【あがきたの魅力見つけ隊コラム・渋谷商店 専務取締役 渋谷 亮さん】手間を惜しまず、昔ながらのこだわりの味噌を守り続ける|聖籠町
あがきた地域には、海、山、川の豊かな自然と、ほっとくつろげる温泉、お花見の名所や思いっきり遊べる公園など、魅力的で立ち寄ってみたくなるスポットがたくさんあります。
でも、それだけではありません。これらの素材を引き出す「ヒト」。
地域で活躍する「ヒト」のお話から、この地域のよさ・素晴らしさをお伝えします。
お話を聞いた人
渋谷商店
専務取締役 渋谷 亮さん
【プロフィール】
1975年新潟市生まれ。高校卒業後は東京農業大学 応用生物科学部 醸造科学科へ進学し、発酵食品について学ぶ。
その後、他県の味噌屋で修業を積み、20代半ばに実家である1936年創業の老舗味噌店・渋谷商店に。
現在は、3代目である父、渋谷信夫社長とともに、専務として会社を運営する。2022年「全国味噌鑑評会」で農林水産大臣賞を受賞。
80余年の歴史を持つ老舗味噌店が新天地を求めて移転
―創業89年になるという渋谷商店について教えてください。
1936(昭和11)年に創業した味噌屋です。
現社長の父で3代目になります。
当初は、新潟市東区紫竹に店を構えていましたが、バイパス拡張工事のために移転を余儀なくされ、2018(平成30)年に現在の聖籠町へと移転してきました。
―麹菌を扱う工場の移転は大変だったのでは?
「蔵付き麹菌」という言葉があるように、「菌は蔵にすみ着く」とされます。
実は、聖籠町への移転の前にも市内で少し場所を移動しているのですが、最初の移転の際は、麹菌が付いている麹の室の壁をはがして持ってきたと聞いています。
今回はそこまではしていませんが、味を守るために味噌を仕込んでいるタンクは絶対に変えられないので、移転前のタンクで仕込みを続けながら、移転先のこちらのタンクでも仕込むというように同時並行で仕込みを行い、向こうで仕込んだ味噌をこちらへ運んできて若い味噌に混ぜる、という作業を行ないました。
この作業を行なうためには、2カ所同時に営業するための許可をいただく必要があり、発酵食品ということで特例として許していただいたかたちです。
実は、移転の交渉を進めている頃に前社長と工場長のふたりが相次いで亡くなったことから、移転作業の全責任が現社長である父にかかってしまったのだそうです。
段取りから機材や味噌の運搬など、想像を絶する苦労があったと思います。
父は当時を振り返って、「記憶がなくなるくらい大変だった」と言っています。
―「渋谷」の味噌の味を守り抜くために、並々ならぬ努力があったのですね。
とにかく、味噌を運ぶ作業が大変でしたね。
1.5トンタンクで何度も何度も運び、引っ越しには1年ほどかかりました。
今ではようやく元のうちの味に戻った気がします。
昔は行商を行なう人が多く、全国各地に味噌などの商品を売りに行っていたようです。
そのおかげで全国に渋谷味噌が広まり、今でも県外から注文をいただくことがあります。
お客さまから、「おばあちゃんの代から変わらずに使っています」「実家の母が使っていました」などと声をかけていただくことも多く、「ずっと渋谷の味噌を使い続けてくださっているんだな」と感じられてありがたいですね。
こうしたお客さまを裏切らないように、うちの味を大切に守り続けなければいけないと感じています。
手作業にこだわり、伝統の味を守り続ける
―渋谷商店の味噌造りについて教えてください。
合理化できるところはしていますが、製法にはこだわっていて、大事なところは今も手作業で行っています。
この規模の工場では珍しいのではないでしょうか。
まず、米は国産(おもに新潟県産)です。
ひと晩浸漬したあと、「こしき」という大釜を使って下から蒸気を入れます。
そこに薄くお米を撒いていき、蒸気が抜けたところでまた重ねていき、全体がムラなく均一になるように蒸し上げます。これが「抜け掛け方」といわれる昔ながらの製法で、少しずつ時間と手間をかけて行なう作業です。
今は、お米を入れたら自動で蒸し上がってくる連続蒸米機が多く使われていて、時短や省力化にもなるのですが、敢えてそれをせず、創業当時から変わらないやり方を守っています。
大豆も、温度調節や豆のやわらかさに細心の注意を払いながら、早い時には早朝6時からコトコトと時間をかけて煮ます。
圧力をかければ数10分で処理できてしまう今の時代からみれば時代遅れな製法ですが、うちでは誇りを持って、頑なに昔ながらの製法を守り続けています。
そして、徹底した衛生管理のもとで熟成させます。
「味噌は生き物」と言われるように、原料や製法が同じでもタンクによって熟成具合が違ってきます。
それぞれのタンクごとに香りややわらかさ、味を確かめながら、最低でも7カ月、長いと1年以上かけてじっくりと熟成させていきます。
熟成の期間が長いということも、うちの特徴のひとつです。
―味の特徴は?
