最良の選択は「デパ地下総菜」!?発達障害のある息子たちとの家族旅行、困りごとを乗り切るわが家流「旅の心得」
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
発達特性のある子どもとの旅行で困る!トイレ問題
旅行で起きがちなトラブルのひとつは、トイレ問題ではないでしょうか。わが家の3人の子どもたちは全員男の子です。昨今は外出先で、子どもたちだけでトイレへ行くことが不安視されることも多いように感じます。バリアフリートイレがある際には私も入れるのですが、行先によってはないところもあります。そういう時には夫が出動です。
また、長男と次男は「トイレ」と言葉に出せますが、急に行きたくなったとき、すぐに対応できないとパニックにつながることもあります。だからこそ、物理的に私が入れないときの「夫の出動」は、単なる付き添いというだけではなく、子どもが普段と同じ安心感で用を足せる環境を確保するための、重要な役割なのです。ちなみに、次男かーは、立って用を足せるように夫とも家で練習を続けています。この練習が、慣れない旅行先での安心にも繋がると信じています。
「食べられる」安心感を優先!偏食3きょうだいを救うありがたすぎる存在
もうひとつはやはり、食事の問題が挙げられます。わが家の子どもたちは偏食気味で食べられるものが多くはありません。きょうだいそれぞれで微妙に違いがあり、例えば長男りーは野菜を受けつけません。例外もありますが基本的に野菜を自ら食べたがりません。そして三男おーはお肉があまり好きではないようです。そのためホテルで夕食のお膳を頼むとおなかいっぱい食べられず、また残してしまうのではと思い、わが家の旅行中の食事はこうなりました。
ホテルで食べる場合はビュッフェスタイルのものを選ぶようにし、お店で食べるときには子どもたちの馴染みのあるチェーン店などを選ぶようにしました。
ビュッフェは、偏食気味の長男、三男にとって「食べられるものを確実に選べる安心感」に直結します。また、配膳を待つ必要がなく、自分が食べたいときにすぐ取れるので、苦手な「待機時間」を減らすことができ、パニックのリスクも軽減します。さらに「これは食べられるかな?」という新しいものへのスモールステップの挑戦も、ちょっとだけ試せるのが魅力です 。我々夫婦にとっても、子どもたちが食べ残したものだけでなく、自分たちが好きなものを食べられるのが楽しみです。
お店で食べるときにはチェーン店を選べば大体のメニューは把握しているため、事前に子どもたちが食べそうなものを想定できます。また、チェーン店は子ども用メニューや家族連れも多いため、少し声が大きくなってきてもあまり気を張らなくても良いのがありがたいです。
外食が難しいときの「最良の選択」はデパ地下総菜!親の疲労も解放
しかしそれでも、疲労による姿勢の崩れや声のボリューム増など、外食がどうしても難しいときがあります 。そんな時、私たちは迷わずデパ地下のお惣菜を買ってホテルで食べます。人の目も気にせず、家族だけでゆっくり過ごせるホテルの部屋での食事は、子どもの疲れだけでなく、「周囲の目を気にし続けた」私たち夫婦の疲労をも一気に解放してくれるのです。これは家族全員が快適に過ごすための「最良の選択」だと考えています。
「初めての不安」を乗り越える力を育むために。わが家が家族旅行を続ける理由
わが家が旅行をする理由は、子どもたちの好きなところへ行き、楽しい体験をしてほしいということもありますが、一番は「いつもと違う場所での生活の動作の練習をしてほしいから」です。
初めてのことに不安を感じやすい長男と三男。そして思い込みやこだわりがある次男。旅行という日常と違うことを体験することで、それらの特性による困りごとを減らしていってほしいと考えています。実際、特別支援学校、放課後等デイサービスへ行っている長男りーは、いろいろなところへ連れて行ってもらったり、新たな体験させてもらったりすることで、少しずつですが初めてのことに対しての抵抗も減ってきたように感じます。
これからも、私たち夫婦から子どもたちへ残してあげられる財産として、家族旅行でたくさんの体験をしてくれたらいいなと思います。
執筆/かしりりあ
(監修:鈴木先生より)
ASD(自閉スペクトラム症)のお子さんのトイレ問題で多いのは、子どもの時からズボンとパンツを脱いで小便する習慣があると、大人になっても同じようにしてしまう傾向があることです。ですから、できるだけ早い時期にズボンをはいたまま小便をする習慣をつけることが大事になります。
また、ビュッフェは旅行先という普段とは異なった環境でも、自分が食べられるものを選べる安心感がありますね(ついつい好きなものを多くとってしまい、食べすぎてしまうことも珍しくありません)。それだけではなく、かしさんもおっしゃっている通り、苦手なものを試すチャンスにもなります。普段は食べなれていない野菜にドレッシングをかけてみたり、肉が嫌いでも焼き鳥やローストビーフなどを試してみたりして少量の「試食」ができるのも魅力ですね。デパ地下の総菜売り場でも同じことが言えます。旅をすることにより普段とは違った経験をすることでお子さんたちも成長していくのではないでしょうか。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。