【ミリオンヒッツ1994】ボン・ジョヴィ初のベスト盤「クロス・ロード」洋楽でオリコン1位
リレー連載【ミリオンヒッツ1994】vol.21
Cross Road 〜The Best Of Bon Jovi(アルバム)/ ボン・ジョヴィ
▶ 発売:1994年10月7日(日本)
▶ 売上枚数:115万枚
デビュー40周年!その動向に今も注目が集まるボン・ジョヴィの近況
世界的なモンスターハードロックバンド、ボン・ジョヴィが、デビュー40周年の節目を迎えた。今年4月には初の公式ドキュメンタリー『Thank You Good Night』を配信。6月にはフジテレビ系ドラマ 『ブルーモーメント』の主題歌「レジェンダリー」を収録した最新アルバム『フォーエヴァー』をリリース。9月にはデビュー40周年を祝うイベント “ボン・ジョヴィ花火” を開催。そして11月には日本独自企画のオールタイムベストアルバム『オール・タイム・ベスト 1984-2024』が控えるなど、アニバーサリーイヤーに相応しい話題が続いている。
先ごろ、ジョン・ボン・ジョヴィに関するニュースが、日本でもネット上で大きく報じられた。 アメリカでミュージックビデオを撮影中のジョンが、橋の欄干から身を投げようとしていた女性を偶然に発見。その女性に直接声をかけて説得に成功し命を救ったのだ。稀代のスーパースターにふさわしい人物像が、その行動から改めて伝わってきた瞬間だった。
そんなボン・ジョヴィが今からちょうど30年前、デビュー10周年の節目である1994年にリリースしたのが、初のベストアルバム『クロス・ロード〜ザ・ベスト・オブ・ボン・ジョヴィ』だ。それは群雄割拠を極めた80年代のHM / HR(ヘヴィメタル / ハードロック)ムーブメントから飛び出して、世界中の幅広い音楽ファンの人気を獲得した彼らの魅力を、時代の空気感とともに詰め込んだ集大成となった。
10年間の歩みを濃縮した “ベストオブベスト” な選曲!
『クロス・ロード』は発売地域によって3つのバージョンが用意された。米国盤CDに収録されたのは全14曲。1983年のデビュー作『夜明けのランナウェイ』から1曲、1985年の2枚目『7800°ファーレンハイト』から1曲、1987年の3枚目『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』と1988年の4枚目『ニュージャージー』から各3曲ずつ、そして1992年の5枚目『キープ・ザ・フェイス』から2曲と、ヒット曲を網羅しながらバランス良くセレクトされた。
その上で新曲の「サムデイ・アイル・ビー・サタデイ・ナイト」と「オールウェイズ」、1990年のジョン初のソロアルバム『ブレイズ・オブ・グローリー』から1曲、そして「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」をアコースティックアレンジした「プレイヤー '94」が加わった。
注目の日本盤には「プレイヤー '94」の代わりに、日本のファンとボン・ジョヴィとの強い絆を象徴するかのように「TOKYO ロード」がセレクトされ、「ネヴァー・セイ・グッドバイ」を追加した全15曲を収録。インターナショナル盤も同じく全15曲で、「TOKYO ロード」の代わりに「イン・ジーズ・アームズ」が収められた。
10年間の栄光の歴史を、CD1枚分の収録時間内でセレクトするのが困難なのは自明の理だ。それでも最終のトラックリストを改めて見ると、ファンの思いを最大公約数で汲み取った、当時として十分ベストな選曲だったと言えるだろう。何より、日本に向けたトラックリストの存在を嬉しく感じたファンも多かったはずだ。
売れに売れまくり!ボン・ジョヴィ史上初のオリコンチャート1位を獲得!
