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伊丹のハイド・パークをキャンパスにした「ボーダレス表現文化祭」――11回目を迎えた関西最大級の無料ローカルフェス『ITAMI GREENJAM’24』を振り返る

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『ITAMI GREENJAM』

『ITAMI GREENJAM’24』 2024.9.22(SUN)・23(MON・HOL) 兵庫・昆陽池公園

関西屈指の無料野外フェス『ITAMI GREENJAM’24』が9月22日(日)、23日(月・祝)の2日間にわたり兵庫県伊丹市の昆陽池公園で開催された。2014年に歴史をスタートさせたこのイベントは、数々のアーティストによるライブを主軸に複数のマーケットエリア&フードエリア、子どもたちが思い切り遊べるキッズエリア、デコラティブに彩られたアートゾーンなどが自然豊かな市民公園を舞台に展開される地域密着型イベントだ。特筆すべき点としては、地方で開催される無料の野外フェスとしては関西最大級規模でありながら「市民表現のプラットフォーム」を掲げ、実行委員をはじめ企画・制作・運営などに地元を愛する人々が携わりDIYで行うことだ。主催者たちの言葉を借りるならば、「最高の素人達で作る市民表現文化祭」であり、「ボーダレス表現文化祭」。実は存在を知っていながらも『ITAMI GREENJAM』初体験だった筆者。2日間たっぷりとこのイベントに身を置いて感じたのは「こんなフェスは他にはない……!」というかなり強烈な肌感覚。なぜそう感じたのか、このレポートで追体験してもらえたら嬉しい。

◾️『ITAMI GREENJAM’24』の魅力とは

会場である昆陽池公園は最寄りの阪急伊丹駅からバスで約10分、都市部では珍しい渡り鳥の飛来地として知られており、大きな溜池を要する緑豊かな市民のオアシスだ。近くに伊丹空港もあり、かなり頻繁に旅客機が飛んでいく景色もここならではだ。その公園内に2つのメインステージを擁するライブエリア&フリーピクニックエリア、キッズエリア、マーケットエリア、フードエリアなどが公園のさまざまなスペースを使って展開される。ものすごくギュっと凝縮した小さなフジロックのよう、と言うとなんとなくイメージを掴んでもらえるのではないかと思う。

このイベントのすごいところは、入場無料という点にある(実は今年、あることを理由にライブエリアのみサポーターパスという有料制へと舵を切り、そのチケットも早々にソールドアウトとなったのだがその詳細については後ほど)。つまりライブエリア以外のマーケット、フード、さまざまなコンテンツを楽しむのは「ご自由にどうぞ!」というウェルカムスタンスだ。

そういった背景もあってか、通常の音楽フェスにはない空気感と雰囲気が満ちているのだ。音楽フェスと街に根付く市民祭りがゆるいグラデーションというか、程よくマーブル状に交わる。ライブエリアに集う音楽フリークたちや、それ以外のエリアには純粋に休日を過ごしにきたファミリーや親子連れ、マーケットを楽しみにきたカップルや中高生、フードエリアにはご飯を食べにきたシニアたちまでが共存する。特に一番広いフードエリアでは、昼ご飯を食べつつ会話を楽しむシニアたちのそばで、DJが音を鳴らし続けていたのも興味深い光景だった。

そして個人的に最高! と感じたのはキッズが楽しめるコンテンツの充実ぶり。キッズエリアには子どもDJ体験や楽器を作るワークショップ、木に括り付けられたブランコや公園の木を利用した巨大迷路、伊丹昆虫館の展示や射的、プログラミング体験までが揃ううえ、キッズエリアの外にも水鉄砲を使ったサバゲー体験や手形でのアート制作、ミニ四駆大会やBMX体験会、くじびきに動物の餌やり体験まで。書き出したらキリがないほどのコンテンツが揃う。中でも目にとまったのはかわいい歯ブラシをはじめとした歯みがきグッズや子ども用歯みがき粉をその場でいろいろ試せる「ハミガキ団」のブース。団長であるハミージョさんは大阪市内で歯科医として活躍しながら、歯みがきを身近に感じてもらおうとイベントに出展している他、なんと救護の資格も持っているという。小さな子どもから小学生までがワクワクできること揃いで、子どもが帰りたがらない。

