26年前の今日――1998年8月29日である。

あの日、いつにも増してアツかったのは、太陽のせいばかりではあるまい。

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