うちの味噌の特徴は、クセがなく、味噌自体が主張しすぎないということです。
お味噌汁にしたときに、具材の味を引き立たせてくれる味噌です。
溶けがよいともよく言われますが、つまり、使いやすいということです。
子どもたちにも好まれているようで、「このお味噌にしたら、子どもが味噌汁を飲むようになった」ということをよく言われます。
うれしいですね。
麹をたくさん使っていることも、うちの味噌の特徴です。
多くは原料の大豆に対して米を8割くらい使って造る「8割麹」という割合ですが、うちは10割以上、多いもので15割くらいのものもあります。
すべて大豆よりも麹のほうが多い。
新潟の味噌は、米どころということもあって米の割合が高いものが多いのですが、そのなかでも多いほうです。
米麹の割合が高いと、自然な甘さが生まれ、まろやかに仕上がります。
29年ぶりに「全国味噌鑑評会」で最高賞を受賞
―2022年には「全国味噌鑑評会」で農林水産大臣賞を受賞されました。
29年ぶりで8回目の受賞になります。
技術力を競う大会なので、皆さん、大会用に特別に仕込んで臨みます。
色や香り、味、麹の溶け具合などのすべてが審査対象になるので、いくつか仕込んでおいて、何度も試行錯誤を重ね、ベストな味噌を選んで出品します。
こちらに移転してきてからは初めての受賞だったので、移転後、酵母菌や微生物に認めてもらえたのかなという気がして、うれしかったですね。
―販売エリアはどのあたりでしょうか?
今は新潟市内を中心に販売しています。
味噌には地域ごとに色があって、地方に行けば、やはり地元の味噌が愛されています。
新しい味がそのなかに入っていくのは難しい部分もありますが、人口減のなかでは考えていかなければいけないことです。
最近では、ECサイトやふるさと納税でも扱っていいただけるようになりました。
趣味の時間も大切に、新天地での可能性を求めて
―今、ハマっていることはありますか?
