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“農をまちに開く”東久留米。あっという間に満室になったチャレンジングな賃貸「kinone 東久留米」が発信するまちの魅力

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東久留米駅すぐ、緑が目立つkinone東久留米(筆者撮影)

農をまちに開く活動が形になった賃貸住宅、kinone東久留米

周辺の他の建物と異なり、バルコニーにはさまざまな植物。1階にも溢れんばかりの緑が(写真提提供/bonvoyage株式会社)

西武池袋線で郊外に向かうと大泉学園駅、保谷駅を過ぎたあたりから車窓の風景が変わり始める。
緑が増え、空が高くなってくるのである。雑木林、畑を眺めながら東久留米駅に到着。駅のロータリーを歩き始めてすぐに目につくのがやはり緑が前面に見える建物がkinone東久留米(以下kinone)だ。

この建物は江戸時代に武蔵野に新田開拓に入植した家族のご子孫、秋田茂良さんが相続を意識し、6年前から計画を進めていたもの。
秋田家は今も駅から少し離れたところで花卉、小麦を中心に農業を続けており、農業以外には10棟ほどの賃貸住宅経営も行っている。2016年には秋田さんが手掛けた農園やバーベキューサイトの付いた賃貸住宅・ツクルメを取材させていただいたこともある。

都市近郊の農家が賃貸住宅を手掛けるのはよくある話だが、ツクルメにせよ、kinoneにせよ、一般的な賃貸住宅とはかなり違う。特に相続を考えて建てるとしたら無難なものになりがちだが、kinoneはかなり攻めている。詳細は後述するが、たとえば150種類ほどと普通ではありえないほどの数の植栽を配するなど、チャレンジングな物件なのである。

取材の途中で久しぶりにお邪魔させていただいたツクルメ。中庭に農園、バーベキュースペースなどが設けられており、各戸はそこに向いている(筆者撮影)
秋田さんが栽培している花卉類。多種に及ぶ(筆者撮影)

きっかけは東日本大震災だったと秋田さん。

「被災地にひまわりを持っていくなど自分にできる範囲の支援を続ける中で、まちは人でできているのだと忽然と悟りました。それまでの農業は人と関わらなくてもできるもので、私たちもずっとそうしてきましたが、そのままで良いのだろうかと思ったのです。そこで花卉を植えていた畑の一部をタネニハガーデンと名付けた庭にして地域に開くことにしました」

家族はその試みをあまり歓迎しなかった。家族経営の農園に他人に入ってきてほしくはなかったのだ。だが、秋田さんは庭を、農を外に開き続けた。その試みが結実したもののひとつがkinoneである。

kinoneの前で秋田さん(筆者撮影)

オーガニック&エシカルがコンセプト

駅前広場から見たkinone(写真右側奥の緑がみえるビル)。駅に近い一等地である(筆者撮影)

kinoneがある土地は駅から1分。一昨年に亡くなった秋田さんの父が当時の農協の組合長から紹介されて購入したもので、その当時は畑だった。だが、この土地はまちの発展に繋がるようにしないとと言われたそうで、実際、現在は高度利用地区という、商業などを中心にまちの発展に寄与すべき土地に指定されている。それにそもそも相続対策として建物を建てるとするとそれなりの規模の建物が必要になる。

一方で秋田さんがやりたい、農と都市を混ぜ合わせた、通勤・通学に通る人が立ち寄れる緑の場を作ると考えるとそんなに大きな建物は不要。

新築する建物はそうした相容れないニーズを満たし、かつ継続を考えると収益性の高いものにしなくてはいけない。6年前にスタートしたプロジェクトは一度頓挫した。プロジェクトメンバー同士の話がかみ合わず、全体像が明確にならなかったのだ。

kinoneのプロジェクトとしての特徴は企画から運営までを同じ人がチームとして関わっていること。運営が始まってから齟齬が生じるということがない。左から和泉さん、荒川さん、和泉さんの会社のスタッフでリーシングなどを担当する佐藤舞子さん(筆者撮影)
1階のカフェ、ショップでもオーガニックな商品を置き、環境に配慮した取組みを行っている(筆者撮影)

