「ファシズムを許すな!」知られざる“実在の英雄”映画5選『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』ほか
戦後80年という節目の年となった2025年は、様々なメディアで戦争がテーマになることが多く、平和について考えることも多かったのではないだろうか。そんな年に、第二次世界大戦の時代に歴史の裏側で存在していた一人の英雄の姿を映画として初めて描き、全米初登場トップ10入りを果たした『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』が公開される。
日本人には名前すらなじみのない知られざる英雄たち。その姿や言葉には、様々な争いを抱える現代を生きる私たちに響くものも少なくない。ということで『ボンヘッファー~』を筆頭に、〈ヒトラーに抵抗した名もなき英雄たち〉を描いた5作品をピックアップ。
戦後80年を経て再び台頭しつつあるファシズムに飲み込まれないための映画を今こそ観て、私たちも断固として抵抗し続けよう。
『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』
11月7日(金)より全国公開
第二次世界大戦下、ナチスはユダヤ人迫害や教会を弾圧し圧政を進めていた。そのナチスと闘い続けた実在のドイツ人牧師ディートリヒ・ボンヘッファー(1906-1945)。彼はナチスが制圧する教会の牧師として活動しながら、ヒトラー暗殺計画の共謀者にもなっていく。
平和を祈る聖職者でありながら、彼はなぜスパイ活動に身を投じ、ヒトラー暗殺を目論むことになったのか? 彼の死から80周年を迎えた今年、家族思いの青年であり、勤勉なキリスト者であり、そして抵抗運動の闘士と化して生き抜いた39年間の短くも濃厚な生き様と、“20世紀を代表するキリスト教神学者の一人”と呼ばれる英雄の知られざる人物像が明らかとなる。
主演は『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』(2019年)で実在の殺人鬼に変身してみせたヨナス・ダスラー。監督・脚本・製作を務めたのは『ハドソン川の奇跡』や『博士と狂人』など実話を得意とする名シナリオライター、トッド・コマーニキ。コマーニキ監督は、今の時代にボンヘッファーを描く意味について、こう語っている。
私はアメリカ国民ですが、私たちの国は今、大きな危機を抱えています。私たちは今こそ、ファシズムが台頭する仕組みがどのようにして生まれるのか、そして私たちに何ができるのかを自覚しなければなりません。
ボンヘッファーは、困難な時代に人々がどう振る舞うべきなのかという最高の姿を体現し、多くの言葉を残しました。この映画から多くの人がそれを学べることを祈っています。
11月7日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国公開
『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』(2005年)
1943年のドイツ・ミュンヘン。“打倒・ヒトラー”を訴え、ビラ配りなどのレジスタンス活動を繰り返す“白バラ”と呼ばれる地下組織が存在した。2月18日、メンバーの一人、ミュンヘン大学の女学生ゾフィー・ショルは、兄ハンスとともに危険な大学構内でのビラまきを敢行し、運悪くゲシュタポに逮捕されてしまう。すぐさま、ベテラン尋問官のモーアにより厳しい取り調べが開始される。ゾフィーは恐怖を押し殺しつつ、毅然とした態度で理路整然と自らの無実を訴え続けるが……。
反ナチスを掲げ抵抗運動を行った学生グループ“白バラ”の主要人物であり、唯一の女性メンバーだったゾフィー・ショルの半生を描いた物語。ゾフィーが大学構内で逮捕され、わずか4日後に“大逆罪”によって処刑されるまでの詳細を、90年代に東ドイツで発見された尋問記録を軸に忠実に再現し、巨悪に敢然と立ち向かい21歳の若さで命を奪われた一人の女性の勇気と悲愴な運命をスリリングに描き出す。ベルリン国際映画祭で監督賞と女優賞を受賞。
『ワルキューレ』(2008年)
第二次大戦下、劣勢に立たされ始めたドイツ。アフリカ戦線で左目を失うなど瀕死の重傷を負いながら奇跡の生還を果たしたシュタウフェンベルク大佐は、純粋に祖国を愛するが故にヒトラー独裁政権へ反感を抱いていた。やがて軍内部で秘密裏に活動しているレジスタンスメンバーたちの会合に参加することになった彼は、同志たちと綿密にヒトラー暗殺計画を練っていく……。
非人道的なナチスの暴挙に疑問を抱き、反乱分子となったドイツ将校が同志と手を組み、ヒトラー暗殺、さらにはナチスの解体を目指す壮大な計画へと及んでいく過程と、その顛末を描く。主人公シュタウフェンベルク大佐をトム・クルーズが演じ、ケネス・ブラナーやビル・ナイら豪華俳優陣が出演している。
1944年、ヒトラー暗殺計画が未遂に終わった「7月20日事件」の事後報告がきっかけとなり、ボンヘッファーの計画への関与が発覚するなど、『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』にも大きく関わる事件の裏側を知ることができる。
『ヒトラーへの285枚の葉書』(2017年)
1940年6月、戦勝ムードに沸くベルリン。静かに暮らしていた労働者階級の夫婦オットーとアンナのもとに、出征したひとり息子ハンスの戦死を知らせる封書が届く。失意に暮れた夫婦は葉書にヒトラーを批判する言葉を綴り、ひそかにベルリンの町に置き去る行為を繰り返すようになるが、やがてゲシュタポの捜査の手が迫る……。
ナチス時代のドイツを生き抜いた作家ハンス・ファラダが、ゲシュタポの文書記録を基に書き上げたベストセラー小説「ベルリンに一人死す」を映画化したヒューマンドラマ。ごく平凡な労働者階級の夫婦が息子の戦死をきっかけに、自らの尊厳を守るためにナチスへのささやかながらも命がけの抵抗運動へと身を投じていく姿を描き出す。イギリスの名優、エマ・トンプソンとブレンダン・グリーソン共演作。
『名もなき生涯』(2019年)
第二次世界大戦下のオーストリア。山あいの小さな村で農業を営むフランツ・イェーガーシュテッター。愛する妻ファニと子どもたちに囲まれ穏やかな日々を送っていたが、戦火は激しさを増し、ついに彼のもとにも召集令状が届く。しかしヒトラーへの忠誠を頑なに拒み、即座に逮捕されてしまう。そんなフランツを手紙で優しく励ますファニだったが、彼女自身も裏切り者の妻と非難され、村で孤立を深めてしまう……。
第二次世界大戦下のドイツに併合されたオーストリアで、ヒトラーへの忠誠を拒絶し、自らの信念に殉じた実在の農夫の人生を描いた感動作。ヒトラーに背いたとされて収監される男、そしてその妻もまた“裏切り者の妻”として村人たちからひどい仕打ちを受けるが、自らの信念を曲げなかった彼らの力強さと生涯を監督を務めたテレンス・マリック特有の映像美で描き出す。主演は『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』にも反ナチ運動家として知られるマルティン・ニーメラー役で出演しているアウグスト・ディール。