欧米どころか香港・韓国より低い日本の「家庭養護」の現在地 〔養子・里親の実態と仕組み〕
4月4日「養子の日」に考える日本の養子縁組の現在地・第1回。国内の養子・里親の成立数や仕組みとは。全2回。
【写真➡】小児がんの子が5歳で結婚式「こどもホスピス」を見る4月4日は「養子の日」です。「養子」と聞くと、ハリウッドスターが育てているイメージを持つ人は多いかもしれません。「裕福だからできる」「日本と外国は文化が違うから」などといった先入観がある人もいるでしょう。しかし、近年、日本でも法改正などが進み養子縁組や里親制度の重要性が改めて認識されつつあります。
今回は、国内での養子縁組や里親制度の普及に努めてきた日本財団の「子どもたちに家庭をプロジェクト」の高橋恵里子さんに、現在の日本における養子縁組についてお話を伺いました。
どうして? 欧米どころか香港・韓国より低い日本の「里親」
日本財団が2013年に養子縁組・里親制度を支援するプロジェクトを発足させたのはメンバーの一人である高橋恵里子さんの素朴な疑問から。
「自分が子育てをしている中で、親に育ててもらえない子どもたちはどのような生活をしているのだろうと思ったことがきっかけで、そこから日本の養子縁組や里親制度について調べ始めました」
さらに、当時(2013年)、愛知県の児童相談所の元職員で、養子縁組支援に携わっていた児童福祉司・矢満田篤二(やまんた・とくじ)さんの講演会を聞いたことで、もっと養子縁組や里親制度への認知や理解を広げていかなければという強い思いにかられたそうです。
なかでも矢満田さんのこんな言葉が心にささったといいます。
「家庭を必要としている子どもはたくさんいる、一方で子どもを育てたいと思っている養親希望者も多くいる。
養子縁組が実現すれば、子どもにも養親にも、税金で子どもたちを養育している国や自治体にも良いことばかり。みんなハッピーになれるのに、なぜ今の日本では養子縁組がすすまないのか」
高橋さんは同年、プロジェクトを本格的にスタートさせました。
生みの親と暮らせない子どもは約4万2000人
現在、日本において何らかの理由で親と暮らすことができない社会的養護が必要な子どもの数は約4万2000人。その中で家庭養護を受けているのは約20%の8000人前後のみです(こども家庭庁調べ)。
心身ともに幸せに育つために必要とされる家庭的な養護が受けられないまま、成人を迎える子どもが多くいるのが現実なのです。
「国連の子どもの代替養護に関する指針(※)では、政府はまず生みの親を支援して親子の分離を防ぐべき。しかし、それでも子どもが生みの親と暮らすことが難しい場合は養子縁組などで永続的に家庭を提供することを目標にするべきと掲げています。
家庭的養護のもとで育つのは子どもにとって重要なことであるのに、日本では生みの親が養育できない場合は乳児院や児童養護施設での養育が第一の選択肢となっているのです。その逆転現象をどうにか変えられないかと思い活動を続けてきました」
日本は近隣国の香港 韓国より低い
アメリカやイギリスなど欧米諸国では、広く実施されている養子縁組・里親制度ですが、日本ではまだまだ少ないのが実情です。
2018年前後の厚生労働省調査(※)では、里親などに委託されている児童の割合は、オーストラリアが92.3%とトップで、ついでカナダ、アメリカが80%、イギリスでも70%を超えています。日本は調査対象国の10ヵ国中最下位で、24.3%に留まっています。
諸外国における里親等委託率の状況では、オーストラリア、カナダ(BC州)、アメリカ、イギリスがトップに並び、日本は台湾、韓国より下だ。 出典:社会的養育の推進に向けて/こども家庭庁支援局家庭福祉課
では、なぜ日本ではこのような低い割合となっているのでしょうか?
「日本では、実親の権利が強いことが影響していると思います。“子どもは親のもの”という考え方がまだ根強いので、『育てることはできないけれど親権は手放したくない』という親が多いのではないでしょうか。
しかし、親の権利があるように、子どもにも養育環境が整った家庭で幸せに安全に暮らす権利があります。当たり前である“子どもの権利”が長い間低く見られてきたという社会風潮があるのかもしれません。
それにともない、残念ながらどこか他人事であるという認識にもつながっているように思います」
受け入れ側の認識などの低さも改善すべき点だと高橋さんは続けます。
「特別養子縁組」と「普通養子縁組」 何が違うの?
