100マイラー・佐々木 希のトレイルランニング・ギア選び:#04 レインウェア
舗装路から岩場、ぬかるみまでさまざまな路面で構成されるコースを、刻々と移ろう天候や気温に対処しながら延々と走り続ける「トレイルランニング」には、優れたアイテム、マテリアルが不可欠。2023年ULTRA-TRAIL Mt.FUJI、2024年Mt.FUJI100を完走した“100マイラー”佐々木 希選手が、自らのトレイルランニング・ギアを紹介する連載、第4回は「レインウェア」。
トレイルランニングは春から秋がハイシーズンと言われるが、もちろん冬も楽しめる。季節によって身につけるものは変わるが、どんなときも携行すべき大事なギアが「レインウェア」だ。登山向け、トレラン向け、オールシーズン用、冬向け、と種類は様々。デザインや特徴はメーカーによって異なるし、値段も幅広い。
トレランを始めて、私が初めてレインウェアを購入したのは冬場になってから。はじめの頃は長い距離を走る走力がないので、遅くても14時には下山。雨の日に山には入らなかったので、必要性を感じていなかった。コロナ禍で暇になり、時間があれば山へ行くようになった。走れる距離が伸び、少しくらい天気が悪くても構わなくなり、雨に降られることもしばしば。そこでやっとレインウェアが必要だなと気付いた。
しかしとにかく高い! スペックなど気にせず防水しそうだと、とりあえずワークマンから入門。そのうち、セールで見つけたMERRELLに格上げ。どちらかというと登山向けの製品で、重いし、かさばっていたがしばらく使っていた。レースにも出るようになり、3戦目でやっと、トレラン向けのレインウェアを調達した。
3戦目のレースとは、2022年9月末に行われた志賀高原でのレース。8時のスタート時から冷たい小雨が降っていた。気温は8度、標高は1600m。周りからレインを着ろと言われたが、すぐ暑くなるからと着ずにスタート。コースはどんどん標高をあげ、雨も強まり、足元は膝まで泥水に浸かった。
寒くなってからレインを着たけれど、冷え切った体は温まらず、本当に死んでしまうかと思った。こわばった体でなんとか進み続け17km地点のエイドでリタイアした。低体温症でリタイアした人が多くて搬送車になかなか乗れず、エマージェンシーシートにくるまり、必死に寒さに堪えながら車を待った。その後すぐ入浴したが、温まるまでに2時間もかかった。この経験で、レインウェアの重要さを痛感した。
レインウェアとは、雨を弾いて中が濡れない服、という認識しかなかったが、雨が降っていなくても防寒着として活用できる。山の天気は変わりやすいうえ、高度や時間帯で気温差も激しい。雨でなかろうが、暑い日だろうが、レインウェア、特にレインジャケットだけは持つと良い。どのレースでも必携が義務付けられている。
あと大事なのは「いつ着るか」。
1.雨が降っているとき
真夏で気温が高くても長時間濡れ続けると冷えてくるので、中は薄着にしてレインジャケットを着る。透湿性の高いウェアなら蒸れにくいのでさほど暑く感じない。暑すぎるときは、前を閉めずに羽織るだけでも直接濡れないので冷えにくい。
2. 風が強いとき
高山や稜線では風が強くなるため、防風性のあるレインジャケットを着ることで体温低下を防げる。
3. 寒いとき
低体温症を防ぐため、特に標高の高い場所、レーススタート前の待機時間、休憩時、寒い時期の走り始め、体があたたまってくるまでは防寒対策として活用。
ころころ状況が変わるたびに脱ぎ着をするのは面倒なのだが、怠ると暑すぎたり、寒すぎたり、無視し続ければ体調を崩してしまう。レインウェアだけでなく、その他の衣類もこまめに脱ぎ着をするとよい。山の中で具合が悪くなっても、すぐに下山できるわけではないので、的確に判断して対処しなくてはならない。
レインジャケットの防水レベルは、「耐水圧」といって、生地がどれだけの水圧に耐えられるかを示す指標でわかる。単位は「mmH₂O」(ミリメートル水柱)で表され、数値が大きいほど防水性能が高い。