『ITAMI GREENJAM』

『ITAMI GREENJAM』

『ITAMI GREENJAM』

『ITAMI GREENJAM』

個人的に2歳になる娘を連れて行ってみて驚いたのは、フェスには不慣れな低年齢の子ども連れでも1日楽しく過ごせる工夫の多さと快適性だった。

『ITAMI GREENJAM』

『ITAMI GREENJAM』

会場に設置されていた「むつまるくんのベビールーム」。休憩室や授乳室、おむつ替えスペースに加えなんとおまる体験もできる。ここでのおまる体験を機におむつを卒業できた子どももいるそうだ。なんといっても嬉しかったのは休憩室に保育士経験を持つボランティアさんが常駐していて、子どもを見てもらえること。ワンオペで訪れると困ることの第1位が、自分がトイレに行きたくなった時。フェスのトイレには子連れでは入れない。そういう時に、ここで子どもを見てもらい慌てずにトイレに行くことができる。

『ITAMI GREENJAM』

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そして低年齢の子どもとフェスに行って困るのが、食事だ。まだ食べられないものも多い年齢の子どもと行く場合、昼食を済ませてからの方がラクだな、なんならフェスに行くことすら諦めてもいいほど……。しかし、この日見つけた「手延べそうめん」のフードトラックに歓喜! うどんやそうめんは年齢問わず子どもが食べてくれるメニューの筆頭株、うちと似たような年齢の子どもを持つファミリーで長蛇の列ができていた。一般的なそうめんより少し太めのそうめんは食べ応えもあり、添えられた甘めに炊かれたおあげが娘にヒット。おかげで近くのうどん屋を探して駆け込む必要もなく、会場にとどまり続けることに成功した。

実はこのイベントの第1回開催時、予想を遥かに超えて近隣に住む子どもや家族連れが訪れたことに驚いたという主催者たち(なんと来場者の約半分がファミリーだったのだとか)。第2回の開催にあたり、子どもに向けたエンタメコンテンツ&インフラの強化をするべく、地域の子育てママや保育士さんの力を借りてキッズ&ファミリーホスピタリティ部門を立ち上げ、充実を図りブラッシュアップを続けていった結果が今につながっているという。子連れの親代表として伝えたい。本当にありがとうございます!

◾️『ITAMI GREENJAM』、11回目に掲げられたテーマは「Restart」

昨年10回目の開催を迎えた『ITAMI GREENJAM』は、スタッフの創意工夫をもって形を変えながら続いてきたフェスだと言っていい。特に近年では着々と開催を重ね約25000人を動員する規模のフェスへと成長していた矢先、世界はコロナ禍に突入。通常の『ITAMI GREENJAM』を開催できなかった2020年は伊丹市内3会場に分散する形で『ITAMI CITYJAM』を開催。2021年は直前に延期を決定し、急遽大阪のライブハウスで『EVERGREEN LIVE』と題したライブイベントを開催し、その模様を収録したものを地元ケーブルテレビで特別番組として放送した。そして2022年はまたコロナ禍の影響を受け大阪府池田市の猪名川運動公園へと会場変更を余儀なくされ3年ぶりに開催するも2日目は台風で中止となってしまう。記念すべき昨年の第10回は会場を昆陽池公園へと戻し、さらに来場者の安全確保やイベント運営資金調達の一環として昆陽池公園に隣接する住友総合グランドに有料のライブエリアを新設するなど、ここに書き連ねただけでも柔軟なアイデアで続いてきたことがよくわかる。

