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なぜZOZOのSTEM体験は女子中高生の心を動かせたのか?「自分ごと化」させるプログラム設計の裏側

エンジニアtype

なぜZOZOのSTEM体験は女子中高生の心を動かせたのか?「自分ごと化」させるプログラム設計の裏側

日本における女性エンジニアの比率はわずか18.8%。OECD諸国と比べても低い水準にとどまり、大学でSTEM分野を専攻する女子学生も少ないのが現状だ。さらに、IMDが発表する世界デジタル競争力ランキングで日本は30位台にとどまり、国際的な競争力でも課題が浮き彫りになっている。

こうした背景から、多くの企業でDE&I推進は「取り組むべき必須課題」として認識され始めている。しかし実際には、自社でどんなアクションを取れるのか、明確なイメージを描けずにいる企業も少なくない。

そのヒントとなる取り組みの一つが、山田進太郎D&I財団が展開する中高生女子向けSTEM体験プログラム「Girls Meet STEM」だ。

この取り組みに参画しているZOZOは、2025年8月18日、最新プロダクトを題材にした技術体験、女性エンジニア社員との交流、進路やキャリアを考える質問会など、独自のSTEM体験ツアーを実施。参加した中高生たちに、新たな選択肢や未来の可能性を提示した。

その取り組みの模様について、ZOZOの技術広報・長澤 佳穂梨さんに話を聞いた。

株式会社ZOZO
IT統括本部 技術戦略部 Developer Engagementブロック
長澤 佳穂梨さん

2023年に株式会社ZOZOに中途入社。技術広報の専任担当として、ZOZO TECH BLOGの運営、登壇支援、技術カンファレンスの協賛支援、技術イベントの運営など、エンジニアの技術情報発信の支援に取り組む。趣味は国内旅行、写真、ゲーム、絵を描くこと

目次

女子中高生の「なんとなく文系」を変えていきたい技術の面白さは、机上の知識より実体験でこそ味わえるAI×ARで実現する「バーチャルメイクアップ体験」フェイスカラー計測でパーソナルカラーが分かる「ZOZOGLASS」全144パターンで診断される「ファッションジャンル診断」現場の声こそが、未来のエンジニアを育む

女子中高生の「なんとなく文系」を変えていきたい

「周りに合わせてとりあえず文系を選んでしまい、その後の進路の幅が狭まってしまう。女子学生がSTEM分野を避けてしまう背景には、身近なロールモデルの少なさがあります」

そう語るのは、ZOZOで技術広報を担う長澤 佳穂梨さんだ。

実際、女子中高生にとって理系進学やエンジニアという職業は、まだ遠い存在に感じられやすい。特に「同性のロールモデル」が見えにくい状況は、本人の選択肢を早い段階から狭めてしまう。ZOZOが「Girls Meet STEM」に参画したのも、こうした課題を変えていきたいという思いからだった。

「山田進太郎D&I財団様の『Girls Meet STEM』では、『実際のSTEM現場を体験すること』『大学生や大学院生、社会人女性との交流を通じて進学やキャリアの可能性を広げること』を大切にしています。学生時代に理系分野へ関心を持ち、仕事の具体的なイメージを描けるようになることは、将来の職業選択にも大きくつながると思います」

公益財団法人山田進太郎D&I財団「Girls Meet STEM」shinfdn.org

とはいえ、このテーマに正面から向き合うのは容易ではない。専門的すぎる技術解説では中高生には伝わらず、かといって単なる「お楽しみ体験」ではキャリア形成のきっかけにはならないからだ。

そこでZOZOは、自社プロダクトを題材にしながら、「仕組みの面白さ」と「エンジニアリングのリアル」を同時に体感できるプログラムを工夫して設計した。

技術の面白さは、机上の知識より実体験でこそ味わえる

女子中高生に技術の面白さを伝えるにあたり、ZOZOが工夫したのは「まずは体験」から入ってもらうことだった。

「ZOZOが各サービスの中で実際に提供している『ファッションジャンル診断』や肌の色を計測する『ZOZOGLASS』といった体験型の機能を実際に動かしながら解説を聞いてもらい、学校での理科や数学の勉強が身近なサービスにどのようにつながっているかを知ってもらうことを意識しました。

ZOZOTOWNは、若年層を含む女性にファッション商品の購入場所として多く想起いただいていますが、そうした身近なサービスが技術の下支えで実現できていることを知ることで、エンジニアの仕事へ興味を持てるのではないかと思っています」

当日実施されたオフィスツアーの様子

AI×ARで実現する「バーチャルメイクアップ体験」

最初の体験プログラムは、スマートフォンの画面上でメイクをシミュレーションできる「ARメイク」だ。顔の輪郭や目・口の位置を瞬時に認識し、その上にリップやアイシャドウを重ねて表示する。学生たちは、自分の顔がリアルタイムで変化する様子に驚きの声を上げていた。

