綾瀬はるか主演 映画『ルート29』森井勇佑監督インタビュー「10代の頃の自分が観た時に救われる作品になっていると嬉しい」 姫路市など
11月8日より全国の劇場で公開される映画『ルート29』を手がけた森井勇佑監督にインタビューを実施!撮影時のエピソードや作品に込めた想いを伺いました。
本作は綾瀬はるかさん演じる「のり子」と大沢一菜さん演じる「ハル」が姫路から鳥取へと向かうロードムービーですが、なぜルート29(国道29号線)が舞台に選ばれたのでしょうか?
この作品は中尾太一さんという詩人の『ルート29、解放』という詩集をもとに映画を作ろうとプロデューサーと企画したことから始まりました。中尾さんご自身が鳥取県若狭町の出身で、若狭町は姫路と鳥取を結ぶ国道29号線のそばにあるんです。そのため、制作にあたって「まずは(国道29号線を)見に行こう」ということで、実際にロケハンに訪れて話の構想を練っていきました。脚本を書き上げてから撮影するまでの間も含めたら、50往復以上はしていると思います。
50往復!?とんでもない回数ですね…!訪れてみて、姫路・鳥取の街や人にはどんな印象を受けましたか?
姫路も鳥取もすごく良いところでした。物語におけるイメージとして、姫路の街は人がいっぱいでガヤガヤした場所として描き、喧噪の中にのり子とハルがポツンといる様子を描き、鳥取は旅の終着点として“最果ての地”のようなニュアンスを持たせたいと思っていたので、画面に映る人の数を意図的に減らすなどして撮影を行いました。
撮影中に起こった印象的な出来事を聞いてみたいです!
姫路から鳥取に向かう道程でどんどん山の中に入っていくんですが、ちょうど真ん中辺りぐらいのところが山のてっぺんになっていて、そこに『新戸倉トンネル』という長いトンネルがあるんです。そこでの撮影時に、ハルを演じる大沢一菜さんが「何か感じる」と言い始めて。それを聞いたメイクさんも同じように「何かを感じる」と言い出したので、小さなジップロックに塩を入れて一菜さんに渡して、衣装のポケットに忍ばせた状態で撮影を行いました。
撮影したのはトンネルの中で「お~い」と呼びかけるシーンだったんですが、僕も、その時に反対から「お~い」と返事が聞こえたような気がして。あれは不思議な経験でしたね。その時の出来事を映画に活かそうと思って返事が返ってくるシーンを加えました。
作中ではのり子とハルが赤い服の女性や旅する親子などの“不思議な人々”との出会いも描かれていますが、監督の中で特に印象的なキャラクターは?
どのキャラクターも好きですが、印象に残っているのは「赤い服の女性」でしょうか。大きな犬を2匹連れているんですが、撮影が大変なシーンでした(笑)。
キャラクターは原作である詩集に登場したり、インスピレーションを受けて生まれたのでしょうか?
犬の話で言うと、(原作に)1匹目の犬、2匹目の犬という風に書かれており、作品が完成してから原作を読み直していた時に「ここに書いてたんだ」と気づきました。原作から意図的に抽出したというよりは、無意識に影響されたという感じですね。
非現実的な空気をまとった不思議な人々ばかりでとても仕方になりました(笑)。物語における彼らの役割とは?
彼らが登場するシーンは意図的に非現実感を持たせています。作中の出来事が現実かどうかという問いには答えられませんが、彼らの存在がのり子とハルに対してどのように作用するのかという点に関して言うと、2人のことをどうこうしようという意図を持って登場させてはおらず、それぞれが勝手に生きている人々であり、2人とは偶然に出会うという構成にしています。
物語の世界では、人との出会いを通じて登場人物が激変していく流れが多いと思うんですが、僕はそんな“何かの役割を帯びた人物”が目の前に現れて主人公に作用するという流れは嘘くさい気がしていて。それこそ非現実じゃないかという感覚があります。
人間はみんなそれぞれが生きている中で、出会いや時間をともにするなどの“接点”を持つと思うのですが、そういったロジックの中で変化が生じるのではなく、ともに過ごした時間がそれぞれの心の中でどのように作用していくかを描きたいと思いました。
登場するキャラクターの造形はすべて監督が考えたのでしょうか?