ここ2~3年は、走ることにハマっています。
会社の前の道は走りやすいので、昼休みにも7キロくらい走っています。
忙しいと昼休みくらいしか走る時間が取れないので、半ば強制的に走っていますね。
マラソンというより山を走ったり、トライアスロンに挑戦したりしています。
学生時代にはラグビーをやっていて、社会人になってもやっていたんですが、コロナ禍でラグビーの活動がなかなかできなくなってしまい、運動不足だからちょっと走ってみようかな、という軽い感じで始めました。
昨年は、「比叡山国際トレイルマラソン」の50キロのコースに初参加しました。
比叡山の延暦寺からスタートして、獲得標高3,700メートルのコースを走り、また延暦寺に戻ってゴールするというもので、「挑め、己の限界に」とあるように、アップダウンもきつくて、かなり過酷なロングレースです。
登り坂では木の根っこをつかみながら、這うようにして進むこともありました。
制限時間が10時間50分のところ、10時間47分17秒というギリギリのタイムでしたが、時間内でなんとか完走することができました。
佐渡の国際トライアスロンにも挑戦しました。
いくつか段階があるんですが、昨年は「ミドルディスタンス」と呼ばれる、スイム2.0キロ、バイク108.0キロ、ラン21.1キロというコースに出場しました。
今年は、その上のレベルに挑戦したいですね。
走っていると気持ちがよくなってきて、ゴールした後はものすごい達成感があるんですよ。
塩分が必要になるので、走りながら補給食として塩のジェルなんかを食べるんですね。
梅干しを舐めながら走ったり。
それでふと、味噌は補給食に適しているんじゃないかなと思いついたんですね。
戦国時代には味噌を持って戦に行っていたらしいですし。
塩分だけではなくて糖分も必要になるので、甘酒はどうかなと考えています。
天然由来の糖質なのでよさそうですよね。
趣味と実益を兼ねて、補給食を開発してみようかと考えたりしています。
レースに出場する味噌屋はあまりいないですし、「味噌屋が自分のために開発しました」といったら説得力ありますよね。
―聖籠町のおすすめスポットやよく行く飲食店は?
会社の周りに店があまりないので、ランチには製麺屋食堂さんによく行きます。
いちばん好きなのは『五目うま煮そば』ですね。
聖籠地場物産館 とれたて市場さんも、地元の新鮮な野菜や果物が売っていておすすめですよ。
―これからの夢や展望を聞かせてください。
この仕事を通して、どれだけ地元や社会に貢献できるか、ということをいつも考えています。
これまでも出前授業で新潟市内の小・中・高校や幼稚園を訪れて、食育の話をさせてもらったこともありますが、食に関して子どもたちに何か還元できればと思います。
小さい子どもたちはお味噌汁を飲むんですよ。
でも、いつの頃からかあまり飲まなくなってしまう。
若いお母さんのなかには、お味噌汁を作らない方も多いようですし。
年配の方も、ご夫婦ふたりだけだったり、ひとり暮らしだったりすると、わざわざお味噌汁を作るのも面倒だからとフリーズドライで済ませる方も増えている気がします。
寂しいですね。
子どもたちにはもっとお味噌に親しんでほしいと思いますし、お母さん、おばあちゃんが子どもや孫にお味噌汁を作ってあげてほしいなと思いますね。
お母さんの味、おばあちゃんの味というのは「家庭の味」です。
大人になってお味噌汁を飲んだときに、「ああ、これはおばあちゃんの作ってくれた味だ」と感じて、おばあちゃんの記憶がよみがえってくることもあると思います。
お味噌汁の香りや味で、家族の思い出とか、実家の様子とか、そういう懐かしい風景を思い出すきっかけになってほしいですね。
そのために、手間と時間をかけて、丁寧に昔ながらの味噌を作り続けていきたいですし、子どもたちに日本の食の大切さや素晴らしさを伝える活動もしていけたらと考えています。
渋谷商店
住所
聖籠町東港7-4763-7
電話番号
025-278-1600
リンク
https://shibuyamiso.com/
製麺屋食堂 聖籠店
住所
聖籠町蓮野西山3307-2
電話番号
0254-28-7414
営業時間
11:00~21:00
休み
無休
リンク
https://sakurafoods.jp/seimenyasouhonten
聖籠地場物産館 とれたて市場
住所
聖籠町蓮野708
電話番号
0254-27-1212
営業時間
9:00~19:00(夏期は〜20:00)
休み
水曜
リンク
http://www.seiro-bussan.com/
とんかつ とんき
住所
新発田市新栄町1-2-24
電話番号
0254-23-5508
営業時間
11:30~13:30/17:30~20:00
休み
月曜