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“世界で一番新しい音楽を共に――春アニメ『クラシック★スターズ』内田雄馬さん(ベートーヴェン役)×伊東健人さん(モーツァルト役)×安部 瞬さん(ショパン役)×石毛翔弥さん(リスト役)声優座談会

アニメイトタイムズ

写真:アニメイトタイムズ編集部

2025年4月5日よりTOKYO MX・BS11にて放送中のTVアニメ『クラシック★スターズ』。偉大な音楽家たちの「ギフト(才能)」を体内に移植された少年が仲間たちと出会い、音楽の魅力に触れながら、コンテストでの優勝を目指す姿を描いたオリジナルアニメーションです。UNISON(アリア・エンターテインメントのオリジナルコンテンツ制作ブランド)とキングレコードが原作を手掛け、音楽はElements Gardenが、アニメーション制作はプラチナビジョンが担当しています。

3月上旬に開催された、第1話・第2話の先行上映とトークイベント直後の熱が残る中、内田雄馬さん(ベートーヴェン役)、伊東健人さん(モーツァルト役)、安部 瞬さん(ショパン役)、石毛翔弥さん(リスト役)の4人にインタビュー。作品への手応えや、お互いの芝居・音楽へのリスペクトを教えていただきました。

 

 

【写真】春アニメ『クラ★スタ』開幕に寄せて――内田雄馬×伊東健人×安部 瞬×石毛翔弥 声優座談会

この4人が“音楽家”になった理由

──クラシックをテーマにした本作にご出演が決まった時の率直なお気持ちを教えてください。

ベートーヴェン役・内田雄馬さん(以下、内田):クラシックというテーマに敷居が高く感じてしまう人もいるのではないかと思ったのですが、今回の作品では、そういうクラシックの巨匠たちの音楽が、現代の音楽のベースになっていて、そこから今の音楽に繋がっている……本当にルーツや流れを大切にされている作品なんだなと伝わってきました。いろいろな人に聴いて、観てもらいたいなと思いましたね。とっと(伊東さん)はどうでしたか。

 

 
モーツァルト役・伊東健人さん(以下、伊東):僕は作品の概要を読んだ時点で「これは絶対に俺だろう」って思ってました(笑)。オーディションではセリフと歌の課題があったんですが、最初の段階はわりと自由で、好きな楽曲でOKだったんです。だから得意ジャンルじゃなくても挑戦できるスタイルで。そのときの気持ち的にモーツァルト狙いだったと思うんですよ。その時に出したのが、ミュージカル『モーツァルト!』の代表曲「僕こそ音楽」だったので。あれをアカペラで出したときから、俺だあ!って思っていました。

未だに覚えているんですけど、結果的に役が決まったのが年末で、最高の気分で年を越すことができました(笑)。それが2023年の話なんですけども。最終的には「(合格して)嬉しかった」の一言に尽きるのですが、会心の嬉しさだったように思います。

──最初に「俺だ!」と確信された理由というのは?

伊東:やっぱり自分自身、音楽が好きっていうのが一番大きかったと思います。実際に、作曲も少しですが自分でやらせてもらう機会もあって。そういう意味では、音楽に対しての距離が近い方かなという意識はありましたし、もっともっとその道を極めていきたい、そんな気持ちも持っています。

それに加えて、作曲家たちの歴史を知るのもすごく好きなんです。たとえばベートーヴェンのお墓とモーツァルトの記念碑は近い場所にあったり、ショパンとリストが親友だったとか……そういう史実を調べるのが楽しくて。そういう作品もあるじゃないですか。

それと、演じる役としても、モーツァルトやショパンは過去に演じたことがあって、自然と気持ちが入りやすい、馴染みのある領域だったんだと思います。タイミング的にも良かったんですよね。当時、(別作品で)ちょうどショパン役を演じた直後くらいのタイミングでこの作品のオーディションがあったので、自分の中ではすごくスムーズに“この世界に入れる”という実感がありました。

 

 

──安部さんはどうでしょうか?

