Yahoo! JAPAN

広島県「福山市中央公園」は中四国初のPark-PFI導入事例。市民みんなで育てる市民のための公園に

LIFULL

福山市中央公園でのイベント時の様子(提供:福山市)

中国・四国地方で初のPark-PFI導入事例

まなびの館ローズコムから見た福山市中央公園

広島県福山市にある「福山市中央公園」(以下中央公園)は、2021年5月にリニューアルをし、ガーデンレストランが設置されるなどして、市民の間で話題になった。中央公園のリニューアルは中国・四国地方で初めてPark-PFI(パーク・ピーエフアイ:公募設置等管理制度)を活用した試みである。なおPark-PFIとは、公募で選ばれた民間事業者が自らの資金で公園内に飲食店・売店などの施設を建設し、管理・運営をするものだ。

中央公園があるのは、福山市中心市街地の南寄りの場所。JR福山駅の南およそ700mの場所にあり、約1万5,000m2の広さがある。江戸時代、ここには福山藩の藩学校があったという。明治・大正〜昭和初期には旧制の福山中学校があり、昭和の戦前に福山遊園地という公園、そして戦後に福山市民会館が建設された。

1994年に「ふくやま芸術文化ホール(リーデンローズ)」が建設されると、市民会館は役目を終えて取り壊される。そして2008年に、市民会館跡地の南半分に福山中央図書館を核とした生涯学習施設「福山市生涯学習プラザ まなびの館ローズコム」が建設され、北半分の地が中央公園として整備されたのである。

公園の敷地の東側には戦災死没者慰霊碑・原子爆弾死没者慰霊碑が建てられたほか、トイレや健康器具などが設置されている。中央から西側にあたる大部分は広場になっていた。

中央公園はどのような理由でPark-PFI導入によるリニューアルをしたのか。福山市 建設局 公園緑地課 利活用推進担当に話を聞いた。

福山市街地と福山市中央公園の位置(提供:福山市)
福山市中央公園と、福山中央図書館を併設するまなびの館ローズコム

Park-PFI導入による中央公園のリニューアルのきっかけは、2025年現在市長を務める枝廣 直幹(えだひろ なおき)氏だったという。

2016年に市長は当選し、福山駅前エリアの再生・にぎわい創出は「政策の一丁目一番地」と位置づけた。福山は自動車社会であるため郊外にショッピングモールや路面店が増え、次第に駅前から人が減少し、にぎわいが失われていたためだ。

枝廣市長誕生後、福山市では「福山駅前再生ビジョン」を策定。2017年より福山駅前再生のための「福山駅前再生協議会」、2018年からは「福山駅前デザイン会議」をスタートさせ、駅前再生について議論を始めた。その中で道路や公園などの公共空間の再整備が議論される。

会議の中で、中央公園の有効活用についても意見交換された。当時の中央公園は広い敷地を有していたが、あまり活用されているとはいえず、公園というよりも広場という印象だったのだ。ばら祭や夏祭りなどの公的なイベントが催されたり、民間のイベントが開催されるなど、利用数は年に数回程度であった。

会議では、Park-PFIの導入による中央公園のリニューアルについて議論されたという。ちょうど2016年に、東京都豊島区の南池袋公園がPark-PFIによるリニューアルを実施し注目されていたことも、議論された理由だろう。ただし、あくまでこの段階では検討案の一つであった。

まなびの館ローズコムから見た福山市中央公園の敷地東寄りの部分。この部分は以前より慰霊碑や運動器具などが設置されている

リノベーションスクールから実証実験を経てPark-PFI導入へ

三之丸公園での実証実験の様子(提供:福山市)

中央公園のリニューアルにつながるもう一つのきっかけが、2018年より開催された「リノベーションスクール@福山」だった。同スクールは株式会社リノベリングが主催するもので、実在する空き物件などの遊休不動産や潜在資源を活用し、リノベーションによるビジネスプランを考えるワークショップを中心とした、短期集中の実践型スクールだ。スクールでは福山駅南東にある伏見町地区をメインに、福山駅周辺エリアでさまざまな案が練られた。

スクールの中のテーマの一つに、福山駅の南東約300mのところにある「三之丸公園」の活用法が挙がった。三之丸公園の活用法として野外映画上映会、音楽会などの企画が提案され、実行される。この企画がとても盛り上がり、好評を博した。

※参考:
福山市伏見町のリノベーションによる街づくり。再開発の遅れを逆手にレトロな雰囲気を生かし人が集まる街に

福山市中央公園での実証実験の様子(提供:福山市)

