「認知症の進行防止に運動は効果なし」って本当?予防に必要な運動と安全に続けるコツを解説!
認知症に運動は効果なし?その真偽と科学的根拠を解説
「認知症予防に運動は意味がない」という情報を目にして、不安を感じていませんか。実際には、多くの研究が運動の有効性を示しています。ここでは科学的根拠に基づいて、運動と認知症の関係を詳しくみていきましょう。
有酸素運動で認知症予防は可能?最新研究が示す効果とは
「運動をしても認知症は防げない」という情報を耳にしたことがあるかもしれません。しかし、近年の研究結果は、有酸素運動などの習慣が認知症リスクを下げる可能性を示しています。
日本神経学会が発表した『認知症疾患診療ガイドライン2017』では、定期的な身体活動が認知症やアルツハイマー病の発症率低下と関連し、積極的に取り入れることが推奨されています。
実際のデータを見ると、週3回以上の中等度の運動で認知症リスクが有意に低いとする報告があり、一部の研究では「約半分」まで低下すると示唆されているものもあります。ただし研究間で差があるため留意が必要です。
さらに国内での調査では、90分の多要素運動(ストレッチ・筋力・有酸素)を週2回・約12か月継続したことで、記憶や全般認知の維持・脳萎縮進行の抑制効果があったと報告されました。
運動の効果は長時間でなくても現れます。米国ボストン大学の研究では、息が弾む程度の運動を短時間であっても毎日行うだけで認知機能の維持に効果があると報告されています。
こうした科学的知見を受けて、厚生労働省は健康・フレイル・転倒予防の観点から運動を積極的に取り入れるよう示しています。
認知能力の向上に運動が効果的な理由
運動が脳によいと言われるのは、多くのメリットがあるからです。
身体を動かすと心肺機能が高まり、脳への血流や酸素供給が増えることで神経細胞の働きが保たれます。脳が正常に活動するには、たくさんの酸素と栄養が必要です。肺は体に酸素を取り込み、心臓は酸素や栄養分を含んだ血液を循環させる役割を担っています。
日頃から積極的に運動することによって心肺機能が高まれば、脳に酸素や栄養がよくいきわたるようになり、脳の働きが保たれます。
また運動すると、神経細胞を活性化する物質がより多く分泌され、認知機能向上を後押しします。身体が動くことで感じた感覚(触覚、平衡感覚など)は脳に伝えられ、神経細胞が活発に働くのです。
一方、運動不足は高血圧や糖尿病など脳血管を傷つける生活習慣病を招きます。高すぎる血圧によって脳血管が破裂して脳内出血が起きたり、動脈硬化によって脳梗塞が起きると、脳への酸素供給が行われなくなり、神経細胞が大きなダメージを受けてしまいます。
そのとき、記憶や認知に関わる脳領域が障害されると、後遺症として認知症が生じることがあります。つまり、運動不足は高血圧や糖尿病のリスクを高め、結果として脳血管性認知症の危険因子になりうるという点からも、日常的に体を動かすことが認知症の予防につながると言えるでしょう。
さらに有酸素運動で海馬体積が増加したとするRCT(ランダム化比較試験:運動するグループとしないグループを比べた研究)があり、加齢に伴う脳萎縮を緩やかにする可能性が示されています。定期的な運動は加齢による脳の変性を緩やかにすると考えられます。
このように運動には多方面から脳を健やかに保つ作用があり、結果的に認知能力の維持・向上に寄与します。
「効果がない」と感じる理由と誤解されやすい背景
一方で、「運動なんて認知症予防に効果がない」と感じてしまう背景には、効果の現れ方や誤解があります。
まず理解しておきたいのは、運動の効果は認知症の段階によって異なるという点です。運動は認知症の発症リスクを下げる効果が科学的に認められていますが、すでに認知症を発症した方の進行を遅らせる効果については、まだ明確なエビデンスが十分ではありません。
例えば、英国の大規模試験(DAPA研究)では、中等度認知症の方に対する運動介入で体力は向上したものの、認知機能の低下速度に明確な改善は見られませんでした。
しかし重要なのは、運動の目的を正しく理解することです。運動は認知機能向上に寄与し、認知症の発症を防ぐ予防策として有効であり、すでに発症した方にとっても体力維持や生活の質の向上につながります。
認知症は長年にわたって進行するため、運動の効果も短期間では実感しにくく、目に見える変化がないと「効果がない」と誤解されがちなのです。
