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「自由に移動できない……」地方学生の悩みを解決!無料シェアサイクルに挑戦する大学生の取り組み

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第2回全国シェアリングシティ大賞で特別賞を受賞した(画像提供:NPO法人Colors)

大学生考案の無料シェアサイクルサービス「Pedal Share」

第2回全国シェアリングシティ大賞で特別賞を受賞した(画像提供:NPO法人Colors)

地方の移動格差をなくすために、NPO法人を立ち上げて活動している大学生がいる。

徳島県は公共交通機関の運行本数が少なく、運賃も高い傾向にある。移動手段が限られることで、学生の行動が制限されているのが現実だ。そこで、移動の不便さを経験した大学生が、学生が無料で自転車を貸し借りできるサービス「Pedal Share」を考案し、NPO法人Colorsを立ち上げた。

Pedal Shareのアイデアは、2025年5月12日に開催された一般社団法人シェアリングエコノミー協会主催の「第2回 全国シェアリングシティ大賞」で、「シェアx地域コミュニティ特別賞」を受賞。学生向けの無料サービスに加え、大学生が取り組んでいる点が高く評価された。

NPO法人Colors代表の松田明香里さん(左)と副理事の新居果怜さん(右)(画像提供:NPO法人Colors)

Pedal Shareサービスを考えたNPO法人Colorsの代表は、同志社大学2年生の松田明香里さん(2025年7月現在)。高校生のときにビジネスコンテストで受賞したアイデアをもとに、サービスの実現に向けて奮闘している。今回は、同じく同志社大学の2年生で副理事を務める新居果怜(にい かれん)さんとともに、NPO立ち上げの背景や現在の取り組み状況について話を聞いた。

ある会話がきっかけで生まれたアイデア

ビジネスプランピッチコンテストで賞を受賞(画像提供:NPO法人Colors)

松田さんと新居さんは、徳島県の高校に通う同級生だった。公共交通機関の本数が少ない徳島では、まだ免許を持たない学生は親の車に依存することが多く、自由な移動が制限されていた。

転勤族のため各地を転々としていた松田さんは、中学生のときに徳島に戻り、「東京だったら電車で自由にどこでも行けるのに」と、都会と地方の格差を感じていた。徳島で生まれ育った新居さんも、移動の不便を感じることは日常茶飯事だったという。

「最寄り駅で、親の迎えを1時間以上待つこともよくありました。休日に友だちとショッピングモールに遊びに行きたいときは、『あそこのお母さんにお願いしようか』という会話ばかりしていましたね」(新居さん)

移動の不便さを感じていたのは2人だけではなかった。あるとき、松田さんは帰宅時の最寄り駅で、ある高校生の会話を耳にした。

1人は自転車、もう1人は親に送ってもらったため自転車がない状態。少し離れた場所にあるお店に行こうと話していたものの、1人は移動する手段がない。2人は鍵がついていない自転車を見つけて「これが使えたらいいのに」と話していたという。

この会話がヒントになり、「自転車を使っていない間、貸し借りできたらいいのでは」と思いついた。

松田さんは高校の授業でアイデアを発表し、学校のすすめで、一般社団法人徳島イノベーションベースが主催する高校生向けのビジネスプランピッチコンテストに出場。みごと賞を受賞した。

このコンテストでは、徳島県庁の職員やアドバイスをくれるメンター、そして「協力したい」というアプリ開発会社の経営者との出会いがあった。さらに、周りの学生からの「このサービスがあれば使ってみたい」という声も、松田さんを後押しした。

こうして、松田さんはNPO法人を立ち上げることを決意。卒業を間近に控えた、高校3年生のタイミングだった。

自転車を有効活用する無料シェアサイクルサービスの仕組み

NPO法人の立ち上げには最低10人のメンバーが必要だったため、松田さんは現在通う同志社大学の学生や、徳島の友人に声をかけた。その中の1人が、同じく同志社大学に通う新居さんだった。ビジネスコンテストでメンターを務めた、徳島のまちづくりに取り組む一般社団法人SMASH ACTIONの藤川修誌氏も監事として加わった。

