平間壮一&TETSUHARUが語る『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』の魅力や再々演への思い
『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』は、ミュージカル『ハミルトン』で知られるリン=マニュエル・ミランダの処女作。2008年度のトニー賞最優秀作品賞をはじめとする数々の演劇賞を受賞し、2021年には映画化もされた。
日本では2014年に日本版初演を行い、2021年に再演。再々演となる2024年は、初演から引き続きTETSUHARUが演出と振付を担当。Micro・平間壮一(Wキャスト)、松下優也、sara、豊原江理佳、有馬爽人、エリアンナ、ダンドイ舞莉花、MARU、KAITA、戸井勝海、彩吹真央、田中利花といった実力派が顔を揃えている。
2021年から引き続きウスナビを演じる平間壮一とTETSUHARUにインタビューを行った。
■再演の良さはそのまま、より良い作品に育てたい
ーー初演から大きくブラッシュアップした再演に続き、再々演となる今回はどのように作ろうと考えていますか?
TETSUHARU:キャスティングがずいぶん変わり、アンサンブルの男女比や劇場のサイズも変わりました。その関係で、パフォーマンスのアレンジはもちろん、初演・再演に引き続き今回も生演奏なので、オーケストラの方々の配置変更によるステージ裏の動線の変更などが必要になっています。
再演時は街灯や非常階段など、劇中の象徴的なオブジェクトを追加することで、初演から構想にはあっても実現しきれなかったシーンを創作しました。おかげでより素敵な作品に仕上がりました。なので今回は、基本的に大きな変更はしないつもりですが、ワシントンハイツの街の空気感や雰囲気をより伝えるために必要なものは追加したいと考えています。
また、前回はコロナの影響で完走できませんでした。その時期を経てもう一度本作に取り組む上で、マインドの変化はあります。表現により深みのあるキャラクター作りやパフォーマンスを心がけていきたいですね。
ーー平間さんが2021年から引き続きウスナビを演じる上でパワーアップさせたい部分はどこでしょう。
平間:音楽とラップがかっこいいし踊りもあるので、かっこいいのをやりたい気持ちもあったんです。でも、ウスナビはちょっと鈍臭い役。シャイだし、かっこつけたくてもかっこつかない部分をパワーアップさせたいと思っています(笑)。
ーー前回の公演で思い出深いこと、先日行われたイベントの手応えを教えてください。
TETSUHARU:僕は(イベントに)後から合流したんですが、キャストの皆さんが率先して進めてくれていて。僕は見てるだけみたいな(笑)。反響は良かったですよね。
平間:当日もTETSUHARUさんが来てくれて、リーダーだなって。気持ちも落ち着きました。
TETSUHARU:初めて“CLUB“という場所に足を運んだという方もたくさんいたと聞きました。そういった意味ではすごく良かったと思います。
平間:前回の公演で思い出深いのは、TETSUHARUさんと一緒に踊れたことです。
TETSUHARU:やめてよ(笑)。スチール撮影の時も「今年は踊らないんですか?」って聞いてきて。決して僕が出たがりなわけじゃないんですけど、1シーンだけ関係各所に許可を得て、カメオ出演させて頂きました(笑)。それを思い出深いと言われると逆に恥ずかしい。
平間:出会いはTETSUHARUさんが曲の振り付けをしていたドラマ『サイン』。だから演出家というよりはダンサーさんのイメージで。
TETSUHARU:海外にはダンサー出身の演出家さんはたくさんいるしね。今は演出家としての活動もさせてもらっているけれど、壮ちゃんと出会った当時はダンサーとしてのイメージが強かったよね。
平間:それが出会いだったので、一緒に踊れたのが嬉しかったです。
TETSUHARU:付き合いも長いし、キャリアを積んで頼もしい存在になってくれた壮ちゃんが続投してくれるのは本当に心強いです。
■魅力的なキャストが揃った今回の公演
ーーTETSUHARUさんから見たキャストのみなさんの変化や成長はありますか?
TETSUHARU:(松下)優也とは2年前に別の作品でご一緒し、成長を感じました。10年ぶりにベニーという役でもう一度一緒に作れるのが楽しみです。Microは初演から続投だし、優也も戻ってきてくれたし、他の皆さんもそれぞれのフィールドで活躍している方々ですから、芝居面もしっかり稽古をしていきたいです。
初演と再演は期間が空いていたので、リニューアルしたいと試行錯誤して臨みました。いかんせんコロナ禍だったので制限が多く、舞台稽古に入ってから初めてわかることもあった。それを見直すという意味では短いスパンで再々演できるのはいいことだと思っています。
コミュニティの団結や虐げられた人たちのエネルギー、本当の幸せはどこにあるのかといった普遍的なテーマを持った作品であることは変わらない。パフォーマンスだけではなく役者の芝居の中でさらに深め、この作品の魅力を日本の皆さんに届けられるよう尽力したいなと。みんなの魅力をひと束にしたいと思っています。
ーー平間さんから見て、今回のキャストの印象はいかがですか?