また、運動の継続不足や強度不足の場合にも「効かない」と感じることがあります。正しい続け方ができていないか、効果が表れるまでに時間がかかっているだけかもしれません。
高齢期には、サルコペニア(筋肉量や筋力の低下)や、骨・関節・筋肉・神経などの機能低下により運動機能が低下するロコモティブシンドロームになりやすくなります。
これらの要因が進行し、心身が衰弱して日常生活や社会参加が困難になってくると、それは「フレイル」と呼ばれる、要介護状態になる一歩手前の段階とされます。
こうした観点からも、運動は正しい方法で継続すれば認知症予防に効果があると言えます。
認知症予防トレーニングにおすすめの運動
認知症予防に効果的な運動には、さまざまな種類があります。ここでは、日常生活に取り入れやすく、無理なく続けられる運動をご紹介します。自分の体力や生活スタイルに合った運動を選んで、楽しみながら継続していきましょう。
認知症予防のための有酸素運動のポイント
認知症予防にはまず有酸素運動が基本です。ウォーキングや軽いジョギング、サイクリングや水中運動など、自分に合った有酸素運動を生活に取り入れましょう。
ポイントは「息が弾む程度」の中等度の強度で行うこと。会話はできるが歌うのは難しいくらいの強度が目安です。
例えば1日10分を3回に分けて歩くことから始めても構いません。米国の研究でも1日わずか10分程度の運動でも効果があると示されており、少しでも体を動かすことが大切です。
運動は激しいものである必要はなく、通常のウォーキングなど中強度の運動でも、脳に良い影響があらわれます。もっとも危険なのは、まったく運動を行わないことです。慣れてきたら徐々に時間を延ばしたり強度を上げてみましょう。
また、自分が楽しいと思える運動を選ぶことも継続のポイントです。音楽に合わせて体を動かしたり、景色を楽しみながら散歩をするなど前向きに取り組める工夫をしてみてください。
無理のない範囲で継続することが最も重要なので、天候が悪い日は室内で足踏みに変更する、いつもの買い物ついでに遠回りして歩くなど日常に組み込みやすい形で実践してみるのも有効な手段のひとつです。
高齢者でもできる筋力トレーニング
加齢に伴い筋肉や骨が衰えると(サルコペニア・ロコモティブシンドローム)、動くのがおっくうになり家に閉じこもりがちになります。
その結果、社会的に孤立したり意欲低下を招き、それ自体が認知症の大きなリスク要因となります。こうした悪循環を防ぐためにも、足腰を中心に筋力を維持することが大切です。
高齢者でも無理なくできる筋トレとしては、椅子からの立ち上がり動作(スクワット)がおすすめです。ゆっくり立ち座りを繰り返すだけでも太ももやお尻の筋肉を鍛えられ、歩行や起立に必要な筋力アップにつながります。
そのほか、壁やテーブルに手をついての腕立て伏せ、かかと上げ(つま先立ち)、ゴムバンドを使った腕や足の曲げ伸ばし運動なども効果的です。ポイントは週に2~3回程度を目安に継続することです。
ジョギングやウォーキングなどの有酸素運動と筋トレの両方を組み合わせることで心肺機能と筋力の両面を鍛えることもでき、転倒防止や要介護予防にもつながります。体調に留意しながら、できる範囲で筋力トレーニングにもチャレンジしてみましょう。
コグニサイズや口腔体操などのトレーニング
認知症予防には「頭」と「体」を同時に使うトレーニングも効果的です。これらの代表的なものがコグニサイズです。このプログラムは、国立長寿医療研究センターによって開発されました。軽く息が弾む程度の運動と、計算やしりとりなどの認知課題を同時に行うことが特徴です。
具体的には、以下のような運動を行います。
ウォーキングしながら数を数える
踏み台昇降をしながらしりとりをする
体を動かす効果に加えて脳への刺激が高まる運動によって、認知機能が維持・改善されることへの有効性が報告されています。運動にゲーム性をもたせるなど工夫をすると、運動が楽しくなり長続きしやすくなるでしょう。
また、口腔体操(お口の体操)も高齢者にはおすすめです。口や舌の周囲の筋肉を動かす体操で、噛む力・飲み込む力・話す力といった口腔機能を鍛えます。
例えば、口を大きく開けて「パ・タ・カ・ラ」と発音する体操は、滑舌の改善や嚥下機能の向上に役立ちます。
口や舌を使う刺激が脳の活動を促すため、噛む・飲み込む・話す等の機能改善に有用です。認知機能への直接的効果については現在研究が進められている段階ですが、話す機能を維持したり、咀嚼機能を維持することで長く好きな食事が楽しめたりと、生活の質を豊かに保つことに役立ちます。
