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XinU『A.O.R - Adult Oriented Romance』インタビュー―― 冷静さの内側に情熱を秘め、自らの道を進む

encore

2ndアルバム『A.O.R - Adult Oriented Romance』のCDジャケットは、ポスタージャケット。CDを取り出すためには、アルバムサイズに折り畳まれたポスターを開いていく。開くとそこには、ジャケットと同じXinUの写真がポスターサイズで登場し、裏面には歌詞が書かれている。これは1stアルバム『XinU』と同じグラフィックチームGUTSONのデザインだ。

インタビュー当日、本人が1st アルバム『XinU』と2ndアルバム『A.O.R - Adult Oriented Romance』を渡してくれた。CDの仕掛けを見せてくれて、さらにジャケットの写真は空港を貸し切ったことを話してくれた。それと共に、撮影で使った空港は、貸切費用が必要だったけど、1stアルバムの撮影地は、関東圏にある遊園地で、撮影申請を出そうと思ったら「空いているからいつでも良いです。」と言われたことなどを、笑いながら話してくれた。その姿がとても自然で、彼女の人柄が垣間見えた瞬間だった。

海外とクロスして実現した台湾ライブ

現在、XinUのInstagramのフォロワーは10万人近く。その中で、約2万人が台湾人を占めている。台湾との繋がりは、本当に偶然のことだったと振り返ってくれた。

「2023年5月頃、日本でミュージックビデオを撮影して、その時のディレクターが”来月台湾に行くんです、仕事で”と話していて。私たちも、アジアから発信したいという気持ちもあったので、”台湾行きに私たちも乗っかっちゃう !?”くらいの軽い感じからスタートしたんです。でも、台北に行ってみたらディレクターとは、撮影スケジュールが合わず……という状況になったんです(笑)。勢いだけですよね。当時、「罠」という曲をリリースしていたので、そのビデオを撮りたくて。結局、プロデューサーの松下昇平さん(M-Swift)と現地の日本人コーディネーターと3人で、事務所のカメラで自力で撮影して。そのビデオを公開したら、台湾の方が、日本語で歌うシンガーが台湾のいろいろな所を回ったビデオを公開しているって興味を持ってくれて、Instagramをフォローしてくれるようになったんです。Instagramは、フォロワーの居住地区の割合も見られるんですけど、台北が上位に入る感じになって。そうするとSpotifyとかの配信でもリスナー増えて、それを受けて今度はライブで行ってみたいねっていう話になったんです」

台湾でのフォロワー増加は、そのまま2024年7月に開催された台北でのライブに繋がる。「台湾に行ってみようよ!」と言い始めた約1年後にはライブを敢行しているのだ。台湾でのライブや、やってみての感想を話してくれた。

「熱気がすごくて。始まる前から行列がすごいことになっていて。日本のリスナーの方よりも、同世代とか、その下の世代の方が来られていた印象でした。会場のドアがもう閉まらないくらい混んでいて、ステージに出た瞬間からキャー!ってなって、”こんなに台湾にファンがいたんだ!”って思ったのを鮮明に覚えています。ノリノリで踊っている人もいたし、日本語なのに一緒に口ずさんでいる人もたくさんいて。挨拶は、簡単な中国語(台湾華語)でやったんですけど、残りのMCは日本語でした。でも、みんな話をすると頷いてくれて、分かってくれているみたいで。すごく熱く迎えてくれたっていう記憶が、最後まであります。それから、横断幕を作ってきてくれた子がいて。両手いっぱいに広げたくらいの布にXinUのイラストを描いてくれて。それを入り口に置いて、観客のみんなでXinUにメッセージをしよう!みたいな感じで。メッセージも、日本語や英語で”来てくれてありがとう”といった感じのことが書いてあって、泣きました。横断幕は、部屋に貼っていて、”また行くよ”と思って見ています。この1年半の間に、不意に思い立って行った台湾で「罠」のMVを撮影したら、不思議な縁が次々にできて、7月にはアコースティックライブができて。瞬く間に、次は2025年1月5日にバンドでのワンマンライブが決まって。そういう流れは、最初から予測していたことでは全くなくて。未来は誰にもわからないけど、とにかく自分の感覚を信じて進んで行くしかない、ということを、台湾での一連の出来事で強く体感したんです。そんなこともあったので、2024年11月20日に先行配信した「バタフライ」のMVにも、再び台湾でのシーンを入れたんです」

「バタフライ」は、アメリカのオルタナティブポップデュオ、joan(ジョーン)との制作曲だ。XinUが元々ファンで、自ら声をかけたことでコラボレーションが実現している。蝶は古来、行く道を導いてくれるという言い伝えがあるが、この楽曲では、自分の行くべき道は、自分の心に従って決めていきたい想いが込められているので、MVに台湾の景色が入ることも納得できる。
また、収録曲「また会いにいくから」「つながっていて」の2曲も、台湾での経験から生まれている。台湾のファンとの交流から出来た「また会いにいくから」は、ライブで観客とのコールアンドレスポンスが想像できるハッピーな楽曲だ。「つながっていて」は、ファンとの信頼関係を感じたこと、その信頼を拠り所に自身の弱さもさらけ出して、リスナーと寄り添えるようになりたいという願いを込めた作品だ。

