胃ろうの基本と介護方法 在宅での注意点から施設選びまで家族が知るべきこと
病気や加齢により食事が困難になった際の選択肢として、胃ろうという方法があります。この記事では、胃ろうを検討されている方や、すでに胃ろうの方の介護をされているご家族に向けて、基本的な知識から具体的な介護方法、費用まで詳しく解説します。
胃ろうとは?
胃ろうの仕組みと必要となるケース
胃ろうは、腹部に小さな穴を開けて栄養を補給する医療措置です。
この方法は1980年代から普及し始め、現在では年間約20万件の手術が行われています。内視鏡を使用して15~30分程度で終わる比較的負担の少ない手術です。
入院期間も1~2週間程度と短く、手術後数日程度で入浴も可能になります。
この手術は、食事が困難な高齢者が行うケースが多いです。認知症が進行して自力での食事が難しくなった場合や、脳梗塞の後遺症で飲み込む機能が低下した場合など、誤嚥性肺炎のリスクを考慮して胃ろうが検討されることが多くなっています。
胃ろうの手術は、まず内視鏡で胃の中を確認しながら、最適な位置を決定します。その後、局所麻酔を行い、腹部に小さな切開を加えてカテーテルを設置します。
手術自体の成功率は非常に高く、95%以上とされています。ただし、胃の状態や全身状態によっては手術が難しい場合もあり、事前の詳しい検査が必要です。
重要なのは、胃ろうは単なる延命措置ではないということです。
適切なリハビリと組み合わせることで、再び口から食事ができるようになった方も多くいます。実際に、胃ろう造設後に経口摂取が可能になった方の割合は、リハビリを積極的に行った場合、約30%という報告もあります。
また、胃ろうを造設しても、状況に応じて口から少量の食事を楽しむことは可能です。むしろ、安全に栄養を確保できることで、より余裕を持って経口摂取のリハビリに取り組めるというメリットもあります。
胃ろう造設のメリット・デメリット
胃ろうの最大のメリットは、体への負担が少ないことです。鼻からチューブを入れる経鼻胃管と比べて不快感が少なく、日常生活への影響も最小限に抑えることができます。
経鼻胃管では、チューブが喉を通ることで常に違和感があり、会話や唾液の飲み込みにも影響が出やすいのですが、胃ろうではそういった問題が少なくなります。
また、誤嚥性肺炎のリスクを軽減できる点も大きな利点です。統計によると、胃ろうを造設することで、誤嚥性肺炎による入院率が約40%減少したという報告もあります。これは、食事の際の誤嚥リスクが減るだけでなく、胃ろうによって適切な栄養状態を保てることで、体の抵抗力が維持できるためと考えられています。
さらに、カテーテルは腹部にあるため自己抜去のリスクが低く、服を着れば外からは見えないため、外出時の心理的な負担も少なくなります。入浴も通常通り可能で、介護者の負担軽減にもつながります。特に在宅介護において、清潔保持がしやすい点は大きなメリットとして挙げられます。
一方で注意が必要な点もあります。定期的なカテーテル交換が必要で、胃ろう周辺の皮膚トラブルにも気を配る必要があります。カテーテルの種類によって交換頻度は異なり、バルーン型は1~2ヶ月に1回、バンパー型は4~6ヶ月に1回の交換が必要です。また、カテーテルが抜けた場合、短期間で穴がふさがってしまうため、すぐに医療機関を受診する必要があります。
さらに、栄養剤の種類や注入方法の管理も重要です。温度や速度、姿勢など、様々な要因に注意を払う必要があり、これらの管理は介護者にとって新たな学習が必要となります。ただし、これらの技術は、医療機関での指導や訪問看護のサポートを受けながら、徐々に習得していくことができます。
後悔しない胃ろう選択のための判断ポイント
胃ろうの導入を検討する際に最も大切なのは、本人の意思を尊重することです。可能であれば、事前に本人の希望を確認しておくことが望ましいでしょう。
近年では「事前指示書」という形で、自身の将来の医療やケアについての希望を書面に残しておく方も増えています。
ただし、突然の病気や事故で意思確認が難しい場合も少なくありません。そのような場合は、それまでの本人の生活や価値観、日頃の発言などを振り返りながら、家族で慎重に検討することが重要です。
医療機関でも、本人の状態や家族の状況を踏まえた上で、最適な選択ができるようサポートしてくれます。
また、医師との話し合いでは、以下のような点について詳しく確認することをお勧めします。
現在の病状と今後の見通し
胃ろう以外の選択肢の有無
手術のリスクと期待される効果
リハビリの可能性と方法
退院後の生活に必要なサポート
経済的な面では、胃ろうは医療保険の対象となるため、手術費用や定期的な交換費用は原則として1割負担(所得に応じて2~3割)となります。