ショパン役・安部 瞬さん(以下、安部):もともと僕は“歌”がすごく好きで、歌がきっかけで声優という道に興味を持ち、お芝居の世界に足を踏み入れました。

だからこそ、今回のように“歌唱”が大きな鍵になる作品、しかもElements Gardenさんが手がける楽曲で……ということがわかった時点で、すごく大きな意味を感じました。「絶対に出たい!」という思いが最初に強く湧いてきたのを、今でもよく覚えています。なので、出演が決まったと聞いた時は、率直に嬉しかったです。

ただ、クラシック音楽の素養はあまりなかったので、自分に務まるだろうかといった懸念もありました。でも、作品に触れていく中で、音楽が好き、歌が好きという純粋な気持ちがあれば良いのかなって。ジャンルがクラシックであれ、J-POPであれ、洋楽であれ“音楽を愛する想い”だけでつながれる作品だなと思いました。

中には、「クラシック詳しくないし……」と「ショパンやベートーヴェンの名前を聞くと、なんだか歴史の勉強みたい」と不安に感じてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、でも、そんな心配はまったくいらないと思っています。そういうことは気にせず、音楽が好き、歌が好き――その気持ちがあれば、きっとこの作品の世界観に触れてもらえるはずですし、楽しんでもらえると思います。僕自身、この作品に関われたことを本当に嬉しく思っていますし、音楽が好きなすべての人に届いてほしい作品です。

 

 
リスト役・石毛翔弥さん(以下、石毛):僕は、ソロでキャラクターソングを担当する作品はこれが初めてなんです。

オーディションでは僕も何役か受けさせていただき、(スタジオオーディションの)課題曲であるモーツァルトの曲「Kissとナハトムジーク」を歌いました。スタジオでは「原曲キーでも、キーを下げても大丈夫」と言っていただいたんですが、自分の中で「絶対に原曲で歌ってやろう」という強い気持ちがあって、原曲で挑みました。

……お世辞にもちゃんと歌えたかと言われたらそうではなかったのですが(笑)、「リスト役で合格しました」と聞いたときは、本当にびっくりしましたし、心から嬉しかったです。自分が“歌もののコンテンツ”に初めてキャスティングされたこと、しかもElements Gardenさんの、上松範康さんの楽曲を歌わせていただけるということも含めて、ものすごく光栄に感じました。僕も年末は非常に嬉しい気持ちでしたね(笑)。

実際に楽曲をもらって歌ってみたら、一度聴いたら忘れられないような、そんな印象的な曲ばかりなんですよ。ただ「めちゃくちゃ難しい……!」(笑)。必死で向き合いましたね。

 

 

──ご自身が演じるキャラクターのモデルとなった音楽家に対して、どのようなイメージを持っていましたか? また、その音楽家とキャラクターに共通する部分を教えていただきたいです。

石毛:正直に言うと、僕もクラシックにはあまり詳しくなくて。不勉強で申し訳ないのですが、著名な音楽家さんの名前や曲そのものは知っていますが……という具合で、リストについては「ラ・カンパネラ」などの代表曲はもちろん知っていましたが、今回作品を通してあらためて彼の生い立ちや人物像に触れました。

『クラシック★スターズ』の中で描かれるリストは、長身で容姿端麗で、女性にもモテる華やかなキャラクター。ショパンとの関係性も含めて、しっかりと現実のリストとリンクしているのかなと感じていました。

安部:ショパンの楽曲はドラマやアニメなど、いろいろなところで耳にする機会があって。音の印象としてはとても繊細で、そこに優しさが滲んでいるような……

実際、彼は病弱で繊細な一面を持っていたと知って、音楽性にもそういった性格がにじみ出ているんだろうなと感じました。『クラシック★スターズ』のショパンも、自分に対しての迷いを抱えていたり、与えられた“ギフト”と向き合い葛藤していたりと、現実のショパンとリンクするような面があると思います。

ただ、『クラシック★スターズ』ではあくまでキャラクターとしてのショパンは別人として描かれているので、史実をそのまま踏襲して役に反映しようとは思っていなくて。でも、リンクする部分があるというところに関しては、自分の心に留めながら演じていました。特にショパンが悩むシーンは、現実のショパンのこと、流れている音楽のことなどに注目して、頭の中で少し考えながらお芝居をしていたところがありました。

 

