誰もが活躍できる働く環境とは? 北海道の具体的な取り組みを紹介
職場環境の良し悪しは社員の仕事に対するモチベーションに大きく影響するものです。生産性や社員の働きがいにも直結する職場環境をどのように改善していけばいいのでしょうか?
今回は、働きやすい職場づくりへのポイントや、実際に企業が行っている取り組み事例などについて紹介します。
「誰もが働きやすい環境」って何?
社内の誰もが働きやすいと感じる職場の実現を目指したいけれど「どこが問題なのか分からない」という根本的な悩みの声も多く聞かれます。
同じ課題でも、異業種の方とディスカッションをすると、自社のそれとは全く異なる視点から課題を捉えている場合があり、その違いが非常に参考になることも。
『自社だけでは気づけない自分の会社の良いところ・改善点を見つけ、会社の魅力に繋げたい』
これまでとは切り口の異なる気づきを得るために、異業種間での職場視察交流を開催されました。
建設業×放送局 異業種間で職場の視察交流
2024年10月17日、誰もが働きやすい環境と女性の活躍推進を目的に、戸田建設株式会社・札幌支店とHTB北海道テレビ放送が、相互に職場見学を行い、意見交換を行いました。
HTBからは、私(森さやか)を含むワークライフバランス・ダイバーシティ推進メンバー2人が参加。高速道路の橋梁を大規模にリニューアルする戸田建設の工事現場や、作業の拠点となる事務所の見学とともに、皆さんの働き方や考えを伺いました。
働く上での悩みや課題・働きがいについて意見を交わすと、業界ならではの特色に驚くことも!また共通点を見出すことで、共に北海道で働く仲間意識も芽生えました。そして何より、自社の魅力の再発見にもつながりました。
建設業界が抱える課題
従来、建設業は、環境的にも体力的にも男性社会のイメージが強く、女性が活躍するのは困難というイメージを持たれていたことは否めません。
建設業の現場で活躍する技術者・技能者全体で女性が占める割合は約3%。
また、従事者の高齢化が進行し、若年入職者が減少するという構造的な問題にも直面していて、技術や技能に優れた担い手の育成・確保が課題になっています。
建設業で活躍する女性の技術者・技能者が増えることは、こうした問題にも相応の効果をもたらすものと考えられています。
例えば,女性が活躍することで、多様な視点から長時間労働など、これまで解決することができなかった様々な問題についても工夫が生まれ、効率的でより快適な職場環境の創出につながることが期待されます。つまり、これまで以上にいきいきと女性が活躍できることは、男女を問わず誰もが働きやすくなることを意味し、業界全体にも新たな活力や刺激をもたらすことが期待されています。
建設業の担い手不足を切り抜ける!切り札は「女性の視点」
建設業ならではの「働き方の難しさ」を抱えながらも、人材不足が危機感を持って迫る中、「女性活躍」の切り口を通じて、ダイバーシティの姿勢や戦略のもと、現場で進められる具体的な取り組みが注目を集めています。
「けんせつ小町」の愛称をもつ、建設業界における女性の就労環境の改善を目的とした取り組みの一端として、戸田建設札幌支店では2018年に「ぽろ小町」を発足しました。
技術職・事務職関係なく集まったメンバーで、誰もが働きやすい職場づくりを目指して活動しています。
話を伺う中でなるほど!と、大いに共感した改善事例が「トイレ改革」です。
建設現場の事務所では、プレハブの建物の中にトイレがあることが多く「音が気になる」という声が多かったといいます。そこで「トイレの位置が配慮されているか」「消音装置が付いているか」など、細やかに現場トイレをチェックし、なかなか言い出せなかった女性スタッフの要望や意見を取り入れていくことで、現場の環境改善を行ったといいます。
「ぽろ小町」の活動に取り組む近藤郁子さん(札幌支店・管理部建築管理グループ主任)は、他業種との交流を通して、表面化していない課題がみえるようになったと言います。
「自社だけでは発想が至らなかった改善点に気づくことができました。変えられるところから変える努力をしようという想いが今の活動に繋がっています。女性社員の声に耳を傾け、ひとつひとつ解決していきたい。目の前にある小さな一つの悩みに向き合うことが、我慢をしない働き方の実現に一歩近づくと実感しています。それが、女性だけでなく男性にとっても、誰もが働きやすさとやりがいを感じられる職場になるのだと思います」と、話してくれました。
単身赴任者の帰宅旅費手当にもジェンダーの視点を
施工管理の仕事は、どの工事を担当するかによって働く場所が変わります。受注した工事が年単位で行われるため、1~2年のサイクルで勤務地が変わることもあるそうです。
また、災害などにより緊急の復旧支援が必要な際、急遽派遣されるケースもあるといいます。転勤が必然的に多くなる職種でもあることから、戸田建設では単身赴任者には帰宅旅費などの手当がありますが、2021年12月にLGBTQの同性パートナーシップ制度が導入され、異性婚と同様に同性パートナーも社内制度を利用できるよう改訂したと聞き驚きました。
さらに、今年度には同性パートナーも土健保(健康保険)に加入できるようになったそうです。
また、トランスジェンダーの方のために、ビジネスネームの利用制度もあるのだそうです。一歩進んだ取り組みに、非常に感銘を受けました。