ただし、栄養剤の費用など、継続的な支出も発生します。
介護保険サービスと組み合わせることで、経済的な負担を軽減できる場合もあるため、ケアマネージャーに相談することをお勧めします。
在宅で胃ろうの方を介護する方法と注意点
在宅での胃ろうの方の介護には、正しい知識と技術が必要です。家族による介護は可能ですが、安全で快適な介護を行うためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。ここでは、具体的な手順から起こりやすいトラブルまで、実践的な介護方法について説明していきます。
栄養剤の注入手順と毎日のケアポイント
栄養剤の注入は、2日数回行う重要な医療行為です。
注入の基本的な流れは、まず体を30~45度以上起こした状態にすることから始まります。これは栄養剤の逆流を防ぐために必須の姿勢です。
ベッドを使用している場合は、ベッドの背もたれを適切な角度まで上げ、さらに枕やクッションで体位を安定させます。
注入前には必ず手洗いを行い、栄養剤を人肌程度の温度に温めます。冷たすぎる栄養剤は、胃の調子を崩す原因となることがあるためです。栄養剤の温度は、自分の腕の内側に少量垂らして確認するとよいでしょう。
栄養剤には医薬品タイプと食品タイプがあります。医薬品タイプは保険が適用され、医師の処方が必要です。
一方、食品タイプは市販品として購入でき、通常の食事をミキサーにかけて使用することもできます。最近では半固形タイプの栄養剤も増えており、これは注入時間が短く、逆流のリスクも低いという特徴があります。
注入後は30分から1時間程度、同じ姿勢を保ちます。この時間を利用して、口腔ケアを行うことをお勧めします。胃ろうを使用していても、口腔内を清潔に保つことは極めて重要です。唾液に含まれる細菌が原因で肺炎を引き起こすことがあるため、歯ブラシやスポンジブラシを使用した丁寧なケアが欠かせません。
起こりやすいトラブルと対処法
胃ろうの介護で最も注意が必要なのが、カテーテル周辺の皮膚トラブルです。
具体的には、発赤や腫れ、浸出液の出現などが見られることがあります。
これらの症状が出現した場合は、すぐに医療機関に相談することが重要です。予防のためには、カテーテル周囲の清潔保持が不可欠で、入浴やシャワーの際には石鹸でよく洗い、その後しっかりと乾燥させることが大切です。
また、栄養剤の注入に関連するトラブルも頻繁に見られます。注入速度が速すぎると、腹痛や嘔吐、下痢などの症状が現れることがあります。特に注入開始直後は、体調を見ながら慎重に速度を調整する必要があります。一般的な目安として、200~400mlの栄養剤を30分から1時間かけて注入することが推奨されています。
認知症の方の場合、無意識にカテーテルを引っ張ってしまうことがあります。このような自己抜去のリスクがある場合は、胃ろうカテーテルを衣服で覆ったり、医療用の固定具を使用したりする工夫が必要です。カテーテルが抜けてしまった場合、数時間で穴が塞がってしまう可能性があるため、すぐに医療機関を受診する必要があります。
胃ろうカテーテルの詰まりも、よく発生するトラブルの一つです。特に粘度の高い栄養剤や薬剤を使用する場合は注意が必要です。予防には、注入後に白湯でカテーテル内を洗い流すことが効果的です。また、薬剤を注入する際は、十分に粉砕して溶かすようにしましょう。
家族の負担を軽減するためのサポート活用法
在宅での介護は、家族にとって身体的にも精神的にも大きな負担となります。24時間365日の介護は一人では続けられません。そのため、利用可能なサポートサービスを積極的に活用することが、持続可能な介護の鍵となります。
訪問看護サービスは、胃ろうの管理において特に重要な役割を果たします。定期的な健康管理はもちろん、カテーテル周囲の状態確認、栄養剤の注入方法の指導など、専門的なサポートを受けることができます。また、体調の変化にも素早く対応できるため、安心感が大きいというメリットがあります。
デイサービスやショートステイの利用も検討する価値があります。2012年の介護保険法改正により、所定の研修を受けた介護職員も胃ろうのケアができるようになり、サービスの選択肢が広がっています。これらのサービスを上手に組み合わせることで、介護者の休息時間を確保することができます。
また、同じように胃ろうの方を介護している家族との情報交換も有効です。各地域には介護者の交流会やサポートグループが存在し、実践的なアドバイスや精神的な支えを得ることができます。地域包括支援センターやケアマネージャーに相談すれば、このような交流の場を紹介してもらえることが多いでしょう。
