介護と仕事の両立|「介護離職」を防ぐために何ができるか
「仕事と介護の両立」を考えることがお互いの幸せに繋がる
本日のお悩み
親の介護のため仕事を辞めるか悩んでいます。
一方、ここで仕事を辞めてしまうことに対して不安もあります。介護と仕事の両立について工夫すべきことなどがあれば教えてください。
執筆者/専門家
大関 美里
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/13
親御様の介護と、仕事の両立について悩まれているとのこと、大変な状況に直面されていると思います。この問題は、今後の日本においてさらに多くの方が抱える、共通の課題でもあることと思います。
介護と仕事の両立のポイントや支援策、そして最近の国の施策に基づいて、自身の体験談も踏まえ、回答とさせていただければと思います。少しでもご質問者様の一助になれば幸いです。
筆者の「介護離職」経験から
ー祖父の介護が必要になった20代、先のことは考えず在宅介護に踏み込んだ
まず、私の経験からお話をさせてください。
家族の介護が必要になったのは、20代の頃でした。介護職をしていたとき、祖父の介護が必要になり、「介護離職」をして他県にある実家に戻ったのです。「仕方なく…」というわけではなく、祖父が大好きで大切だったので「私が介護する!それ以外の選択肢はない」という強い思いで在宅介護を始めました。
その頃は「介護離職」という言葉もありませんでしたし、同じような状況の人もあまり居なかった(目につかなかっただけかもしれません)ので、何かを参考にしたり、相談するなどもせずに決めたことでした。今考えると非常に視野が狭くなっていたと思います。一切、自分のキャリアや祖父の介護の後の人生のことは考えていませんでしたから…。
ー1人で抱え込む介護の結果、うつ状態に
その結果、介護中は夜も続く排泄介助で睡眠不足になり、自分の気持ちの整理やストレスへの対処がうまくできないまま拗らせてしまい、うつ状態となりました。
介護職だった自分なら、ちゃんと介護できるだろう、という想いのみで臨み、何とか自宅で看取りはできたものの、満足する介護ができず後悔が残ったのです。
ー残ったのは、介護の質や自身のキャリアに関する後悔
今考えると、介護のプロの力を借り、一人で抱え込まなければ、もっと美味しいものを食べてもらったり、綺麗な景色を共に見る時間を作れたりしたかもしれないと思っています。
まあ、結論として自分の「介護したい」という気持ちは果たせましたが、看取りの後、新しいキャリアを考え、仕事に戻るまでには時間もかかりましたし、紆余曲折しました。
これはまだ20代だったから「時間がかかった」だけで済んでいるのではないかとも思っています。
ー「満足できる介護」は難しくても、「介護と仕事の両立」を考えることは大切
どんな形でも「満足できる介護」というものは少ないかもしれません。
「家族の介護」という、想定外の偶然の出来事が起きたとき、どう対処するのかは個人の価値観によるものだと思います。しかし、自分の仕事を含めた人生、キャリアを考えると、「仕事と介護を両立して考えていくこと」を模索することが、結果お互いの幸せにもつながるのではないかなと今は思っています。
介護と仕事の両立について考える
介護をしつつ、仕事を続ける意義
そこを踏まえ、改めて「仕事を続ける意義」について押さえておきたいのですが、仕事を続けることにはやはり多くのメリットがあります。
経済的な安定はもちろん心の安定につながりますし、社会とのつながりが保たれることも大きな要素です。
仕事を通じて得られる社会的役割の維持は、介護者自身のメンタルヘルスにも良い影響を与えますし、介護に追われる中でも、仕事を続けることで自分の時間を確保する、という意識と習慣が保たれることで、心のバランスを保つことにもつながります。
不躾な言葉になりますが、介護は一度はじまると、いつ終わりが来るかは予想ができません。目安となる介護が必要になるであろう年数(平均寿命から健康寿命をひいた年数)は、日本では10年以上となります。※
もしも10年以上介護生活が続いた場合、経済的、肉体的、精神的な負担が増えることはご想像の通りかと思います。そうした状況を、家族は本当に望んでいるか、という未来からの視点でも、考えていただくことをおすすめします。
出典:厚生労働省「平均寿命と健康寿命の推移」
日本における介護と仕事の両立状況
では、「今の日本の現状はどうなのか」というと、やはり介護と仕事を両立している方は増えています。2022年に総務省統計局が行った調査によると、約365万人の労働者が介護をしながら仕事をしているとされています。この数字は全体の労働者の約5%で、年々増加傾向にあります。※
