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木彫大作「鏡獅子」20年ぶりに里帰り。平櫛田中美術館で「でんちゅう」の人生をたどる(井原市)

岡山観光WEB

日本を代表する彫刻家・平櫛田中の木彫彩色の大作「鏡獅子」が20年ぶりに里帰りしたことで、注目を集めている井原市の「平櫛田中美術館」。里帰りは2024年2月から5年半、つまり2029年8月頃までの予定で、名作を間近で見られるまたとない機会となっています。ほかにもさまざまな作品と、平櫛田中の生き様を知ることができる「平櫛田中美術館」についてご紹介します。

平櫛田中について

岡山県井原市のマスコットキャラクター「でんちゅうくん」をご存じですか。隈取りした目とぱっつん前髪がチャームポイント。岡山県民なら一度はどこかで見かけたことがあるかもしれません。
そのモデルとなっているのが、井原市が誇る近代木彫の巨匠・平櫛田中(ひらくしでんちゅう)の代表作「鏡獅子」なのです。

平櫛田中(1872~1979)は井原市に生まれ、107歳まで現役を貫いた彫刻家です。
明治・大正・昭和という時代をまたぎ、日本の伝統的な木彫技術と西洋の表現技法を融合させた作品を生み出し続けました。

美術館の入口にある像は、平櫛田中が思想に大きな影響を受けたという岡倉天心。そのほか、館内や屋外の「田中苑」にも作品があります。

「平櫛田中美術館」に行くことで、さまざまな思想家・芸術家と信頼関係を築き、鍛錬を続けながら独自の技法を磨き上げていった田中の真面目さがうかがい知れます。

平櫛田中美術館について

平櫛田中は幼少期を井原市で過ごしましたが、長く暮らしていたわけではありません。10歳のころに今の広島県福山市へ養子に出ています。それでも「井原が故郷」という想いは変わらず、生涯を通じて井原市内の学校へ作品を寄贈するなど、故郷との絆を大切にしてきました。写真は「平櫛田中美術館」の前にある、田中お手植えの楠です。

「平櫛田中美術館」は、彼の作品を保存展示して、永くその偉業をたたえるとともに、郷土文化の向上に役立てるため、1969年に「田中館」として開館。1973年には「田中美術館」となり、1983年には井原市の市制施行30周年を記念して新館が開館しました。そして施設の老朽化のため、井原市の市制施行70周年となる2023年4月に「平櫛田中美術館」としてリニューアルオープンしました。3階建ての建物のほか、屋外の「田中苑」も整備され、散策も楽しめます。

生前に井原市内の学校へ寄贈していた作品や、新たに美術館に寄贈された作品、亡くなってから遺族から贈られた遺作・遺品を中心に、様々な作品が展示されています。

作品観覧には料金がかかりますが、エントランスホールやミュージアムショップ、屋外の田中苑は無料で楽しむことができます。※館内は撮影禁止ですが、今回は取材のため特別に写真を撮らせていただきました。

鏡獅子 20年ぶりの里帰り

1階には、2024年2月7日から5年半の予定で、平櫛田中の代表作「鏡獅子」が里帰り中です。
伝統芸能の殿堂といわれる東京の国立劇場の正面ロビーに設置されていましたが、国立劇場の建て替え工事に伴い井原市へ20年ぶりに戻ってきたのです。息をのむような存在感、今にも舞い始めそうな躍動感をぜひご覧ください。

国立劇場ではガラスケースに入った状態での展示でしたが、「平櫛田中美術館」では高さ1mほどの透明の仕切りはあるものの、直接見ることができます。木彫とは信じがたいほどの、2mを超える巨大な作品。彩色の美しさにも目を奪われます。

田中が64歳だった1936年に着手しましたが、戦争の激化などによる中断や、一からの制作しなおしを経て、86歳となった1958年に完成した、まさに生涯かけての大作です。

「鏡獅子」は新歌舞伎十八番の一つ「春興鏡獅子」を舞う、六代目尾上菊五郎がモデル。

試作段階の作品「鏡獅子試作裸形」、「鏡獅子試作頭」など、制作過程についても知ることができ、「作品が生まれる物語」そのものを体感できます。

こちらは「どうしても気に入らぬ」と、未完成で制作が放棄された作品です。生涯かけて作品に取り組む決意が見てとれます。

平櫛田中の人生が学べる常設展示

3階には平櫛田中の人生を深く知ることができる「平櫛田中記念館」、「ミニシアター」、「上野桜木アトリエ」があり、必見です。「平櫛田中記念館」には、彼の生涯を追った年表が展示されています。

「ミニシアター」では、分かりやすい映像資料で平櫛田中や代表的な作品について知ることができます。

「上野桜木アトリエ」は、東京の彼のアトリエを再現した空間。本棚に囲まれ、読書好きだったのでしょう。数々の作品を生んだ制作の舞台裏を想像できるスポットです。

企画展も随時開催 展示室

そのほかの展示内容は入れ替わる可能性があります。2025年4月初旬時点では、平櫛田中の数々の作品が展示されていました。

こちらの作品「転生」は、「生ぬるいものは鬼も喰わない、喰うには喰ったが、気持ちが悪くさすがの鬼も吐き出してしまう」という平櫛田中が小さい頃、井原でよく聞かされた話を基に作られているそうです。

今にも動き出しそうな幼児、人物像、仏像など、平櫛田中の多彩な表現が楽しめました。

2025年4月25日(金)~6月15日(日)には、第31回平櫛田中賞受賞記念展「いるのここの」が開催。平櫛田中賞・初の女性受賞作家、大竹利絵子さんの彫刻作品・版画作品約45点が並ぶ予定です。
このように、現代アーティストの個展や、平櫛田中にまつわる企画展が期間限定で度々開催されています。

ミュージアムショップ

1階の受付近くにはミュージアムショップがあります。

鏡獅子のポストカードやふせん、でんちゅうくんのマスキングテープ、平櫛田中の言葉「いまやらなねば いつできる わしがやらねば たれがやる」が書かれた手ぬぐいなどが購入できます。

田中苑

「平櫛田中美術館」の外には、四季折々の植物に彩られる庭園「田中苑」が広がります。

庭園内には平櫛田中が手がけたブロンズ像が5体点在しているので、散策しながら探してみてください。
ベンチも設けられており、展示を見たあとにゆっくりひと息つくのにもちょうどいい場所です。

おわりに

「いまやらねば いつできる わしがやらねば たれがやる」という言葉からうかがい知れる、平櫛田中の人生の時間への意識と、責任感。それを107歳まで持ち続けた生き様に心を動かされました。

20年ぶりに里帰りしている「鏡獅子」はまさに大作で、その言葉の象徴だと思います。
ぜひ、この機会に井原市「平櫛田中美術館」へ足を運んでみてください。

【平櫛田中美術館】
所在地:岡山県井原市井原町315
TEL:0866-62-8787
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)、12月28日~1月4日、展示替え期間
料金:一般500円(団体15名以上400円)、高校生以下、市内在住65歳以上無料
※特別展開催中は入館料が変わります。
※特別展開催中は所蔵品展のみの観覧はできません。
駐車場:あり

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