三之丸公園での企画が成功裏に終わったことで、企画に携わった参加者に、中央公園で行政主体の実証実験という形での企画実施協力が依頼される。そこでは三之丸公園で実施したような野外映画上映会のほか、図書館があることから生まれた読み聞かせイベント、常設カフェスタンド「レモンと本」の設置、マルシェイベント、天体観測など、多彩なイベントが催された。2019年6月から約2ヶ月間にわたり行われた中央公園での実証実験は、大勢の人でにぎわい、成功を収める。

手応えを感じたことで、福山市はいよいよPark-PFI導入による中央公園のリニューアルに舵を切ることになる。実証実験を行いながら、市の公園緑地課と実験の協力者などとの間で運用状況などの情報交換をしつつ、リニューアル実施に必要なポイントが整理されていった。

そしてリニューアルの内容が固まり、同年11月よりリニューアル事業を実施する民間事業者の公募を開始。2020年4月、福山電業株式会社など福山市内の6社で構成された「中央公園P-PFIコンソーシアム」が事業者に決定する。リニューアル工事が着工され、2021年5月に完成した。

※参考:
シンポジウム「なぜあの企業は地域に投資するのか? 民間が担うこれからの公共」企業が地域とともに発展する新しいまちづくりの形

市民みんなで育てていく市民のための公園

まなびの館ローズコムから見た福山市中央公園の東屋(四阿)

リニューアルした中央公園のテーマは、市民みんなで育てていく市民のための公園。市民が自分ごととして公園に関われることを理想とした。行政だけでは維持管理が追いつかなかったりして、なかなか難しい実情があったためだ。このテーマは、実証実験を重ねる中から見えてきたという。

市が目指したのは、エリアの価値を向上させるような、公園の小さなリノベーションだったという。つまりハード投資は小規模にし、公園の使い方をリノベーションしてにぎわいを創出することを狙った。そして「日常の暮らしをアップデートする、市民による市民のための公園」というコンセプトが生まれたのである。このコンセプトのもと、さまざまな意見交換をしていった。

市は実証実験中、図書館利用者へのアンケート調査も実施した。さらに公園緑地課や実証実験参加者の話し合いの中で、「飲食店があった方がいいのではないか」「飲食店をつくるなら、図書館の入口付近がいいのでは」などの声があり、飲食店を公園内につくることになったという。公園と食との相性、また図書館という施設との組み合わせなども考えて、飲食店の案が挙がった。

東屋(四阿)の様子
福山市役所 建設局 公園緑地課 利活用推進担当の楠木桂子さん(左)と前原秀俊さん(中)、Enleeを運営するSPDX 代表の藤井孝憲さん(右)

ほかにも実証実験を通じて「中央公園は広いけど、日陰が少なく、座るところも少ない」という声が挙がった。それを受けて東屋四阿)の設置や植樹ベンチの増設などが話し合いを経て決定する。

また、2008年に芝生広場が整備されて以降、メンテナンスが不十分で生育不良に陥っていた芝生広場の一部を再整備する案も挙がったという。

なお中央公園のリニューアル事業は、中国地方初のPark-PFI事業として話題になる。南池袋公園という前例があったこともあるが、構想から完成まで約3年というスピード感も注目された。

まなびの館ローズコムから見た福山市中央公園のガーデンレストラン「Enlee」

ガーデンレストランは公園を楽しむためのコンテンツの一つ

ガーデンレストラン「Enlee」の外観

中央公園のリニューアルで最大の目玉となったのが、公園内に建てられたガーデンレストラン「Enleeエンリー)」だ。Enleeを運営するのは、株式会社 SPDXの藤井 孝憲(ふじい たかのり)代表取締役。SPDXは市内で数店舗の飲食店を経営しており、その手腕から藤井さんにコンソーシアム参加の声がかかったのである。実は、藤井さんもリノベーションスクール参加者だ。

藤井さんは以前から、いつか海外のガーデンレストランのような店を開きたいという目標があった。そのため中央公園リニューアルでの飲食店の構想は、積極的に挑戦したいプロジェクトだったという。

「Enleeのコンセプトは『日常のアップデート』『ハレの日を日常に』。ガーデンレストランは公園を楽しむための施設の一つ、コンテンツの一つだと位置づけています。店内は、開放的で居心地が良い空間になるような高さにし、床は公園との連続性を考えて土をイメージしたものにしました。公園の中央側にテラス席を設置し、公園との一体感も考えています。店舗面積はコンパクトにし、約130m2です。公園から見たとき、圧迫感を与えないような規模にしました」

