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【静岡市美術館 の「パウル・クレー展 創造をめぐる星座」】 カンディンスキーから誕生日にプレゼントされた作品がとてもいい

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡市美術館で6月7日に開幕した開館15周年記念「パウル・クレー展 創造をめぐる星座」を題材に。

日本で人気の高い美術家の一人、パウル・クレーの作品が大量に見られる幸せ。静岡県内では2009年の県立美術館「パウル・クレー 東洋への夢」展以来である。愛知県、兵庫県を経由した巡回展の最終会場が静岡市美術館。13日午前も、平日昼間だというのに幅広い年代が訪れていた。首都圏からの来場者もいたのではないだろうか。

1879年スイス・ベルン生まれのクレーの画業をほぼ時系列でたどる。同時に、彼の周辺にいたアーティストの動きや作品も紹介する。19世紀末から20世紀前半といえば、西洋絵画の世界でさまざまなムーブメントがあった時期。

クレー自身は特定のグループに長期間身を置いたり、仲間たちと連帯するようなタイプではなかったようだが、展覧会のキャプションに出てくるキーワードをつなぎ合わせると、そのまま西洋絵画史になってしまいそうだ。

ミュンヘン分離派、印象主義、キュビスム、イタリア未来派、ダダ、シュルレアリスム、表現主義、バウハウス…。作品そのものももちろん楽しいが、美術の教科書に出てくるこうしたムーブメントをクレー目線でたどるのもオツである。

クレーが面白いのは、周囲が勝手に作品をそのエリアに分類する場合もあれば、能動的に「いっちょ噛み」しに行っていかにもそれらしい作品に仕上げてしまう場合もあることだ。例えばシュルレアリスムについては、本人の意図とは無関係にブルトンらが「先駆者」扱いしたフシがある。

一方でキュビスムについては、どうやら1911年12月の第1回青騎士展でロベール・ドローネーの作品を見て、すぐ好きになったようだ。3年後、ルイ・モワイエ、アウグスト・マッケと一緒に行ったチュニジア旅行を経て、いかにもキュビスムっぽい色彩豊かな風景画をものにしている。

このあたりの「影響のされやすさ」のようなものが、彼の作品を親しみやすいものにしているのかもしれない。新しいものに夢中になり、自分のものにしてしまう。そんななりゆきは、誰もが身に覚えのあるものだろう。

個人的にはクレーとヴァシリー・カンディンスキーの交流に胸打たれるものがあった。モスクワ生まれのカンディンスキーはクレーの13歳年上だが、同じ1900年にミュンヘン美術アカデミーに入学。この時は知り合いではなかった。

初めて顔を合わせたのは1911年10月8日。互いに相手の作品をすでに目にしていた。クレーはカンディンスキーらが結成したグループ「青騎士」のメンバーと交流。1912年2月の第2回青騎士展には作品を出す。

第一次大戦を経て1922年にドイツの建築学校バウハウスで再会。二人ともマイスター(親方)として招かれてそこにいた。戦争の混乱の中、複数の国をまたいでの再会はさぞや喜ばしいことだったろう。

1929年にカンディンスキーがクレーの誕生日を祝って贈った縦位置の作品「緑に向かって」が感動的。もともとはクレーの技法だった水彩絵の具の吹き付けを使った円と半円を組み合わせた画面は、湿気を含んだ空にのぼった満月のようにも見える。抽象画なのにちょっとウェットな、感傷的な気分になるのが不思議である。

(は)

<DATA>
■静岡市美術館「パウル・クレー展 創造をめぐる星座」
住所:静岡市葵区紺屋町17-1葵タワー3階 
開館:午前10時~午後7時(月曜休館、祝日の場合は翌日休館)
観覧料金(当日):一般1600円、大学・高校生と70歳以上1100円、中学生以下無料
会期:8月3日(日)まで

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