「作りたいと思っているものを作ったことがない人に頼んでも難しいと考え、自分が作りたいと思っているものを作っている人を探しました。ソフトとハードを一体で考え、実践できる人と考え、その後、紹介を経て出会ったのがbonvoyage株式会社の和泉直人さん。不動産やまちづくりのプロデューサーとして幾多のプロジェクトを手掛けてきた人です」

秋田さんの思っていることをすべて卓上に乗せ、その他の要件と混ぜ合わせて整理、ひとつの建築として集約していく作業が始まったが、それも容易ではなかった。

「高度利用地区ということで最初は7対3で商業区画が多かったのですが、銀行からは地域の商業ニーズを考え、それを逆転してほしいと言われました。

住を中心に据えた場合、このまちに住む意味をきちんと伝えて選んでもらう必要がありますが、それをどう表現するか。さんざん考え、最終的にはオーガニック&エシカルとしました。

当初はふわっと柔らかい、耳障りの良いものを考えていましたが、新築にあたり、秋田さんの負う借金の大きさを考えると本気でこのまちの魅力を伝える住まいにしないといけないと思いました」と和泉さん。

kinoneは木の根に由来、ロゴは木や川、太陽などをアレンジ。右下にいるのは絶滅危惧種のホトケドジョウ。清らかな水に生息、東久留米市の清流でも見かけられるそうだ(筆者撮影)

コンセプトを徹底的に具現化、他にない空間を実現

リビングからはバルコニーの植栽が楽しめるようになっている(写真提供/bonvoyage)

オーガニック&エシカルを具現化したものが農を中心にこの地の自然、そして動物と共生する暮らしである。そのためにkinoneのバルコニーには前述した通り、約150種類もの植物が植えられている。この数字自体が普通ではないと2年前にkinoneと近隣物件を扱うために秋田夫妻とともにタネニハ不動産を設立した荒川博典さん。

「普通なら多くても100種類までは植えません。中にはこの地には合わないかもしれないけれど実験的に植えているものもあり、それを可能にしたのは秋田さん自身が植栽に責任を持つという決断をしたため。日常的には自動潅水装置を入れ、入居者が自ら手を入れられるようにワークショップを開催するなど役割を分担するようにしており、すでに野菜を栽培するなど積極的に関与する入居者も。豊かな植栽は入居者にも影響を与えています」

植栽以外にも敷地内にはオーガニックな暮らしのための工夫がちりばめられている。剪定した枝を堆肥にするためのコンポストが用意されていたり、1階の花屋、雑貨店、カフェに並ぶ商品はもちろんオーガニック。カフェの人気商品であるスコーンには秋田さんが栽培した小麦が使われている。

各戸玄関には緑を生けるスペースが設けられている。これは1階のフラワーショップなどでフラワーロスを出さないためでもある(筆者撮影)
8階にあるドッグラン。かなりの広さがあり、屋根もあるので雨の日も遊ばせられる(筆者撮影)

動物との共生に関しては種類、サイズ、頭数に制限のないペット可とした。ペットを家族と考えるとそこに制限を設けるのはおかしいという考えからで、この点に驚き、喜んだ問い合わせが多かったという。

といっても実際に自分で面倒が見られなくなるほどのサイズの動物、頭数を飼おうという人はいない。その意味では制限をしてもしなくても本当に動物が好きで動物にとっての快適さを考える人ならそうなるのが当然なのかもしれない。

動物との共生に関しても8階に入居者が自由に使えるドッグランがあり、ピロティにはリードフック、1階カフェのテラス席はもちろんペット連れOKとなっているなど至れり尽くせり。住戸も土間があるタイプなどアニマルフレンドリーな工夫がある。