『ITAMI GREENJAM』

11回目を迎えることとなった『ITAMI GREENJAM’24』についたサブタイトルは「Restart」。主催者の大原智氏の話によれば、「次の5年、10年へと向かう決意ができた」のが前回開催の後のこと。10年一区切りと考えていた大原氏だったが関わるスタッフの継続の意欲は想像以上で、2024年に11年目を迎えるならば15年20年と継続できる形にしようと考えるようになったという。それにあたり今年最大の変化となったのが、メインステージで行われるアーティストのライブをサポーターパスというチケット名のもと、有料へと切り替えたことだ。

『ITAMI GREENJAM』

ライブを行うエリアに関して、これまでステージ前方に一部有料エリアを設けるものの基本的には無料でライブを観覧することができた。しかしイベントの集客数が伸びたことによる会場内での安全性の確保を理由にしたライブエリアの区画化と、この先も『ITAMI GREENJAM』を継続するためには来場者からの資金サポートも必要との判断がなされたというのが有料化へと踏み切った背景だ。そこで今年取り入れられたのが、イベント自体は入場無料、ただし「LIVEステージ前エリアのみサポーターパス制(中学生以下は無料)」というもの。これが一般的なフェスのライブ鑑賞チケットにあたり、メインステージのライブが見られるのはこのエリア内に限定されたことがひとつ、そしてチケット代は1000円、3000円、5000円と金額に幅が存在するものの内容は全て同じで、当日会場では特別スポンサーである大阪西成のブルワリーDerailleur Brew Works(ディレイラ ブリュー ワークス)によるイベント限定のオリジナルビールがリターンとして配られる。チケットの販売サイトには「各種に内容の違いはございません。お気持ち次第でお選びください。頂きましたサポート金はありがたくイベント運営費に活用させて頂きます。」との言葉が添えられていた。このチケットは早々に完売。両日共に、たくさんのサポーターがエリアを埋めた。


◾️9月22日(日)、朝から無情の大雨……!

ツキサケ

ここからはサポーターパス限定入場エリアで行われたライブの模様をダイジェストでお届けしたい。初日、開場前から降り出した雨はなかなか止まず、シトシトとした状況でのライブスタートに。2024年の『ITAMI GREENJAM』のトップを飾ったのは、生まれ故郷の伊丹で活動を続けるアコースティックスリーピース・ツキサケ。なんと彼らは2014年の初回から出ているというコア・アーティスト。彼らがライブを「阪急伊丹」という楽曲で始めたことに、街とこのフェスへの愛情がにじむ。見れば観客の中に手作りの応援うちわを振りながら楽しそうなお姉さんたちの姿も地元愛だなぁと微笑ましい。ライブ後半では田中元気(Vo.Gt)の「サークルモッシュが見たいんだよな〜」という言葉に応え、エリア内のお客さんが曲に合わせたスローなテンポでぐーるぐると円を描いていく。大人と子ども(なんといっても子どもの観客が多かった)がゆったりスキップするレベルの「世界一平和な」サークルモッシュ。今年のトップバッターとして晴れやかなステージを見せてくれた。

ミラクルひかる

どんどん強くなる雨足に、客足も途絶えるか……とさえ思った正午。そんな心配をよそに、エリア入り口は長蛇の列、エリア内は人でパンパンになるほど注目されていたのはミラクルひかる。本人がステージに姿を現さぬまま、研ナオコの声だけでいくつもボケ倒していく様に、会場内がザワァ。ついに登場! と姿を見せた時には大きな歓声と拍手、なぜなら広瀬香美で登場したからだ。この日のライブの詳しい内容をレポートしたいが、文字にすると野暮な気もするので、誰のネタを披露したか記しておきたい。JUJU、工藤静香、高橋真梨子、浅野温子、松任谷由実に竹内まりや、椎名林檎に八神純子、篠原涼子に渡辺真知子……。お気づきだろうか、ネタが昭和生まれ向きであることを。来場している大人たちはビール片手に大喜びの大爆笑。同伴していた子どもたちは足元で自由に遊ぶ姿がそこら中に見られ、いかに大人たちが興奮していたかがわかる景色がそこかしこにある。爆笑しながら見ていたら、ラストの宇多田ヒカルのものまねの歌にうっかり感動。ネタが始まった途端に雨も止み、天気をも味方につけたミラクルひかるだった。