そうですね。先ほど言った通り、役割的なものを与えたくないと思いながら考えたので、なぜああいったキャラクターにしたのか、正直僕自身もよくわかっていないんですよね(笑)。頭の中に浮かんできたイメージをそのままアウトプットしたような、ある意味脈絡がないものだと思います。
とてもハチャメチャな誕生秘話ですね(笑)。濃いキャラクターばかりで、怖いやら面白いやら…。鑑賞中は変に深読みをしたりして、感情が迷子になったことを覚えています。個人的には冒頭のシーンに登場する、道端でうちわを仰ぐ3人組のおばさんたちが印象的でした。
姫路城周辺で撮られたシーンに登場する、カラフルな3姉妹ですね…(笑)。映画の始まりからのり子とハルが出会うまでの間は“リズムで作りたい”という思いがあったので、トントンと音を刻むように何かをひとつずつ置いていくような感覚で作りました。そのリズムのひとつとして彼女たちには登場してもらっています。
3人は俳優ではなく一般の方で、具体的ないきさつを話すと、鳥取でロケハンをしている時、お昼ご飯を食べに訪れたホルモン焼きそば屋さんで働かれていたんです。その時の彼女たちの雰囲気や佇まいがとても素敵で、助監督に「この人たちに出てもらいたい!」とお願いし、出演していただきました。
鳥取からわざわざ姫路に来ていただいたんですね(笑)。ちなみに主人公であるのり子とハルの2人も変わった性格のキャラクターですが、演技指導などはどのように行われたんでしょうか?
割と抽象的なことを言っていました。例えば、綾瀬さんには「のり子の中には宇宙が大きくあって、その大きさもちょっとわからないぐらい大きい」みたいに伝え、それを感覚で捉えてもらうような感じです。綾瀬さん自身もすごく感覚的な方なので上手く演技に落とし込んでくれました。
大沢さんには、この作品の脚本は彼女に向けた“当て書き”という面もあったので、「取り繕わず、いつもの一菜らしく演じてほしい」とお願いしました。もちろん、撮影中はどうしてもカメラを意識してしまう部分もあるので、その中でどう本人らしさを出してもらうかを意識しましたね。
最後に今作はどんな人に向けて作った映画なのか教えてください!
作品自体は小さなお子様から大人の方まで楽しめるように作っています。が、すごく個人的な話をすると、僕は10代前半から半ばぐらいの頃に学校に行くことがしんどい、友達ができない状態に陥った経験があり、その頃に映画館の存在に救われていたところがありました。
当時好んで観ていたのは現実的でリアルな作品よりも少し変なところがある作品だったりして、それらの映画のおかげで世界が広がり、救われた経験が自分にとっての原体験だとすると、「自分の作る映画が当時の自分に対して嘘をつくことがないようにしたい」という思いがあります。
そういった意味で(この映画を)どこに向けて作っているかというと、それは過去の自分に対してということにもなり、当時の僕が観た時、どこか救われるような作品になってくれていたら良いなと思っています。
兵庫県ではシネ・リーブル神戸、MOVIXあまがさき、アースシネマズ姫路などで鑑賞できます。
公開日
2024年11月8日(金)
作品情報
<原作>
中尾太一「ルート29、解放」(書肆子午線刊)
<監督・脚本>
森井勇佑
<キャスト>
綾瀬はるか、大沢一菜、伊佐山ひろ子、高良健吾、原田琥之佑、大西力、松浦伸也、河井青葉、渡辺美佐子、市川実日子
<製作>
東京テアトル U-NEXT ホリプロ ハーベストフィルム リトルモア
<配給>
東京テアトル リトルモア