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六本木でスタートした手塚治虫「火の鳥展」に行ってきた

タイムアウト東京

六本木でスタートした手塚治虫「火の鳥展」に行ってきた

2025年3月7日から「東京シティビュー」で開催されている「手塚治虫『火の鳥』展 -火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡=宇宙生命の象徴-」に行ってきた。漫画の神様・手塚治虫の傑作で、不死の超生命体である火の鳥を巡る全12編の一大サーガである。

とにかく気が狂うほど面白く、これを最高傑作に挙げるファンも多い。ちなみに『火の鳥』の大型展覧会が催されるのは、これが初めて。以上、解説終わり。

漫画愛好家の禁句

「漫画好きを自覚するものたちとそれについて語り合う」これほど楽しいことは、この世にまたとない。「ダレダレのナニナニ」という作品がいかに革新的だったか、というテーマについて語り合った日にはもう、3軒ハシゴは確定である。

Photo:Kisa Toyoshima火の鳥展

だが、そうした楽しい討論会の中でも決して言ってはならない言葉がある。それは「ま、結局手塚治虫が最初に全部やっちゃってんだけどね(笑)」という言葉だ。これはロックファンの討論会における「ま、結局ビートルズが最初に全部やっちゃってんだけどね(笑)」というのに似ていて、「ただそれ言いたいだけだろ」感がすごく、途端に話をする気がうせてしまうのだ。

少なくとも上記のフレーズを多用する人間をオレは信用しないし、たとえどれだけ泣き落とされたとしても絶対に連帯保証人にはならないだろう。

手塚が広げたクソデカ風呂敷

だが、今回観た展示は危なかった。もう少しで「ま、結局手塚治虫が最初に全部やっちゃってんだけどね(笑)」と言ってしまうところだった。自分で自分を嫌いになるところだった。

Photo:Kisa Toyoshima会場の様子

手塚が1954年から88年の晩年までライフワークとして取り組んでいた『火の鳥』という未完作の風呂敷の大きさは、まさに宇宙並みである。歴史、哲学、宗教、人間原理、量子力学、サイケデリック工学、ディズニー、ジョン・フォード、オーソン・ウェルズ、あらゆるものを包み込むクソデカ風呂敷と格闘しながら、すべてを全力で描こうとしている。

ちょっとエッチな学園ラブコメディーからベートーベンの伝記漫画に至るまで、あらゆるジャンルを縦横無尽に行き来した手塚が、その幅広い作風を軒並み一作に詰め込んだのが本作なのだ。

まさに灯台下暗し、ビッグスケールの作品であることは知っていたつもりだったが、ここまで巨大だとは思わなかった。関連付けられたハッシュタグの量が異常過ぎる。あまねく日本のポップカルチャーは、手塚治虫が開墾した広大な畑の上に成り立っているのだと認めざるを得ない。

終身名誉「火の鳥考察厨」

今回の展示テーマは、生物学者・作家である福岡伸一の視点から『火の鳥』の現代的な意味を読み解くというもの。手塚が描くことを約束しながら果たせなかった「現代編」の内容を推定するという歴史ミステリーのような趣もあるのだが、やはり頭のいい人は面白いこと言うなと感心した。

「おそらく精子ー卵子のリガンドーセレプターレベルでも可塑的なのだろう」とかトーシロには皆目理解不可なところもあるが、膨大な資料群と現代世相を結びつけながら、あらゆる角度からディープに考察する福岡の着眼点はいずれも画期的である。

クローンが禁忌である理由を権力構造という視点から説明するなど「なるほど!」と膝を打つ打力が強い。そして文章も美しいのだ。

絵がマジで爆うまい

なんと言っても、目玉はやはり原画である。12編ある『火の鳥』を1編ずつ、大量の原画とともに紹介しているのだが、手塚の生原稿を超至近距離で何百枚も見られるトリップ感たるやハンパない。完全に過積載、どう見積もってもカロリー過多。思考回路はショート寸前でイマジネーションのかなたまでぶっ飛ばされた。とにかく絵がマジで爆うまい。構図、描線、演出、視線誘導、すべてのセクションにアイデアがあり、一枚一枚が名画のオーラを放っている。

Photo:Kisa Toyoshima展示されている原画

有名な手塚伝説として、コンパスを使わずともフリーハンドで真円が描けたというのがあるが、アレはどうやら本当のようだ。コンパスの針をうてば円の中央に穴が空き、ホワイトで修正を施す必要があるため、フリーハンドかどうかは割合見分けがつくのだが、手塚の原画は修正の痕跡がかなり少ない。それどころか「これ、ヘタしたら下書きもしないでいきなりペン入れしてるな」みたいなのがたくさんあった。

晩年の、かなり具合悪かったであろう頃の原画とかもあるのだが、描線のテンションが全く落ちていないことにも驚がくした。感情とか性癖とかオマージュとかセルフパロディーとか、とめようもなくあふれ出てくるものを描きとめるのに必死だったのだな、と思った。

胃がんと闘病しながら、資料も何もない病室で3本の連載をこなし「頼むから仕事をさせてくれ」と言って死んだ手塚の執念を、しかと肌で感じた。その圧倒的なパワーに疲れたし、勇気が出た。「やるしかない」ってなった。泣きそうだった。

人間賛歌でラブソング

ここまでツラツラとつづってきたが、もしアナタが『火の鳥』を読んだことがないのならば、こんな書き飛ばし記事はガン無視してすぐさま読んでほしい。「原作を予習してから来た方がもっと楽しめる!」みたいな当たり前の事を説きたいのではない。『火の鳥』は、現代を生きるあらゆるリージョンの人間に、一生涯有効な叡智がモリモリに詰まっているからだ。

『火の鳥』は「生きるとは?」みたいな普遍的命題に真っ向からぶつかった、重厚で壮大な漫画だけれども、かと言ってシリアス一辺倒ではない。ギャグもあるし、大冒険もあるし、何よりストーリーの中央には常に「ラヴ」が光り輝いている。ヒトならぬものと恋に落ちるとか、宇宙の果てで片想いにもだえるとか、誰かが誰かを好きになることのすばらしさと苦しみが真摯に描かれている。

大前提として人間賛歌であり、ラブソングなのがマジでヤバい。そうした作品の豊かさを、本展はあらゆるベクトルから気づかせてくれる。発表当時よりさらに現代性を増している本作を、今一度新しくまなざす絶好の機会であろう。

Photo:Kisa Toyoshima展示風景

とにかく熱量が高い「火の鳥展」に、期間中にまた行こうと思っている。次に行ったときは「ま、結局手塚治虫が最初に全部やっちゃってんだけどね(笑)」と言ってしまうかもしれない。

©Tezuka Productions

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