介護職の腰痛、労災認定はされる?その条件と手続きとは
本日のお悩み
介護の仕事をしていますが、腰痛で悩んでいます。
労災の認定ができるのでしょうか?
執筆者
この記事は、弁護士の伊達さんが執筆しました♪
伊達 伸一
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/10
ご相談ありがとうございます。
介護の現場では、腰に負担のかかる姿勢や動作も多く、腰痛になりやすい業界といえます。
腰痛が労災認定される可能性はあるのかということですが、結論としては、介護の仕事で腰痛になった場合、労災認定される可能性はあります。
労災認定されるケースとされないケースはどのようなケースなのか?というのを厚生労働省の資料をもとに解説します。また、必要な手続きに関しても解説しますので、お役立ていただけますと幸いです。
腰痛の労災認定とは?
*労災認定のポイント*「業務遂行性」と「業務起因性」が認められれば、労災として認定されることになります。ご質問の介護の仕事で生じた腰痛が労災として認定されるかについては、介護の仕事で生じた腰痛に「業務遂行性」と「業務起因性」が認められれば、労災として認定されることになります。
●業務遂行性…業務中の負傷等かどうか
●業務起因性…業務に原因がある負傷等かどうか
腰痛は日常生活の中でも生じうるものですので、上記の「業務遂行性」「業務起因性」の要件該当性が問題となってきます。
この点、厚生労働省では、業務上腰痛の認定基準(以下「認定基準」といいます。)を定めており、これにより労基署は腰痛が労災に該当するかを判断することとなります。
認定基準では、腰痛を「災害性の原因による腰痛」と「災害性の原因によらない腰痛」の2種類に区分して、それぞれ労災補償の対象として認定するための要件を定めています。
なお、労災補償の対象となる腰痛は、医師により療養の必要があると診断されたものに限られますのでご注意ください。腰痛の労災認定 認定要件
●災害性の原因による腰痛
負傷などによる腰痛で、次の1・2の要件をどちらも満たすもの
1.腰の負担またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること
2.腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること
*腰に受けた外傷によって生じる腰痛のほか、突発的で急激な強い力が下人となって筋肉等(筋、筋膜、靭帯など)が損傷して生じた腰痛を含む
●災害性の原因によらない腰痛
突発的な出来事が原因ではなく、重量的を取り扱う仕事など腰に過度の負担がかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や作業期間などからみて、仕事が原因で発症したと認められるもの
出典:厚生労働省「腰痛の労災認定」
災害性の原因による腰痛とは?ぎっくり腰は?
災害性の原因による腰痛の具体例をご紹介します。
具体例1:
近くにいたご利用者がふらついてしまい、咄嗟にご利用者の体を支えた。
突然の出来事により急激な強い力がかかったことにより腰痛が生じた。
具体例2:
持ち上げたご利用者の荷物が予想に反して、重かった(逆に軽かった)ため、不適当な姿勢で重量物を持ち上げてしまった。
それにより、突発的で急激な強い力が腰に異常に作用し腰痛を生じた。
出典:厚生労働省「腰痛の労災認定」を加工して作成上記が、労災補償の対象となりうる、災害性の原因による腰痛の具体例です。
また、いわゆるぎっくり腰(急性腰痛症)は、日々の動作のなかで生じるため、いくら仕事中に生じても基本的には労災補償の対象とは認められないとされています。
ただし、発症した際に明らかに動作や姿勢の異常性が見られ、腰へ強い力の作用があった場合には業務中のぎっくり腰も労災補償される可能性があります。
例えば、ご利用者を移乗していたときに発症したなど、痛みの発症時の業務が原因となった場合などはしっかりとその旨を医師に伝える必要があります。
災害性の原因によらない腰痛とは?