1階ピロティは人が集まれるだけの広さがあり、お披露目会時には多くの人が集まっていた(筆者撮影)

まちの魅力を紹介、そこにふさわしい住宅であることが人気に

川沿いのウォーキングコースを案内する地図。ペットと一緒にここを散歩するのは楽しい時間になるはず(筆者撮影)

コンセプトを徹底的に具現化した物件になっているわけだが、これが可能になったのはこの土地だったからだと和泉さん。

「都心で農と暮らす、動物と共生すると言ってもどこか嘘くさくなりますが、このまちには黒目川、落合川が流れ、豊かな湧水があり、代々続く秋田さんの畑があり、武蔵野の雑木林がある。歩いてみるとこの土地だからこの暮らしなのだということが腑に落ちます」

実際、荒川さんは入居希望者を案内する時、最初にまちを案内したという。

「東久留米には初めて来た、南沢湧水地は聞いたこともないという市外の方ばかりでしたが、もともとホームページなどでコンセプトを知って訪れたという感度の高い方が中心だったこともあり、ぜひ、行ってみたいと希望する方が多かったのが印象的でした」

歩いてすぐの場所にこんな場所が!夏は子どもたちが水遊びをする場所も(筆者撮影)
川沿いにはこんな道が続く。ちょうどアジサイなどが咲く時期だった(筆者撮影)

取材ではそのコースを荒川さん、和泉さんなどと一緒に歩いたのだが、池袋から最短では20分とかからない場所にこれだけの自然が残されているのは驚き。緑と水に恵まれた美しい風景があり、散歩コースとしては控えめにいってもサイコーという状況ではないだろうか。

そして、その後に訪れるのがkinoneである。こちらも1階、バルコニーには緑が配され、天井が高く、風呂には窓のある気持ちの良い空間などが用意されている。ペットとの暮らしにもよく考えられた建物でもある。

となれば、この土地でこの暮らしがしたいと思う人が多くいたのは当然かもしれない。住宅自体は2024年8月から募集を開始し、あっという間に埋まった。
秋田さんは「相場から考えると賃料は3割ほど高い設定になっており、当初は無理なのではないかと思った」と言うが、入居を決めた人たちはそこは気にしなかった。まちを歩いた後で住戸を見学、このまちで、ここで生活したいと切望したのである。

内装は簡素でシンプルだが、窓が多く、開放的で明るい(写真提供/bonvoyage)

良い住宅を作ることが地域の価値を向上させる

東久留米市界隈には長年続く農家も多く、そこで徐々に相続が発生し始めている。写真は秋田さん宅の庭にある巨樹(筆者撮影)

これまで東久留米に無かった賃貸住宅ができたことは地域に影響を及ぼし始めている。kinoneに感銘を受けた近隣の土地所有者が同様の物件を建設し始めているのだ。

「2025年以降、東久留米だけでなく、日本全国で相続が急増すると言われています。これまでは相続が起きると税金を払うために土地が安く売られたり、特徴のない賃貸住宅が建てられたりしてきましたが、kinoneでは良いものを作れば人が集まり、地域の価値を上げることができるというモデルケースを作ることができたと思っています。地域の魅力を味方に土地所有者も資産を残していくことができるのではないでしょうか」と秋田さん。

kinoneのような魅力的な住居、場所が一ヶ所だけでなく、周囲に点在、面として広がっていけばまち全体の認知度が高まり、価値も上がる。秋田さんはそれを意識して現在、タネニハガーデンの土地を利用してレストランの建築を進めている。

現在建設が進むレストラン。広い庭にはウッドデッキ、窯などが作られる(筆者撮影)
kinoneで花を見かけ、それを機に農に対しても関心を持ってもらえればと秋田さん。kinoneは地域を知る1歩目の場所なのだ(筆者撮影)

