京扇子屋の女将とサシ飲み!「京都の女将」ってホントにイケズっぽいのか確かめてきた
京都の老舗、その女将さん。「イマどきの女将さんって、どんなんなんやろ」。とある女将に話を聞いてきました。
イマどきの女将さんって、どんなんなんやろ
京都の老舗、その女将さん。
「イケズっぽい」「取っつきにくそう」そんな感情を抱いている人も多いかもしれない。
「京都の女将さんについてどう思う?」と周囲に聞いてみたところ、令和になった現代にあって、ステレオタイプな女将のイメージがいまだ根強いのに疑問を持った。
「イマどきの女将さんって、どんなんなんやろ」。リュックにお酒をたんまり背負って、お酒好きだというとある女将に話を聞いてきました。
「私、この世で1番好きなのが『淡麗グリーンラベル』なんですよね!」とグラスの液体を飲み干す着物美女。創業110年を超える扇子屋さんの老舗「大西常商店」の女将・大西里枝さんです。
松原通高倉西入ルにある、大西常商店。こちらは大正2年に創業した京扇子の専門店。
店内には繊細な造形の扇子が並んでいます。
数多くの職人による繊細な手作業の積み重ねでつくられる伝統的な扇子。日常着が洋服になった現代においても、大西常商店はお客さんからの厚い信頼のもと、その暖簾を守り続けています。
おかん「暖簾を守るのって、やっぱり大変じゃないですか。後継ぎとして重圧に感じたことってないんですか?」
大西さん「いや〜、重圧みたいなのはなかったですね。うちの親は『跡を継げ!』っていうタイプじゃなかったんで」
酒好きと聞いてお酒とアテを並べて取材開始。取材というか飲み会に近い。
持参した梅味噌の冷奴とチーズクリームといぶりがっこ。大西さんのお母様が鮒寿司を切ってくれた。
キョウトピ編集部の方から送られてきた大西さんの写真。なにがどうあって淡麗グリーンラベルを頭に乗せるゴキゲンな女将になったのか。
飲みすぎて旦那さんに誓約書を書かされる
おかん「以前は会社員だったんですよね。継ぐ前はどういう生活をしていたんですか?」
大西さん「大学を卒業して某通信会社に勤めていたんですよね。その会社って、西日本一円の企業なので、勤務地は静岡から沖縄まで。私は福岡や熊本で数年働いたのちに京都に戻って来て、退職し跡を継ぎました」
おかん「そうなんですね!生まれ育ちがずっと京都だったら、九州は新鮮だったんじゃないですか?」
大西さん「そうですね。主人とも九州に勤務していた時に出会えましたし、なにより外の世界を知れたのは本当によかったです」
おかん「子どものころはどんな子だったんですか?」
大西さん「高校の時までは、いたって普通の高校生でしたね。夜はちゃんと早めに帰るような、わりと真面目な子。大学に進学してから夜遊ぶようになったかなぁ」
おかん「お酒を覚えたのもその頃?」
大西さん「そうですね。ボランティアをするサークルに所属していて、飲み会を知ってからはもう死ぬほど飲んでました。サークルに入る前は『飲み会に行ったら乱暴されるんじゃないか!?』くらい不安に思ってたのに」
おかん「飲み会をなんだと思ってたんだ」
大西さん「いや〜、お酒おいしいですよね!最近本当に外飲みが多くて、ついに旦那さんから『行かなければいけない飲み会以外、平日は家でも飲みません』って誓約書を書かされました!ワハハ!」
おかん「わろてまう」
老舗の跡取りと結婚するの大変じゃない?
