Yahoo! JAPAN

エリック・クラプトン来日速報:成熟し続ける80歳のブルースマン 日本武道館 2025.4.14

YOUNG

エリック・クラプトン 2025年4月14日 日本武道館公演

これまでとは違うのか、違わないのか。

エリック・クラプトンの2年ぶりとなる日本ツアー、“黒沢楽器店 MARTIN GUITARS Presents ERIC CLAPTON LIVE AT BUDOKAN 2025”が、2025年4月14日(月)から始まった。ここでは、その初日の模様をレポートしたい。

今回のバック・メンバーは、ドイル・ブラムホールII(g)、ネイザン・イースト(b)、クリス・ステイントン(key)、ソニー・エモリー(dr)、ティム・カーモン(key)、ケイティ・キッスーン(chorus)、シャロン・ホワイト(chorus)。ポール・キャラックがティム・カーモンに入れ替わった以外は、2019年や2023年の来日公演時と同じだ。

今回の8公演(追加2公演を含む)を終えると、エリックの日本武道館公演数は110回となり、海外アーティストとして歴代1位である同会場での公演数記録を、自ら更新することになる。

エリックは今年の3月30日に80歳の誕生日を迎えた。これは、完全に老境に入ったと言ってもいい年齢だ。その彼の歌とギター・プレイは、これまでとは違うのか、違わないのか。楽しみであるのと同時に、どうしてもそのあたりが気になってしまう幕開けではあった。

悠然とステージに登場したエリックは、カジュアルなブルー・グレイのジャケット姿で、2023年の時の出で立ちとほぼ同じ。手にしたフェンダー・カスタム・ショップ製のシグネチュア・ストラトキャスターは一瞬ブラック・フィニッシュ(ブラッキー)にも見えたが、エリック所有のフェラーリと同じブルー・スコッツィアというカラーで、2023年の“Crossroads Guitar Festival”の時にマスター・ビルダーのトッド・クラウスが製作したものと思われる。

1曲目は「White Room」。この曲が日本で演奏されるのは2003年以来、22年ぶりのことであり、イントロから満員の客席は大きく沸く。歌と演奏には全体的にやや枯れた味わいがあり、それがこの曲に新たな表情を加えていた。ギター・ソロは初日1曲目ということもあってか、やや音を外す箇所があったりはしたが、やはりエリックにしかない艶やかなトーンと独特のフレーズは健在。アグレッシヴに攻め立てるようなソロではないが、レイド・バックしたフィーリングが非常に心地好かった。

2曲目は軽快なアレンジでの「Key To The Highway」、3曲目はどっしりとした「Hoochie Coochie Man」と、ブルースが続く。「Key To The Highway」ではドイルの指弾きでのソロが光ったし、「Hoochie Coochie Man」では彼のブルージーなスライドと、エリックの伸びやかなソロともに素晴らしかった。コーラスやキーボードも活きていて、伝統的なブルース・ナンバーをエリック流に、そして現代に生きる音楽として再構築した彼の功績が、再認識させられる場面でもあった。

そして、ワン・コード・リフから「Sunshine Of Your Love」へとなだれ込む。この曲も2003年にアンコールで演奏されて以来だ。ややアップ・テンポで、エリックもまだ少しそれが身体に馴染んでいない様子がうかがえたが、豊かなトーンと聴く者をハッとさせるフレーズ展開など、聴きどころたっぷりの演奏となった。

ここからアコースティック・セットとなる。2023年に亡くなったウドー音楽事務所の創業社長、有働誠次郎氏への感謝を述べてから、ロバート・ジョンソンの「Kind Hearted Woman」へ。デルタ・フィーリングのあるアコースティック・ギターの響きと、エリックの枯れた歌声の組み合わせは無二のものだ。次の「The Call」は今年リリースされたニュー・アルバム『MEANWHILE』に収録されたもので、シンガーとしての彼の魅力を最大限に感じさせてくれるナンバー。続く「Motherless Child」、「Nobody Knows You」は“アメリカーナ”(総称的な意味でのアメリカのルーツ・ミュージック)を強く感じさせてくれた。

「Golden Ring」は1978年のアルバム『BACKLESS』収録曲で、古くからのファンは今回のライヴでの隠された贈り物のように感じたかもしれない。エリックとパティ・ボイドは1979年に結婚しているが、その前年に元夫のジョージ・ハリスンが再婚すると聞いてショックを受けたパティに向けて、彼が自分の気持ちを書いた…そんな名曲だ。

そして「Tears In Heaven」を、エリックは終始目を閉じ、悲痛とも言える表情で歌い、演奏した。2回ほど鼻をすすったことからも、彼は泣いていたのではないかと思う。亡き息子のために書いたこの曲を、これまでは音楽的な情感は込めても、それ以上の気持ちには蓋をして演奏していた印象だったが、このときは違った。齢80にして、溢れ出る感情を堰き止めることなく、溢れ出るままにすることを、自らに許したのかもしれないと思わされた。