耐水圧の目安
•500mm~1,000mm:小雨程度に耐えられる(一般的なウインドブレーカーなど)。
•5,000mm前後:普通の雨や軽いアウトドア活動向け(ハイキング用のレインウェア)。
•10,000mm~20,000mm:強い雨や長時間の使用に対応(登山やスキー向けの高機能ウェア)。
•20,000mm以上:大雨や嵐でも耐えられるレベル(プロ仕様、極地探検向け)。
ただし、生地の耐水圧が高くても、縫い目のシーム処理や透湿性(汗の蒸気を逃がす性能)が低いと、内部が蒸れて不快になる。トレラン向けのレインウェアを選ぶ際には、以下のポイントを重視すると良い。
1. 耐水圧と透湿性のバランス
•耐水圧 10,000mm以上:強い雨にも耐えられるレベル。レース規定では10,000mm以上を求められることが多い。
•透湿性 10,000g/m²/24h以上:汗や蒸れを逃がしやすい。蒸れにくさが重要。
•20,000mm/20,000g/m²/24h以上のものは、雨が強く長時間着用する場合に最適。
2. 軽量・コンパクト
•200g以下が理想(レースや長時間走る際に負担を減らすため)。
•収納性が高いもの(ポケットや専用スタッフバッグに収まる)。
3. フィット感
•ランニングに適したスリムなシルエット(バタつきを防ぐ)。
•ストレッチ素材が含まれると動きやすい。
•フードがしっかり固定できるもの(視界の確保が重要)。
4. 防風性とシーム処理
•防風性があると雨風の寒さ対策になる。
•シームテープ(防水加工された縫い目)が施されているもの。(レースでは、シームテープのないものはレインウェアとして認められない)
あとは好みのものを。複数持てるなら薄手や厚手のもの、洗い替えがあるとよい。
最近、新たにレインジャケットとレインパンツを購入した。
ザ・ノース・フェイス「ジーティエックストレイルエンデュランスジャケット」は、防水透湿素材に「GORE-TEX Paclite Plus」を採用した、カバーオールタイプ。トレランザックを背負ったまま着用できるので、雨天に素早く対応できる。左右の胸にファスナーがついていて、着たままザックにアクセスでき、ベンチレーションにもなる。オーバーサイズに見えるがかなりコンパクトにまとまるし200g以下と軽い。
ザ・ノース・フェイス「ジーティエックストレイルエンデュランスジャケット」
https://www.goldwin.co.jp/ap/item/i/m/NP12372?srsltid=AfmBOopT2ZcWETa11ZWIMR5kS0MKn00-OLKc3cHRwlK4DQT69uoi0YMr/
THE NORTH FACE FLIGHT TOKYO限定「ストライクトレイルフルジップパンツ」は、ザ・ノース・フェイスの防水ウェアの中でも軽量な「ストライクトレイルパンツ」のフルジップタイプ。ジップを完全に開けば、いわば一枚の布、靴を脱ぐこともなく着脱できる。
ザ・ノース・フェイス「ストライクトレイルフルジップパンツ」
https://www.facebook.com/thenorthfaceflighttokyo/videos/-flight-tokyo-exclusive-item-strike-trail-full-zip-pantproduct-codenp62475fcolor/1455251308481994/
この2点は、レースシーンをイメージして選んだ。ロングレースとなると20時間以上走り続ける。ころころ変わる気候にスピーディーに対応できるから、面倒がらずに着脱できる。そうすると、体を冷やしすぎたりすることもなくパフォーマンスを維持できる。ギア一つで走りが変わる。あとはどう収納するかや、他のギアやウェアとの組み合わせなど、試行錯誤する。工夫次第でトレランシーンはより快適にできる。