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主演は『戦場のピアニスト』のエイドリアン・プロディ。ホロコーストを生き延びアメリカに移住したある建築家の壮大な人間ドラマ、映画『ブルータリスト』はアカデミー賞®10部門ノミネート!

コモレバWEB

主演は『戦場のピアニスト』のエイドリアン・プロディ。ホロコーストを生き延びアメリカに移住したある建築家の壮大な人間ドラマ、映画『ブルータリスト』はアカデミー賞®10部門ノミネート!

 ホロコーストとは第二次世界大戦のナチス・ドイツによる組織的な一連のユダヤ人迫害をいう。強制収容所、銃殺、ガス室の殺害など想像を絶する大量虐殺によるユダヤ人絶滅政策の中、才能ある建築家でハンガリー系ユダヤ人の主人公、ラ―スロー・トートは辛うじて生き延び、アメリカ、ペンシルベニアに移住する。大戦後も東ヨーロッパに足止めされた妻のアルベジェーベトと姪のジョーフィアの到着を心待ちしながら、すでに米国移住に成功している従兄を頼ってアメリカン・ドリームを目指す。ただし、見知らぬ土地、文化に飛び込んだ移民、ラ―スローの後半生もまた想像を超えた軋轢や偏見、差別の中を生きてゆくことになる。これは、戦争の泥沼化と歴史の波に翻弄される人間の歴史劇であり、一人の建築アーティストの壮大な人間ドラマでもある。

 因みに、本題の『ブルータリスト(THE BRUTALIST)』とは、ブルータリズムと呼ばれる大戦後の1950年代から見られる建築様式をいい、戦後復興が進む中でコンクリートやレンガを剥き出しにした外観が特徴で、装飾よりも構造そのものを見せる手法である。日本でも知られるル・コルビュジエもブルータリズムの一翼を担っていた。私見だが、コンクリートの打ちっぱなしの建築物では、日本の建築家・安藤忠雄もあるいはブルータリズムの影響を受けた一人かも知れない。

 さて、ラ―スローは祖国ハンガリーでの建築家として築いた実績や名声が、アメリカの名家の人々には通じないことを知ることになる。当初、ラ―スローの輝かしい実績を知り惚れ込んだ実業家・ハリスンは、建築家にとって金に糸目をつけないという圧倒的な条件であらゆる設備を備えた礼拝堂の設計を依頼する。しかし、母国とは文化もルーツも異なるアメリカでの設計作業には多くの障害が立ちはだかり、ラ―スローの斬新で大胆、かつ新しく挑戦的な建造物はやがて批判の対象にもなってゆく。そしてこの壮大な事業のパトロン(依頼主)は去ることになり、建築途中のプロジェクトは数年の雨曝しを余儀なくされる。1980年ヴェネツィア・ビエンナーレにおける第1回国際建築展では、皮肉にもラ―スローの作品には[過去の存在]というタイトルが付けられている――。

 本作には特定すべきモデルはいない、フィクションである。しかしこの壮大な歴史劇には、一人のアーティストが無残にもすべてを奪われ、見知らぬ土地と異なる文化、その光と影に苛まれながら生き抜いていった移民としての30年が見事に凝縮されている。

 第81回ヴエネチア国際映画祭でプレミア上映され、見事に銀獅子賞を受賞。それを機に、一躍、第97回アカデミー賞®最有力候補に躍り出た『ブルータリスト』は、弱冠36歳の気鋭ブラディ・コーベットが監督・共同脚本・製作を務めた215分(15分インターミッション)にわたる壮大な人間ドラマだ。

 
 主人公のラースロー・トートを演じるのは、『戦場のピアニスト』(02)で第74回アカデミー賞®主演男優賞を受賞したエイドリアン・ブロディ。ラースローと共に数奇な運命をたどることになる妻エルジェーベトを演じるのは『博士と彼女のセオリー』(14)で第87回アカデミー賞®主演女優賞にノミネートされたフェリシティ・ジョーンズ、アメリカヘ渡ったラースローの運命に大きな影響を与える大富豪ハリソンを演じるのは、『L.A.コンフィデンシャル』(97)、『メメント』(00)などのガイ・ピアース。そのほか、ハリソンの息子ハリー役にジョー・アルウィン(『憐れみの3章』(24))や、ラースローの姪ジョーフィア役にラフィー・キャシディ(『トウモローランド』(15))など、ハリウッドを牽引してきたベテラン実力派から注目の若手まで幅広い役者陣が顔をそろえた。

 
 本作は、映画批評サイト「Rotten Tomatoes Jで批評家97%(2024年11月時点)という高スコアをたたき出しており、同サイトでは「エイドリアン・ブロディによる魂の演技と、監督・脚本のブラディ・コーベットにより完璧にデザインされた『ブルータリスト』は、移民体験した人々に対する壮大なトリビュート(賞賛)だ」と総評されている。2月17日、英国アカデミー賞(BAFTA)発表されたばかりだが、監督賞に本作のブレイディ・コーベット。主演男優賞は同じくエイドリアン・ブロディが受賞した。

『ブルータリスト』 
2月21(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督・共同脚本・製作:ブラディ・コーベット/共同脚本:モナ・ファストヴォールド
出演:エイドリアン・ブロディ、フェリシティ・ジョーンズ、ガイ・ピアース、ジョー・アルウィン、ラフィー・キャシディ
2024 年/アメリカ、イギリス、ハンガリー/ビスタサイズ/215 分/カラー/英語、ハンガリー語、イタリア語、ヘブライ語、イディッシュ語/
配給:パルコ ユニバーサル映画/映倫区分:R-15+ 
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