セックス、ドラッグ、ロック、かつてなく刺激的な逃行避行が始まる グレッグ・アラキの衝撃作『ドゥーム・ジェネレーション』予告編
異性愛を常識とする当時の概念や、それを支えてきた映画のあり方に対抗した90年代の<ニュー・クィア・シネマ>というムーブメントを牽引し、インディカルチャーの旗手として知られるグレッグ・アラキ監督作『ドゥーム・ジェネレーション』(劇場公開:1996年7月6日)と、『ノーウェア』(劇場公開:1998年8月3日)が、約30年の時を経て待望のデジタルリマスター版でリバイバル公開。11月8日(金)より『ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版』、11月15日(金)より『ノーウェア デジタルリマスター版』が、全国順次公開される。
グレッグ・アラキによる〈若者の終末〉を描いた衝撃の2作品
自身もゲイであることをオープンにし、一貫してティーンエイジャーを主人公にして同性愛者のリアルライフを描いてきたグレッグ・アラキ。そんな彼がプロデューサーからの「異性愛映画を撮ったら制作予算をあげよう」という提案に対し、彼なりの反骨精神あふれるパンクなやり方で、「表向きは“異性愛映画”としつつも、“史上最もクィアな異性愛映画”を作りたかった」と語る『ドゥーム・ジェネレーション』と、「最も野心的な作品」と本人も語る、まるでジェットコースターのようなスピード感で若者たちの〈終末の日〉の一夜を描いた『ノーウェア』。約30年前の作品とは思えないほど、今の私たちの感性を刺激する魅力とパワーを放つ衝撃の2作品だ。
パンクでシュールでロマンチック——かつてなく刺激的な逃避行
「今夜は何か起こりそう 胸騒ぎがするんだ」—『ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版』予告編は、ロサンゼルスのクラブで若いカップルのジョーダン・ホワイト(ジェームズ・デュバル)とエイミー・ブルー(ローズ・マッゴーワン)が語り合う場面から始まる。
その後、見事に二人の予感は的中。セックス、ドラッグ、ロックで華やかに彩られた静かな夜は、危険な香りを纏った流れ者グザヴィエ・レッド(ジョナサン・シェック)の登場によって一変。途中、立ち寄ったコンビニで銃を向けられたり、会計のたびに不吉な数字「6ドル66セント」という数字が現れたり、常軌を逸した出来事ばかりに見舞われる。しかし、謎に包まれたグザヴィエはたびたび二人を窮地から救い出し、図らずも追われる身となった3人は、サイコたちが徘徊する不毛の荒野と化したアメリカを逃げ回る……“運命共同体”としてのジョーダン、エイミー、グザヴィエのかつてなく刺激的な逃行避行が始まるのだった。
旅を進めるにつれて、「君たちを愛してるよ」「私が愛するのはあなただけ」「愛してる!」と愛を叫び、性的な境界線が次第に曖昧になっていく三角関係……しかしラスト、「“愛してる”にはいろんな意味があるだろ?」というジョーダンの言葉で締め括られ、サスペンスを感じさせる映像となっている。
劇中歌には、ピチカート・ファイヴ、ナイン・インチ・ネイルズ、スロウダイブ、ジーザス&メリー・チェイン、コクトー・ツインズ、エイフェックス・ツイン、ザ・ヴァーヴなど、音楽ファンが歓喜すること間違いナシのミュージシャンたちが名を連ねている。
ポスタービジュアルは、ヒロインであるエイミーが強い視線で睨みつける写真が印象的。シーンのバリエーションの広さを感じさせる場面写真で構成されたビジュアルは、エイミーとジョーダンが寝そべる写真の上に、ジョーダンとグザヴィエが親密に顔を近づける様子も仄めかされており、三人の三角関係がどのように変化していくのか、興味をそそる内容となっている。
クィアでカオスでロマンチック——真実の愛を求めて街を彷徨う 若者たちの青春群像行
『ノーウェア デジタルリマスター版』の予告編では、混沌とした世界で永遠の愛をもとめて彷徨う若者たちの明るくも悲劇的な一日の様子が描かれる。
舞台は太陽が燦々と降り注ぐロサンゼルス、映画監督志望の18歳の青年ダーク・スミス(ジェームズ・デュバル)は、恋人のメル(レイチェル・トゥルー)が心の底から自分に夢中になってくれることを求めている。一方のメルはダークのことを深く想ってはいるものの、紫色の髪の恋人・ルシファー(キャスリーン・ロバートソン)にも想いを寄せており、ふたりの間を行ったり来たりしている。
そんなメルとの心許ない関係に悩まされているダークは様々な妄想で自らを慰める日々を送っているが、オッドアイの美しい瞳を持つ無垢な青年・モンゴメリー(ネイザザン・ベクストン)に次第に心惹かれていく。さまざまな人間が入り乱れる地元の溜まり場であるコーヒーハウス「ホール」、いつものようにそこに集まり、夜の「缶蹴りゲーム」とパーティの計画を立てていたが、ダークの周囲では奇妙な出来事が起こり始める……。若さゆえの疑念や不安、思春期の恋愛、SM、ドラッグ、カージャック、殺人、エイリアン誘拐——「ひどい一日だった」という最後のダークの呟き、まるで世界の終わりのような絶望に満ちた一言が観る者の想像を掻き立てる映像となっている。
『ドゥーム・ジェネレーション』同様、劇中歌にはスロウダイヴ、マッシヴ・アタック、ソニック・ユース、ケミカル・ブラザーズ、ブラー、ポーティスヘッド、マリリン・マンソン、レディオヘッド、スウェードなどのシューゲイザーやオルタナティヴロックなどの名だたるミュージシャンたちが楽曲を提供している。
ルシファーとメルが肩を組む写真が印象的なポスタービジュアルは、カラフルな色使いの場面写真から、デザインが凝ったシーンの多さを感じさせる。文字が一面に羅列された部屋で遠いめでたたずむのはバート、赤や緑のカラフルな部屋で電話をするのはメル、<GOD HELP ME>というサインの横で立つモンゴメリー、そして十字架を不思議そうに掲げ、星条旗を腰に巻いたダーク。愛を求める若者たちがカラフルな世界観で描かれる様子を感じさせる。
サンダンス映画祭が今、再評価する才能
2023年のサンダンス映画祭にて、このリマスター版が上映されると「今回の映画祭で見た中で最も大胆で素晴らしい映画は28年前に作られたグレッグ・アラキの『ドゥーム・ジェネレーション』だった。この作品はX世代の不安や焦燥感を描いた暴力的でエロティックな衝撃作だ」(Indiewire誌)と絶賛された。
『ドゥーム・ジェネレーション』は、1995年にサンダンス映画祭にてプレミア上映され、当時の常識を超えた性表現に、観客にも衝撃をもたらした。そこから約30年の時を経て2023年にサンダンス映画祭を主催するサンダンス協会が選出するフィルムアーカイブコレクションに『ドゥーム・ジェネレーション』『ノーウェア』が選出され、協会の支援も受けデジタルリマスターされた。このコレクションには、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)、『リアリティ・バイツ』(1994)、『セックスと嘘とビデオテープ』(1989)など、これまでサンダンスが生んできた名作が並ぶ。
『ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版』は11月8日(金)より、『ノーウェア デジタルリマスター版』は11月15日(金)より渋谷ホワイトシネクイントほかにて全国順次公開