おかん「そうか、旦那さんは九州の方なんですよね。京都の老舗の跡取りと結婚して、自分も京都に移住するのは義理の親御さんや旦那さんは反対しなかったんですか?」
大西さん「それもなかったんですよね〜。主人の実家は熊本の田舎の方なんですよ。風土も文化も違った場所で育った人だったから、受け入れてもらったのかも」
おかん「違うからこそ反対する場合もありそうだし、よかったですね〜!」
大西さん「そうなんですよ!京都に戻るタイミングで籍も入れてくれたし、仕事に関しても全面的に賛成してくれてるし、ほんとにいい旦那さんです!」
おかん「お酒の誓約書は書かされるけどね」
大西さん「それはね〜!!(笑) でも行く必要のあるものはOKしてくれますよ。やっぱり結構あるんですよ、職業柄。伝統工芸系の集まりとか、同業者の集まりとか……」
おかん「お店をやってるとやっぱり横の繋がりは大事ですもんね」
大西さん「私、緊張しいだし、もともとすごく人見知りなんですよ。お店に立つようになって随分マシにはなりましたけど。だから集まりがあると緊張をほぐすために大量にお酒を飲んじゃうんですよね。それでベロベロになっちゃって」
おかん「それは自分が悪いと思う」
月命日には読経!?「老舗あるある」
おかん「意外と育ちも結婚もハードルがなくていわゆる「老舗って〜」感がないので、なんかないんですか。『老舗あるある』っぽいネタ」
大西さん 「振り方が雑〜!!」 「そうですねえ……珍しくないとおもうんですけど、毎月1日はお赤飯を食べますね」
おかん「それは十分珍しいのでは!?」
大西さん「あれ、そうなのかな!?」
おかん「歴史のあるお店の知り合いが少ないだけかもしれないですけど、はじめて聞きましたよ。家で炊くんですか?」
大西さん「いえ、懇意にしてる和菓子屋さんに頼むんですよ」
おかん「出た!京都の『仕出し文化』だ!」
大西さん「それは京都に長く住んでいる家庭だとよくあるかもしれません。家ごとに仕出しが決まっていて、お客さんが来るときにはそこに料理を頼むんですよ。でも私は、今日みたいに手づくりのものを持ち寄るアットホームな集まりの方が好きですけどね」
大西さん「あとは月命日はお坊さんが読経しにきてくれて、みんなでお仏壇を拝むんです。お正月は親戚一同で。古臭いかもしれませんが、女の人は下座に座るなどのしきたりがあるので、そういう部分は『老舗っぽさ』があるのかもですね」
おかん「暦のイベントを大切にするのは独自性がありますね〜。あと、お行儀も厳しそう」
大西さん「立ち振る舞いは厳しめにしつけられるかもしれません」
おかん「さっきスマホで遊んでた息子さんに『正座して!』って言ってましたもんね」
大西さん「まあ、あれはYouTubeを見てたんですけど」
おかん「正座だったらスマホでYouTube見てもいいんだ」
話しながら、古くから家に残る書物も見せてもらいました。しれっとこういうのが出てくるのはさすが。
跡取りとしてどう暖簾を守っていくか
おかん「真面目な話もしましょう(笑)。扇子って、現代のライフスタイルのなかで、冷房の主戦力でいるのは難しいモノじゃないですか。跡取りとして、女将として将来をどう見据えてますか?」
大西さん「扇子って100均でも売ってるので、今更『100均じゃなくて扇子屋の扇子を買おうよ』と意識を変えるのはおいそれとできないと思うんです。じゃあ、専門店は100均とどう違うのか、なぜそれなりの値段がするのかを可視化する必要があるのかな、と」
おかん「可視化ですか」
大西さん「もともとうちのお店は『もっとい屋』と呼ばれる、日本髪を結う際に使われる紙でできた紐を売る商売をしていたんですよ。西洋化が進んでそれを廃したあと、『紙を使った商品を』ということで扇子屋をはじめました。そういう、お店ならでは『ストーリー』を、お客様たちに伝えられるような発信をしていきたいと思っているんです」
おかん「なるほど〜。専門店の扇子は職人さんの手間暇もかかってますもんね」
大西さん「そうなんです。扇子は完全分業制でつくられているので、90近い工程を13〜15人の職人さんで分担してできている。つまりひとつの扇子のなかに数多くの職人さんの手が入っているんですよね。だから5、6年は長持ちしますし、メンテナンスも請け負います。ただ高いだけじゃないんですよ!」
おかん「それを思えば、お値段がするのも納得だなあ」
大西さん「ストーリーを聞けば、金額に見合う価値を理解してくれる。たとえばクラウドファンディングなどが例ですよね。そういうサービスを利用するのもひとつの手かもしれないなと思います。老舗…といえば聞こえはいいですけど、長く続いてきたものを未来に守るには、やっぱり変わり続けないといけないので」
おかん「かっこいい…。お酒が入ると饒舌になるんでしょうか。だってもう持って来た4合瓶がなくなったので、大西さんの自前のお酒を飲んでるんですよ。ふたりで7合くらい飲んでる」
大西さん「やばいな〜!どおりでフワフワしてきたと思った!!」
半幅帯をぺたんこに締めたら、帯をつけたままでも寝れるんですよ!ほら!と寝転び出す大西さん。
おかん「おもむろに寝るな」
夕方からはじまったインタビューも、気づけばとっぷり夜になって双方ベロベロに。
ざっくばらんな会話の中で感じたのは「あれ、老舗の女将さんってカジュアルな人柄なんだな」ということ。
職人さんたちへの心遣いを持ち、「変わり続けることが老舗」と断言する。お店の将来ををしっかりと見据えたながらも、飲み会を制限されるほど飲兵衛で、笑顔が愛らしい女将・大西さん。
生まれ育ちや家のしきたり、今後の展望まで、いままで知られなかったリアルな「女将の生態」を少しだけ垣間見ることができたと感じました。
「あ、こういう人が女将さんだったら、ちょっとお店にも行ってみたいな」。そう思ったら、ぜひカジュアルに、大西常商店の暖簾をくぐってみてください。
店舗情報
店名:京扇子 大西常商店
住所:京都市下京区本燈籠町23
電話番号:075-351-1156
関連ページ:http://www.ohnishitune.com/