【NST所得隠し会見】「係争中につき…」なぜCM制作費11億円は元社員の親族会社に流れたのか
「所得隠し、なかった」と酒井社長
制作会社に支払うCM制作費の水増しおよび架空の制作費の支出によって約11億円の所得隠しを関東信越国税局に指摘されたとされるフジテレビ系列局の株式会社NST新潟総合テレビは6月4日に会見を開き、酒井昌彦代表取締役社長COOと髙島裕介取締役経営企画本部長が事の次第を説明。「視聴者の皆様、広告主の皆様、NSTを支えてくださった多くの皆様には、今回の修正申告で大変な心配とご面倒をおかけしたことを改めてお詫び申し上げます」と陳謝した。
酒井社長の説明はおおまかに以下の通り
・11億円の過少申告は、組織的に所得隠しを意図したものではない。税務当局の指摘も所得隠しを疑ったわけではなく、支払ったCM制作費が損金算入を認められないというもの
・税務当局の指導に従い修正申告を行い、7億900万円の納税をした。そのうち1億8,000万円が過少申告によって生じた重加算税である
・NSTから製作会社に払った制作費用のほとんどが、同社元社員の親族名義の会社(東京都)に流れていたことが税務調査によって発覚した
・制作会社に支払った費用がNSTに還流され、「裏金」としてプールされた若しくは広告代理店や広告主企業の接待に使われたということはない
この騒動で常勤役員3名が報酬20%3カ月間の減額という処分となった。
驚くことに、当初の過少申告分約11億円は、元社員ただ一人が制作会社から自分の親族会社に還流させ、会社は国税当局の税務調査が入るまでの6年間、そのことに一切気づかずに推移したのだという。
聞けば聞くほど不可解な点が多い話だが、NST側は「元社員とは現在係争中のため、詳細については説明を控える」というものだった。
酒井昌彦代表取締役COO「所得隠しを意図したものではない」
謎だらけの元社員、親族会社、そしてNSTの体質
当該の元社員についてこの日明かされたのは男性であることと、在職期間は営業職に従事していたということ。「一生懸命な社員だっただけに驚いた」とは髙島経営企画本部長。年齢や部署も明かされなかった。
また架空のCM制作や制作費の水増しをした制作会社は複数あり、1社を除いてはそれ以前にほとんど取引実績がないという。浮かせた制作費を流した親族会社も東京で、その会社名や業態も「係争中の案件」として明かされなかった。
一般的な会社であれば、6年で11億円、年間約2億円の金額を一社員が抜いていたとすれば「6年間、国税当局に指摘されるまでわからなかった」(酒井社長)という状況はあり得ないと思われるが、酒井社長の言う「ガバナンスが効いていなかった」会社というのはそれほどのことなのか。
NST新潟総合テレビ(新潟市中央区)
元社員が制作会社を通じて自分の親族の会社に流したという11億円は、その後どのような経路をたどったのかも判然としていないのだという。会社が行った元社員に対する調査では「一部広告主や代理店の接待費用に充てた」という供述もあったというが、それすらも確証を得られていない。またこれに対して会社側から指示をしたこともなかったという。
はたから見れば、自分の親族会社を通じてNSTから約11億円を着服した元社員は、横領の罪に問われても不思議ではない。元社員の架空支出や水増し支出が発覚したのは、2024年10月とされる。しかし、その時点から現在に至るまで、NST側が元社員を刑事告訴するような動きは見られていない。それどころか「係争中」といっても、正式な民事訴訟ではなく、代理人同士の話し合いにとどまっているということだ。
報道陣からは「元社員が広告営業の接待費に充てたというなら、それは会社に還流させていることにならないか」という厳しい質問もあったが、それ以前に「年間2億という巨額を会計から抜かれても6年間気づかれない」という異常性に、ある種の闇を感じずにはいられない。
広告収入にもろに影響
こうした事態を受け、NSTに広告出稿をしているスポンサー企業からは既に問い合わせも来ており、中には「広告出稿を見合わせたい」という先も出ているという。自分たちがスポンサーになって支えてきたメディアで、このようなずさんな監理が横行していたとあっては仕方ないところかもしれない。
会見の終盤にNSTの記者が質問した。自社に対する様々な思いを携えて会見場に向かったに違いない。
「今回の事案が起こることになった根本的な理由と、社員への説明が遅くなっていることについて聞きたい」
「根本的な理由と言えば、一社員の判断で行われた部分が大きかったのだが、われわれのガバナンスがしっかり整っていなかったのは、会社全体の問題として深く受け止めなければいけない。元社員と係争中なこともあって社員への説明も遅くなった」
早く目覚めてほしいものだ
今回NSTは、大株主でキー局のフジテレビジョンが、中居正広氏の騒動に対する対応で犯した間違いをそのままトレースしたかのようだった。
報道によって「所得隠し」が明るみに出た6月3日、報道に対しては文書で回答し、事態についてすぐに会見で説明することをしなかった。司法記者クラブが再度会見を求めたが、ようやくこの日の会見が決定したのは前日の夜遅くだった。この対応の遅さには、既視感がある。
いずれにしろ、今回の会見で判明したのは、事態のほんの概要に過ぎず、闇に覆われている本質はかなり大きいのではないか。
(写真・文 伊藤 直樹)
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