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カーボンニュートラル時代の主役となる電源は?

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カーボンニュートラル時代の主役となる電源は?

日本政府は2021年、2050年のカーボンニュートラルを目指す目標を掲げているが、2022年時点における日本の電源構成では、その約73%の電源を化石燃料(LNG、石炭、石油)による火力発電に依存しており、その目標達成は不透明な状況にある。原子力発電を電源構成の中心に据えることが政治的に難しい状況が続いている日本においては、現在すでに浸透している太陽光発電の更なる拡充を検討すべきである。本稿は、その点に関するいくつかの視点を紹介する。

はじめに

日本における再生可能エネルギーにおいて、太陽光発電のシェアが年々高まっている。経済産業省の公表資料(図表1参照)によれば、2022年度の総発電電力量に占める太陽光発電の割合は9.2%に達し、水力発電(7.6%)を上回る水準に達している。

また、再生可能エネルギーによる電源(全体の約22%)の中でみた場合、太陽光発電は、最大の割合(約42%)を占めている(図表2参照)。したがって、太陽光発電は、再生可能エネルギー電源が主流の時代に向けて、既に中心的な地位を確立しているといっても過言ではない。

また、同様の資料によると、2030年における総発電電力量に占める太陽光発電の割合は15.0%と想定されており、原子力発電を除く脱炭素電源の中では、最も成長が期待されている電源となっている。

一方で、今後の太陽光発電の大規模な拡充にあたっては、適地の確保の問題やFIT制度の問題、防災面での懸念等いくつかの課題があり、対応が不可欠である。

日本国内での太陽光パネルを敷設する適地確保の問題

図表3の「平地面積あたりの太陽光設備容量の国際間比較」に記載されている通り、日本の太陽光設備容量は、514KW/㎢であり、諸外国の中では極めて大きい容量となっており、日本は、諸外国との比較では、太陽光発電の普及がかなり進んでいる状況にある。

日本の再生可能エネルギーの中で、太陽光発電の導入の水準が高くなっている背景には、いくつかの地理的・社会的な要因がある。まず、日本の国土は山地が多く、平地が限られ、発電施設を設置できる場所が限定的なためだ。

また、太陽光発電以外の脱炭素電源(原子力発電、風力発電等)の導入・稼働が進まず、太陽光発電に依存せざるを得ない状況が続いているからだ。

したがって、この国際間比較の結果から、日本において太陽光発電の更なる拡充余地がないということにはならない。日本国内には、住宅や工場の屋根、未利用の耕作放棄地など、まだ活用されていない多くの場所が存在しており、これらのエリアに対する設置拡大の余地を真剣に検討していくべきである。

環境省の再生可能エネルギー情報提供システム 「REPOS」の2021年に試算した結果によると、日本における太陽光発電の導入ポテンシャルは約1兆8,759億kWhにも及ぶ(図表4参照)。

この値は2022年の国内総発電電力量の約1.86倍に相当し、日本全体のエネルギー需給をクリーンな再生可能エネルギーで賄うための大きな可能性を示している。しかしその多くは、分散型の発電設備を導入するために、耕作放棄地や工場・住宅の屋根などを有効活用していく必要がある。また、このような未利用地への設置を進めるためには、国や自治体、企業が連携し、インフラ整備や規制緩和といった具体的な対策が求められる。

太陽光発電の拡充のための新たな手法・技術①(発電効率の向上と蓄電池技術の向上等)

太陽光発電設備としては、主流の結晶シリコン太陽電池の変換効率(発電効率)が年々向上している。2023年には中国LONGi社が結晶シリコン・ヘテロ接合バックコンタクト太陽電池セルにおいて27.09%の変換効率を達成し、理論上の効率限界に近づきつつある(市販の太陽電池の変換効率は、約15%から20%)。

変換効率の高い太陽電池ほど発電量が多いため、量産化により大幅なコストダウンにつながることから、このような太陽光発電設備の普及が期待される。

また、太陽光発電は天候によって発電量が大きく左右されるため、電気の需給ギャップを埋めるためにも、蓄電池の存在が不可欠である。また、都市部においては、太陽光発電設備の設置スペースが限られているので、そのような限定されたスペースに設置可能な蓄電効率の良い蓄電設備の導入も重要だ。

このような蓄電池分野においては、蓄電効率の向上やコストの低減等の課題の解決を図るための技術革新等が進みつつあり、今後に大いなる期待が寄せられている。

太陽光発電の拡充のための新たな手法・技術②(自家消費型電源としての利用)

太陽光発電については、上記①の発電効率の向上やコストダウン等の進展と、現在日本のGreen Transformation(GX)戦略の中で想定されているカーボンプライシング(炭素税等)の導入が本格的に開始されると、急速にその普及が進むものと思われる。

その場合、太陽光発電設備と蓄電設備のセット導入により、個人宅の自家消費型太陽光発電の普及や、企業における自家発電設備としての太陽光発電設備の普及の拡大により、需要家の近くに小規模な発電設備を分散配置し、地域単位で電力を供給・管理するシステムを構築した分散型電源社会の到来が想定されている。

このうち、住宅用太陽光発電システムにおいては、蓄電池とのセット導入率が50%程度まで高まっており、蓄電・自家消費を前提とした設計が標準化しつつある。また、近時高まりつつ地震や台風等によって生じる停電等に備えた防災面のニーズの広がりは、住宅用太陽光発電システムの促進を後押ししつつある。