次に災害性の原因によらない腰痛に関してですが、これはとくに大きな原因はないものの、慢性的な腰への負担から発症した腰痛を指します。
日々の業務による腰部への負荷が徐々に作用して発症した腰痛として、その発症原因から下記の2つに区分して判断されます。
1.筋肉等の疲労を原因とした腰痛
2.骨の変化を原因とした腰痛
災害性の原因によらない腰痛
1.筋肉等の疲労を原因とした腰痛
次のような業務に比較的短期間(約3か月以上)従事したことによる筋肉等の疲労を原因として発症した腰痛は、労災補償の対象となるとされています。
・約20㎏以上の重量物または重量の異なる物品を繰り返し中腰の姿勢で取り扱う業務(例:港湾荷役など)
・毎日数時間程度、腰にとって極めて不自然な姿勢を保持して行う業務(例:配電工(柱上作業)など)
・長時間立ち上がることができず、同一の姿勢を持続して行う業務(例:長距離トラックの運転業務など)
・腰に著しく大きな振動を受ける作業を継続して行う業務(例:車両系建設用機械の運転業務など)
2.骨の変化を原因とした腰痛
次のような重量物を取り扱う業務に相当長期間(約10年以上)にわたり継続して従事したことによる骨の変化を原因として発症した腰痛は、労災補償の対象となるとされています。
・約30㎏以上の重量物を、労働時間の3分の1程度以上に及んで取り扱う業務
・約20㎏以上の重量物を、労働時間の半分程度以上に及んで取り扱う業務
出典:厚生労働省「腰痛の労災認定」
なお、腰痛は、加齢による骨の変化によって発症することが多いため、骨の変化を原因とした腰痛が労災補償の対象と認められるには、その変化が「通常の加齢による骨の変化の程度を明らかに超える場合」に限られるとされています。
また、上記1.に示す業務に約10年以上従事した後に骨の変化を原因とする腰痛が生じた場合も労災補償の対象となるとされています。
椎間板ヘルニアなどの既往症または基礎疾患のある場合
椎間板ヘルニアなどの既往症または基礎疾患のある労働者が、仕事でその疾病が再発したり重症化したりした場合に、上記「災害性の原因によらない腰痛」の該当要件を満たしたときは、労災として認定されることになりますが、その場合、その前の状態に回復させるための治療に限り労災補償の対象となることとされています。
介護の仕事による腰痛で労災認定が可能なケースについて
介護の仕事による腰痛でも、上記の「災害性の原因による腰痛」「災害性の原因によらない腰痛」に該当すれば、労働基準監督署により労災認定の判断がされることになります。
たとえば、利用者さんをベッドから車椅子に移乗させようとしたところ、利用者さんが急に自ら動かれてバランスを崩しそれをカバーしようとしたところ変に腰に力がかかってしまって腰椎捻挫になってしまった場合には、災害性の原因による腰痛として、労災認定されることになるかとおもいます。
介護の仕事による腰痛で労災認定ができないケースについて
元々椎間板ヘルニアの既往症があり、日々の介護の業務で悪化した場合、その業務として特に腰部へ過度の負担がかかる介助に従事していたわけではない場合には、業務起因性が否定されて労災補償の対象とならないことになります。
また、当然のことですが、介護の仕事から帰宅した後自宅で転倒して腰部を打撲し痛めた場合は、業務遂行性がないものとして労災補償の対象となりません。
実際に相談したいときの手順
実際に相談したいときの手順
1.医師の診療、診断
2.厚生労働省の書式に合わせ請求書を記入
3.労働基準観察書へ提出
4.審査
5.支給決定通知書
労災は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等であり、まずは腰痛について医師の診察を受けることから始まります。
求める給付に合わせて、厚生労働省の書式がありますので、請求書を記入することになります。事業主が記入する欄については事業主に記入してもらうことになります。
参考:厚生労働省「労働災害が発生したとき」
そのうえで、請求書を所轄の労働基準監督署に提出することになります。
提出後は、労働基準監督署によって、労災と認定すべきかどうかの調査が行われることになります。その上で、労災として認定され支給が決定すれば支給決定通知が送付され、不支給が決定すれば不支給決定通知が送付されることになります。
腰痛を起こす負傷又は疾病は多種多様ですので、労災として認定されないケースも少なくないかと思います。労災補償の不支給決定に納得できない場合には、労災保険審査官への審査請求等の不服申立てを行うことになります。
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