友達、言葉とクロスして作られる歌詞

彼女の話を聞いていると、自分で見て、触れて、確かめることを大切にしているように思う。それは、友達との付き合い方にも表れているように感じる。

「曲を書くためじゃないですけど、すごく長電話してその時に感じたこととか、"この人のこういう部分に、しれっと届ける曲作りたいな"と思うこともあるし、自分の人生と違うフェーズにいる友達の話はすごく聞きたいなと思って、良く電話したり、会って話したり。今回の制作中も、その前のEPの時も、友達との関係性の曲もありますね。人に会わないと、自分がどう思っているかも分からないし、気付きももらえないので。最近、同期って言っているんですけど、よくiPhoneとパソコンをケーブルでつないだら、全部が一緒になるじゃないですか。"同期できるような友達"が本当に数人いて。結構、それだけで生きていけるかもって実感していますね。他の関係性で悩んだとしても。収録曲の「Hora Hora」は、友人との会話からインスピレーションを受けたことも盛り込まれているし、少し遠くにいる人のこととか、最近会えてないけど、ちょっとおせっかいだけど心配して大丈夫かなぁと思ったこととか。誰かを心配するに自分は値するのかなとか、誰かを心配しつつ自分自身のことを顧みたりしながら書きました」

ちなみに、「Hora Hora」は、スタジオライブバージョンも収録されている。収録の時のことについても尋ねてみた。

「スタジオライブバージョン「Hora Hora - Reprise」は、生のバンドで、スタジオでせーの!といった感じで録りました。実は2、3回テイクを録ってたんですが、撮り終わって、結局1回目が良かったねということで、満場一致でファーストテイクが採用されています。このレコーディングでは、みんなはスタジオで、私は狭いボーカルブースで、一人きりで臨みました。たくさんライブをやってきたからこそ、私はボーカルブースでも孤独を全く感じなかったし、むしろヘッドフォンから一人ひとりの音がすごく良い音で返ってきたので、その音を聴きながら心からわくわくしながら歌いました。その1回目のテイクが詰め込まれたのが「Hora Hora - Reprise」です。みんなからダイレクトに、良い影響をもらいながら、歌うことができました」

XinUの楽曲は、洗練された音楽の上に、日本語の歌詞が乗る。響きが綺麗な言葉を選んでいるので、聴く度に心に深く響くのも特徴だ。言葉を磨く意味もあって、読書が好きだという彼女に、どんな本を読んでいるのか?気に入った表現に対するアプローチについて尋ねてみた。 

「本を読んでいて、すごく好きな表現とか、”うわっ!なんでこの10文字で、こんなにも心に刺さるんだ!”と思ったものは、自分のX(Twitter)に言葉を保存する用の鍵付きアカウントがあって、そこに、どんどんどんどん投げていて。好きな作家は、彩瀬まるさんとか。あと恋愛小説もよく読むんですけど、今年は江國香織さんを良く読みました。表現がすごいなと唸ってしまうから、読むのが止まってしまうんですが。それから、『死にたいけどトッポッキは食べたい』って、韓国のペク・セヒさんにもハマりました。この本はこうしろという自己啓発じゃなくて、”私はこういう人間。こういう悩みを抱えて生きているよ”」と書いてあって。もっと気楽に生きたい人へ向けて書かれているんです。私の歌も”こうなので、こうしましょう”とは、あまり言えなくて。”こうです、こうです。今はこうです。先は分かりません。”というのが多くて。この本は、”こうしてください”じゃなく、”こういう人間がいます”と赤裸々に言ってくれていたので、読んでみて”私も、そういうことを言って良いかもな”と思わせてくれて、励まされました」

収録曲「昼夜酩酊」。タイトルとして付された、この言葉の印象は強い。歌詞を読むと昼も夜もなく、孤独の中にいる様子がうかがえるが、言葉の選び方や制作の過程について教えてくれた。

「「昼夜酩酊」は2024年1月に行った制作合宿でギターの庄司陽太さんと作ったアイディアが元になっています。アルバム用の曲が14曲揃った時に、結構一曲一曲が作りこんだものが多くて、もう少し軽く聞けるような、気持ちいいと感じられるような、そしてギターをフィーチャーした曲が欲しいねとなって、このアイディアを形にした曲です。ビートも今までXinUでは、やったことがない感じだったので、メロディの付け方もかなり工夫しています。冒頭の言葉は、印象的でかつメロディに気持ちよくハマる言葉にしたくて、一日中というか3日間ぐらいその言葉を何にするかっていうことだけを考えて生きていました。鼻歌を歌いながら、歌いたくなるような子音を探したり英語をはめてみたり、辞書を引いたり……そんな作業をしている中で酩酊という言葉がはまって。サウンドにも合いそうと思ったので、この言葉をきっかけに書き始めることが出来きました」