 

伊東:『クラシック★スターズ』のモーツァルトは、登場時、すでに芸能活動として音楽に関わっていて、作曲もしていて。4人の中でも、音楽で生きていくことが根付いているキャラクターなのかなと思っています。

歴史上のモーツァルトは、幼少期から“神童”と呼ばれていて、王族との繋がりもあった、地位の高い人物でもありますが……それは強さでもあり、弱さでもあると言いますか。音楽のことしか考えられない、その反面、他のことがおろそかになるような一面もあって。音楽の優先順位が高すぎるあまり、“音楽以外の優先度が低い”というところは、キャラと実在の人物がシンクロポイントのひとつなのかなと。

例えば、キャラクターのモーツァルトは、睡眠や健康の優先度はあきらかに低くて。そんなことよりも音楽を作るほうが大事、というような極端さがあって。ある種の自己犠牲の精神を感じるというか……。そういう部分が 『クラシック★スターズ』のモーツァルトとしてアウトプットできたら良いのかなと思いながら演じていました。だから演じる上では印象が変わったというより、より深まったように感じています。

 

 
内田:僕もクラシックに詳しいわけではなかったんですが、今回の『クラシック★スターズ』を通じて、ベートーヴェンの楽曲に触れたり、彼の音楽の持つエネルギーを感じる中で、“目の覚めるような一撃”を食らうような、そういった衝撃を与えてくれるような感覚がありました。それは歴史上のベートーヴェンが持っているものなのだろうな、と。キャラクター性がそこに紐づき、広がっていっているのかなと感じました。

『クラシック★スターズ』のベートーヴェンは、最初から音楽を志していたわけじゃなくて、作中でも他のキャラクターたちの音楽からの影響・衝撃をダイレクトに受けて、それをもっと自分が出していきたいと、心を広げていくんですよね。そうなったときの彼はすごく強くて。「一発、この拳で聴かせてやるぜ!」というような、感動という一撃をみんなに届けようとする、そういう力を持っている人。

演じていても、心がどんどん前に進むような感覚がありますし、歴史上のベートーヴェンが作った音楽も、そうやって人の心を目覚めさせるような、そういう一撃を持った人だったのかなと、演じながら感じていました。

 

 

本作の核となる「音楽」について

──それぞれのキャラクターソングについては上映会でもお話がありましたが、アニメに先駆けてソロ曲のリリックビデオが公開中です。全曲“エモさ”あふれる内容となっています。

内田:全曲すごいことになってますね。

伊東:本当に。

 

 
石毛:特にモーツァルトの「Kissとナハトムジーク」は本当にすごい曲です。自分が一度歌っているからこそ、あの曲を歌える伊東さんのすごさを感じます。もちろん他の曲もすごいことになってて。もしも自分が、ベートーヴェンの「魂のために」やショパンの「進化のエチュード」を歌っていたら、同じように「すげえ」と言っていたかもしれません。

内田:いや、でもどう考えても「Kissとナハトムジーク」の難易度が高すぎるような(笑)。

伊東:そんなこと言ったら(オープニングテーマの)「シンギュラリスト」もすごいけども。

内田:「シンギュラリスト」は難しかったけど、「Kissとナハトムジーク」は提示されている音域が物理的に……もう扱えないよね、って感じで。それがすごい。そこからまずハードルが高いかなと。

 

 
石毛:それぞれ、何かしらの特性があるんですよね。ショパンの「進化のエチュード」で言えば、ラップがあって、誰でも歌える曲ではない。それぞれに技術が詰まってるように感じています。

伊東:うんうん。あのスピードのラップって、ある程度リリックを頭に入れておかないと歌えないと思うんですよ。譜面を見ながら歌えるものではないと思うし、なんなら、ラップは譜面通りにはいかないと思うんですね。逆に譜面通りにはやってはいけない、と言ってもいいかもしれませんね。

自分の中でちゃんと柱を作り込まないといけないから、間違いなく高いスキルが必要だと思っています。ベートーヴェンの「魂のために」は、「殴るように歌う」という音楽的な歌のアプローチとはまた違った発声で勝負しているし、リストの「甘き羽音に乱れて・・・」は、あの中性的な立ち絵の空気感がありながらの、“和”という意外性があって。

あと、何度も話題に挙がっている「Kissとナハトムジーク」は、確かに難しい曲ではあるのですが、全部の曲、それぞれ難しいです。音の幅だけで言っても高低差があるし、リズムもあるし……「やれるでしょ」と、歌い手側を信頼して書いてくれた上松さんに対して、グータッチしたい気持ちになりました。

 

 

──実際、グータッチはされたのでしょうか……?

