発達障害の特性のある子どもを育てる父親への支援【後編 父親の育児支援】〔言語聴覚士/社会福祉士〕が解説
発達特性のある子の父親は、子どもとどう関わればよいのか? 積極的にやったほうがいいこと、子どもとの関係性の築き方について、言語聴覚士・社会福祉士の原哲也先生が解説。
発達が気になる子どもの「就学相談」ってどんなことをするの?発達障害や発達特性のあるお子さんと保護者の方の関わりについて、言語聴覚士・社会福祉士であり、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表として、発達障害のお子さんの療育とご家族の支援に長く携わってきた原哲也先生が解説します。
発達障害の特性のある子どもを育てる父親への支援‐後編
前回は、発達障害の特性のある子どもの父親の「実態」についてお話をしました。
今回は発達障害の特性のある子どもの父親の支援について考えます。
1.父親の「関わり」の例
父親が子育てに関わらないと嘆く母親は多いです。しかし、発達障害の特性のある子どもの父親の中には、さまざまな形で我が子の子育てに関わる方もおられます。
母親が子どもと専門機関に行くときは他の子どもの面倒をみる、父方の祖父母の協力を得られるよう調整する、経済的に安定するよう仕事を頑張る。また、母親の話を丁寧に聞く、休みの日は子どもの世話をして母親を子育てから解放するなどの形で、母親のケアをする。
最近では、相談や療育施設に、母親と一緒に来る父親も増えてきているように思います。
2.父親の育児参加支援
父親は子どもや母親にとって重要な存在ですし、父親の育児参加は社会性の発達などの面で子どもの成長に影響するといいます。
父親の育児参加促進のための試みもなされていますが、こと、「発達障害の特性のある子どもを育てる父親」に対する育児支援はほとんど手付かずです。そもそも支援の前提となる発達障害の特性のある子どもの父親の子育てに関する研究報告もとても少ないのです。
この状況、そして前回お話しした父親の実態を前提に、以下、私自身の経験をもとに、発達障害の特性のある子どもの父親の子育ての支援につながるのではないかと思うことを、お話しします。
3.発達障害の特性のある子どもの父親の支援にむけて
(1)医療機関、療育機関への同行のススメ
お父さん方にまず考えていただきたいのが、年に1回でも2回でも子どもの受診や療育機関での臨床に同行することです。
発達障害の特性のある我が子を前に父親は、子どもの行動の理由や子どもとの関わり方がわからない、将来への不安など、さまざまな疑問や悩みを持っています。医療機関や療育機関に同行することで、医師や専門職から、疑問や悩みの解決に向けて何らかのヒントを得られるかもしれません。
そして何よりも、子どもについての理解が深まります。
ところで、お父さん方は医師や専門職に質問がしにくいのか、来たはいいが結局、聞きたいことを聞けないで帰ることがよくあるように思います。
質問しにくければ、知りたいことを書き出してメモにして渡してください。失礼ということはありませんし、書き出すことで、目的意識を持つ、主体的になるという面もあるかと思います。
(2)ペアレントトレーニング等への参加
こんな研究があります。
自閉症の子どもの父親に対して、自閉症の子どもと関わる際の4つのスキル、すなわち、①子どものリードに従う、②動作を用いた模倣、③子どもの行動や気持ちについてコメントをする、④子どもからの働きかけに期待を込めて待つ、のトレーニングを行いました。
12週にわたり週2回のトレーニングを実施した結果、父親の②「動きを伴う模倣」③「子どもへのコメント」④「期待を込めた待機」が増え、子どもの発話も非言語的発声も増えました。
すなわちトレーニングで知識と経験を積むことで父親も、子どもと関わる力が向上し、子どももその変化に敏感に反応するのです。
〈参考文献:In-Home Training for Fathers of Children with Autism : A Follow up Study and Evaluation of Four Individual Training Components著 Jennifer H. Elder • Susan O. Donaldson ら Journal of Child Family Studies (June2011) 20(3):263–271〉
ですから、父親に対するペアレントトレーニングや子育て教室などの機会があればぜひ、参加しましょう。
どうしても子どもと接する時間が短くなりがちな父親も、このようなトレーニングを重ねることで子どもと関わるにあたって自信が持てるのではないかと思います。
ただ、日本では、父親対象のペアレントトレーニングの機会はまだ少ないです。このような機会が広がることを望みます。
(3)父親自身に発達障害の特性がある場合
発達障害の特性のある子どもの父親も発達障害の特性を持っている場合、専門職、支援者、そして母親は、その点を考慮する必要があります。