戸田建設のように、性的マイノリティの当事者が福利厚生制度を利用しにくいということがないよう、見直しを行う企業事例が日本国内でも広がっています。
就業規則を改定し配偶者に関する記述を「配偶者またはパートナー」に変更したという事例や、結婚祝い金・弔慰金・慶弔休暇の適用などの事例もあります。
従業員が福利厚生の各種制度を利用する場合に、申請方法や情報の取扱い、情報を知りうる人の範囲について配慮するなど、意図せざるカミングアウト(またはアウティング)につながらないような手続き方法の見直しなども必要で、誰もが働きやすい職場環境の実現にはLGBTQの視点も必要だと改めて考えさせられました。
女性の意見も取り入れた「環境づくり」の工夫
工事現場の責任者である作業所長は、工事現場の近くに設置される事務所の設備や環境づくりにも手腕を発揮されるのだそうです。視察させて頂いた事務所は、入口にはデジタルサイネージが設置され、音楽とともに明るい雰囲気を生み出しています。書類作成などデスクワークのための事務作業部屋は、温かみのあるサイドボードや装飾でアットホームな空間に。打合せ用の部屋は、おしゃれな壁紙や照明器具でまるでカフェのようで驚きました。
夜間工事を行う場合にと設けられている仮眠室もゆったり過ごせるようなスペースとなっていました。近年、現場で働く女性が増えているため、更衣室は男女別に1階と2階に分けて設置することで音など気になる点にも配慮したといいます。シャワー室やトイレ、洗濯機なども更衣室にそれぞれ設置されていました。
作業所長の木下真二さん(札幌支店・土木工事部工事室上席主管)に、こうした事務所の環境づくりや工夫に至った経緯を伺いました。
「大規模工事など工期が長い場所でも、快適に過ごしながら、コミュニケーションがとりやすい環境づくりを心がけています。前勤務地だった大阪で“現場で汗をかいたまま通勤電車に乗るのは抵抗がある”などの女性社員の声を耳にし、ハッとしました。シャワー室の設置や、洗濯機を男女別にそれぞれ用意する必要性など、これまでの勤務地での経験や「気づき」を一つずつ改善につなげていった結果が今の現場にいかされているのだと思います。」
女性社員の声に耳を傾け少しでも快適に働いてもらいたいと工夫を重ねてつくられた環境は、これまでの建設現場のイメージを大きく覆すような驚きがたくさんありました。
「建造物の完成は、自分が関与したことに誇りを感じることが出来る瞬間」だと皆さんおっしゃるように、私たちの生活に欠かせない道路・橋梁・トンネルの建設は、どれも社会インフラを支える魅力のあるお仕事だと思います。
人の流れや交通量のコントロールなど町づくりの視点からも必要不可欠な道路整備。私たちの生活を支える建設業の現場で活躍する皆さんの笑顔を、ぜひ多くの方にも知ってほしいと思いました。
職場交換視察での気づきを、自社の未来に
近年女性の割合も増えていますが、放送界も女性が少ないと指摘される業界の一つです。
女性も活躍できる職場環境を目指すためには,女性を受け入れる企業や業界、社会の意識や取組みが抜本的に変わらなければなりません。また,実際にそうした業種への女性の入職や参画が進まなければ,企業や社会の意識も変わっていかないと思います。
我々が訪問した翌18日(金)には、今度は戸田建設から4名の社員がHTBを視察に訪れ、スタジオや副調整室の他、屋上アンテナなど放送設備をご案内しました。
意見交換会では、放送・ITシステム部の対馬志保さん(HTB)を交え働き方などについて意見を交わすと、子育てと仕事の両立に関する悩みや、社内の意識改革や社外コミュ二ティーの重要性など様々な意見があがりました。
「業界に関わらず、働く女性が抱える悩みや課題は共通している部分が多いことを実感しました。他社の方と交流する機会がほとんどなかったので、とても刺激をもらいました。」と対馬さん。互いに新たな気づきを得られる機会となりました。
職場のエクイティのために 働く女性をエンパワーする
今回の職場視察交流を通して改めて感じた「誰もがやりがいをもって働く」ためのキーワード3つがこちらです。
「働き続けられる職場環境をつくる」
「スキルアップできる環境を整える」
「活躍の姿を広く社会に発信する」
やりがいを感じながら働くことができるようにするには「働き続けられる」という基本的な労働環境整備に止まることなく、登用や技術及び経験の向上など意欲や充実感を高めることのできる環境を整備する必要もあります。そして、女性も活躍しているフィールドを社会の目に触れる機会を増やすことが必要です。社内研修などスキルアップを後押しする制度や、異業種交流の機会を増やしキャリアプランについて考えるきっかけをつくることも、将来的な目標をイメージする大きな一歩になると考えます。
女性社員や女性役員が増えることも重要ですが、女性といっても男性的な思考をする人もいれば、様々です。育児、介護などケアワークへの関わりによっても立場は大きく異なります。そのうえで、多様な考えを持つ人材・女性を積極的に登用することが、幅広い視点を提供する土台となるのだと思います。
エクイティに重点を置いた視点と行動が必要です。男女格差の壁を打ち破るために、働く女性をエンパワーすることは、個々の従業員が公正に扱われる職場づくりに繋がるのではないでしょうか。