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さらば、紙テープ。島の別れの風景が消える日

TBSラジオ

早いもので来月3月は旅立ちの季節。卒業や転勤なども増える時期ですが、かつて船旅の見送りでよくあった、「紙テープ」。岸壁と船をつなぐ象徴的な光景でしたが、この春、ある島の港で、長年続いてきた「紙テープの見送り」がなくなることになったそうです。

見送りの紙テープ、3月以降は「投げないで」(東海汽船)

詳しいお話を、伊豆大島にある文具店「キムラ文具」の木村 和代さんに伺いました。

伊豆大島にある文具店「キムラ文具」 木村 和代さん

私がまだ小学校の頃から、「紙テープ」はやってまして、すごいテープで賑やかにはなるんですけど、投げてはいけなくなるみたい。

前から「なくなるかもしれない」っていう話は聞いてて、例えば「海を汚す」でしょ、紙テープは多分溶けないで残るんだと思うんですよ。やった後はすぐ船の方も、見送る側の桟橋にいる人も、「すぐ片付けてください」って言われて、見送るどこじゃなくって。

前から支障はあるってはずっと言われてて、それでも東海汽船としては黙って見ててくれたんだと思うんですけど、もう来月から見られないのかなと思うんですけど。

やっぱり寂しい気がするんですけど、それも仕方ないことなのかなと思って…。

<東海汽船のHP「客船出航時の紙テープを使用した見送りの取り止め」(2025.01.29発表)>

これは、東京と伊豆諸島(大島、三宅島、八丈島など)を結ぶ「東海汽船」に限ったことなんですが、今後、紙テープを使った見送りの「取り止め」を呼び掛けています。

この2月中もなるべく控えてほしいということですが、特に3月以降の使用は控えてくださいとホームページ上で呼びかけていて、「海洋汚染防止及び安全運航等の観点から速やかに改善を要する状況となっております」と記載されています。

これまで東海汽船は、水に溶けるタイプの紙テープの使用を推奨していましたが、実際には水に溶けないものも含まれてしまうため、長年対応に困っていたということです。

先ほどお話を伺った、文具店の木村さん(70代)によると、やはり紙テープはこの時期の売れ筋商品。多めに発注していたそうですが、「ついに来たか」というような感覚だそうです。

赴任した先生を村のみんなで見送った

では、島で暮らしていた人たちにとって、紙テープの見送りはどんな存在だったのか?同じ伊豆諸島にある青ヶ島の出身者に、紙テープの見送りについて伺いました。

青ヶ島出身 菊池 栄春さん

僕が生まれた場所が伊豆諸島の島の方なんですけど、そのときに赴任された先生とかと、お別れの3月のときとかっていうのに、先生を送るときにテープを投げたりとか。本当に家族のように一緒に過ごすんで、村の人みんなで見送ったりとか。あとは乗った人に手に取ってもらって、どんどん紙テープが引っ張られるような、切れるまで引っ張られるような感じだったと思います確か。見送ると結構みんな泣いたりとかしてたんじゃないですかね、こっちだとちょっと考えられないですけどね、本当にずっと一緒に過ごすんで。

(投げられなくなるって知ってました?)そうなんだって…ちょっとしょうがないですからねちょっと寂しい気もしますけど、確かにうちのおふくろも何か「片付けなきゃ」みたいなことを確か言ってたような記憶があるんで。そのままあれ、海のゴミになるって考えるとちょっとね、確かに送る側の楽しみみたいなとこありましたからね。ただ、普通に何か手振ってバイバイだとちょっとね、寂しいですよね。

青ヶ島は、八丈島からさらに南に位置する島。東京からヘリコプターも経由して移動するような、限られた交通手段しかない場所です。そんな島でも、船の出航時には紙テープが欠かせない存在だったようです。

<菊池んは「炭火焼き離島酒場ウタとルリ」を経営(三軒茶屋)>

ただ一方で、こうした文化は島の中に限られていて、島の外で暮らす人たちにとっては紙テープの認知度は低いようです。街で何人かに話を聞くと、かつてコンサートではキャンディーズのライブなどで、ファンがステージに向かって投げる演出が定番だったという話もありました。しかし、こうした光景も今ではほとんど見られなくなっています。

岸壁での見送り自体を制限し、運航の効率化を図る

そして、紙テープだけでなく、見送りのスタイルそのものが変わった場所もあります。すでに紙テープの見送りが禁止している、鹿児島と奄美大島などを結ぶフェリー会社「マリックスライン」総合企画部の、上塩入 誠さんに伺いました。

「マリックスライン」総合企画部 上塩入 誠さん

見送られる方々は船のデッキですね、外の部分に出て、そこで大声で声を掛け合ったり、横断幕を持ってきたりですね、そういったスタイルになってます。

移動する、見送られる方々が非常に多い時期で、離島に赴任する先生方々の家財道具とかが入った貨物も非常に多い時期なんですよ。そこをうまく定刻に出航させるためにやはり岸壁をフルに使って、何とか18時定刻出航というのを死守してたところなんですが、ただ一方で乗組員ともいろんな話聞いたりするとですね、全てスタンバイが整って、船が出航します。そのときに、馬鹿でかいプロペラが回り始めるんですよね。で、濁流を生むんですけれども、そういったところに思い余って、海に飛び込む子もいたと。

ですから環境に対する配慮っていうところについてはそれは言うまでもなくですね、本来のあるべき姿に変えたというのが事実としてあります。

<鹿児島新港でマリックスラインを見送る人々(マリックスライン提供)>

マリックスラインは、鹿児島から奄美大島、徳之島、沖縄などを結ぶフェリーを運航しています。およそ4年前から、紙テープの使用だけでなく、岸壁での見送り自体をとりやめました。特に一番大きな鹿児島新港では、岸壁への立ち入りが禁止され、今では少し離れたエリアから横断幕を掲げて見送るスタイルに変わっているそうです。

企業として、こうしたリスクを減らすことは、今の時代に求められる対応。それでも、人を送り出す気持ちそのものは、形を変えて残り続けるのかもしれません。

(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』取材:田中ひとみ)

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