Pedal Shareのサービスは、専用のアプリを使って自転車の貸し借りを行う。

<貸す側>
①自転車を駅の駐輪場に置き、アプリで自分の身長や貸し出す時間などの貸出設定を行う。
②駅に設置されたチェーンボックスのQRコードを読み取り、専用チェーンを取り出して自分の自転車を施錠する。
③貸し出し終了時には、買い物などに使えるポイントが配布される。

アプリとチェーンボックスを活用して、自転車の貸し借りをする仕組み(画像提供:NPO法人Colors)

<借りる側>
①アプリで借りる自転車を選び、設定を行う。
②駅に設置されたチェーンボックスのQRコードを読み取り、専用チェーンの鍵を取り出して、開錠する。

Pedal Shareが既存のシェアサイクルサービスと異なる点は、学生が普段使用している自転車を使うことと、専用ポートの設置が不要なこと。そのため、管理費や人件費などのコストが抑えられる。

しかし、駅にチェーンボックスを設置するため、JRとの連携は欠かせない。松田さんたちは、まず小さく実証実験を実施。その際、JRの担当スタッフと話をして、協力を得られることになった。

サービスを実現させるために必要な資金は約400万~500万円。この資金は助成金の利用のほか、企業からの資金提供やクラウドファンディングも候補に挙がっている。

2025年7月と8月には、徳島大学と連携して実証実験を行う。実証実験を経て、資金調達ができ次第、正式リリースする予定だ。

サービスの開始はこれからの段階だが、現在はSNSで徳島県の店舗やイベント情報などを発信しながら、Pedal Shareの認知度を高めることに力を入れている。「シェアサイクルのサービスを開始したときに、自転車に乗って遊びに行ってくれたら」という思いで、発信を続けている。

地方の学生に選択肢を

オンラインで取材に応じてくれた松田さん(右上)と新居さん(右下)(画像提供:NPO法人Colors)

Pedal Share最大の特徴は、「無料」で利用できること。無料で貸し借りできることが、既存のシェアサイクルサービスと大きく異なる。使用していない間の自転車を有効活用するため、新たに自転車を導入する必要もなく、サステナブルな取り組みでもある。

ある大手シェアリングサービスが徳島に進出しようとしたが、利用者数が少ないため導入を見送ったことがあるという。しかし、「私たちのサービスは運用にコストがかからないから実現可能だ」と新居さんは語気を強める。

とはいえ、徳島県での利用者数が少ないのは事実。Pedal Shareも、まずは徳島で実装し、似た課題を抱えつつも人口が多い岡山県などに進出することも検討している。

Pedal Shareのサービスが実現すれば、今は「交通手段がないから」と諦めている学生の選択肢が増える。交通手段がなく、今までは行けなかったカフェやレストランなどのお店に行けるようになることで、経済効果や地域活性化の効果も狙えるのだ。

「『Pedal Shareがあるから行けるね』と、学生の生活に溶け込むようなサービスになったらいいなと思います」(松田さん)

「Pedal Shareで地域に出かけることで、地元愛も深まってくれればいいですね」(新居さん)

今後の目標を訪ねると、「まずは学生のうちにサービスを実現させること」と2人は声をそろえた。さらに、松田さんは「持続可能なビジネスの体系を築いていきたい」と言う。

「今は助成金などに頼っていますが、今後は自分たちだけで続けていけるようなソーシャルビジネスにしていきたいと考えています。自ら収益を生み出し、継続できるよう戦略を練っているところです」(松田さん)

今後は、アプリ内の広告収益やアンケートの代行業務などで収益を出していく予定だ。「やらない後悔より、やる後悔」がモットーという松田さん。現在は、Pedal Shareの他のビジネスも考えており、学業も加わって大忙しだ。とはいえ、松田さん、新居さんともに気負っている様子は見られず、「楽しいからやっている」と笑う。若いパワーと柔軟なアイデアで、軽やかに駆け抜けていくだろう。

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