また、同調査によると、介護を理由に毎年約10万人が離職しているとされ、特に女性の離職率が高いことが問題となっています。このことから、現在の日本では多くの人が介護と仕事の両立に直面していることがわかりますが、両立の難しさもまた現実です。さらに、制度の整備や利用促進が進められているものの、まだ十分に活用されていないという現状もあります。
出典:総務省令和4年就業構造基本調査
介護と仕事の両立を行うためにできること
介護と仕事の両立を支援する国の施策
それでは、国の施策ではどうかというと、以下のような制度があります。
1.介護保険制度
2.介護休暇制度
3.短時間勤務制度
4.テレワークの推進
1.介護保険制度
親族が介護を必要とする場合、1人につき分割して3回、通算して93日までを上限とする休業が取得可能です。休業中も要件を満たす場合、一定の給付金が支給されます。短期的な介護の必要性に対応しつつ、経済的な不安を軽くすることができます。
2.介護休暇制度
年5日(対象者が2人以上の場合は10日)の介護休暇が取得可能です。この制度を活用することで、突発的な介護ニーズに対応できるため、仕事への影響を軽減して介護を行うことができます。
3.短時間勤務制度
短時間の勤務に切り替える、フレックスタイム制度を利用する、時差出勤の制度を用意するなど勤務時間を調整できる制度です。これにより、仕事と介護のバランスを保ちやすくなります。
4.テレワークの推進
コロナ禍を契機に、多くの企業がテレワークを導入しています。
自宅で仕事ができる環境が整えば、介護と仕事の両立が行いやすくなります。テレワークは特に、通勤時間を介護に充てることができるため、介護サービスとのスケジュールが組みやすい利点があります。
これらの制度がご自身の会社では、どのくらい活用されていますでしょうか?
ご状況に合ったものを活用することで、仕事を続けながら介護に対応できる可能性が高まります。
職場とのコミュニケーション
また、介護と仕事の両立を成功させるためには、職場との良好なコミュニケーションが必要です。
自分が置かれている状況や、必要なサポートについて上司や人事担当者に相談しておくことは可能そうでしょうか?多くの企業は、社員が直面する介護の問題に対して柔軟に対応する姿勢を持っています。遠慮せずに、正直な気持ちを伝えることが、両立の第一歩です。
介護サービスの利用
ご自身ですべての負担を抱え込む必要はありません。介護サービスやデイサービス、ショートステイなどの外部支援を積極的に活用しましょう。
これにより、大きく負担を軽くすることができます。また、介護認定を受けていない場合は、地域包括支援センターなどに相談し、必要なサービスを受けるための手続きをサポートしてもらいましょう。一人で抱え込むよりも、プロの力を借りてチームで行えることが、介護される側にとっても良い場合があります。
家族や周囲の協力
介護は一人で抱え込むのではなく、家族や周りの人の協力も大切になります。
兄弟姉妹や親戚、あるいは近隣の友人に相談し、サポートをお願いすることも検討しても良いと思います。家族会議を開き、介護の役割分担や今後の方針について話し合うことも重要です。これにより、自分一人に負担が集中せず、適切な支援を受けることができます。
介護者自身の健康管理
介護をする上で、介護者自身の健康管理は一番大切なポイントです。どうしても睡眠時間や休息を削りやすくなる環境のため、まずは自身の睡眠時間やリフレッシュの時間をスケジュールに組み込むことをお勧めします。
心身ともに健康でなければ、介護を続けることは困難になります。また、必要に応じてカウンセリングやサポートグループに参加してみるなども、ストレスを軽くすることにつながります。
どうかご自身のケアを蔑ろにはしないでください。
最後に:適切なケアや制度を活用し、自分らしい介護をおこないましょう!
最後に、どうしても仕事と介護の両立が難しい場合、そしてご質問者様の「家族の介護は自分がしたい」というお気持ちが強い場合には、仕事を辞めるという選択肢も考えられると思います。ですが、その際にはこれまでお示ししたような経済的な影響や、将来的のキャリアへの影響を十分に考える必要があります。
介護と仕事の両立は決して簡単に進むことではないかもしれませんが、適切な支援や制度を活用し、職場や家族との協力を得ることで、両立していくことは可能です。何よりも大切なのは、自分らしく生きるための自由を持ちながら、介護者自身が健康であり続けることです。
まずは、ご自身の状況と優先順位を見極める時間を取られてみてください。
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