伊東:恐れ多くてしていないです(笑)。以前も違うコンテンツで曲は歌わせていただいたことはあったのですが、なかなかお会いできる機会はなくて。もしなにか機会があれば、じっくりとお話させていただきたいです。

安部:上松さんのお話で言うと、「クラシック音楽を鼻歌で歌えるんだから歌にできるんじゃないか、といったところから『クラシック★スターズ』の着想を得た」というエピソードを拝読したことがあります。「クラシックにはメロディーがあるから歌えるんだ」という考え方で。

伊東:ほお。

安部:その話を意識した上で、それぞれの曲と元となった曲を聴くと、原曲のメロディーのピアノの音中に歌詞が聴こえてくるようになって。「ああ、そういうことか」と。上松さんの中では、最初からそう聴こえていたのかなと思うと面白いなと思いました。

伊東:うんうん。その解釈の幅があるのが面白いところですよね。

石毛:「クラシック音楽を鼻歌で歌えるんだから歌にできるんじゃないか」って普通では考えつかない発想ですよね。本当に、さすがと言うか……。

伊東:これまでもクラシック曲にボーカルをつける、って発想自体はこれまでもありましたけど、ここまでの物量で一気に攻めてくる作品って、他にないんじゃないかなと思いますね。

 

 

──では、エンディングテーマである4人曲、Gran★MyStarの「BEYOND★CLASSIC」の制作エピソードについても教えて下さい。

内田:ハモからはじまるっていうのはなかなか珍しいですよね。意外だなと思ったのが、ショパン・リストが下ハモだったことですね。僕が確か2番手で。

伊東:僕が最初に録ったんですよね。譜面をもらった時は嬉しくて。最初から何声かに分けられた譜面なわけじゃないですか。もうそれは、ひとつの信頼だと思っています。そういう(期待される)のが好きなんですよ(笑)。オーディションの時からそれは感じていたし、選ばれた人たちだから大丈夫だろうと。だからこそ、心配はゼロで、シンプルに嬉しかったなと。

石毛:僕は(レコーディングが)最後だったんですよ。だから3人の声を聴きながら歌うことができたので、すっごく楽しかったです。上映会でもお話させていただきましたが、本編を録り終わってからの、なおかつ3人が録り終えてからのレコーディングだったので……これはリストとしてなのか、石毛翔弥としてなのか曖昧なところではありますが、歌いながら気持ちが高揚しました。さらに録り終わったあとに4声がミックスされた音源をブースで聴かせてもらい、鳥肌が立ちました。声の混ざり方、キャラクター感も含めて、感動しました。

安部:「BEYOND★CLASSIC」は4人で歌う曲ということですごく嬉しくて。僕は3番手でしたが、4人のキャラクター性を鑑みて「それぞれこんなふうに歌うんじゃないかな?」「じゃあ、自分はこういう方向性でいこうかなとか」いろいろなことを考えてレコーディングに挑みました。でも考えずとも調和の取れた歌声になったのかなと思っています。他の3人の声に自然と溶け込めたというか、“はまれた”感覚があって、そこに“チーム感”と言いますか。これまで積み上げてきたものが出たのかなと、嬉しく感じるところでした。

 

 
それと「BEYOND★CLASSIC」には、いろいろな曲のエッセンスがめちゃくちゃ散りばめられていて。1回聴いただけだと、もしかしたら全部は(元となった曲を)見つけられないかもしれません。印象も違うんですよね。僕自身、最初に聴いた印象と、今聴いて感じることってまた違っていて、「あ、これあの曲のフレーズっぽいな」「この進行はもしかして……」といった具合に、要所要所に散りばめられています。

