子どもとの対話が「アクティブリスニング」で改善 親子関係をよくする「親のトレーニング」とは?
ビジネスの最前線で数多くのリーダーを成功に導いてきた経営コンサルタントの赤羽雄二さんが、アクティブリスニングの実践方法を解説。アクティブリスニングがどうしてもうまくできないと感じる親御さんに向けて、オススメの改善法を紹介します。
「スマホを3時間以上使う子ども」成績は平均以下? スマホ利用が学力に与える悪影響を脳科学者が解説「アクティブリスニング」は、相手の話を深く理解するためのコミュニケーション方法です。たとえば、反抗的な子どもの話をアクティブリスニングで聞いたところ、「親への反発ではなく、自分の進路について悩んでいたことが原因だった」ことがわかり、問題解決につなげられたケースもあります。連載第3回は、アクティブリスニングがどうしても難しいと感じる親御さんに試してほしいトレーニングなどを紹介。経営コンサルタントとして多くのリーダーを成功に導いてきた、赤羽雄二さんが引き続き解説します(全3回の3回目)。
ホワイトボードを使った親子のコミュニケーション術
アクティブリスニングが親子のコミュニケーションに大切だと理解していても、やっぱり忙しくて時間がとれない方もいるでしょう。子どもが複数人いるなら、なおさらです。個別の時間がとれない親子には、赤羽さんは家族全員で実践できるコミュニケーション方法を紹介しています。
「家族全員が見える位置にホワイトボードを設置して、話し合いの場をつくってみてください。家庭なら小さなホワイトボードなどでもOKです。そして、『夏休みにどこに行きたいか』など、身近なテーマをひとつ決めて話してみましょう。
また、リーダー役も決めて、その人が家族一人一人の発言をそのままホワイトボードに書き出していきます。このとき、発言を途中で要約したり意見を挟んだりせず、最後まで忠実に書き留めることがポイントです。
この方法で家族の連帯感が深まり、さらに親密になれたと感じる方はたくさんいます。
私のもとには、5歳と小学3年生の親御さんから『ホワイトボードを使った家族の話し合いを始めてから、普段はあまり話さない子も自分の意見をハキハキと伝えてくれるようになりました。家族で何かを決めるときにも大変役立っています』という声が届いています」(赤羽さん)
こうした意見共有のプロセスを通じて、子どもには積極性が生まれ、自己肯定感も自然と高まっていくことでしょう。
幼少時代を振り返るトレーニングで子どもへの接し方を考える
時間のやりくり以外に、別の理由でアクティブリスニングが『自分には難しい』と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
そのような親御さんに向けて、赤羽さんは次のように話します。
「時間以外の理由で『アクティブリスニングがどうしてもうまくできない』という方は、人の話を聞くより、自分の話を聞いてほしい方が多いように思います。
子どもがせっかく話しているのに、親御さんが毎度のように口を挟んでしまったのなら、次第に我が子は親御さんとの会話に消極的になっていくでしょう。これは避けなければならない事態です。
もし、子どもの話をさえぎっていたと気づけたなら、その改善法として、親御さんは自分自身の子ども時代を振り返るトレーニングを試してみてください。
子どもとのコミュニケーションを見直す方法
① 自分が子ども時代に親に対して抱いていた気持ちや思いを、Word(文章作成ソフト)などに書き出すといいでしょう。数回に分けて5000~1万字程度書きます。このとき、親とのやりとりで嫌だったこと、思い出に残っていることなど、率直に書いてみてください。
② 親に対し、多面的な視点からA4メモを書くことで、当時の親子関係やコミュニケーションのあり方を深く見直し、自分の子どもとの関わりに活かすことができます。
こうした振り返りは、親御さんご自身のアクティブリスニングへの向き合い方を俯瞰して、我が子とのやりとりを見直す材料として非常に役立ちます」(赤羽さん)
また、紙に改めて書くという行為は、日常の思考を整理する方法としても赤羽さんは推奨しています。
「子育てに関する疑問や感じたことを、A4用紙に1ページ1件、4~6行で20~30字程度、1分以内で書き出してみましょう。頭の中がクリアになるだけでなく、自分を客観的に見つめることができます。
日常の思考を整理するためのテーマ例
子どもが最近、反抗的なのはなぜだろう?