すべてを超越するギター・プレイ

アコースティック・セットが終わり、再びエレクトリックに持ち替える。曲は「Badge」。彼のライヴではよく取り上げられるが、ここでは感情のこもったヴォーカル、同じように感情がひしひしと伝わってくるギター・ソロと、どこにも文句のつけようがない見事な演奏だった。続く「Old Love」は1989年のアルバム『JOURNEYMAN』に収録されたブルージーなマイナー・バラードで、昨年から久しぶりにライヴで取り上げているようだ。胸を締め付けるような切々としたヴォーカルと泣きのギター・ソロには、「エリックここにあり(Eric IS Here)」と言うしかない。ちなみに1989年にエリックはパティと離婚したが、この曲は彼女との“過去の恋”について歌ったものだ。そして「Wonderfull Tonight」へ。イントロが終わって、マイク位置から離れ過ぎていたエリックが慌ててマイク・スタンドに駆け寄るシーンも微笑ましくて良かったし、観客がスマホで灯りをともしてこの曲を彩ったのも感動的。それにしても、プロポーズ曲のような「Golden Ring」、ジョージとの共作曲「Badge」、離婚時の「Old Love」、パティとの同棲時代に彼女の美しさを歌った「Wonderfull Tonight」と、今回のセットリストはまるでエリックがパティとのことを今一度振り返っているかのように思えるのだが、それは考え過ぎだろうか?

「Crossroads」は、かなり歪ませた上にレズリー・スピーカーで揺らしたサウンドでの無伴奏ソロから始まった。ここまでやや枯れた側面を多めに見せてきたエリックのプレイがアグレッシヴさを取り戻してくる。「Little Queen Of Spades」では、イントロ・ソロこそ音を外す場面があったが、歌終りで転調後、アウトロに向けてはまさに“渾身”のブルース・ギターを聴かせてくれた。その勢いのままに本編最後の「Cocaine」へ。これも以前よりは少しレイドバック気味になっているかもしれないが、声を張り上げて歌い、この曲としては珍しくワウをかけてソロを弾くエリックの姿は、やはり別格と思わされた。

アンコールでは「Before You Accuse Me」が取り上げられた。様々な曲を演奏したのち、この軽快なブルース・ナンバーで締め括るのが、今のエリックの心境なのかもしれない。ソロ中ではブルースブレイカーズ時代にそのプレイで一世を風靡した「Hide Away」(フレディ・キングのカヴァー)の、ブレイクでのキメのフレーズを披露。その時にいわゆる“ドヤ顔”をしたエリックを見られただけでも、昔からのファンは今日、武道館に来てよかったと思ったのではないだろうか。

こうして幕を閉じた2025年の日本武道館公演1日目。冒頭で疑問を呈した「これまでとは違うのか、違わないのか」という点について、触れておきたい。ギター・プレイに関して言えば、昔ほどは指が動かなくなったかもしれない。それに伴い、従来得意としていた速くて畳みかけてくるようなフレーズから成るソロは、あまり聴けなくなった。また初日だからでもあるだろうが、ミスもいくつか目立った。しかし彼はそういうことをすべて超越していた。どういうタイプの曲であろうが、エリックにしかできないエリックにとってのブルースとして、完全に成り立たせることができる。そうした部分は、2023年の来日時から比べてもまた次の段階へと進んだように思う。ジェフ・ベックは亡くなるまで進化し続けたが、エリックはどこまでも成熟し続けていると言ってもいいかもしれない。

それはヴォーカルも同じで、高音部がややきつそうなところもあったが(「Layla」をやらなかったのはKeyの問題が一番大きいのではないかと思う)、そんなことはどうでもよく思えるほどに、彼の何かを伝える力、もっと正確に言うならばエリックにとってのブルースを伝える力は、これ以上ないほどまでに高まっている。

彼は、彼の長い人生を賭けて挑んできた本物のブルースマンになるという夢を、今まさに叶えつつあるのかもしれない。

エリック・クラプトン @日本武道館 2025.4.14 セットリスト

1. White Room
2. Key To The Highway
3. Hoochie Coochie Man
4. Sunshine Of Your Love
5. Kind Hearted Woman
6. The Call
7. Motherless Child
8. Nobody Knows You When You’re Down And Out
9. Golden Ring
10. Tears In Heaven
11. Badge
12. Old Love
13. Wonderful Tonight
14. Crossroads
15. Little Queen Of Spades
16. Cocaine
[encore]
17. Before You Accuse Me

黒澤楽器店 MARTIN GUITAR Presents ERIC CLAPTON LIVE AT BUDOKAN 2025

出演ラインナップ:
エリック・クラプトン(g, vo)
ネイザン・イースト(b, vo)
ソニー・エモリー(dr)
ドイル・ブラムホール・ジュニア(g, vo)
クリス・ステイントン(key)
ティム・カーモン(key)
ケイティ・キッスーン(vo)
シャロン・ホワイト(vo)

会場:日本武道館

日程:
(終了)2025年4月14日(月)
開場 18:00 / 開演 19:00

(終了)2025年4月16日(水)
開場 18:00 / 開演 19:00

2025年4月18日(金)
開場 18:00 / 開演 19:00

2025年4月19日(土)
16:00開場 / 開演 17:00

2025年4月21日(月)
開場 18:00 / 開演 19:00

2025年4月24日(木)
開場 18:00 / 開演19:00

チケット料金(各税込):
S席 25,000円 / A席 24,000円

主催:J-WAVE/TOKYO FM/interfm/FMヨコハマ/BAYFM78
特別協賛:株式会社 黒澤楽器店
企画・招聘・制作:ウドー音楽事務所
公式インフォメーション
エリック・クラプトン公演ページ

お問い合わせ: ウドー音楽事務所 03-3402-5999公式ウェブ

(レポート●細川真平 Shimpei Hosokawa 撮影●土居政則 Masanori Doi)

【関連記事】

おすすめの記事