この仕組みの要となるのは、フェイストラッキングとAIによる色再現だ。

「フェイストラッキングとは、顔の動きをリアルタイムで追跡する技術です。顔の輪郭や眉、目、口といったパーツの位置を点で捉え、表情や角度が変わっても正確に追随します。また『この唇の色に、このリップを重ねたらどう見えるか』といった複雑な色の重なりは、AIが大量のデータを学習することでシミュレーションしているんです」

こうした技術を実現するには、数学や物理の知識が欠かせない。例えば、顔のランドマークを点群で捉えるのは幾何学の知識に基づいており、色の再現には光の三原色や加法混色といった物理の原理が関わっている。

学生たちは、自分の顔に仮想のメイクが重なる様子を見ながら、「教科書で学ぶ数式や原理が、こんなサービスにつながるのか」と感心していた。単なる「便利なアプリ体験」にとどまらず、学びそのものがプロダクトの基盤になっていることを実感した瞬間だった。

フェイスカラー計測でパーソナルカラーが分かる「ZOZOGLASS」

続いて学生たちが体験したのは、肌の色を計測するツール「ZOZOGLASS」だ。見た目は一見おしゃれな眼鏡型デバイスだが、フレームに描かれたカラフルな模様こそが技術の鍵になっている。

「肌の色は、照明や撮影環境のわずかな違いでも簡単に変わって見えてしまう。そこでZOZOGLASSでは、フレーム上の模様をマーカーとして利用し、カメラが計測対象を正確に認識できるようにしています。さらに、その色情報を基準に光の影響を補正することで、スマートフォンだけでも安定した肌色計測が可能になっているんです」

また裏側では、クロスプラットフォームで動作するC++ライブラリに計測ロジックを実装。AndroidではJNI、iOSではSwift/C++ interoperabilityを通じて呼び出すなど、両OSで軽快に動作させる工夫も凝らされている。加えて、ARCoreによるフェイストラッキングで顔の位置や向きを捉えることで、計測データの安定性も確保している。

当日は、この開発を担当した女性エンジニアが登壇。「海外拠点と英語でやりとりしながら、一つの目標に向かって開発を進められたことが大きなやりがいでした」と振り返った。学生たちは技術の仕組みだけでなく、グローバルなチームで働くエンジニアのリアルな姿にも触れ、将来を考える上で大きな刺激を受けていた。

全144パターンで診断される「ファッションジャンル診断」

体験プログラムの締めくくりとなったのは、ファッションコーディネートアプリ「WEAR by ZOZO」で提供している機能「ファッションジャンル診断」だ。

複数のコーディネート画像を選ぶと、その選択結果がデータとして集計され、好みの傾向が144通りのパターンに分類される。結果はステッカーとして配布され、学生たちは自分の「ファッション傾向」を手にして盛り上がった。

ポイントとなるのは、「好み」をデータに変換するアルゴリズム。単に「好き」「嫌い」を記録するのではなく、選ばれた複数の画像を組み合わせ、ジャンル構成比を算出することで嗜好のプロファイルを描き出す仕組みになっている。例えば「ストリート×フェミニン」のように、本人も自覚していなかったスタイルの傾向が数値として浮かび上がるのだ。

「ファッションジャンル診断には、確率や統計の考え方を応用しています。数学を学んでおけば、こうしたデータの集計・分析を通じて、ユーザーに新しい体験を届けられます」

現場の声こそが、未来のエンジニアを育む

サービス体験と技術解説の後には、現場で働く女性エンジニアによるパネルトークが行われ、学生からは「社員の方たちが実際に働いている様子を見られてよかった」といった声が多く寄せられた。

ある学生は「私は文系で、これまで理系のエンジニアと自分を結びつけられなかったが、今回のお話を聞いて挑戦してみたいと思えた」と語り、別の学生も「成績だけで将来を考えていたけれど、好きなことを仕事にできる視点を得られた」と振り返る。

「トークセッションでは、エンジニアになろうと思ったきっかけや仕事の面白さを中心に話してもらいました。年齢の近いロールモデルと会話することで、『自分にもできそう』『やってみたい』と感じてもらえることを大切にしています。

今回のようなイベントをきっかけに、今後も社内外のロールモデルに触れる機会を増やし、当社の女性エンジニアのエンパワーメントにもつなげていきたいと考えています。また、多様なキャリアを持つ女性エンジニア社員の姿を紹介する社内コンテンツも継続していきます」

企業が与える学びの場は、学生たちにとって未来の可能性を広げる第一歩となる。DE&I推進の本質は、こうした具体的な体験を通じて「自分にもできる」という気づきを生み出すことにあるのだろう。

写真提供/ZOZO 文・編集/今中康達(編集部)

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