Enleeは中央公園のリニューアルと同じ日にオープンした。オープン時はコロナ禍のまっただ中だったため、藤井さんは不安も大きかったという。しかし実際にオープンしてみると、想像以上に盛況で驚いたそうだ。

Enleeのテイクアウト注文窓口
Enleeの店内の様子

「2025年現在、Enleeの利用者数の目安は、平日で約75人、土・日曜日や祝日で110人くらいですね。客層は幅広く、ファミリー層や年配の人も多いです。公園という立地が影響しているのではないかと思います」

Enleeの席数は屋内45席、テラス20席。バーベキュープランも可能で、レストランウェディングなどの貸切利用もできる。結婚式のほかにも、誕生日や還暦祝いなどでの利用があったという。「特別なハレの日を公園で過ごす」という提案もしていきたいと藤井さんは話す。

また、ソフトクリームやシュークリーム、ドリンクなどのテイクアウトもできる。公園で遊ぶ子どもがテイクアウトを利用することもあるという。さらに、まなびの館ローズコムの会議室でセミナーや講演会があった際には、参加者がEnleeで食事をすることも。公園・まなびの館ローズコム・レストランの相乗効果もあるようだ。

Enleeのテラス席の様子

ハード面の整備は最小限、ソフト面の取り組みを重視。イベント開催は活用法を広める手段

イベント時の様子(提供:福山市役所)

中央公園のリニューアル事業者である中央公園P-PFIコンソーシアムは、計画段階からハード事業だけでなくイベント活用などのソフト事業も計画していた。ハード面の整備は必要最小限にとどめ、ソフト面の取り組みを重視することを考えていたのである。リニューアル工事の完成後から始めた取り組みが、中央公園を「庭先」のように身近に使ってもらうことをコンセプトとしたイベント「NIWASAKI(ニワサキ)」だ。

2025年からは、中央公園のパークマネジメントチーム「ENTエント)」が事業を継承し、「ENT PICNICエント・ピクニック)」と改称してイベントを開催している。ほかのイベントとの関連等で回数は左右されるが、開催はおおむね2〜3ヶ月に一度のペースで行われる。ENTのメンバーである塩出 喬史(しおで たかふみ)さんは、次のように語った。

「ENT PICNIC、ならびに旧NIWASAKIの内容はマルシェやワークショップ、フリーマーケット、芝刈りイベント、古道具市、音楽イベント、スポーツイベントなどです。このイベントは、中央公園や周辺地域の活性化だけを目的にしたものではありません。私たちがENT PICNICを開催することによって、中央公園の活用法のモデルケースとして示し、『中央公園はこんな使い方もできるんだ』と活用法を知ってもらうことが狙いです。そして、市民の方が中央公園を活用してさまざまなことをするきっかけづくになれば良いと考えています」

イベント時の様子(提供:ENT)
イベント時の様子(提供:ENT)

実際に、ENT PICNICの出店者が、中央公園を舞台にしたイベントを自ら企画・主催した事例がある。イベント開催にあたっては、ENTが相談に乗ったり申請や開催などのサポートをしたりしている。

これ以外にも、ENTとはまったく別のところから企画され開催されたイベントもあるという。

ENTのメンバーである谷口 博輝(たにぐち ひろき)さんは「公園は市民の憩いの場でもあるので、会場としてイベントが多数開催されればいいというわけではありません。公園の活用法の一つとして、イベントも開催できることを認知してもらえればいいと思います。普段はゆっくりと過ごしてほしいですね」と話す。

なお、あくまでENT PICNICは公園活用法の一つであるため、開催は公園の広範囲を占拠するほどの規模にしていないという。10〜20店舗くらいの規模で、ガーデンレストラン付近のみの範囲を使用して開催している。

イベント時の様子(提供:ENT)

20年後を見据えて今後も実証実験やマイナーチェンジを

まなびの館ローズコムから見た福山市中央公園の芝生の社会実験の様子。手前側が天然芝ゾーン、奥側が人工芝ゾーン

リニューアル工事が完了したが、それで終わりではない。中央公園のリニューアル事業は20年の期間が設定されており、長期にわたり状況を見ながら、実証実験やマイナーチェンジもしていくという。

たとえば2025年より、市民協働により中央公園で芝生の社会実験が行われている。社会実験は、より快適で居心地の良い芝生広場の再整備に向けたもので、過去の失敗を糧に適切に芝生広場が管理できる仕組みづくりも同時に検討する。