GEZAN

そして主催者の大原氏が「めちゃくちゃ楽しみなライブの1つです!」と話していたのはGEZANだ。ステージに現れると、目に飛び込んでくる赤い姿。「blue hour」で今日のステージを始めていく。マヒトゥ・ザ・ピーポー(Vo.Gt)の特徴的な高音が、有料エリアの外にも届いたのだろう。1曲目が始まった途端、たくさんの人がエリア内に傾れ込んできて注目度の高さが伺える。バンドが奏でるサイケデリックな音の気持ちよさに観客の体がユラユラ揺れたかと思えば、マヒトのシャウトに誰もが黙って聴いた後、歓声が上がる。見ているこちらの情緒が安定しない。同じように思っていただろうか、隣の男性が「Soul Material」を一緒に歌い続ける。新しい曲やりますと披露された楽曲はフロントにるマヒト、イーグル・タカ(Gt)、ヤクモア(Ba)の3人が一斉に歌い出しえげつないインパクトをぶん投げてくる。この曲の後半、バンドの音がうねってエモーショナルな展開を見せていく最中で会場には再びの雨。慌ててレインコートを羽織る人、雨を避けられる場所に走る人……は少数で、雨などもろともせず音に身を委ねる人の多さにGEZANの中毒性を感じずにはいられない。ラストにマヒトが「どうもありがとう。続いていくことを祈って最後やります。ありがとうございました。風が気持ちいいね」と放ち届けられた「DNA」まで、GEZANがGEZANたる所以を見せつけられたような濃密な40分。特にラストソングではバンドの音が切れても響き続けたマヒトのシャウトに、観客エリアのいろんなところから「ヤバい」「ヤバかった」という言葉が呪文のように飛んできたことに、うなずくしかない彼らのライブだった。

フラワーカンパニーズ

初日、トリを任されたのはフラワーカンパニーズ。1曲目の「恋をしましょう」が始まった時にはいい歳の大人たちがググッと増え、楽しげな様子が目にとまる。今日イチの人の入りだ。夕方に差し掛かり、涼しい風も吹く中フラカン節が響き渡る。鈴木圭介(Vo)が「GRENNJYAM、誘ってくれてありがとう! 伊丹にも初めてやってきました!」と放つ。日本全国各地へ訪れていそうなフラカンの 「初」という告白に意外だな〜とさえ思う。そして あの印象的なイントロが流れる。そう「深夜高速」だ。「おおおおお!」という歓声が起こり、曲がサビに到達するとそこら中で起こる大合唱。それまで曲にノッて手をあげたり拍手をおくっていたのはおそらく30代以上に見えたが、この曲のサビで大声を張り上げていたZ世代や若い世代(小学生も!)の姿を見てグッときた。その後に続いた「この胸の中だけ」を聴いた若者たちは、この曲の中に何を感じただろうか。グレートマエカワ(Ba)も、会場を見渡しながら「本当にいい公園だよね。途中でここ、ハイド・パークかと思っちゃった」と笑う。その後も曲をやるといい風が吹き、度々飛行機が飛んでいく。その風景とフラカンの曲がマッチしてことさらにエモい。そして「最後の曲行きます」と演奏されたのは、「真冬の盆踊り」。ライブ終演後にフードエリアの櫓を囲んで盆踊りが開催されるとあって「予行練習しようぜ!」とのニクいセットリスト。そこにいる誰もが手を振りヨッサホイ ヨッサホイ大合唱。なんかわからんけど大人たちがおもろいことやっている! と子どもたちもそこら中で狂喜乱舞。異様な盛り上がりを見せたラストソングに、終演後もざわめきが止まなかったフラワーカンパニーズだった。

