【台湾散歩案内】“蒙古”なのに台北発祥⁉ 台北の焼き肉店『唐宮蒙古烤肉餐廳(タンゴンモングウカオロウツァンティン)』は食べ放題が魅力!
「蒙古烤肉(モングウカオロウ)」=モンゴル焼きは、知る人ぞ知る台北発祥の郷土料理。台北っ子が「あ、あれね〜」と微妙な表情を浮かべて懐かしがるような、ベタなB級グルメだ。
名前が「蒙古烤肉」になった由来とは?
「蒙古烤肉」は1951年、台北・新店溪(シンディエンシー)の焼き肉店で誕生。オーナーのコメディアン吳兆南(ウーヂャオナン)さんの考案だという。元々、料理名を付ける際、吳さんは出身地にちなんで「北京烤肉」にするつもりだった。しかし、当時の台湾は国民党が統治する戒厳令下の時代。敵対関係にある中国人民共和国の首都である「北京」の名前を、おおっぴらに掲げるのははばかられる。そこで、北京のさらに向こうにある「モンゴル」にしようと吳さんは考え、名前が「蒙古烤肉」になったという。というわけで「蒙古」とは関係ないのだけど、「蒙古烤肉」という名称でこの料理は今も親しまれている。
蒙古烤肉は値段も手頃なので提供する店は台湾各地に広がっていった。往年の勢いはないが、今も「台灣 蒙古烤肉」などで検索すれば、専門店を見つけることができる。
1976年開業の人気店
今回紹介する『唐宮(タンゴン)』は、昔ながらのコテコテな雰囲気を残す、地元の方おすすめの一軒だ。1976年開店の老舗で、2021年に火災で一度閉店したが、2024年9月に同じ場所で復活を遂げた。地元ニュースでも取り上げられる人気ぶりである。
最寄り駅は台北メトロの行天宮駅。3番出口を出てすぐ先に、おなじみの「マツモトキヨシ」の看板を掲げている建物がある。その脇に回り込み、やたら地味な通路奥から階段上って2階へ。いきなり順番を待つ行列の熱気に圧倒されることになる。ネット予約必至でしょうなあ。
調理人が鉄板で焼く様はプロフェッショナル! 焼き肉の食べ放題コース
メニューは食べ放題コース1本である。受付カウンターで示されたテーブル席へ向かう。広い店内にたくさんのテーブルが並ぶ様は、宴会場に紛れ込んだかのよう。席が決まったら、さっそく具材コーナーの長い列に、丼を持って並ぶ。順番が回ってきたら肉→野菜→調味料の順で丼に盛り付けていくのだ。肉は鶏、鴨、豚、ラム、牛の5種。
野菜は10種ほど。調味料が多彩で醬油、カキ油、生姜汁、料理酒、レモン水、パイナップル、唐辛子、おろしニンニク、ごま油、ラー油とあり、好みに合わせて具材にぶっかける。後ろから次々人がやってくるから、のんびり考えていると焦らされる。
それが済むと先に待ち受けるのが蒙古烤肉のハイライト、鉄板焼きコーナーである。
カウンターを挟んで幅1m以上ある丸い鉄板が湯気を上げ、周囲に3人の調理人が陣取っていた。カウンターに置かれた番号札入れから札を1枚選び、具をてんこ盛りにした丼に挟んでカウンターに置く。順番が回ってくると、調理人の1人が丼を受け取り鉄板で焼いてくれる。長い箸を動かしていい加減にやっているようにも見えるが、具材の配合は客ごとに違うし、それに具合よく火を通すのは技術がいる。さらに3人が同じ鉄板で、互いの具が混ざり合わないように作業する様はなかなかにプロフェッショナルで、思わず見入ってしまう。
炒め作業は数分で完了。焼き上がった具材を皿に盛り付け、丼に挟んでいた札の番号で「23(アーシィサン)!」などと現地語で呼ばれる。現地語がわからない場合は、炒めている調理人の手元から目を離さず、仕上がるのを確認して受け取るべし。
具材の配分と味付けは自己責任という部分もあるので、完成した焼き肉はおいしいときもあれば、まあまあかなというときもある。食べ放題だから、「次はこうしようかな」と再度挑戦して、自分にとっての具材の黄金比を見いだせばいい。
それから、この店ではもうひと品「酸菜白肉鍋(スワァンツァイパイロウグゥオ)」がついてくる。こちらは中国東北地方の鍋料理。細長い煙突を持った専用の器で、白菜の漬け物ベースで味わう鍋料理だ。台湾でも好まれて食されている。
こちらは豚、牛、羊の具いずれかが選べて、「蒙古烤肉」に行列している間にスタッフが用意してくれている。具だくさんのスープなのにペロリとイケてしまうのが恐ろしい。ゴマをふったパイ生地のパンも付いてくるのだが、これもなかなかの味。
このボリュームでおおよそ3500円(760元)、ランチ3000円(660元。祝日は760元)相当ですからねえ。「食ったるぜえ」といわんばかりの体格の良い男性客の姿がよく見受けられるのも当然か。古くからの常連さん風の客も多い。
復活した店内は、火災の痕跡もなくこざっぱりと全面改装されているが、テーブルクロスなどは懐かしい雰囲気がただよっているのが心地いい。地元感あふれる客筋に混ざっての食い放題はクセになる。
唐宮蒙古烤肉餐廳(タンゴンモングウカオロウツァンティン)
住所:台北市中山區松江路283號 /営業時間:11:30〜14:00・17:30〜21:30/定休日:無
取材・文・撮影=奥谷道草
奥谷道草
ライター
東京生まれ。MOOK『散歩の達人 台湾さんぽ』を執筆。都心部の道草散歩歴は半世紀あまり。月刊「散歩の達人」で独特のセンスと経験を駆使し、散歩ライターとして雑貨を中心に、喫茶・エスニックなどの企画を取材執筆。2010 年から台湾に夫婦でハマる。以後二人して中国語を学びつつ、主に首都台北をはみだし、各地方の魅力ある街あるきを模索散策。書籍は15 年『オモシロはみだし台湾さんぽ』、18 年に続編にあたる『もっとオモシロはみだし台湾さんぽ』を上梓。