言葉の響きや、はまり方について考える集中力と、こだわり。一つ一つの作業を聞いていると、気の遠くなるようなことをしているようにも感じる。制作が始まると、「わぁ、大変だ」と自分自身で思うこともあるそうだ。ただ、大変だけどやった方が良いと自分を鼓舞しながら制作は進めていると話してくれた。こういったことの積み重ねが、多くのリスナーを獲得することにも、繋がっているのだと感じる。

多様な世代や音楽とクロスしてファン層が厚くなる

XinUの音楽には、90年代の雰囲気も感じられる。40代より上の世代は、懐かしさを覚えることもあるだろう。今作に収録されている「Kiss Kiss Kiss」は、その代表格とも言える。彼女と同じ世代には、90年代を感じるサウンドは、新しいものとして捉えられることもあると思うが、本人はどう感じているのか尋ねてみた。
 
「「Kiss Kiss Kiss」のメロディを聴いた瞬間に見えた景色は、「オシャレなひとが行くダンスフロア」。作曲のZentaroさんからは、トラックが最初に届いたんですが、トラックの時点で本当にかっこよくて。この曲もXinUサウンドとしては初挑戦になるような楽曲だったんですが、絶対にこのアイディアを完成させたいと最初から思って臨んでいました。YouTubeのコメントとかでも、上の世代の方から”すごく懐かしい気持ちと、逆に新しい気持ちで聴いていて、ザワザワして感動しています”みたいなコメントを頂くことがあります。リスナーも、フロム・ブラジルですとか、フロム・フランスですとかもあります」

時代が……などの決めつけではなく、自身の心が動いたことに対して動いてみる姿が、彼女らしい音楽を作り、世代や国を超えたリスナーを獲得していることが分かる。学生時代はアカペラに情熱を注いでいたが、そこから今のような音楽をするようになった経緯も話してくれた。

「大学生の時に、学校の近くにあるジャズのお店でアルバイトをしたのが、きっかけです。毎週1回、東京や世界中からミュージシャンがライブをしに来て、その日に絶対にバイトを入れてくれたので、毎週ライブを見たり音楽を聴いたりして、幅が広がっていきました。さらに広がったのが、松下さんと音楽を作るようになったこと。ギタリストの庄司さんとか、いろんなプロデューサーと出会って、全然知らなかったビートや、今回のアルバムも初めて歌うようなビートが入っていて。いろんなものに触れてきて、自分がやりたいのも増えて、みんなが提示してくれるものをやってみようと思ったから広がった感じです。こういう歌手になりたいとか、こういう歌い方がしたいとかが、あんまりないんです。自分が好きになる歌手は音楽に関係なく、声が好きなパターンで。”こういうのをやってみよう”って言われて、やったことないけど、やってみる。そうしたら、こんなにも楽しいという。そういう積み重ねが、1st EPとかは、特にあったと思います」

これからの未来とのクロス

最近は、セルフプロデュースの楽曲も増えている。収録曲「ア・ラレイ」は、美しい音色と彼女の歌声が溶け合うセルフプロデュース作品だ。この作品を制作した経緯も教えてくれた。

「デモを作る段階では、とにかくアルバムの方向性など、細かいことは気にせずに、思い浮かんだことを何でも作ってみようをモットーにやっていたので、まさか”これが?”というものが、採用されるということがあるんです。そういう風につくっているからこそ、自分自身も新しいサウンドに出会えることが多いです。デモを作っている段階では、どんな言葉が日本語で入るかまだ分からないけど、とりあえずイメージで入れていた言葉が、「ア・ラレイ」でした。この曲は、アンビエントの展示巡りから影響を受けて作ったので、意味は解らないけど、音として気持ちがいいものを入れてもいいな、と思ったので採用しました」

様々な話を聞いていくと、2024年はチャレンジをして、その結果、新しい道が開けていった年だったように思われる。来年も、様々な人や物事とクロスして、飛躍をしていくだろう。最後に、ライブへの想いも強い彼女に、ライブに対する来年の意気込みを聞かせてもらった。

「最近はSNSでも本当にいろんな国から、日本でもいろんな各地からここへライブしに来てほしいという声もあります。本心では求められる場所があればどこへでも、どこの国へでも行きたい気持ちです。簡単には行けないけど。でも、相思相愛で想い合っていれば、いつか行けると本当に思っています。2025年は台北ライブから始まりますが、いろんな場所へ音楽を連れて行きたいです」

(おわり)

取材・文/石井由紀子
写真提供/ユニバーサル ミュージック

2024年12月20日(金)福岡ROOMS
2024年12月26日(木)恵比寿 LIQUIDROOOM
2025年1月5日(日)台北 Breeze MEGA Studio

XinU 2nd Full Album A.O.R Release Tour

2024年12月4日(水)発売
POCS-23053/3,500円(税込)
Virgin Music Label & Artist Services

XinU『A.O.R - Adult Oriented Romance』

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