平間:今回のキャストのみんなはワシントンハイツに住んでいそうな感じがよりしますよね(笑)。この作品に出てくる人たちは芯が強い方が多いですが、今回は出演者もそういった方が集まったんじゃないかなと思いました。イベントのリハーサルでもそうだったけど、意見があればすぐ言うし、誰も遠慮しない。好きだなあと思いました。
ーー平間さんが感じるTETSUHARUさんの魅力、TETSUHARUさんが感じる平間さんの魅力を教えてください。
平間:全部やれる人ってイメージです。特定のジャンルに偏っていなくて、面白いこともかっこいいこともやれる。ヒップホップとかストリートカルチャーもできるけど、クラシックとかジャズ、バレエもやれる。
TETSUHARU:確かに、バレエから入ってるけど、最近はなぜかそれを言われなくなった。
平間:僕がミュージカルや舞台をやろうと思ったのはTETSUHARUさんと出会ったことも大きいんです。いろいろなジャンルの仕事をしているのを見て、「続けていれば自分もこうやって踊れる作品に出会えるんじゃないか」と思って続けてきたところもあります。
TETSUHARU:恐縮しちゃいますね。
平間:柔軟さの理由はなんですか?
TETSUHARU:「ダンス・芝居・歌」は、それぞれが肉体表現の手段としては同じものなので、それに垣根を作ること自体がナンセンス。全部に通じるものがあるんだっていう僕の思いに壮ちゃんも共鳴してくれるのかなと。
僕が感じる壮ちゃんの魅力は、とにかく素直だし、今でも吸収しようという姿勢がずっとある。当然今まで積み上げてきた経験値もあるから、何も言わなくても必要なものをスッと出してくれる。言わずともわかってくれるという信頼感があります。加えて勘が良いし、それを身体表現に置き換えるスキルも高い。「平間壮一」という人の人間性が豊かになるほど、ダイレクトにアウトプットしていける。それでいて嫌味がなく、懐にスッと入ってくる。
平間:ありがとうございます。
■気になっているなら見ないと損!
ーーお二人はイープラス貸切公演のアフタートークショーに参加してくださることも決まっています。
平間:みなさんどんな話を聞きたいんだろう。何を話します?
TETSUHARU:なんだろうね。僕ら以外のキャストもトークショーに参加する可能性があるから。
平間:植木豪さんは話に出てくると思います(笑)。単純に稽古場の裏話もそうですし、作品の掘り下げなど、いろんな話をするとは思う。
TETSUHARU:ウスナビはWキャストじゃないですか。シングルキャストから見る違いとかも話せたら面白いよね。それぞれの魅力がよりキャッチできそうだし。あとは、初演、再演とやっている中で今回何が違うかとか、実は21年の上演の時にはなかったものがあるとかの裏話も話せたらいいなと思いますね。ネタは稽古の中でいろいろ出てくると思います。
平間:その辺を楽しみにしてください。
ーーミュージカルでは珍しいラテンやヒップホップが中心の楽曲です。特に魅力を感じるポイントを教えてください。
TETSUHARU:ラテンとかヒップホップ、ブラックカルチャーなどは、パワーがすごくあるし歴史的な背景から生まれてくる音楽。高揚感とメッセージ性がすごく強いものです。「ミュージカルといえばフルオーケストラで、ストリングスがあって」だけではないという、センセーショナルな登場をした作品だと思います。でも、我々にはいわゆるストリートカルチャー自体は馴染み深いものなので、こういう時代がきたんだなと。お客さんにも堅苦しく構えず、一体になって楽しんでもらえたらと思います。
平間:初めてヒップホップやラップを聞く方でも心地よくなる音が魅力だと思います。もっと攻撃性が高いダークなイメージの曲もあるけど、この作品の楽曲は割とポップ。全く知らない方が聞いてもリズムにのれると思います。
ーー作品のテーマの一つに「HOME」がありますが、平間さんにとっての「HOME」はなんでしょう。
平間:僕は中学生で実家を離れたぶん、帰った時に「帰ってきたなあ」としみじみ思います。ただ、小さい時の時間は取り戻せない。もし自分に子供ができて、12歳で家を離れたら寂しいだろうなとも思います。自分の経験から、居場所がある幸せだけじゃなく、なくなった時の寂しさも感じました。だからこそ、『イン・ザ・ハイツ』は血の繋がっていない人たちを大切にしていく舞台、住んでいるみんなで居場所を作っていくことがテーマになっている物語なんだなと。国や人種の違いはあっても同じ人間だから、みんなでまとまろうとすればできるはず。そんなことを感じられる舞台だと思います。
ーー最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
平間:まずはヒップホップなどの文化があっても「怖くないです」と伝えたいです。物語を崩さずに日本語で書いているKREVAさんのラップ詞がすごい。心地いいし楽しいので、観たら好きになってもらえると思います。あと、歌も踊りも上手いし魅力的な人ばかり。自分の居場所を見つけたくてもがいている役、「本当はこうしたい」と思っている役にピッタリな人生を背負っている人たちが集まってきていると思います。そんな人たちがまとまったらとんでもないパワーになります。前回観に来られなかった方も、今回は絶対観に来たほうが良いと思います!
取材・文=吉田沙奈 撮影=荒川 潤