例えば、父親に自閉スペクトラム症の傾向がある場合は、
①子どもの行動の見方や関わり方を具体的に伝える
例:「子どもをちゃんと見て」ではなく、「子どもの手を離さないで」と伝える
②情報を視覚的に示す
例:生活の時間割りやおむつ替えの方法などを表や絵にして示す
③家族における父親の役割を伝える
④子育ての目標を明確にし、共通認識をもつことに努める
などです。③④は常に大事なことですが、自閉症の場合、当然わかるだろうという人の気持ちや状況の理解がないこともあるので、大事なことは改めて話をし、確認する必要があると思います。
また、父親にADHDの傾向、特に衝動性がある場合、「腰を据えてじっくり見る」ことが苦手なケースがあります。
そうすると、子どもが何かをやりとげるまで見ていることができず、結果、子どもをなかなかほめられないことになります。
そのような場合は次のことを実践するように話してみましょう。
① 子どもをほめる基準を細分化して、1つできたらすぐほめる
例:「服を最後まで着たらほめる」から、「シャツのボタンをとめたらほめる」にする
② 子どもが新しいことができたわけではなくてもほめる
例:靴をはくことはすでにできるが、靴をはいたらほめる
また、父親自身が特性のために職場などで対人関係に悩んだり、抑うつ的になっていることもあります。その場合は、必要な支援を得て父親自身のケアを行うことをまず第一に考えてください。
(4)一緒に遊ぶ中で関係を築く
父親もできるだけ「子どもと遊ぶ」時間を作りましょう。
男児の場合は、母親よりも同性の父親に「仲間」意識を持ちやすいです。子どもは仲間である父親のやることに興味を持ち、父親も子どもの「好き」が「わかるなあ」と共感する場合が多いです。
また、身体を使った遊びの相撲や球技、キャンプなどの遊びは「父親の出番」であることが多いです。
ゲームや釣り、虫取りなど親子で「趣味が合う」遊びや、身体を動かす遊びなどで、子どもとお互いに楽しい時を過ごす。遊びの中で父親が自然に子どもに何かを教え、そこで父親と子どもの間に良好な関係が築かれるケースも多いです。
父子でゲームをするご家庭もあるようですが、時間を決めたら父親も終わりの時間を守りましょう。そうして子どもに見本を示すことも大事です。
父親が子どもと良い雰囲気で過ごしていたら、「◯◯、楽しそうだったわね。あなたすごいじゃない!」と母親がほめることも父親の育児参加を後押しするのかなと思います。
(5)父親のネットワークづくり
発達障害の特性のある子どもの父親への支援が少ない中で、父親同士のネットワークも未整備です。同じ悩みを持つ父親とつながりたい、でもそのような場所がないと悩む父親も多いと思います。
北海道のある社会福祉法人では父親だけの会があって、講師を招いて勉強したり悩みを話し合ったりする場を設けています。
地域には発達障害の特性のある子どもを持つ親の会があります。まずそこにアクセスして、その中で父親同士でつながる、「父の会」を作るなどはひとつの方法でしょう。
同じ立場の人とつながること、自分の気持ちを伝えること、学ぶことは、子育てに向き合い悩んだときの大きな支えになります。母親が互いにつながることで支え合う姿を専門職として見てきたからこそ、強くそう思います。
父親のネットワーク構築は公的にも取り組むべき課題だとは思いますが、まずは誰か1人とでもつながろうとしてみてほしいと私は思います。
専門職、支援者そして家族はそれを応援しましょう。
最後に:
子育てにおいて親は子どもの「背景」になってしまいがちです。しかし親もまた、一度きりの人生を生きる人です。その人らしい生き方ができるように、必要な支援がなされるべきです。
これまで親への支援は、母親への支援が主でした。日々の子育ては多くの部分を母親が担っていることからしたら自然なことではあります。
しかし父親もまた支援を必要としています。今後は、父親への支援を充実させ、父親と母親が協力して子育てができるようにしていかなくてはならないと思います。
次回は発達障害の特性のある子のきょうだい児について考えていきます。
────────
今回は「発達障害の特性のある子どもを育てる家族への支援」の中から、発達障害の特性のある子を持つ父親の支援について原哲也先生に解説していただきました。
次回第16回では、発達障害の特性のある子をきょうだいに持つ子ども、「きょうだい児」の支援について、具体的に教えていただきます。
原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。
2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。
著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。
「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著
わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。