発達障害グレーゾーン、中学卒業後の進路は? 特別支援学校、通信制高校…引きこもりの悩みなど【親なきあと相談室 渡部伸先生に聞く】
監修:渡部伸
行政書士/親なきあと相談室主宰/社会保険労務士
この記事で分かること
通常学級に通う発達障害・グレーゾーンのお子さんの、高校進学や将来の就労を見据えた進路選択のヒントお子さんの特性に合った高校選び(普通科・特別支援学校・通信制高校など)のために、家族会などを活用して情報を集めることの重要性不登校やひきこもりのお子さんに対して、就労移行支援などの社会資源を活用し、家族以外とのつながりをつくるという選択肢お子さんがどのような道を選んでも安心できるよう、保護者が事前に知っておきたい「多様な選択肢」と「相談先」
通常学級に通っていて通級指導教室を利用している子どもの就学先は?
LITALICO発達ナビ牟田暁子編集長(以下――)最近気になっているのが通常学級に通っていて通級指導教室を利用しているようなお子さんの将来の就労についてです。
渡部先生(以下、渡部):特別支援学級や特別支援学校ではなく通常学級に通う、発達障害や特性のあるお子さんということでしょうか?
――はい。特別支援学校などに通っているお子さんの就労に向けてのルートは、学校でも指導があり、先生方も伴走してくださるので見通しやすいと思うのですが、通常学級に通っているとそのようなルートも特になく、将来についてどのように考えていけばいいのか悩んでる方も多いように感じます。
なんの配慮もないまま一般企業に就職をしてわが子が働いていけるのか、障害者雇用を見据えて何か準備をしておいたほうがいいのか大学に行くのか、手に職をつけられる進路がいいのかなど、悩んでいる方も多いのではないかなと。
渡部:通常学級に通っているお子さんだと、勉強などで苦労をしてることなどもあるとは思いますが、将来のためにわざわざ特別支援学級や特別支援学校に転籍・転校しよう、というのはあまり現実的ではないですよね。
私としてはぜひ家族会などで「横の情報」をとってほしいなと思いますね。
家族会というと知的障害(知的発達症)だったり難病などのイメージがありますが、発達障害の家族会などもありますので、学校以外での情報を得られる場所というものがあったほうがいいと考えています。
地域によっては普通科高校も定員割れなどをしていてそこまで苦労をせずに入れるところもあるかと思います。しかし、「普通科高校に入れて良かった」と思っても実際入学してみると障害への理解や知識があまりなく入学後苦労をする……という場合もあり得ます。
――高校選びは、大学進学するのか、就職するのかなども視野に入ってくるので選び方が難しいですよね。
渡部:そうなんですよね。ご本人やご家族の選択肢を一番に優先するということは大前提なのですが、将来を見据えた情報を家族会など学校以外のルートからいろいろと取得しておくというのは選択肢を増やす機会になると思います。
――「選択肢を増やす」ということですが、娘が通っている特別支援学校高等部もクラスによって勉強してる内容も全然違うし、進路先も一般企業の障害者雇用から生活介護までと、さまざまな印象です。
渡部:一般就労を目指すようなクラス、就労継続支援A・B型を目指すクラス、生活介護を見据えているようなクラスなどでしょうか?
――はい。特別支援学校高等部には、中学校まで通常学級や特別支援学級だったお子さんも入学してきます。そういうお子さんは生徒会活動も中心になって担っていたりしますね。特別支援学校というと重度の障害がある子どもが通うイメージが強いですが、そのようなお子さんも増えているんじゃないでしょうか。
渡部:将来の就労のことも考えて特別支援学校を選ぶご家庭も増えていますね。
中学卒業後の進路先に「通信制高校」を選ぶ方が増加。しかし気になる点も……
――進路の多様性といえば、不登校のお子さんも増えていますが、中学卒業後の進路先に通信制高校を選ぶことも多いですよね。
ただ、データを見て通信制高校卒業後に進路未定なお子さんが37%くらいいると知り、気になっています。
※私立通信制で30.4%、公立通信制で44.6%が進路未決定
渡部:私は(成人した)引きこもりのお子さんの親御さんと話すことも多いのですが、基本的には「もうそれはそれでいい」って伝えています。行きたくないときに無理に外に連れだそうとしてももうまくいかないと思うので。
それに一切家を出ないってことは、案外少ないと思うんですよね。コンビニには行けるとか家族と一緒なら出掛けられるとか。だからといって「それならどこかで働きましょう」とは言いませんが、もしお子さんが「少し働いてみようかな」と思ったときに親御さんはゆっくり通える場所としてどのようなところがあるのかなどの地域の情報はあらかじめ取っておいてほしいなとは思いますね。地域活動センターなどはどこにあるのか、福祉サービスを利用することを見据えてあらかじめ受給者証を取得しておく、受給者証で一体どんなサービスが受けられるのかなどです。
計画相談を受ける際にもそのような情報をあらかじめ知っておくと良いですよね。
――働くだけではなくて就労移行支援を使うという選択肢もありますよね。実際働くとなると「週〇日コンスタントに来てください」や「1日最低〇時間は働いてください」ということになると思うのですが、外に出るのも大変だったということを考えたらまずは週1~2回程度から、家族以外とつながることのできる場所にもなりそうです。地域や事業所にもよりますが、リモートでの通所から始められるところもありますね。
渡部:地域によると思うんですけど、就労移行支援が空いているって話も聞きますよね。知られていないというのと、基本的に利用期間が2年間で回転が早いこと、特別支援学校からそのまま就労する人が多いことなどが背景にあるようです。
知的障害(知的発達症)のある方だけでなく、精神障害や発達障害のある方の中ですぐに就労が難しかったり、1度就職したけれどうまくいかなくて退職しどうしようと悩んでいる、といった方にもぜひ利用してほしいです。
――家族じゃなくて第三者のサポートのほうが受け入れやすい、なんてこともありますよね。
渡部:家族以外の関わりを持つことはすごく重要です。そういう意味でもさっき言ったように家族会などで横の繋がりもできれば作りたいし、最近は引きこもりの家族会なども増えていますよね。
「つながる場所」をあらかじめ親御さんのほうで調べておいて頂いて、いざというタイミングでそれをうまく活用していってほしいですね。
――お子さんがどのような進路先、就労先を選んだとしても「家族以外のつながり」と「さまざまな選択肢」をもっておくことがその後の安心につながりますね。ありがとうございました。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。