なお、今後、FITによる余剰電力についての固定価格買取制度自体が廃止された場合には、全量売電による電気料金低減スキームではなく、発電量の大部分を自家消費する形態が主流となっていくであろう。

一方、企業及び諸団体等を中心として導入を推進している非住宅用太陽光発電システムは、環境価値ニーズの高まりによるCN(カーボンニュートラル)視点、電力料金の上昇傾向を背景としたコスト削減視点、震災等に備えたBCP視点から、既に導入が進みつつある。

現在は、工場やビル等の屋根に設置するオンサイト型PV(太陽光発電システム)が中心だが、中長期的には導入コストの低下に伴って、野立設置による近隣地PVによる自家消費や、自社とは遠隔地から送電を受けるオフサイトPPA(電力購入契約)の導入増加も想定される。

太陽光発電の拡充のための新たな手法・技術③(ペロプスカイト)

太陽光発電の普及には、単純に、未利用の空き地の活用だけでなく、従来であれば太陽光発電設備の設置が難しい場所への設置を可能とする新たな手法や技術等が必要とされている。

そのような中で大いに期待されているのは、ペロブスカイト型太陽電池(以下、「PSC」)である。太陽電池は、有機系、化合物系、シリコン系に分類されるが、現在は、その95%がシリコン系で占められている。近時、急速に開発が進んでいるのが、有機系のPSCである(図表5参照)。PSCは、日本発の次世代型太陽電池であり、日本がその技術において優位性を維持しており、現在、その実用化が視野に入ってきている。

PSCは、軽い、薄い、曲げやすいという特長があるため、ビル屋根や壁面、自動車、宇宙空間等、従来設置が難しい場所への導入が期待される電池である。日本は、主要材料のヨウ素の主要生産国(世界2位のシェア)であることから(図表6参照)、安定供給が期待でき、また製造コストも安価となる見込みであるため、その期待は大きい。

これに関しては、既に積水化学工業株式会社が東京のビルの壁面にフィルム型PSCを設置する計画を発表しており、世界初の「PSCメガソーラー高層ビル」となる予定であるが、他社もこれに追随している状況だ(図表7参照)。

太陽光発電の新たなスタイル・技術④(蓄電コンクリート)

また、太陽光電池とセットで導入される蓄電池に関して注目すべきは、電力を蓄積する革新的な「蓄電コンクリート」の開発である。建築物の基礎部分のコンクリートに蓄電機能を持たせることができれば、特段の蓄電池設置スペースを確保しなくても、電力を蓄えることが可能となる。商品化ができれば、スペース面及びコスト面で画期的な商材となる。また、蓄電コンクリートは屋内外を問わずあらゆる場所に設置可能なため、太陽光発電の新たな活用の場を切り拓くポテンシャルを秘めている。

これに関し、會澤高圧コンクリート株式会社は、2027年にも住宅向けに電気を蓄えられるコンクリートを生産すると発表している。同社がマサチューセッツ工科大学(MIT)と共同で開発する「蓄電コンクリート」は、コンクリートの材料に電気を流す炭素材料を混ぜて作られるもので、蓄電池と比べて劣化しにくく、住宅の基礎コンクリートへの活用が見込まれている。

この「蓄電コンクリート」は、昼間に太陽光パネルで発電した電気を蓄え、夜に電気を使うことで、住宅の省エネにつながるもので、2025年には、太陽光発電で得た電力を住宅の基礎コンクリートに蓄える実証実験も控えている。また、コンクリートに電気が流れる特性を生かし、道路のコンクリートに熱を発生させて雪を溶かすことも視野に入れている。

このような蓄電コンクリートの開発には諸課題があるものと想定されるが、仮にこれが実用化されれば、PSCと双璧をなす革新的な次世代型太陽光発電システムとして、太陽光発電の飛躍的普及に大きく貢献することが期待される。

太陽光発電の新たなスタイル・技術⑤(営農型太陽光発電)

太陽光発電の設備は、大規模発電設備に留まらず多岐にわたっている。その中で注目すべきは、「営農型太陽光発電(アグリボルタイクス)」だ(図表8参照)。

これは農地にパネルを設置し、その下で農作物を栽培する取り組みで、農業とエネルギー生産の両立を図るものである。非耕作農地を太陽光発電設備の敷地に転用することについては、農業政策上の問題のみならず、地域の環境や景観等の面でさまざまな課題を抱えていた。だが、このアグリボルタイクスは、(耕作用)農地の有効活用という面のみならず、過剰な日射から作物を守ることができるため、収穫量の向上という面でも期待されている。

最後に

太陽光発電は、カーボンニュートラル社会の実現、及びエネルギー安全保障の面からも、持続可能な未来社会を実現するための鍵となる存在である。今日、発電、農業、防災、都市計画といった分野を横断的に支える統合的なエネルギーシステムが求められている中で、太陽光発電こそが、分散型でレジリエントなエネルギー基盤を確保するための最重要な発電方法であることを改めて認識することが大事だ。

日本は、地熱という世界第三位のエネルギー天然資源を保有している国ではあるが、地熱発電の普及には、資源探査や掘削技術の向上、法規制の緩和、温泉地域の住民の理解など、多くの課題が存在しており、短期から中期的な普及は難しい状況にある。このような点からも、改めて、日本は、平地面積が狭いというハンディを克服するためのさまざまな技術革新等により、太陽光発電を拡充すべきと考える。

執筆者:フロンティア・マネジメント株式会社 大西 正一郎、フロンティア・マネジメント株式会社 松沢 萌夏

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