「スマホを3時間以上使う子ども」成績は平均以下? スマホ利用が学力に与える悪影響を脳科学者が解説
スマホは子どもたちの学力にどんな影響を与えているのでしょうか? 『スマホはどこまで脳を壊すか』の著者である東北大学助教の榊󠄀浩平先生に、スマホの利用時間と成績に関する調査の結果をお聞きしました。全4回の1回目。
スマホの利用時間が長いほど成績が低くなる!?子どものインターネット利用時間は急激に伸びています。内閣府が令和4年3月に発表した統計によると、平日1日あたりのインターネットの利用時間は、小学生(10歳以上)は約3時間27分、中学生は約4時間19分にのぼり、共に前年度から約1時間も長くなっていました。(※令和3年度青少年のインターネット利用環境実態調査より)。利用時間には、動画視聴やゲームなどの娯楽だけでなく、ニュースを観たり、勉強のためにインターネットを利用する時間も含まれてはいますが、利用時間と子どもの学力に関係性があると着目した東北大学応用認知神経科学センター助教・榊󠄀浩平先生の研究グループは、2010年度より毎年、「スマホなどの利用が成績に与える影響」について、仙台市教育委員会と共同で仙台市立校の小中学生約7万人を対象とする大々的な調査を行ってきました。
その結果、「スマホの利用時間が長くなるほど成績が下がる」という傾向が明らかになったのです。
そこで今回は、スマホの利用が成長期の脳や学力にどのような影響を与えるのか、榊󠄀先生に詳しく解説していただきました。
榊󠄀 浩平(さかき・こうへい)
1989年千葉県生まれ。東北大学応用認知神経科学センター助教。医学博士。認知機能、対人関係能力、精神衛生を向上させるなど、人間の「生きる力」を育てる脳科学的な教育法の研究、開発を行う。
脳は使わなければ衰える
脳は使わなければ衰える
──榊󠄀先生のご著書『スマホはどこまで脳を壊すか』を読ませていただきましたが、タイトルがショッキングでした。今は子どもも毎日スマホを利用するような時代ですが、子どもの脳も壊れるのでしょうか?
榊󠄀浩平先生(以下、榊󠄀先生):「脳」とひと言で言っても、場所ごとにさまざまな機能を担っています。なかでも、今回は脳の前側「前頭葉」の一番前にある「前頭前野」という場所に関して主にお話をしていきますね。
前頭前野は、「考える」「理解する」「覚える」といった知的な活動の他、「言葉を話す」「感情をコントロールする」「相手の気持ちを推し量る」といったコミュニケーションにかかわる働きを担っています。まさに人間を“人間たらしめている”機能が詰まっている場所です。
前頭前野は、脳の中でも比較的ゆっくり発達するので、小学校高学年~高校生、いわゆる思春期の過ごし方が大きく影響すると言われています。詳しくは2回目で説明しますが、脳は筋肉と同じで、使えば使うほど育つし、使わなければ衰えます。
例えば、スマホなどを見ている間は、前頭前野が活動をサボってしまうため、長時間利用することで“筋力”が落ち、スマホを見ていない時間も十分に“運動”ができなくなると考えられるからです。また、海外の研究では、オンラインへの依存度が高くなるほど、前頭前野の働きが衰えると明らかになっています。
スマホの利用時間が長いほど成績が低くなる
──子どものスマホ利用時間は、学力に影響するということでしょうか?
榊󠄀先生:そうなんです。そこで私の研究グループでは、子どもたちの学力への影響を研究するため、スマホなどのデジタル機器(スマホ、タブレット、音楽プレーヤー、ゲーム機など)の利用時間と学力の関係を調べる調査を行いました。
下のグラフは、2017年に行った、小学校5年生~中学校3年生の児童・生徒4万1084人を対象とした調査結果です。
スマホ等の使用時間と学力の関係(2017年小学校5年生~中学校3年生の児童・生徒4万1084人対象。成績:4科目〔国語、算数・数学、理科、社会〕の偏差値)。 資料提供:榊󠄀浩平
榊󠄀先生:このグラフを見るとおわかりのように、スマホ等の利用時間が長くなるほど、テストの成績(偏差値)が低い傾向があることがわかります。
──「持っていない」「全く使わない」子どもより、「1時間未満」の子どもの成績が良いのが面白いですね。
榊󠄀先生:そうですね、「1時間未満」のグループには、スマホ等を使いすぎないように、コントロールできる自己管理能力の高い子どもが一定数含まれているのではないかと考えられます。そういう子は、勉強にも自律的に向き合えるのかもしれません。
3時間以上使う子は成績が平均に届かない!?
