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革命を起こした跳躍技術「フォスベリーフロップ」 1968年メキシコシティー大会【オリンピック珍事件】

SPAIA

ディック・フォスベリー,Ⓒゲッティイメージズ

陸上界に革命をもたらした「背面跳び」

1968年10月、メキシコシティーで開催された第19回オリンピック競技大会で、アメリカのディック・フォスベリーが披露した新しい走り高跳びの技術は、陸上競技の歴史に革命をもたらした。この技術は「フォスベリーフロップ」と呼ばれ、現代の高跳び競技の標準的な技術となっている。

フォスベリーは、オレゴン州立大学の学生だった。彼は従来の高跳び技術で思うような成績を出せず、独自の跳躍方法を模索していた。そして編み出したのが、背中から跳び越える画期的な技術だった。

従来の高跳び技術は、腹や胸を下にしてバーを跳び越える「はさみ跳び」や「ベリーロール」と呼ばれる技術が主流。しかし、フォスベリーの技術は全く異なった。彼は助走の最後でカーブを描き、背中からバーを跳び越えたのだ。

この新しい技術は、物理学的にも理にかなっていた。背中から跳び越えることで、重心をバーの下に保ったまま体をアーチ状に反らせることができる。これにより、実際のジャンプの高さよりも高いバーを越えることが可能になった。

五輪新記録の2m24で金メダル

この革新的な技術は、当初は懐疑的な目で見られた。コーチや他の選手たちは、この奇妙な跳び方を見て首をかしげた。中には危険だと警告する声もあった。実際、フォスベリー自身も練習中に何度も頭から落下し、怪我をすることもあった。

それでもフォスベリーは自身の技術を信じ、改良を重ねた。そして1968年、メキシコシティーオリンピックの舞台で、彼はその技術を世界に披露した。

大会当日、観客や他の選手たちはフォスベリーの跳躍を目にして驚愕した。彼の跳躍フォームは、それまでの高跳び競技とは全く異なるものだった。背中からバーを跳び越える姿は、まるで飛行機が着陸するかのようだと評された。

結果は驚異的だった。フォスベリーは2メートル24センチの高さをクリアし、オリンピック新記録を樹立。見事に金メダルを獲得したのだ。この瞬間、「フォスベリーフロップ」は世界中の注目を集めることとなった。

女子はマフチクが37年ぶり世界新

フォスベリーの勝利は、高跳び競技に革命をもたらした。彼の技術は瞬く間に世界中に広まり、多くの選手がこの新しい跳躍方法を導入。1980年代に入ると、ほとんどの一流選手が「フォスベリーフロップ」を使用するようになった。

この技術の普及により、走り高跳びの記録は飛躍的に向上。現在の男子世界記録は2メートル45センチ(ハビエル・ソトマヨル、1993年7月27日)、女子は2メートル10センチ(ヤロスラワ・マフチフ、2024年7月7日)。これらの記録は、「フォスベリーフロップ」なしには達成し得なかっただろう。

「フォスベリーフロップ」の登場は、スポーツにおける革新の重要性を示す好例となった。それは、従来の常識や慣習にとらわれず、新しいアイデアを追求することの価値を教えてくれる。同時に、一見奇異に見える方法でも科学的な裏付けがあれば大きな成果をもたらすことを示した。

フォスベリーの革新は、他のスポーツにも影響を与えた。彼の成功は、様々な競技で新しい技術や戦略を模索する動きを促進。スポーツの世界に「常識を疑う」という新しい風を吹き込んだ。

現在、「フォスベリーフロップ」は珍しい技術ではない。むしろ、走り高跳びの標準的な技術となっているが、その革新性と影響力は今も色褪せることがない。

フォスベリーの挑戦と成功は、オリンピックの歴史に残る重要なエピソードの一つだ。それは、創造性と勇気、そして科学的思考がスポーツの世界にもたらす変革の力を示す、象徴的な出来事だった。「フォスベリーフロップ」は、スポーツの進化と人間の可能性を体現する、生きた証となっている。

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記事:SPAIA編集部

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