GREENJAM盆踊り

初日のライブ終演後、グラウンドエリアで開催されたのが「GREENJAM盆踊り」。日中はDJが入れ替わり立ち替わり登場していた櫓を中心にして盆踊りが行われたのだ。予定時刻の17:30、曲が流れ出すと櫓を取り囲んだのは揃いのTシャツに身を包んだ「摂津音頭保存会」のみなさん。伊丹ならではの「わっしょい伊丹」が大音量で流れ、生の太鼓のリズムが華を添える。音楽が流れる中、愛好家たちが披露する盆踊りの振り付けは躍動感が抜群に素晴らしく、うっかり見惚れた。その動きに感化されて、振りを知らない人々も身振り手振り真似してみながら輪に入っていく。

GREENJAM盆踊り

盆踊りを楽しむ面々はライブエリアにいた音楽好きたちとはまた異なる印象で、この盆踊りをめがけて楽しみにきた近所の住民たち、純粋に盆踊りとフードエリアを目指してきた人が多いように感じる。それもまたこのフェスがいち市民祭りであると感じさせてくれた理由のひとつだ。伊丹を中心に爆発的に盆踊りで踊られているという「ビューティフル・サンデー」が流れ出すと、四方八方から人が輪に加わり踊り始め、まさに踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら……というやつで、とにかく賑やかに初日の夜はふけていった。

◾️9月23日(月・祝)、初日から一転、快晴で朝から大盛況!

『ITAMI GREENJAM』

1日目の不安定だった空模様から考えれば、見違えるほどの晴天で始まった2日目。会場に向かう電車の中でイベントの公式HPにアクセスしてみたところサーバーが落ちている様子。いい天気に恵まれて、今日行く? と考えている人が多いのかも……との予感は的中。到着した昆陽池公園はまだライブ開始前だというのに人でいっぱいだ。ライブ会場へ向かうまでの道のりも人、人、人。今日は暑くなりそうだ。

そして2日目のライブはGOING UNDER GROUNDから。「トップバッターよろしくお願いします」と「グラフィティー」でライブを始めていく。青空、いい風、広がっていく松本素生(Vo.Gt)の澄み渡る歌声とグッドメロディー。上空には飛行機が飛んでいく。たった1曲で、彼らが観客の心を掴んだのが確かにわかる。「20数年やってると1曲やると今日が最高かどうかわかるんだよ。今日、最高!」という松本の声を合図に演奏された「昼呑み」は気持ちよさを増幅させ、午前中だけどビール飲んじゃおうぜ〜! と気持ちが大きくなる。『ITAMI GREENJAM』初出演である彼らは「自信のある曲だけ持ってきました!」と言い、事実、突き抜けたロックナンバー、エモーショナルな歌詞とメロディーが際立つ曲、コミカルな表現に思わずニヤリとさせられる曲……と、披露できる曲数には限りがある中でも彼らの多面性をどんどん見せてくれる。中でもそこにいた全ての人の体温を上げていたのは、最初の1フレーズだけで歓声が上がった「トワイライト」。サビの大合唱は今年のライブのハイライトになる、そう思えた光景だ。そしてラストソングは彼らのライブアンセム「LISTEN TO THE STEREO!!」。歌詞も適当でいいから、音楽好きなやつは歌ってくれ! その声に応えるように、そこら中から歌声が聞こえる。ラストには松本の「一緒にライブができたこと、嬉しいよ。また会えるその時までどうかお元気で。この時間は全員がGOING UNDER GROUNDでした。また一緒にバンドやろうぜ!」という言葉が飛び、この日の天気、観客、セットリスト、ライブの展開、心地よく吹き抜ける風も、何もかもが彼らに味方していたような40分だった。