胃ろうの毎月の費用と施設での受け入れ
胃ろうの介護を行う上で、費用面の不安を抱える方も多いでしょう。また、在宅介護が難しくなった場合の施設選びも重要な課題です。ここでは、実際にかかる費用の詳細と、施設選びの具体的なポイントについて説明していきます。
胃ろうにかかる費用の内訳と保険適用
胃ろうの費用は、大きく分けて初期費用と継続的な維持費用があります。
初期費用の中心となる手術費用は約10万円ですが、医療保険が適用されるため、1割負担の方の場合は1万円程度の自己負担となります。入院費用も医療保険の対象となり、標準的な2週間の入院で、1割負担の場合約4万円程度です。
継続的な費用の中で最も大きな割合を占めるのが栄養剤代です。
医療保険が適用される栄養剤を使用した場合、月額2万円から3万5千円程度の費用がかかります。
また、カテーテルの定期交換も必要で、その費用はカテーテルの種類によって異なります。
バルーン型は1~2ヶ月に1回の交換で1回あたり1万円程度、バンパー型は4~6ヶ月に1回の交換で1回あたり2万2千円程度かかります。
ただし、これらも医療保険の対象となるため、実際の自己負担額は1割または2割となります。
在宅医療を利用する場合は、訪問診療の費用も発生します。訪問診療は月2回程度が一般的で、1回あたり3,000円から5,000円程度の自己負担となります。これに訪問看護の利用を加えると、医療保険と介護保険を合わせて利用する場合の月々の総額は、平均して6万円程度になることが一般的です。
胃ろう対応可能な施設の選び方
2012年の介護保険法改正により、所定の研修を受けた介護職員も胃ろうのケアができるようになりました。これにより、胃ろうの方を受け入れる施設は増えてきましたが、施設によって受け入れ体制は大きく異なります。
施設選びで最も重要なのは、医療体制の充実度です。
具体的には、以下のような点を確認する必要があります。
看護師の24時間配置の有無
医療機関との連携体制
緊急時の対応方針
胃ろうケアの実績と経験
リハビリテーションの実施体制
また、施設の種類によっても特徴が異なります。介護老人保健施設は医療体制が充実している一方、費用は比較的高額になります。特別養護老人ホームは費用面で優位ですが、待機者が多い傾向にあります。有料老人ホームは、施設によって医療体制や費用に大きな差があるため、十分な確認が必要です。
施設での介護体制と確認すべきポイント
施設見学の際は、具体的な介護体制について詳しく確認することをお勧めします。
まず、胃ろうのケアを行うスタッフの体制について確認しましょう。看護師の配置人数や、胃ろうケアの研修を受けた介護職員の人数、夜間の体制などは、安全な介護を受けるための重要な要素となります。
栄養管理体制も重要なポイントです。管理栄養士が常駐しているか、どのような栄養剤を使用しているか、栄養状態のモニタリング方法などを確認します。
また、嚥下機能評価やリハビリテーションの実施体制も見逃せない要素です。言語聴覚士や理学療法士等が配置されている施設であれば、専門的なリハビリを受けることができます。
施設での生活の質を考える上で、以下のような点も確認しておくとよいでしょう。
食事の時間帯と注入にかける時間
口腔ケアの実施頻度と方法
入浴の頻度とケア方法
レクリエーションへの参加機会
他の入居者との交流機会
また、家族との関わりについても確認が必要です。面会時間や面会場所の制限、外出・外泊の規則、家族への報告体制なども、事前に把握しておくべき重要な情報です。
緊急時の対応方針も必ず確認しましょう。カテーテルが抜けた場合や体調の急変時に、どのような手順で対応するのか、協力医療機関はどこか、救急搬送の基準は何かなど、具体的な説明を求めることが大切です。
費用面では、胃ろう関連の医療費に加えて、施設の基本料金、食費、光熱費などが発生します。介護保険の給付限度額を超える場合は全額自己負担となるため、月々の総額をしっかりと試算しておく必要があります。
最後に、施設を決める際は、できれば複数回の見学を行い、異なる時間帯の様子を確認することをお勧めします。また、可能であれば短期入所(ショートステイ)を利用して、実際の施設の雰囲気を体験してみるのもよい方法です。
まとめ
食事は私たちの生活の中で大きな楽しみの一つであり、同時に命をつなぐ大切な行為です。
だからこそ、胃ろうという選択は、本人や家族にとって悩ましい決断かもしれません。しかし、適切な知識と準備、そして周囲のサポートがあれば、より良い介護を実現することができます。
胃ろうを通じて安定した栄養補給ができることで、新たな可能性が開けることもあります。この記事が、よりよい選択と介護の実現への一助となれば幸いです。