子どもの将来についての不安と期待
家族の時間を増やすために工夫すべきこと など
思いついた言葉をそのまま書き出すことで思考が整理され、何が本当の課題かが見えてきます。また、子どもがアクティブリスニング中に話したことを書き出した場合は、我が子の気持ちや考えもさらに見えてくるはずです。
アクティブリスニングがどうしてもうまくできないときも、頭の中をクリアにしたいときも、ぜひ紹介したトレーニングを試してみてください」(赤羽さん)
子どもの話は極力聞いてあげよう。 写真:maruco/イメージマート
子どもの成長とアクティブリスニングの関係と注意点
子どもへのアクティブリスニングは、成長段階に応じて方法が変わるのでしょうか。また、成長とともに注意すべきことはあるのでしょうか。
「幼児期のころは親御さんが『○○したんだね~』など、子どもの気持ちや状況を代弁してあげる場合もありますが、話せることが多くなってきたら、できるだけゆったりした気持ちですべての話を聞いてあげてください。
共働きの親御さんの場合は特に、子どもが小学生になると、親子ともにやるべきことが増えて忙しくなります。そうすると、子どもがせっかく話しかけても『ご飯が冷めないうちに早く食べなさい』とか、『いいから早くお風呂に入りなさい』などと、やるべきことを優先して、話をさえぎってしまうことが多くなるでしょう。
事情はよくわかりますが、そのたびに子どもはがっかりして、だんだん話さなくなっていきます。子どもにとってご飯が冷めることは、全然気にならないことだったりもしますので、親御さんは極力、話を聞いてあげてください。
また、『子どものためによかれと思ってあれこれ指図する、先回りする』ことも、アクティブリスニングの対極にあることだと理解しましょう」(赤羽さん)
親子の問題の7割以上を未然に防ぐアクティブリスニングの力
アクティブリスニングは、親子関係に大きな変化をもたらします。
「アクティブリスニングを実践していくと、普段から子どもと向き合う時間が持てるので、問題の7割以上は未然に防止され、解消し、改善します。その効果は驚くほどで、親子関係が変わって人生も大きく変わったと感じる親御さんもいます。ぜひ、だまされたと思って、子どもの話を100%聞くようにしてみてください。
多くの問題が話を聞くだけで自然に解決していきますので、これからの子育てが楽しく、そして楽になるはずです」(赤羽さん)
「アクティブリスニング」は、親子の信頼関係を深め、子どもの気持ちに寄り添いながら問題解決ができるコミュニケーション方法です。また、親の「徹底的に聞く姿勢」が、知らず知らずのうちに子どもに安心感を与え、自己肯定感を育みます。
ぜひ今日から、子どもとの対話にアクティブリスニングを取り入れ、親子で未来を一緒に育んでいきましょう。
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◆赤羽 雄二(あかば ゆうじ)
ブレークスルーパートナーズ株式会社・マネージングディレクター。東京大学工学部を1978年に卒業後、小松製作所で建設現場用ダンプトラックの設計・開発に携わる。1983年よりスタンフォード大学大学院に留学し、機械工学修士、修士上級課程を修了。1986年、マッキンゼーに入社。経営戦略の立案と実行支援、新組織の設計と導入、マーケティング、新事業立ち上げなど多数のプロジェクトをリードする。1990年にはマッキンゼーソウルオフィスをゼロから立ち上げ、120名強に成長させる原動力となるとともに、韓国企業、特にLGグループの世界的な躍進を支えた。2002年、「日本発の世界的ベンチャー」を1社でも多く生み出すことを使命としてブレークスルーパートナーズ株式会社を共同創業。近年は、大企業の経営改革、経営人材育成、新事業創出、オープンイノベーションにも積極的に取り組んでいる。著書に『ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング』『速さは全てを解決する 「ゼロ秒思考」の仕事術』(ダイヤモンド社)、『自己満足ではない「徹底的に聞く」技術』(日本実業出版社)、『マンガでわかる! マッキンゼー式ロジカルシンキング』(宝島社)など国内28冊、海外30冊出版、計138万部。
取材・文 瀧 千登勢