これらの運動や体操は道具なしで自宅で手軽にできるのが特徴です。遊び感覚で楽しみながら、予防効果を高めていきましょう。
運動を継続するための工夫と効果を高めるコツ
運動が認知症予防に効果的とわかっていても、続けられなければ意味がありません。ここでは、運動を無理なく習慣化するための工夫や、安全に継続するためのポイントをご紹介します。
無理なく続ける「ちょこっと運動」
認知症予防のカギは運動を「無理なく継続」することです。最初から長時間や激しい運動をする必要はなく、1日数分でも良いので体を動かす習慣をつけましょう。
例えばテレビ視聴の合間に立ち上がってストレッチをする、家事の合間にスクワットを5回してみる、買い物のときは遠回りして歩くといった「ちょこっと運動」を積み重ねるだけでも大きな効果があります。
実際、国外の大規模研究では座りっぱなしの時間が長いほど認知症のリスクが高まることが報告されています。定期的に立ち上がったり、ストレッチをしたりと普段から「座りすぎないこと」を意識しておくことが重要です。
運動は激しいものである必要はなく、通常のウォーキングなど中強度の運動でも、脳に良い影響を与えることが期待できます。たとえ短い運動でもコツコツ続ければ将来の認知機能低下予防につながっていくでしょう。
家族や仲間と一緒に楽しむ運動で継続力アップ
一人では続けにくい運動も、家族や仲間と一緒なら楽しく続けられる可能性が高まります。
仲間とおしゃべりしながら歩く
歩数を数えながらウォーキングする
ビデオや動画サイトなどを活用し、家族と一緒に体操する
地域のシニア向け運動教室や介護予防教室に参加する
こうした社交的な運動は互いに励まし合えるので挫折しにくく、気分転換やストレス解消の効果も高まります。
なお、人と一緒に体を動かすことは社会的孤立の解消にもつながり、心の張り合いが生まれるほか、互いの体調に気づけるため安全面でも役立ちます。
人と関わること自体が認知症予防効果を持つため、運動と交流を兼ねた一石二鳥の時間になるでしょう。「楽しいから続く」環境づくりこそ、運動習慣を長持ちさせるポイントと言えるでしょう。
安全に運動を継続するための工夫
運動を行う上で、以下のようなポイントに注意しましょう。
安全面への配慮 高齢者は転倒・ケガのリスクがあるため、まず運動前後には十分な準備運動と整理運動を行いましょう。 筋肉をほぐし関節を慣らすことで怪我を予防できます。 水分補給 運動中は喉の渇きを感じる前にこまめな水分補給を心がけ、特に夏場は熱中症にも注意が必要です。 環境整備 自宅で運動する際は床の滑りやすさや障害物に注意し、屋外では段差や車に気をつけましょう。 認知症の方の場合、転倒のリスクは健常者の約2~3倍にも上るとの報告があるため、 必要に応じて手すりや杖の使用、見守りなども検討してください。
また、調子が悪い日は無理せず休むことも安全管理の一部です。「頑張りすぎない」ことも継続には重要で、運動のしすぎはかえって筋力低下やケガ、体調不良につながるため注意が必要です。
過剰な運動はかえって筋力低下やケガ、体調不良の原因となります。目標を達成したら早めに切り上げることも心がけましょう。
最後に、持病のある方は開始前に医師に相談し、自分に合った運動量を事前に確認しておくと安心です。安全対策を万全にしつつ、無理なく運動を楽しみながら長く続けていきましょう。
まとめ
「認知症予防に運動は効果がない」という情報には一部誤解があります。多くの科学的研究が、有酸素運動を中心とした適度な運動習慣が認知機能向上に役立つことを示しています。
定期的な運動を週3回以上行う高齢者は、全く運動しない人に比べてアルツハイマー型認知症になる危険性がおよそ半分になるというデータもあります。
ただし、運動の効果は認知症の段階によって異なります。運動は認知症の発症を防ぐ予防策として有効ですが、すでに発症した方の進行を遅らせる効果については、まだ明確なエビデンスが十分ではありません。
それでも、体力維持や生活の質の向上には確実につながります。1日10分程度の短い時間でも認知症リスク低下に効果があると報告されているため、無理なく続けることが何より大切です。
認知機能向上のためだけでなく、健康を維持するためにも、家族や仲間と一緒に楽しみながら、安全に配慮して運動を継続しましょう。無理のない運動を日常生活に取り入れることから始めて、少しずつ習慣化していくことが認知症予防への一歩となっていくでしょう。