アルバムはリリースされるや否や、世界各国で次々に大ヒットを記録した。全米ビルボードチャートは8位止まりだったものの、UKアルバムチャートで5週間に渡り1位を獲得。ドイツ、イタリアを始めとしたヨーロッパ諸国や、オーストラリア、ニュージーランドなど、世界10カ国以上で軒並み1位に躍り出て、多くの国で上位にランクインを果たした。日本では、バンド史上初となるオリコンチャート1位を獲得。年間アルバムランキングでも、並み居る日本の有名アーティスト勢と並び28位にランクインした。洋楽のハードロックバンドとしては異例の大ヒットであり、日本での比類なき人気ぶりを改めて証明して見せた。
シングル「オールウェイズ」も、全米ビルボードTOP100の4位を記録し、長期間に渡って上位にランクイン。UKシングルチャートでは2位を獲得、他にも多くの国でTOP5入りを果たすなど、バンド史上に残る大ヒットシングルとなった。結果的にアルバムは全世界で累計2000万枚以上、日本でも100万枚以上を売り上げる破格のセールスを記録。『クロス・ロード』は、ボン・ジョヴィの新規ファン層の拡大に貢献しながら、今も着実にセールスを着実に伸ばし続けている。
ボン・ジョヴィにも影響を与えた、急激なシーンの変化と90年代の壁
80年代に栄華を誇ったHM / HRムーブメントは、90年代に入り勃発したオルタナ・グランジムーブメントによって一変。華々しく活躍していた80年代のHM / HRバンドたちの多くは、次々とメジャーディールを失ったり、トレンドに迎合し音楽性の変化を余儀なくされたりした。
シーンを取り巻く苦境と時期を同じくして、ボン・ジョヴィはバンド内部に問題を抱えていた。当時のニュースでもスキャンダラスに報じられたが、バンド内部で何が起きていたのかは、Disney+で配信中のドキュメンタリー『Thank You Good Night』に、実際の映像を交えて生々しく描かれている。ボン・ジョヴィの場合、世界中を駆け巡る過酷なツアーをこなす中でメンバーが疲弊してしまい、それがバンド内の軋轢を生む要因となった。加えて、オルタナ・グランジの新たな波とシーンの急激な変化が、ボン・ジョヴィにさえ例外なく衝撃を与えていた様子が伺えるのも興味深い。
バンド内の問題を解決するために、彼らはいったん活動休止を決意。ボーカルのジョンとギターのリッチー・サンボラはそれぞれソロ作をリリースするなど、個々の活動に注力した。その判断が功を奏し、ボン・ジョヴィとして再結集する方向性が整い、1992年に5枚目のアルバム『キープ・ザ・フェイス』を完成させた。ここでは時代にアジャストするように、より地に足のついた音楽性へと柔軟に変化し、円熟味の増した逞しい姿を披露。時代の壁を見事にブレイクスルーしたことが、この『クロス・ロード』の大成功に繋がったのだ。
時代を超えて愛されるボン・ジョヴィの魅力を凝縮した『クロス・ロード』
“80年代生まれの洋楽ハードロックバンド” だったボン・ジョヴィが、90年代も音楽シーンのトレンドに左右されず、日本で大きな支持を集め続けた要因のひとつは、ムーブメントに依存しない、バンドとして圧倒的な “個のチカラ” の強さだ。甘いハスキーボイスとルックスで、多くのファンを魅了し、眩い輝きを放つロックスターのジョンと、群を抜く歌唱力とギターテクニックを持つリッチー。ストーンズやエアロスミスらロックレジェンドたちと同様に、強力なボーカルとリードギターによるコンビネーションがボン・ジョヴィの核となった。
そこにデヴィッド・ブライアン、ティコ・トーレス、アレック・ジョン・サッチによる最良のアンサンブルが加わり、ボン・ジョヴィならではの “個のチカラ” を形成した。
そして、バンドとして強固な彼らが生み出した “楽曲のチカラ” こそが、世界中のロックファンを魅了した最大の要因に違いない。80年代のロック史に刻まれる不朽の名曲「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」から始まる『クロス・ロード』には、その答えが詰め込まれている。改めて通して聴いてみると、ベストにセレクトされた楽曲のひとつひとつに、群を抜く良質なメロディが息づき、時代を超越したエバーグリーンな輝きを放っていることに感嘆させられるはずだ。
ボン・ジョヴィは、10年分の歴史の結晶である『クロス・ロード』を通じて、80年代から積み重ねた楽曲が持つチカラを満天下に知らしめた。それは80年代を彩ったロックの普遍的な魅力を再認識させることにも繋がり、単なるベスト盤にはとどまらないボン・ジョヴィのさらなる高みへの狼煙となったのだ。本作を最後にベースのアレックが脱退したのは残念だったが、リリース後の1995年に観た来日公演は、新たなボン・ジョヴィの歴史の幕開けとビッグネームに相応しい堂々としたパフォーマンスだったのを記憶している。
『クロス・ロード』から30年後にリリースされる『オール・タイム・ベスト 1984-2024』では、日本のファンが選出した投票順に楽曲が並ぶ。曲をセレクトする期間や曲数なども異なるが、この絶好の機会に『クロス・ロード』と併せて、多くの音楽ファンがボン・ジョヴィの楽曲に触れることを願ってやまない。