「東久留米と同じ西武池袋線沿線の石神井公園にあるピザの名店『PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO』に出て頂く予定で2025年8月くらいのオープンを予定しています。畑や自然と隣り合う立地で、美味しく食べたものが地元で栽培されていることを知り、農に関心を持ってもらえたらと考えています。そのためにこれまでの小麦と花卉だけでなく、野菜の栽培も始めました。店で提供するほか、店頭での販売も予定しています」

また、災害時に逃げ込めるようにと庭にはウッドデッキを作り、釜も用意する。庭でも調理ができるようにするのだ。農地は生産の場であると同時に環境や景観の寄与する存在であり、災害や不測の事態には人を守る場にもなる。学びや癒しの場にもなるはずで、秋田さんが目指しているのはそうした多様さに満ちた都市農地、農業なのではないかとふと思った。

あっという間に満室、その魅力を歩いて実感しよう

駅前広場を曲がるとそこからは緑の目立つ住宅地。その入口にkinoneがある(筆者撮影)

最後にkinoneの物件そのものをご紹介しよう。
東久留米駅のロータリーからは見上げれば見えるほどの場所に立地、各階のバルコニーの緑が目を惹く8階建てで、設計は建築家・藤原徹平さんが主宰する株式会社フジワラテッペイアーキテクツラボ。

建物1階の左半分、道路に面した側にはカフェ「kinone coffee&flowers」、フラワーショップ「日々の華」があり、その奥にはこれからフードコートが誕生する予定。今のところ、うどん屋さん、お惣菜屋さんなどが予定されている。取材の時点では2区画空きとのことだったので、地元の野菜を使った料理やパン屋さんをやりたい人など、いかがだろう。

kinone coffee&flowersはすでに賑わっており、特にカフェは地元の女性たちのたまり場になっていると秋田さん。これまでそうした気軽に集まれる場が無かったのだろう。建物の右半分、屋根のあるピロティスペースは外部席になっており、ペット連れももちろんOK。

個人的には「日々の華」で販売されていた季節の花束の生命力に惹かれた。無農薬で手を掛けずに育てているそうで、それなのに力強く、美しいのは不思議だ。ブリコラージュフラワーと言う寄せ植えも置かれていて、こちらはプレゼントなどに喜ばれると思う。

一段低くなった、落ち着く雰囲気のカフェ。ペットと一緒の時は外の席で(筆者撮影)
住戸は中央の吹き抜けを囲むように配されている(筆者撮影)

住宅へはピロティのエレベーターを利用する。住戸は吹き抜けの回りに配されており、全49戸。残念ながら2025年7月の時点では全戸埋まっている。間取りは30m2~40m2ほどの広いワンルーム、55m2~70m2ほどの1LDK。全戸にバルコニーがある。

ただ、ワンルームといっても広い土間があったり、L字型になっていて空間を分けて使えるようになっていたりと内部のバリエーションは豊富で、どれもちょっと個性的。1LDKも同様で、玄関を入ったところのワークスペースとしても使える空間があったり、バルコニーに面して緑を楽しみながら入浴できるバスルームがあったりと間取り図を見ているだけでも楽しい。

住戸はSOHOとしても利用可能で、事務所登記やポストに屋号を掲載することも可能(業種、営業形態その他は要相談)。一部の壁面はDIYもできる。一部屋だけ今後、民泊として利用する予定の部屋があり、室内を見たいならその部屋に泊まるという手もある。

以上、地元の人たちからは東久留米にあるのが不思議と言われるというkinoneをご紹介した。外からの眼で見るとこれほどまちの魅力を具現化している住宅はそうそうない。地元の皆さんも、東久留米を知らない皆さんもぜひkinone起点でまちを歩き、まちと住宅の見事なマリアージュを感じていただきたいものである。

■取材協力
kinone東久留米
https://kinone-hk.jp/

今後、民泊で使うことが予定されている部屋。住戸内の雰囲気はここで見られる(筆者撮影)

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