「日本財団の調査(※)では、里親になってみたい意向がある人が、現状、里親にはなっていない理由として、経済的な負担がネックと考えている人が一番多くみられました。
里親には国の経済的な補助があるのですが、そのことを知っている人の割合は2%以下でした。里親制度の内容認知率は38.2%です。
まさに、里親になる意思がある人がいても、それを実行に移すにはあまりに認知度や理解度が低すぎる現実があるということがいえるのではないでしょうか」
法改正が進む養子縁組
養子といっても、制度には「特別養子縁組」と「普通養子縁組」の2種類があります。
特別養子縁組の場合、生みの親との親子関係が消滅し、育ての親が親権をもちます。法制上は実子と同じ扱いとなるので、原則離縁はできません。子どもの年齢は原則として15歳未満となります。
一方、普通養子縁組では親権は育ての親に移りますが、生みの親との法的な親子関係が残ります。育ての親との離縁は可能で、養親よりも年下であれば、原則対象年齢の制限はありません。
ちなみに、里親制度は生みの親との親子関係は継続され親権もそのままです。里親との間には法的な親子関係は発生しません。子どもの対象年齢は原則18歳までです。国からは里親手当が支給される制度です。
養子縁組、里親制度の違いは、大きく分けて3つ。検討する場合はその違いを知り、何を重視するのかを考えることが必要。 出典:「はじまりの連絡帳」日本財団(P4)
特別養子縁組制度は1987年導入、1988年から実施されてきましたが、しばらくは民間のあっせん団体を中心に行われていました。
2017年に改正児童福祉法が施行され、「養子縁組に関する相談や支援は児童相談所の業務である」と明確に位置づけられます。2018年には養子縁組あっせん法も施行され、児童相談所と民間のあっせん団体が連携するような事例もでてきています。
さらに、2020年には民法が改正され特別養子縁組制度の対象年齢が6歳未満から15歳未満に引き上げられ、養親の手続きなどにかかる負担も軽減されました。
「2013年にプロジェクトを開始したときには、正直に言って法制度が不十分だと感じたことも多くありました。しかし、少しずつではありますが法整備も進み支援の輪が広がるとは感じています」と高橋さんは語ってくれました。
「特別養子縁組」の対象年齢 6歳未満から15歳未満までの引き上げで起こったこととは
2017年には厚生労働省が、おおむね5年以内に3歳未満の里親委託率75%以上、特別養子縁組を1000件以上成立させる目標を掲げました(※)。
しかし、残念ながら特別養子縁組の数はここ数年で減少しているという厳しい現実もあると高橋さんは言います。
「2017年に児童福祉法が改正されてから2021年までは特別養子縁組の成立件数は上昇傾向でした。2014年は成立件数が513件だったのが、2019年は最高件数の711件に、2020年は693件、2021年も683件と700件に迫る勢いです。
しかし、2022年には580件と急速に落ち込んでしまいます(※)。原因の特定はできていませんが、コロナ禍で養子縁組の説明会や研修が見合わせになったり、子どもと養親希望者のマッチングや面会が進まなかったり等の理由はあるかもしれません。
また、2020年の民法改正で特別養子縁組ができる子どもの年齢が6歳未満から15歳未満までに引き上げられました。そのことで、養子縁組は急がなくてもいいという考えになり、特別養子縁組の成立を先送りされる方が増えた可能性もあります。
一方で、現在も乳児院で親との面会がない子どもは600人以上います。子どもには愛してくれる家族が必要という考えのもと、特に実親に復帰する見込みのない幼い子どもについては、児童相談所や家庭裁判所がしっかりと特別養子縁組を進めることが重要です」
特別養子縁組成立件数は2017年から上昇しつつも、2022年から降下。厚生労働省が掲げた2022年に1000件以上成立の目標は叶わなかった。 出典:社会的養育の推進に向けて/こども家庭庁支援局家庭福祉課
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先進国の中では遅れていると言われてきた日本の養子縁組制度への取り組みですが、国が推進する制度で、法改正をきっかけに少しずつ改善されつつあることがわかりました。
次回は、実際に養親となることを考えたときに、知っておきたいことについてお話を伺います。
取材・文/関口千鶴
●高橋恵里子PROFILE
2013年、日本財団にて「ハッピーゆりかごプロジェクト」(現:日本財団子どもたちに家庭をプロジェクト)を立ち上げる。生みの親と生活することが難しい子どもが、あたたかい家庭で暮らすことのできる特別養子縁組や里親制度を啓発するべく活動を行っている。