淡島は歩いて行ける宝島だった。下北沢・三軒茶屋・池尻大橋を結ぶトライアングルの中心で、きらめく濃い魅力!
どの駅からも微妙に遠い、淡島通りの中ほどにある淡島交差点。各方面のカルチャーがほんのりと混じり合うこの周辺は、近年生まれた新たなスポットや話題がいくつも潜む場所だった!
散歩途中にほっとできるポケットパーク『Pati(パティ) coffee & plants』
「居心地のいい場所を作りたい」と建築設計が本業の仲間たちで各々の趣味・特技を持ち寄ったカフェ。「店ができたことで出会いが増え、世界が広がりました」と飯島花奈さん。遊び心ある焼き菓子とコーヒーを味わう時間、日課にしたい!
9:00~17:00LO(土・日は8:00~17:30)、火休。
☎なし
野菜そのもののおいしさが染みる!『またたび惣菜店』
下北沢で総菜店を営んでいた長濱千都さんが、2024年11月に淡島通りへやってきた。肥料・農薬不使用の野菜を使った総菜が日替わりで7~10種ほど。人参の蒸しナムルは素材の透き通った甘みに驚く。小さなイートインスペースでは昼からワインも飲めるという誘惑付き。
8:00~22:00、月・不定休。
☎なし
古着を起点にカルチャー発信する場所へ『OVERLAP CLOTHING』
「こう着たらいいんじゃないかという提案の気持ちを込めて1点1点選んでいます」とファッションスタイリストの水野遼平さん。80~90年代の北米やフランスの古着を中心に、古着に合わせやすいオリジナルブランドのアイテムも揃う。
13:00~19:00(土・日・祝は12:00~)、火休。
☎050-1529-6170
人もグルメもあたたかい手作り喫茶『STAND By SUNDAY』
三宿でコーヒースタンドを営んでいた西原佳隆さんと、池尻大橋『TOLO PAN TOKYO』で修業した坂口公美さんがタッグを組んで2023年にオープン。ネルドリップのコーヒーとあわせて楽しみたいお手製のランチやスイーツが目白押しだ。
12:00~19:00(11:00~ランチボックス販売)、木休。
☎050-1807-6189
陸の孤島なのに、ではなく、陸の孤島だから、いい
地図を眺めていると、期待に胸が高鳴った。下北沢、三軒茶屋、池尻大橋の3駅を結んだトライアングルの中心、淡島交差点。どの駅からでも歩ける場所ではあるものの、どの駅前にも属さない、絶妙な位置関係はまさしく「島」。なんだかお宝の気配がするぞ。
いざ淡島に上陸してみれば、ここ数年でオープンした店が淡島通り沿いにいくつも並んでいて圧倒される。洗練された高級店に、移転してきた老舗や人気店。開店ほやほや『またたび惣菜店』の色とりどりのお弁当なんて、さながら宝石箱じゃないか!
どうしてこんなに粒ぞろいなんだろう。『STAND by sunday』オーナーの西原さんいわく、淡島は「商売をするには難しいよ、と地元の人から言われた場所」。でも、それがかえってチャレンジ精神に火をつけた。「コアな場所でやりたかったんです。淡島じゃないとだめだった」。
富ヶ谷から移ってきた『OVERLAP CLOTHING』の水野さんも「むしろ陸の孤島がよかった」という。「お店目がけて来てもらうスタイルをとりたいので、利便性やアクセスの良さは場所を選ぶうえで軸にしていませんでした。ここは、下北や三茶から何かを経由しながら来られるのもいいですよね」。地名でいえば代沢(だいざわ)、池尻、三宿(みしゅく)、太子堂の境界部分でもあり、それぞれの街の色がかすかに入り混じっているようにも見える。各カルチャーの前線なのかもしれない。
世田谷区や目黒区で物件を探していた『Pati coffee & plants』は、最終的に北沢川緑道が決め手だったという。「緑道を散歩する途中に、休憩場所として立ち寄ってもらいたくて」と飯島さん。緑道にある代沢せせらぎ公園は拡張・リニューアルを予定していて、地域住民と一緒に未来像を考える「公園づくり検討会」を今まさに世田谷区が実施中だとか。これからますます楽しみってわけだ。
予想以上の収穫にホクホクしながら、帰りはどこで道草食おうか考える。北沢川から目黒川を下って池尻に出ようか、梅丘通りと茶沢通りをたどって下北や三茶に行こうか。バスに乗れば渋谷もすぐだ。うーん、とりあえず『またたび惣菜店』で一杯ひっかけるか。
取材・文=中村こより 撮影=鈴木愛子
『散歩の達人』2025年1月号より
中村こより
もの書き・もの描き
1993年東京生まれ、北海道育ち。中央線沿線に憧れて三鷹で暮らした後、坂のある街に憧れて現在は谷中在住。好きなものは凸凹地形、地図、路上観察、夕立。挑戦したいことは測量と東海道踏破。