『クラシック★スターズ』をきっかけにクラシックを聴き始める人もいると思いますし、原曲と『クラシック★スターズ』の曲を交互に聴くことで、音楽への理解や愛情が深まっていくんじゃないかなと。この曲はきっと、自分たちにとっても、お客さんにとっても、“育っていく曲”になるんじゃないかなと思っています。

──伊東さんが一番手だったんですね。

伊東:一番手って、ある意味、気楽な部分もあるんですよね。責任重大とも言えますけど……。

内田:一番手かラストが好き(笑)。一番手はこういうベーシックがあったら良いんじゃないか、という話を制作の方といろいろ話しながら進めていくこといができるという面もありますよね。完成していくのを楽しみながら歌えるのがラストで。

伊東:1番手であとのことは分からない状態だったけど、なんも心配してなかったですね。録っている時から、最初にディレクションを受けた時から、「キャラクターソング」というより「アーティスト的な格好良さ」を目指してるんじゃないかなって、なんとなく感じてました。僕の主観ではあるんですけど、時代の流れ的にも、やりたいことは実はそっちのほうなんじゃないかなと。

安部:自分もすごく同じ印象でした。キャラクターソングというよりも、キャラクターたちの内側から出てきた想いが心から出ているものを歌にするという感じだなと。

伊東:本当に、“新進気鋭の4人組きました、みたいな……。そう思ってもらっても良いのかなと思っています。

 

 

にじみ出る“らしさ”――回を重ねて深まった4人の関係

──その歌やお芝居を通じて、お互いに「この人のここカッコいいな」と感じたところがあれば、ぜひ教えてください。

石毛:これは意図的なものではないかもしれませんが……もちろん“役”として演じてはいるんですけど、役者それぞれの性格や個性が自然と出ていたようにも思いました。

たとえばベートーヴェンのまっすぐな情熱だったり、モーツァルトの確固たる信念とこだわり、それを成し遂げる胆力。ショパンの可愛らしさや繊細さ、でも実はまっすぐ突き進む芯の強さ……。リストである僕自身も、人に嫌われたくないという感情を持っていたりして、それが演技の中にも自然に出ていたんじゃないかなと感じています。

 

 
特に回を重ねるごとに、それぞれの“らしさ”がより深まっていった印象があって。最初の収録ではそこまで明確に感じていなかったのですが、回を進める中で、それぞれの役が持つ個性が互いに影響を受け合いながら、すごくバランスのいいやりとりになっていったなと実感しています。

伊東:ああ、それは絶対にあるでしょうね。僕自身も周りの人を信じて、寄りかかって演じている感覚があったし、回を重ねるごとに、よりその信頼が強まっていった気がします。

安部:たしかに、4人それぞれがキャラクターとぴったり一致してる、というわけじゃないと思うんですけど、でも4人が集まったときの空気感やまとうものに、共通しているものがあるなと感じていました。だからやりやすくて。自然に芝居ができたのかなと。

 

 
内田:やっぱりオリジナル作品という性質上、解釈の幅が広いんですよね。もちろん台本があるのでそれに沿って僕らは解釈するのですが、“今この場で生まれていく感覚”があって、それを丁寧に受け止めて、キャラクターを一緒に育ててくださった制作陣の皆さんのおかげで、僕たちも安心して芝居に臨めたと思います。

どこかに“空気感”として、キャラクターたちの個性が役者の感性とマッチしていって、それがすごく良いバランスを生んでいたと思います。そういうところから、(個々の特性が)滲んでいったのかなと。みんなで「良い作品にするぞ!」と一丸となって挑んでいた、その表れでもあるのかもしれません。

──座長としてはどのようなことを意識されていたのでしょうか?

内田:いや、もう僕自身は本当にみんなに頼りっぱなしで走り続けた1クールだったと思っています。本当にそうなんですよ。座長って、作品によってはガンガン引っ張っていくスタイルもあると思うんですけど、一方で、チームの間に立って“つなぐ”ような存在になるパターンもありますよね。もちろん、その両方を兼ね備えた座長像というのもあると思いますが、この作品の場合は、“つなぐ”というのが自分の中にしっくりきていて。

 

 

──“つなぐ”ですか?