──スマホの利用時間が伸びることで、単純に勉強時間が減っているということではないのですか?
榊󠄀先生:私たちもその可能性を考えました。また、スマホなどを使うことで、睡眠時間が削られている可能性もありますよね。記憶は寝ている間に整理されて定着するので、睡眠不足は学力低下につながることがわかっています。
そこで翌年2018年に、先ほどと同じ調査に、勉強時間と睡眠時間に関する聞き取りを加え、さらに解析を行いました。すると結果は下のグラフのようになりました。
スマホ等の使用が1時間未満/勉強・睡眠時間と学力の関係(2018年度小学校5年生~中学校3年生4万817人のうち、平日のスマホ等使用時間が1時間未満のグループ9622人が対象。成績4科目〔国語、算数・数学、理科、社会〕の偏差値)。 資料提供:榊󠄀浩平
スマホ等の使用が3時間以上/勉強・睡眠時間と学力の関係(2018年度小学校5年生~中学校3年生4万817人のうち、平日のスマホ等使用時間が3時間以上のグループ8463人が対象。成績:4科目〔国語、算数・数学、理科、社会〕の偏差値)。 資料提供:榊󠄀浩平
榊󠄀先生:スマホなどの利用が1時間未満のグループ(上のグラフ)は、睡眠時間と勉強時間が長いほど偏差値が高い子が多いのがわかります。
ところが3時間以上使っているグループ(下のグラフ)は、いくら睡眠をとっても勉強しても、成績が平均に届いていないことがわかったのです。もちろん3時間以上スマホなどを利用しているグループだけが極端に成績が悪いのではなく、利用時間が長くなるほど徐々に成績が低くなっていました。
この調査により、スマホなどの利用が、直接子どもの学力に影響を与えていることが明らかになったのです。
──スマホと言っても、動画、ゲーム、SNS、音楽、検索などさまざまな機能がありますが、アプリやコンテンツによる違いもあるのではないでしょうか?
榊󠄀先生:個別に切り分けることは実験として難しいのですが、調べものなど能動的な使い方をしている場合は、学力への影響が比較的小さいことが私たちの最新の調査でわかってきました。
ただ、どんな目的でも使用時間が長いほど学力が低くなるという傾向は変わりません。スマホなどが学力に与えている影響を示す、もうひとつショッキングな調査結果もあります。
スマホを手放すだけで学習効果がアップ!
󠄀榊󠄀先生:次のグラフは、スマホなどを利用した“ながら勉強”と学力の関係を調べた結果です。
ながら勉強と学力の関係を示したグラフ(2017年度、スマホを持っている小学校5年生~中学校3年生2万6081人が対象)。 資料提供:榊󠄀浩平
榊󠄀先生:このグラフからわかるのは、スマホをいじりつつ2時間、3時間と“ながら勉強”をしている子どもと、30分だけ集中して勉強する子どもの学力がほとんど変わらないということです。
──“ながら勉強”はタイパとは相反するわけですね。
榊󠄀先生:3時間も机に向かっているのに成績が伸びなければ、「どうせやっても無駄」と諦めてしまいますよね。でも本当は、その子の能力に問題があるのではなく、“ながら勉強”に問題があるのかもしれません。勉強中にスマホなどを手放すだけで、学習効果が高まるということもこのグラフは示しているのです。
ただ気を付けなければならないのが、実際にスマホなどをいじらなくても“集中力は削がれてしまう”ということ。
例えば、SNSや好きなアーティストの新着情報の通知の音が鳴るだけで、スマホが気になってしまいますよね。通知の音にいちいち反応してしまうのは、脳の条件反射です。SNSで人と繫がったり、新しい情報を得られたりするのは、脳にとって「快楽」であり「報酬」。スマホの通知は、それらに直結しているので、気になって仕方がないんです。
さらには、通知音が鳴らなくても、スマホなどが視界に入っている、または体に触れているだけで注意が向けられてしまうことが海外の研究でわかっています。
お子さんが勉強をする場合は、勉強をする部屋にはスマホを持ち込まない、あるいは通知をオフにして見えないところに置いておくようにするなど、家庭内で相談したうえで、保護者の方が管理するのもいいかもしれません。
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今回の榊󠄀先生のお話で、スマホの利用時間と成績には想像以上に密接な関係があることがわかりました。次回2回目では、このような結果が表れる理由について、引き続き榊󠄀先生に教えていただきます。
取材・文/北 京子
「スマホはどこまで脳を壊すか 」著・榊󠄀浩平(朝日新書)