公園内に天然芝のゾーンと人工芝のゾーンを設け、それぞれのメリットとデメリットを比較するものという。この実験の結果を、今後の公園整備に生かしていく。

ちなみに芝生を植える作業には、近隣の小学校が総合学習の一環として協力してくれた。自分たちの手で芝生を植えることで、小学生に「自分たちがつくった芝生広場」に対する愛着が生まれる。そして地域の大人たちには、「地域の子たちが育てた芝生を守り育てていく」という意識が醸成される。

単に芝生を再生するだけではなく、広場の適切な使い方や維持管理を考えるきっかけにするのである。

芝生の社会実験の人工芝ゾーン
ENTの塩出喬史さん(左)、谷口博輝さん(右)

現在の利用状況に合わせてゾーニングした芝生広場を暫定的に整備し、実際に市民が利用していく中で、使いやすさや居心地の良さ、芝生がもたらす効果などを検証。整備方針や官民連携による管理運営方法に反映させていく。

芝生広場の社会実験は、2026年8月まで実施する予定。同年9月から2027年3月にかけて検証結果をとりまとめていく。

今後は中央公園を核にして周辺地域全体でエリアの価値向上を目指す

福山市中央公園から北(福山駅方面)へ延びる「久松通り商店街」

今後、中央公園が目指す姿について、ENTの塩出さん・谷口さんは次のように話した。「中央公園だけでなく、周辺の霞町地域全体でエリアの価値を上げていきたいです。地域の価値を上げるための一つの核になるのが、中央公園だと思っています。図書館や商店街と連携したイベントも開催しているのですが、今後はより一層の連携が必要。図書館・商店街はもちろん、自治会・学校・企業・市役所などとも協力・連携しながら盛り上げていきたいです」

また、Enleeの藤井さんは「状況に合わせてレストランのアップデートをしていきながら、市役所や関係各所とこまめなミーティングをし、今以上に市民のみなさんが使いやすい公園、居心地の良い場所を目指していきます」と意気込みを語る。

福山市中央公園の北側を東西に走る「プロムナード霞(霞銀座商店街)」。中央公園北側で、久松通りと交差する
まなびの館ローズコムから見た福山市中央公園

福山市 建設局 公園緑地課 利活用推進担当の楠木 桂子(くすのき けいこ)さんは、「中央公園は地域のための公園、住民のための公園です。なので、市役所が主体として関わるのは最小限。たとえば地元の子どもたちに芝刈りをしてもらうなど、これからはもっと地元の人に関わってもらえるようにしたいですね」

中国・四国で初のPark-PFI導入事例になった福山市中央公園。リニューアルから4年が経過したが、これからも地域の価値が上がるような活動を続けていくという。市民が使いやすい公園を目指して積極的にさまざまな取り組みを行う福山市中央公園に注目をしたい。

※取材協力:
福山市
https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/
Enlee
https://www.instagram.com/enlee_fukuyama/
ENT
https://www.instagram.com/ent_fukuyama/

福山市中央公園でのイベント時の様子(提供:福山市)

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 藤原丈一郎(なにわ男子)、やりたいことや興味のあることを詰め込んだセルフプロデュース公演『じょうのにちじょう』を上演

    SPICE
  2. 【注意喚起】「速くなる」と言われてネット回線を変えたら「むしろ遅くなった」ので問い合わせた結果 → 言い逃れが巧妙すぎてむしろ感心した!!

    ロケットニュース24
  3. 【伊予市・an’patisserie 七日(アン パティスリー ナノカ)】まるで宝石! イマドキあんこの沼が深い

    愛媛こまち
  4. 【松山市・アルムのパン】ソースとサイズ感がうまさの秘密

    愛媛こまち
  5. 各地区自慢の獅子舞に拍手 伝統文化祭

    赤穂民報
  6. ヒステリックな明治の人気芸妓・花井お梅が犯した罪とは?ドイツ人医師「何をしでかすか分からない女だ」

    草の実堂
  7. 平和記念公園の木々で紅葉の色づき進行中 人気観光地で秋色の広島散策

    旅やか広島
  8. 22/7(ナナニジ)オーディション密着レポート #13――合宿編 ローズチーム"普通の女の子って22/7になれるんでしたっけ?"

    encore
  9. 【動画】9等身で奇跡のボディ・斎藤恭代がK-1 スペシャルラウンドガールで登場!<K-1 WORLD MAX 2025>

    WWSチャンネル
  10. 北村監督が今季で退任 伊賀FCくノ一

    伊賀タウン情報YOU