内田:はい。他のキャラクターの個性がめちゃくちゃ際立っていて、どんどん突出していきます。そして、その影響を受けて自分(ベートーヴェン)も少しずつ成長していく。そういったベートーヴェンの姿勢と、実際に僕がみんなから刺激をもらって芝居をしていた構図がリンクしていたんです。

今回はチームのお話でしたし、ベートーヴェンにとっても各々のエッセンスをもらっていくことが大事になりますから。みんながのびのびとお芝居に取り組めるような空気がいいなというのはあって、じゃあそのためには、どうしたらいいかと毎回考えながら現場に入ってました。

でも、それが自然にできていたのは、やっぱり三原木(逢生)先生役の浪川(大輔)さんがいてくれたからこそだと思います。そういう意味でも、先生の手のひらの上といいますか。手綱を握ってもらっていましたね。そんな環境だったからこそ、芝居も自然にできたし、キャラクターの輪郭もより立たせていけたと思います。

伊東:本当に作品の通り(笑)。三原木先生の振り回しに耐えられるのも、それもひとつの器と言いますか。それがないと、オーバーになってしまうんですよね。

 

 
また、今「周りからのエッセンスをもらって」……と雄馬くんは言ってたけど、それをもらって出力として切り替えられるというのも、役者のちからがあってこそ。そこはもう、内田雄馬ならではだなと思っていますし、そう感じる瞬間がたくさんありました。そのおかげで、本当に良いバランスでお芝居ができたと思っています。

僕らが演じるキャラクターは、立ち位置は違いますけど、果たして、額面通りの人間性なのか……? そのあたりも楽しみにしていただきたいですし、そのあたりも、バランスを考えながらキャスティングされたんだろうな、と自分は思っています。必ずしも、見た目通りのただ怖い人たちじゃないかもしれないよ……?というか。まだふんわりとしか言えませんが……いちばん分かりやすい謎として、「ベートーヴェンが2人いる」ってどういうことなの?っていう…ね(笑)。これがまた、物語のひとつの“謎”になっているわけで。ファンの方にもその辺、ぜひ注目してもらいたいですね。

──上映会でも浪川さんの話題が出ていましたよね。1人ずつに話しかけてくれ、とりわけ緊張されていたという安部さんに対しては「噛まなかったね!」と励ますような言葉をくださったと、伊東さんが教えてくれました。

伊東:そんな大げさな、みたいな言葉もさらっと言うんですよね。それをナチュラルに見せてくれるし、本人もその空気をわかっているような、ぼかしてるような……でも、そこが浪川さんの魅力なんですよね。すごい領域。人たらしと言いますか……。

内田:本当にすごい。

安部:そうですね。すごく飄々として見えるけど、言葉の中にはちゃんと差し伸べる優しさが見えるんですよね。すごく大好きな先輩です。

 

 

──今日の客席でも「浪川さん」という言葉でざわっとしてましたね(笑)。

伊東:みんな分かっちゃってるんですよね、それもすごいし、そのいじられも良しとしてくれる。絶対的な大先輩でありながら、懐の広さがあるっていう。

内田:なにかツッコミをする隙すらもくれるっていうのがすごいところという感じがします。常に一個先にいるんですよね。思いやりが素敵だと尊敬しています。

──では最後に、内田さんから今後の見どころについてお一言いただけますでしょうか。

内田:やっぱりこの作品のテーマが“クラシック”であること。ベートーヴェンをはじめとした偉大な作曲家たちの音楽が、作中にもたくさん登場しますし、今の音楽のベースを作った彼らへのリスペクトが、この作品全体に込められていると感じています。音楽には「旋律・律動・和音」、つまり“メロディー・リズム・ハーモニー”という三大要素があります。

今回、それぞれのキャラクターがそれに対応するように個性を持っていて、それが物語全体のテンポとともに展開していきます。でもやっぱり、ハーモニーが聴きたい、となると思うんです。いろいろな人たちが関わって、ドラマが生まれて。その人たちが混ざりあったときに生まれるハーモニー。そこに感動が生まれると思うので、ぜひとも、この物語がどんなふうに“調和”していくのか、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。

 
[文・逆井マリ]

 

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