水曜日のカンパネラ

この2日間、ここまで子どもたちの姿をライブエリアで見ただろうかと思うほど子どもの姿が目立った正午過ぎ。ライブスタートは12時半、まだまだ子どもたちが入場口から入ってくる。開始2分前、待ちきれず始まった手拍子を圧倒されながら体に受けていると歌声が聞こえてきた。水曜日のカンパネラの登場だ。……しかし歌声は聞こえるのに、詩羽の姿が見えない。どこから登場するのか、誰もがキョロキョロと探している。人が多すぎて彼女がどこから登場したのか目視で確認できぬまま、「やほー! やほー!」とステージから手を振る詩羽が目に飛び込んでくる。子どもたちの歓声が、飛び交うライブエリア。「詩羽でーす! 暑い! 元気に声出したり、手を上げることできますか?」というと、子どものはーい! という声と大人たちの手がググッと上がる。コール&レスポンスやってみようと練習をすると……「チビちゃんの方が大きい声聞こえるよ! 大人―! 甘ったれるなー!」とケラケラと楽しそうだ。人気曲の「ディアブロ」に続き、「たまものまえ」ではキッズダンサーも交えて曲を披露。なんと彼ら、地元伊丹のJACK POT DANCE FACTORYのダンサーたちだそうで、一線級のアーティストとスペシャルコラボレーションできるのもなんて夢のある話……! そして「桃太郎」を歌う際には、ついにクリアな巨大バルーンに入り込みバルーンごと客席へダイブ。フロアにはあまりに子どもたちが多く「危ないよー!」と時折言っていたのも、ちょっといいエピソード。その後もリズムに合わせてタオルを振り回す「マーメイド」や超人気の「エジソン」など、披露されたのはかなり多めの全9曲。子どもと大人が一緒に楽しめる、希少なステージを見せてくれた水曜日のカンパネラだった。

三宅洋平

夕方の気持ちいい風が吹いてきた頃、ステージに登場したのは三宅洋平。アコースティックギターを抱えステージに立つ姿にいい感じに公園の緑が絡むステージがよく似合う。「喋ったり歌ったりいつもはダラダラ2時間やるけど、今日は短いので頑張って5曲は歌えるように!」とのメッセージに笑いが起こるスタート。「新夷の風」「Dear Joe」と、観客たちが三宅の放つ言葉のひとつひとつを受け取るような眼差しでライブを見つめているのが印象的だ。2曲を披露し終えたところで、観客から「かっこええなぁ!」という大声が飛び、三宅も「自分らもかっこええなあ!」と返す。つい長くなりがちというMCでは、日々思っていることを私たちへの問いかけも含めて放つ三宅だが、幼かった娘さんの姿を見ながら制作したという「山唄」演奏前には、「19歳になってデザインの勉強をしてます。1年ぶりにかかってきた電話が、「Mac Book Pro買って」でした」というエピソードをぶっ込み、くすくすと笑いが起こる一幕も(「買うたがな!」だそうです)。そこから「Life Is Beatfull」へと続き、予告通りの全5曲。風の音、風が緑を擦るざわめき、その中に響くオーガニックなギターの音と三宅の唯一無二の歌声で届く強いメッセージ。このライブを見た子どもたちにも何か感じるものがあればいい。5曲を通して思えたのは、そんなことだった。

