試合に親が行くと泣き出す息子。車当番ができないため退団を考えてしまう問題
練習に行くと大泣きして母親から離れなかった息子。今では行きたくないと言わず楽しくサッカーしてるけど、試合を親に見られたくないらしく私たちが会場にいると泣いてしまう。
親は観戦に行かないようにしているけど、配車当番もあるし、ほかの親御さんに乗せてもらってばかりでは申し訳ない。チームを辞めたほうがいいの? というお母さんからのお悩み相談。
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの取材で得た知見をもとに、繊細な子どもへの接し方などアドバイスを送ります。
(構成・文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<<頑張らないのに文句ばかりの娘にうんざり。どうしたら子育て楽しめますか問題
<サッカーママからの相談>
[練習に行くと大泣きして母親から離れられません]問題でご相談させていただいた者です。(子ども9歳)
試合にもっとでたいということで彼の意向でクラブに所属しもう一年が経ちました。
一度も行きたくないと言わず友達も多く楽しくサッカーをやっております。
これだけでとても嬉しい成長なのですが......。
わたしたち親には試合を観にきて欲しくないという気持ちを尊重し、一度も観に行っておりません。しかし、会場までの車だしがあり、他の親御さんばかりにお願いするわけにも行かず、行きのみ本人に少し頑張ってもらい車出しをし、試合を観ずに帰るなどしております。
少しでもわたしや夫がその場にいて見られてると泣いてしまうようです。
落ち着いてるときに本人に気持ちを聞いたところ、理由は「見られると緊張する」とのことでした。プレッシャーがあるのでしょうね......。
この一年で大きな成長しとても頑張っているのは伝わります。しかし、配車など他の親御さんに申し訳ない気持ちもあり少し悩んでおります。(チームをやめたほうがいいのか)
このまま、そっと見守りの気持ちが大事でしょうか。
長々申し訳ありませんがアドバイスをいただきたいです。よろしくお願い致します。
<島沢さんからの回答>
ご相談いただき、ありがとうございます。
なんと二度目のご相談、ありがたいことです。お母さんは息子さんに丁寧に寄り添っていると感じます。
■このままで大丈夫、やめる必要なんてない
このままで大丈夫ですよ。
チームをやめたほうがいいかも? などと考えないでください。他の保護者に気兼ねしてやめてしまえば、それは息子さんにとって「自分のせいだ」となり、余計に追い込んでしまうことになりかねません。
他の人の目が気になり、心配になってしまいますよね。その「心配」という感情が湧き上がってしまうのは、もしかしたらお母さん自身の不安になりやすい気質もあるかと思います。お母さんが繊細であれば、お子さんもそうなりやすい。遺伝子がありますから。
しかし、繊細で敏感なことは悪いことではありません。人の気持ちを感じとることができるので、他者にやさしくなれるはずです。良い点もあると考えてください。
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■繊細さを理解して包んであげる環境であれば成長できる
先日、HSCのお子さん(小学3年生)をもつご夫婦を取材しました。
米国の心理学者エレイン・N・アーロン博士が提唱したHighly Sensitive Childの略で「繊細な子ども」「人一倍敏感な子」と呼ばれています。生まれながらに感情に対する繊細さと、刺激に対する敏感さを併せ持つと言われています。
その子は不登校になっていますが、周囲の理解もあって今は元気にフリースクールに通っています。子どもの繊細さを理解し包んでくれる環境であれば、しっかり成長できます。
近頃では、お母さんとお父さんが夫婦げんかをすると「今のはお母さんの言葉が強すぎた。お父さんは辛いと思う」とアドバイスしてくれるそうです。頼りがいのあるいい子に育っています。
そこで、私もお母さんに3つほどアドバイスさせてください。
■アドバイス①今の対応を続けて。往路だけでもチームは助かる
1つめ。
冒頭でお伝えしたように、現在の対応を続けてください。車出しが往路(行き)だけでも、チームの保護者は十分助かっていると思います。
私も経験がありますが、朝早い出発の試合などで車出し当番になると、当番でない日より30分は早く起きなくてはいけません。当番でなければお弁当を作って朝ごはんを食べさせたら「行ってらっしゃい」と送り出して終わり。そのあと応援に行くにしても、ゆっくり出かけられます。
そう考えると、遠方で朝早い試合のときなどはぜひ積極的に「行きだけになってしまいますが、車出ししますよ」とご自分から手を挙げてはいかがでしょうか。
もし遠方だったり、拘束時間が短い場合は、その周辺に車で移動してご夫婦で散歩したり、お買い物をしたりしては? 試合が終わるころにまた迎えに行けばいいのです。
子どもたちは試合が終わってすぐ帰るわけではなく、ダウンしたり、着替えたり、コーチとミーティングするはずです。試合当番の親御さんに状況をみながら何時に迎えに行けばいいか連絡してもらってもいいですね。
もしくは他の方の都合に合わせて帰りだけ手伝ってもいいでしょう。そのような片道要員の保護者がいると、他の方も有難いはずです。もっといえば「車や試合当番以外で、チームのために何かできることはありませんか?」と尋ねてみてください。保護者会のリーダー的な方がいるはずです。
■アドバイス② 可能であれば息子さんの状況をほかの保護者に伝えてみて 理解が得られるかも
2つめ。
もし可能なら、ほかの保護者に今の息子さんの状況などを伝えることはいかがでしょうか? どんな集団かわからないので、そこは強く勧めるわけではありません。ただ「こういうところがあるのでこんなふうにサポートさせてほしい」と直接話すことで、周囲から息子さんに対する理解も進むかもしれません。
そもそも、他人の事情というのは、伝聞で情報が流されると誤解が起きやすいものです。何人を経て伝えられると、ほんの小さなズレがどんどん大きくなって最後にはまったく違う話になっていることはよくあることです。チームのグループラインなどSNSで伝えることもできますが、文章というのは万人に同じ内容を100%理解してもらうには限界があります。
文章を書いてこうやって皆さんにお伝えしている私がこんなことを言うのもおかしなことかもしれませんが、伝え手の思いと受け手の理解に乖離が生まれることは珍しくないのです。
したがって、対面で会って話すことをお勧めします。そこで質問を受けたりと双方向のコミュニケーションが生まれるからです。
■アドバイス③ 息子さんにも親が困っていることを理解してもらおう
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
3つめ。
冒頭ですでにお伝えしましたが、「チームを辞めたほうがいいのか?」とお母さんが揺れていることはすでに息子さんに伝わっているかと思います。辞めるか辞めないかを決めるのは、あくまで息子さんです。ただし、息子さん自身も自分の親が困っていることは理解したほうがいいと私は思います。
「見られていると緊張するなら、お母さんたちは試合を見ないから、車の中にいるとか、そのあたりを散歩するとかしてもいいかな? そうすれば、他の親御さんに迎えの車当番を頼まなくて済むから、お母さんも安心なの」
このように、「あなたはこうするべき」「こうしたほうがいい」というように、「あなた」が主語ではなく、「わたし」を主語にして伝えましょう。つまり「私はあなたがこうなったらうれしいよ」というものです。当然ながら、時期やタイミングをみるべきでしょう。
とりあえず今は「見られていると緊張する」という気持ちを受け止めましょう。と同時に、こう伝えてみてはいかがでしょうか。
「緊張するのはわかったよ。無理に見ないよ。ただ、なぜ緊張するのかな? って考えて、何か出てきたら教えてくれるとうれしいな」
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産 彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。