ガガガSP

そして大トリに登場したのは、『ITAMI GREENJAM』の超常連・ガガガSP。主催の大原さんが「『COMING KOBE』に影響を受けている」と公言しているだけあって、納得の大トリ……と思っていたが、コザック前田(Vo)曰く、「もう大トリはやめてくれって大原に言ったんだけど、(この日ガガガSPは大阪城野音とのダブルヘッダーだった)時間的に大トリになっちゃった」とライブ続きでガラガラになった声で笑っている。時刻は16時過ぎ、「すばらしき人生」で始まったが、メインステージにかかる西陽が強すぎてメンバーたちの顔がよく見えないほどいい天気。コザックが「これだけ声が枯れているけど、変えたくない曲がある」と披露されたのは「国道2号線」。青春パンクバンドを通り越して、ストーカーパンクバンドですよ! という彼らが歌い続けていることが、ステージに前にたくさんいたバンドと同じ世代には青春なんだ、と思う。「国道2号線」やその後に披露された「コウベイベー」で描かれる街の景色に対して、ここにいる人たちはリアルな思い出がある人も多いだろう。サビでは、観客の歌声が聴こえる。ずっとアクセル踏みっぱなしのコザックが「28年やってきたけど、まだまだ納得していません。40代が楽しく思えてます。心の炎もまだ消えてないんです。やってよろしいか?」と放ったのを合図に演奏された、名曲「線香花火」。デカすぎる観客の歌声に、ここにいる人全員40代以上なんかな……と思えるほど、曲と、時代をみんなが分かち合っている。キラーソングをぶっ放した後のコザックの言葉がすごく素敵だったので記しておきたい。「僕の声のギリギリさ以上に『ITAMI GREENJAM』もギリギリです。(有料エリアの外からライブを見ている観客に向かって)金も払わんと見て(笑)! この伊丹でやりたいのが、大原の意志なんです。僕らはなぜかここで10年トリやってます。僕らが出ても出てなくても見に来てやってほしい!」。その言葉に、地鳴りのような歓声と拍手、「死ぬまで生きてやろうじゃないか!」というコザックの声。そこからあと2曲、さらにギアを上げて演奏を進めていくバンドの姿に、誰もが拳をあげて歌っている。曲を終えると、声が枯れたコザックが放った。「日本最古の青春パンクバンド、神戸のゴキブリ、ガガガSPでした!」。今年も最高、最強の大トリが『ITAMI GREENJAM』を締めくくり、ライブ終了後に会場になかなか帰らない大人が多かったのもいい余韻だった。

『ITAMI GREENJAM』主催者 大原智氏

フェス終了後、主催の大原氏に今年の『ITAMI GREENJAM』、無事に終えての率直な感想を聞くことができた。「毎年終わった後に自分が何を思うのかなってことに興味があるんですけど、感じたことの解像度が上がってくるのに1週間ぐらいかかるんです(笑)。まだピンと来ていないけど、今までで一番……特に出演アーティストの皆さんにイベントの意図や趣旨が伝わった感覚がありました。例えばフラワーカンパニーズのチームのみなさんから、「ボーダレス表現文化祭」と言ってるのがすごく理解できたと言ってもらったし、ボーダレスがなんで成立しているのかというところにも興味を持ってもらったんです。言葉だけじゃなくて、実際に会場内であるとか来場者層であるとかいろいろ見てもらった上で、ほんまにボーダレス表現文化祭やなって。そういう言葉を頂けたので、これから先も多様なジャンル、世代の文化祭っていう部分をブラッシュアップしていきたいし、もっともっと祭りにしていきたいなと思います」

『ITAMI GREENJAM』

年齢・性別・世代などありとあらゆる人が、ゆるく音楽を、食事を、買い物を、ワークショップを楽しんでいる景色はただただハッピーそのもの。街に根差す人たちが企んだこのイベントがある伊丹が羨ましい。単純にそう思える、多彩な「おもろい」に溢れた2日間だった。このイベントに来場しているたくさんの人を通して、伊丹に暮らすのも楽しそうかもしれないと想像するほど、地元の人の笑顔が溢れていたのも印象的だったことのひとつだ。各種SNSには『ITAMI GREENJAM’24』、公式はもちろん出演アーティスト、出店者、来場者ありとあらゆる人の2日間の様子がアップされている。その写真があまりにも楽しげなので、チェックしてみてほしい。そしてぜひ、来年はあなたも!

『ITAMI GREENJAM』

取材・文=桃井麻依子 撮影=オフィシャル写真提供(昴 @shohnophoto、Keisakita @yksn_photo)

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